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第百三十七話 バトル!(挿絵あり)


 ブラームスのゲームセンター。

 新作の『エアホッケー』という対戦ゲームに、私は挑戦の手を上げた。


「お、スタ2のニニアちゃんだぜ」

「がんばって!」


 みんなの声援を受け、ドキドキしながら台の左側につく。


 テーブルに手をかけると、盤上に小さく風が流れているらしい。

 この力で円盤パックをスムーズに運ぶのだろうか。

 スマッシャーは、思ったより重いようだ。

 

 未知のゲームがもたらしてくれる緊張感が、私の胸を高鳴らせる。

 向こう側で構える小さな妖精も、白い器具を抱えてこちらを睨んでいた。


「先に打ってええよ」


 フェルがそう言って、円盤パックをこちらによこしてくれた。

 私に先手を譲ってもらえるらしい。

 紳士的な妖精だ。


 なら、まずは小手調べだ。

 さっき二人がやっていたように、円盤を少し前に出してからスマッシャーを振りかぶる。


「はぁっ!」


 そしてゴールに向け、強めに円盤パックを打ち出した。

 盤上に吹く風の上を滑るように、円盤が勢いよく敵陣へ向かう。


「ふぉぉっ、お返しスマーーッシュ!」


 フェルはしっかりと円盤の動きを追い、強烈な弾を打ち返した。

 それは中央で右の壁にバウンドし、斜め二十度ほどの角度で自陣に迫る。


 ここで慌てちゃいけない。

 このゲームは、とにかく自陣のゴールに円盤を入れさせなければ負けないルールのようだ。

 私はまずは守る事を優先し、円盤パックの弾道を見て手前の穴をスマッシャーで守る。 


 それから何度かラリーを応酬し、ゲームの感覚を掴んでいく。


「ちょえやああああああ!」


 と、妖精が前に出て思い切り円盤パックを打ち込んでくる。

 だが、それは弾道のわかりやすい真っ直ぐな攻撃だった。

 チャンスだ。


「それっ!」


 角度をつけて斜めに打ち返すと、円盤パックは勢いよく一回、二回と壁に当たりながら敵陣を襲う。


「むわぁぁぁぁっ」


 前に出ていたフェルは対応しきれず、円盤はそのままガツンとゴールに吸い込まれた。


「やった、一点!」


 私はつい、嬉しさに拳を突き上げる。


「おおっ、ニニアちゃんすげー!」

「今の上手いわっ!」


 周囲から大きな歓声が上がる。

 この高揚感は、まるで魔術の試合みたいだ。


 次の円盤が中央からフェル側に向けて飛び出してくる。

 どうやら、負けた側にサーブ権があるようだ。


「ぐぬぬ……。ここからが本番じゃっ。稲妻スマーッシュ!」


 本気になったのか、フェルは角度をつけて速い球を打って来た。

 両サイドの壁にぶつかりながら進んでくる円盤は、かなり対処しづらい。


 何とかスマッシャーをスライドさせてゴールを防ぐも、弱い弾が相手に行ってしまった。


「今だっ、直線スマーッシュ!」


 一気に真っ直ぐ進んでくる弾に、防御が間に合わない。


 ガコンッ。


 激しい音を立て、円盤がゴールに飛び込んで行った。


「よっしゃー!」


 スコアは1対1と同点に戻り、小さな対戦相手が大喜びで手を上げる。


「いい勝負してるじゃん!」

「二人ともがんばれー!」


 観衆からは、再び応援の声が上がる。

 体の中を、熱い血が駆け巡っていた。


 やっぱり、対戦は負けたくない。



 私は気合を入れ直し、その後も妖精と何度も打ち合う。

 二人の腕はかなり近いようで、一点を取られては取り返し、リードしてはイーブンに戻され。

 一進一退の攻防が続いた。


 そして……。


「ふぎゃぁぁぁっ。しんだぁ……」


 7対6で私が勝利すると、フェルはテーブルの上に倒れ込んでしまった。

 大丈夫かな。


「うおお、やっぱ強いぜニニアちゃん!」

「対戦ゲームの女王だな!」

「フェルクルも凄かったわ!」

「ああ、良い対戦だったよ。俺もやってみたいな」


 店内の客たちが、みんなで私たちの対戦を讃えてくれた。

 久しぶりに運動して疲れたけど、なんだか気持ちがいい。


 スタ2とはまた違った、さわやかな疲労感だった。


 私たちが離れると、見ていた人たちは早速エアホッケーの台についてコインを投入する。


「そらっ!」

「うわっ、難しいなこれ」


 みんな戸惑いながら、新しい遊びを楽しんでいるようだった。



 一息ついた後、私は改めて店内を見て回る事にした。

 と、そこへ。


「あ、ニニアちゃん。えへへ、見て。二つも取ったよ」


 ラナが誇らしげに、トカゲと水ガメのぬいぐるみを抱えてやってきた。

 彼女はクレーンゲームが上手いらしい。

 

「ねえ、あれやってみようよ」


 彼女が指さした先には、テーブル型の筐体が見える。

 ドット絵のシンプルなゲーム画面。どうやら、クラシックなタイトルらしい。


「インベードに、パックンマン……」

「何か色々あるね。こっちの黄色いやつ、やってみよっかな」


 ラナがパックンマンの筐体にお金を入れると、謎の球体が口をパクパクさせながら走り出す。

 どうやら、色んなものを食べていくゲームらしい。


「あはは、なんか面白いね」

「うん」


 私たちは二人で笑い合いながら、地球からやってきたゲームたちを楽しんでいた。




------------リナ・マルデリタ



 新しく生まれ変わったブラームスさんの店。

 その営業初日は、なかなか順調のようだった。


 店内には、普段この店では見ないようなお子さんやお姉さんたちも来店し、アーケードを楽しんでいた。


「ねえ、これどうやって遊ぶの?」

「は、はい。こちらは右手にあるハンマーを持って頂いて……」


 今日から入った若い従業員さんも、忙しく客対応をしているようだ。

 今回の新装開店にかかった金額は10万ベル。日本円にして一千万円ほどに及ぶ。


 何しろ、エアホッケーの筐体一つで一万ベルかかるからね。

 そのお金は、店長がこれまでにゲーム販売で稼いだ金で賄ったようだ。


 人件費や筐体の維持費なども考えれば、ブラームスさんはこれからが勝負だ。

 とはいえ、客入りは上々と言えるだろう。


 せっかくなので、カメラを起動してyutubeで配信しておく事にした。


『お、生放送はじまった?』

『やった、リナだ!』

『ここは、なんか日本っぽい?』


 コメントが流れてきた。繋がったようだ。


「地球のみなさん、こんにちは。リナ・マルデリタです。

突然ですが、今日は私たちにとって記念すべき日です。

マルデアでついに、ゲームセンターがオープンしました!」


 最初に笑顔で宣言した後、カメラでゆっくりと店内を見回す。

 

「えいっ、えいっ!」


 穴から顔を出すモグラを、懸命に叩く男の子。


「すげー、七連鎖も決めてるぜこの子」

「適当に積んだんじゃないの?」


 女の子が見せるぷやぷやテクに湧き上がる観衆たち。


「うおおおっ、負けるかあああああ!」


 筐体から伸びた腕を相手に、必死の形相で腕相撲を続ける青年。

 正にそれは、ゲームセンターの世界だった。


『すげえ……。30年くらい前にこういう店あったわ』

『みんな楽しそうだね!』

『モグラ叩き、懐かしい!』

『アーム・レスラーもやったなあ。三人目が強すぎた思い出』

『いいなあ、こういう店に通いたい』


 店の入り口には、ドリンクの販売もある。

 ワンコイン入れればジュースが出て来るんだけど、地球のようにコップとかに入れて飲むわけではない。


 試しにコインを入れると、小さなグミみたいなのが五粒ほど出てきた。


『なにそれ?』

『飲み物じゃないね』


「ふふふ、実はこれ、ジュースなんです」


 グミを噛むと、中から口いっぱいにジュースが溢れ出す。


「んー、おいひい」


 魔法式の圧縮ジュースなんだけど、冷たくて美味しいし、噛む時の炸裂感が癖になる。


『えー、なにそれ!』

『めっちゃ飲んでみたい!』

『やっぱり魔法の国なんだね』


 みんな興味津々らしく、コメント欄も沸き上がっていた。


「わちしも飲む!」


 と、フェルが私の手からグミを一粒奪い取った。

 

「あ、こらっ。それはダメ!」

「ひひひ、もぐもぐ……、んぶーーーっ!」


 案の定、グミを噛んだフェルの口からジュースが思い切り飛び出してきた。


「マルデア人向けなんだから、あんたのちっさい口に収まるわけないでしょうが」

「ぐう……。しんだ」


 顔がジュースまみれになったフェルを見て、みんなでつい笑ってしまう。

 汚れたままだと申し訳ないので、床には浄化の魔術をかけておいた。



 その後、私は店内を見回りながら地球の人たちと話をして過ごした。


 店の奥では、ニニアちゃんが友達と一緒にパックンマンの筐体で遊んでいた。

 一緒に楽しそうに、レトロゲームを遊ぶ二人。


 それはまるで、あの頃のユウジとあかりちゃんみたいで。

 私はつい、クスクスと笑ってしまうのだった。




sillaさんより、夏休みのお嬢さんたち

挿絵(By みてみん)

さて、アーケード編はここで一旦区切りです。

読んでくださってありがとうございます。

今後の連載予定については、活動報告に書きました。

頑張って書いて行きます。もしよければブックマークや評価などして頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クレーンゲームにエアホッケーは面白かった。 昔は技術で取れたのが良かった。 [気になる点] ニニアちゃん視点なのに 私たちは二人で笑い合いながら、一緒に古いゲームを楽しんでいた。 の古…
[一言] ばたんきゅ~するフェルが一番愛しい
[気になる点] マルデアの人たちは凄い短時間に地球40年分のゲームの進化・多様性を味わうことになるのが何となく心配。 1年に多くの超名作が出るのが日常化してると、今後普通の開発ペースでの販売になった時…
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