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番外編 お姉さんとニニア


 私の親戚のお姉さんはヤバい。

 前々から思っていた事だけど、今回改めて明らかになった事がある。


 その日はスタ2の勝ち抜き戦を8連勝し、まあまあの手応えで日課を終えた所だった。

 賑わいを見せる対戦台から抜けて出口に向かうと、何やら不穏な気配がした。


 クレーンゲームの前に、二十代くらいの黒髪の女性がうずくまっているのだ。


「どうしたの姉さん?」

「……。ニニア。私は愚かだ……」


 三角座りのまま膝の間に顔をうずめているのは、やっぱりロロア姉さんだった。


「何が愚かなの?」

「クレーンに金を注ぎすぎた。今日の晩飯代がない……」


 お姉さんの財布はヘラヘラで、コイン一つ残っていなかった。

 元々計画性がなくバンバン買うタイプだから、給料もらってるのに貯金がないらしい。


「なんで全部使ったの?」

「取れると思った。もう一回やれば取れると思ったのだ……」


 泣きながら繰り返す姉さんは、完全にダメな大人の見本に見えた。

 でも身内だし、放っておくわけにはいかない。


「生活とか、大丈夫?」

「三日後には給料が入る。それまではかすみを食って生きて行くさ」


 かすみって何なの?

 それ食べて栄養になるの?


 聞いてみたかったけど、落ち込んでるみたいだしデバイスで調べてみた。

 かすみっていうのはきりみたいなものらしい。

 決して食べるものではない。


 姉さんは一人暮らしで、変なプライドがあるから実家には帰らないだろう……。

 仕方ない。


「じゃあうちに泊まりに来たら? 母さんに頼んでご飯作ってもらうから」

「本当か? おおニニア、我が天使なる妹よ……!」


 涙目でしがみついて来る姉さんは、わりとウザかった。




 それから数日、姉さんはウチでひっそり過ごす事になった。

 まあ、日常とそう変わらない。

 私はサムシティ、姉さんはドラクア5の序盤をやっていた。


 RPGは色んな国を冒険するものだけど、彼女はずっと一つの町に入り浸っている。

 変わったプレイスタイルだ。

 モニターからは、カジノの音楽がループしていた。


「何やってんの姉さん」

「スロットだ。私はメトルキングの剣が欲しい」


 スロット。

 コインを賭けて、絵柄が三つ並べば配当が何倍にもなるシンプルなギャンブル機だ。


 ドラクア5で主人公が青年になると、町のカジノに入れるんだよね。

 景品の中には、序盤なのに最強クラスの剣もある。


「私はメトルキングをゲットして、ここから先は無双するのだ。

しかし、スロットは全然当たらんな。レースにするか……」


 姉さんは賭けの対象を変え、可愛いスレイムたちのレースにコインをベットしていた。


「いけっ、赤いの、転ぶんじゃない、走れーっ!」


 彼女は自分がベットした赤いスレイムに、全力で声援を送っている。


 確かにこの時点でメトルキングの剣があれば、無敵だろう。

 ただゲットするには、コインを五万枚貯めなきゃいけない。その難易度は尋常ではない。


「ああっ。また全財産すった……!」


 ゼロになったコイン残高を見下ろし、頭を抱える姉さん。

 ゲームでも現実と同じ事になっている。


 この人、ゲームやってなかったらギャンブルに溺れてる口なんじゃないだろうか。 

 そういう意味では、借金に落ちない分まだマシなのかもしれない。


「姉さん、諦めて普通に冒険しなよ」

「いや、私はなんとしてもメトルキングで無双したい。もう一度資金集めからだ」


 賭けに使うコイン代を稼ぐため、彼女は町の周辺でモンスターを倒す作業に戻った。

 ストーリー進めた方が早いと思うけど、夢中になってるのを止める事もないだろう。


 翌日から姉さんは日中仕事に出て、夜はカジノに入り浸る生活を続けた。

 もう意地でやってる感じだったけど、何やらコツを掴み始めたらしい。

 三日目の夜にスレイムレースで大当たりし、何と彼女は五万コインを集めきった。


「やったぞ! これで無双だ! はっはっは!

見ろニニア、メトルキングの威力を。とてつもなく強いぞっ!」


 お姉さんは主人公が与えるダメージの量を、自慢げに見せつけて来た。

 確かに、このレベルで100を超えるダメージは異様に強い。

 でも、見せられても何とも言えない所がある。


 私は適当に相槌を打ち、サムシティの作業に戻った。

 ニニアタウンはいよいよ魔法技術レベルが3になり、星間貿易がアンロックされたのだ。

 バカな姉さんに構っている場合ではなかった。


 さっそく星間ワープ施設を作り、交渉相手を地球に選ぶ。

 すると画面の中に桃色の髪をした少女が現れ、遠い星へと飛び立って行った。

 あれは、リナさんかな。


 そのうちこの町にも、ゲーム店が建つかもしれない……。



 ふと見れば、姉さんが仲間にした弱小モンスターを集めてチームを結成していた。


「お、スレリンのレベルが上がった。よしよし、少しは戦えるようになってきたな」


 メトルキングの力で、楽しそうに弱いモンスターを育てるお姉さん。

 社会人って一体何なんだろう。


 彼女を見て、私は少し将来が不安になるのだった。





 そして、ようやく給料日。


「はっはっは。金があるというのはいいものだ!」


 キャッシュカードに魔力を注いで銀行からお金を召喚したお姉さんは、自信に満ちた表情をしていた。

 ここ数日ずっとやつれた感じだったのに、金は人を変えるとはよく言ったものだ。


 休日だったので、私たちは二人でゲームセンターに向かった。


 姉さんが小遣いをくれたので、私はいつものように空いた超スタ2の台へ腰かける。

 対戦に入ってきたのは、見慣れない顔のお兄さんだった。


 小刻みに素早い攻撃を放つ敵のブランコ。

 その僅かな隙に潜り込み、ケインで強パンチからの昇流コンボを叩き込む。

 そこそこ強い相手だったけど、二連勝でKOだ。


「くそっ、つええ……! これがブラームス店のニニアか……」


 遠方から来たらしいお兄さんは、悔しそうに立ち去って行く。

 最近、少しずつこういう手合いが増えた気がする。


「やっぱつええな、ニニアちゃん」

「ああ。今の奴は隣町のアーケードでブイブイ言わせてた奴だぜ」


 男子たちはプレイヤーの情報網があるのか、何やら語り合っていた。

 ブラームス店以外にもゲームセンターが出来たみたいだし、いつか行ってみたい所だ。


 ただ、今日は母さんに姉さんの事を見張ってろと頼まれている。


 その当人はというと、エアホッケーにハマっているようだ。

 なんかその辺にいた男の子と対戦していた。


「くらえっ!」

「なっ、くそっ」


 少年が強い弾を放つと、お姉さんはアワアワと守りに入る。

 スピードに乗った円盤パックは、ロロア姉さんの守備をすり抜けてゴールへ。


「やったー! 楽勝だぜ」

「おねーちゃんよわーい」


 キッズたちにバカにされ、姉さんは怒りに震えていた。


「くそ、もう一回だ!」


 金を投入し、再度男の子に挑戦する。

 だが、運動神経の無いお姉さんである。

 ポンポンと点を入れられ、何度もボロボロに負けてしまった。


「あー楽しかった」

「いこーいこー」


 お金を使わずに存分にエアホッケーを楽しんだ子どもたちは、満足そうにゲームセンターを出て行く。


「ううっ……。あのガキども……。いつか見ていろ」


 何故かお姉さんは、涙を流しながらスマッシャーを素振りしていた。

 練習のつもりなのだろうか。


 姉さんは、いつもゲームに全力だ。

 それは時としてなんか、すごい哀れに見えたりもする。


 下手なのに対戦もやりたがるんだよね。


「姉さん、大丈夫?」

「……。ああ、私は問題ない」


 私たちは二人で入口の圧縮ジュースを買い、ベンチで休憩する事にした。


「姉さん、変わったよね」

「ん? 何がだ」

「昔はさ。割とクール系っていうか、冷めてる感じだったけど。

ゲームやるようになってから、すごい熱くなったっていうか……」


 私がぼんやりと言って見せると、彼女は店内を眺めながら言った。


「……。そうだな。ゲームは、少なくとも平等な戦いだ。

社会の汚い連中の争いとは違ってな。

だから、私も気兼ねなく全力を出せる。負けたら思い切り悔しがれる。

まあ、下手なのはわかっているがな。でも、ニニアもやるからには勝ちたいだろう?」

「……、うん」


 ニヤリとこちらを見下ろすお姉さんに、私もつい笑ってしまう。


 姉さんは、前よりずっと楽しそうに生きている。

 だから、それでいいんだろう。


「でも、生活費を使うのはやめた方がいいよ」

「……。うむ」


 得意げだった姉さんは、一転して気まずそうに視線を外にやるのだった。




一方その頃のリナ ながぶろさんより

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] ロロア姉さんはソシャゲでたら廃課金確実だな
[良い点] 仲間にするまでシナリオ進めないしばりで遊んでたら嫁離脱前にレベル60越えたもんです。メタルはぐれメタルさまようよろいで足止めされました
[気になる点] > クレジットカードに魔力を注いで銀行からお金を召喚した お金を預け入れするのはキャッシュカード。クレジットカードは前借りができる魔法のカードですよ。給料が振り込まれたのをとりだすのは…
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