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番外編 リナとサムライゲーム



 私はリナ・マルデリタ。

 マルデア星の一般家庭で暮らす十六歳の少女だ。

 地球からゲームを輸入する仕事をしているけど、休日はただの女子である。


 休みの日に女子が何をやるか。

 もちろんレトロゲームだよね。


 ……、うん、別に寂しくはないよ。

 配信すれば地球の人たちが見てくれるし、一緒に遊ぶ子もいる。

 オシャレな女子ライフからほど遠いと言われようが、別にいいのだ。


 私はリビングでカメラを回し、懐かしの鼠色のゲーム機をセットする。


『お、生放送はじまった!』

『やっほーリナ!』

『今日は自宅配信かな?』


 地球と繋がったのか、コメントがつき始めたようだ。


「みなさんこんにちは。リナ・マルデリタです。

今日はなつかしのゲームを一つ遊んでいきたいと思います」


『ゲーム実況だ!』

『やったー!』

『なにやるの?』


 やっぱりみんなゲームは好きみたいだね。

 初代プレスタに入れたディスクのタイトルは、『武士道ブレイズ2』。

 1998年にスクエイアから発売された、侍をテーマにした対戦格闘ゲームである。


 一般的に格ゲーといえば、殴って蹴って相手のライフを削っていく遊びだ。

 だがこのゲームには、ライフゲージがない。


 真剣で切り合うサムライ同士の戦いであるがゆえに、急所に決まれば一撃で死ぬ。

 一瞬で勝負が決まる事も多い、とても斬新な対戦ゲームだ。


 マルデアでは未発売なので、プレイするのは日本語版だ。


 ゲームを起動すると、古き日本の侍たちの渋い映像が流れる。

 いわゆるオープニングムービーは、この時代から流行り出したんだよね。


『おっ、サムライのゲームだ!』

『リナはほんと昔のゲーム好きだよね』

『90年代の四角いポリゴンがなつかしいぜ……』


 この頃の特徴的なグラフィックに思いを馳せている人もいるようだね。

 

 さて、対戦とはいえまずは一人用から入るのが礼儀というもの。

『百人斬り』というモードがあったので、プレイしてみる事にした。


 ゲームが始まると、私が選んだサムライが屋敷の中に立つ。

 そこへ、謎の装束を着た敵が現れた。

 上段に剣を構える男は、腹の辺りが隙だらけに見える。


「それっ!」


 真一文字に刀を振って下腹部を切りつけると、敵はあっさり一撃で倒れた。

 次々に敵が出て来るので、私もガンガン切り伏せて行く。

 うーん、かなり爽快だ。


『リナかっこいい!』

『サムライの戦いは渋いね』

『切って切って切りまくり!』

『へえ、武器の構えが変わるんだ』


 コメントの中には、特徴的なシステムに反応する人もいる。


「戦闘中に上段、中段、下段と刀の構えを変更できるみたいですね。

それによって戦い方も変わるみたいです」


 地球の人たちと話しながら、練習がてら色んな構えで戦ってみる事にした。


 上段は、天に掲げた刀を敵の脳天に振り下ろす。

 中段は、剣道の構えから突きの攻撃。

 下段は、低い構えからの一閃。


 それぞれの戦い方を確かめながら、敵を斬り倒していく。


『色んな斬り方があるな』

『変わってて面白いね』


 細やかな戦術性に、コメント欄も好意的な声が多いようだ。


「正にサムライのリアルを追求したゲームという感じですね。

あっ、やられた……」


 二十人目で、私は油断して敵にブスリとやられてしまった。

 と、そこへ。


「リナ、何しとるん?」


 小さな光に包まれた子が、ソファの上に降り立った。

 うちに住み着いた、妖精のフェルだ。


「サムライの対戦ゲームだよ」


 説明しながら、軽くプレイしてみせる。

 美しい動作で刀を振り、敵を倒していく侍の主人公。

 その姿に、フェルはキラキラと目を輝かせた。


「おお、サムライかっこいい! わちしもやる!」

「じゃあ、対戦しよっか」


 さっそく、私たちは対戦モードで遊ぶ事にした。


 フェルは小さい体で、器用にベシベシとボタンを叩いて操作する。

 ゲーマー妖精なのだ。


『二人対戦だ!』

『フェル、がんばれー!』

『負けても死ぬなよー』

『リナもがんばって!』


 コメント欄からは声援が飛んでいる。

 互いに好きな武士と武器を選び、すぐ対戦に入る事にした。


 戦いの場は、趣のある瓦屋根の上だ。

 互いに刀を構え、ジリジリと睨み合う。


「ふふふ、リナ。早くかかってこい」

「フェルこそ、びびってるんじゃないの?」


 言葉で煽り合いながら、敵の隙を窺う。

 そして、一気に前に出る。


「しねえええええええええええ!」

「そっちがしねええええ!」


 野蛮に声を荒げ、同時に切りかかる二人。

 するとお互いの刀が重なり、ギリギリと鍔迫り合いが始まった。


「うおおおおお」

「どりゃああああああ」


 ボタンを連打しまくり、こちらが力で押し切った。

 上手を取った私の刀は、フェルの頭にグサリ。


「ぎゃああ、しんだあぁぁ……」


 敵のサムライが血を噴き出して倒れるのと同時に、妖精っ子がソファにぶっ倒れた。

 いつもながら大げさな子である。


『やっぱフェルがしんだ』

『安定の下手っ子だな……』

『リナ強い!』


 みんな、この結果は予想していたらしい。


 ともあれ、今の一撃で勝負あり。

 何とも潔い対戦ゲームだ。


「ふっふっふ。フェルさんや。脇が甘いのう」

「くうっ、もう一回じゃ!」


 サムライ気分で笑う私に、妖精の子が食らいつく。


 一撃で死ぬスリル。

 間合いを読み合う緊張感。

 これを繰り返し楽しむのが、武士道ブレイズの醍醐味だ。


 次の戦いでは、フェルが見事な技を決めた。

 鞘に納めた状態から、刀を一閃。

 そう、居合抜きだ。


 最も美しいサムライの技と言えるだろう。

 私は腹を貫かれ、一撃で地に伏した。


「やった! わちしの勝ちっ! 今のわざ、かっこいい!」


 フェルは大喜びで両手を上げて、ヘンテコな踊りをしていた。


「くぅぅぅ。もう一回!」


 斬って斬られて、武士道ブレイズ。

 正にナイスなゲームだ。


 ただフェルはその後、ワンパターンに居合切りばかり狙って来た。

 アホの子だから、かっこいい技ばかり使おうとするんだろうね。

 それを見越しておけば、勝つのはさほど難しくなかった。


「ぐぬう……。今日は、この辺にしといたる……」


 フェルは謎の負け惜しみを吐き、気力を失ってパタリと倒れた。


『フェル、もうちょっと構え変えたりフェイントかけないと』

『知性が、知性がたりない……』

『でも、二人とも楽しそう』

『面白そうだよな。アーカイブとかで売ってるかな』


 ゲームを遊ぶだけの配信は地味に初めてだけど、反響はいいみたいだ。

 古いレトロゲームを50万人くらいが見てるのは、なかなか面白い眺めである。


「二人とも、お昼ごはんよー」


 と、お母さんの声がした。


「はーい!」

「めしぃぃぃぃ!」


 死んでいたフェルが一瞬にして生き返り、元気に食卓へと飛んでいく。

 あの食い意地は何なんだろうね。


「今日はお母さん、地球料理に挑戦したわよ!」


 皿に盛られたのは、丸いパンでお肉や野菜を挟んだ料理。

 ハンバーガーだ。正にアメリカンである。

 ただ、ハンバーガーの語源はドイツのハンブルグらしい。

 母さんはたまに私が持ち帰った地球の素材を使って、懐かしい料理を作ってくれるのだ。


 小さい妖精の子には、小ぶりなミニバーガーが小皿に用意された。

 母さんはフェルを完全に家族扱いしている。

 ちっちゃいジュースもセットで、至れり尽くせりだ。


 さて、ハンバーガーは手で豪快に食べるのが礼儀というものだ。

 口に入れると、柔らかいパンの中にジューシーな肉の味が炸裂する。

 シャキッとした野菜に包まれると、なんだかマイルド。

 そしてピクルスの酸っぱさが光る。正にハンバーガーだ。


「もぐもぐ、おいひぃー!」

「うまーーひ!」


 フェルは口をソースでベトベトにしながら、巨大なバーガーに食らいついていた。

 一応、これも記念に配信しておく事にした。


『マルデア人がハンバーガー作ったの!?』

『美味しそう!』

『笑顔でモグモグ食べるリナ可愛い』

『フェルの食いっぷりが良すぎて笑う』


 みんな楽しんで見てくれているようだ。

 ホームビデオ感が凄いけど、地球人類がわんさか見てると思うとなんか変な感じだ。


 まあ、これも一つの星間交流だよね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ああ、懐かしいネタですね。  100人斬りの攻略法は簡単ですよ。  事故があるので確実じゃないですが、走り切りでなんとかなります(なんとかした)  んでノーコンティニューでクリアして、出…
[一言] 良作を発見!ブクマ☆5です!(^ω^)
[良い点] 武士道はキャラがやたら個性的だったなぁ。 ゲームバランスとかは結構大味なとこもあるけど 対人戦はとにかく盛り上がった記憶。 この頃はやたらとポリゴンの格闘ゲームが出てましたね。 フェルは…
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