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第百三十六話 ニニアとゲームセンター

ニニア視点です



 ここ最近、ブラームス店が休業している。

 店は固く閉ざされ、『しばらくお休みします』とお知らせの貼り紙があった。


「ニニアちゃん、店長どうしたのかな。病気かな?」

「さあ……。こないだまで元気そうだったけど」


 ラナと顔を見合わせ、私たちは強い日差しの中を駅へと向かった。

 何があったのかは知らないけど、せっかくの夏休みに憩いの場がないのは少し寂しい。


 こういう時は、家庭用ゲームをやり込むべきだろう。


 部屋でスウィッツをモニターに繋ぎ、サムシティを起動する。


 私の都市も人口五万人を超え、だいぶ栄えてきた。

 マップの中央に設置した魔術闘技場は、毎日たくさんのお客さんが入ってかなりの賑わいだ。


 噂によれば、研究開発でワープ技術がレベル3になると星間貿易ができるようになるらしい。

 地球からゲームを輸入すれば、商業施設にゲーム屋が現れるとか。


 ニニアタウンにもいつか、ガレリーナ社やブラームス店みたいな場所を作りたい。

 そんな目標を胸に、私は今日も都市開発を進めていた。


 と、玄関の方からドタドタと音がした。

 またロロアお姉さんが遊びに来たようだ。

 あの人、夏休みもうちに入り浸る気だろうか。


「聞けニニアっ。ニニア聞けっ! 行きつけの店で凄いものを取ってきたぞ!」

「お、落ち着いてよ姉さん。何があったの?」


 お姉さんはいつも唐突にニュースを持ってくる。

 ただ、今回は輪をかけて慌てているようだった。


「これを見ろ!」


 お姉さんがドンとベッドの上に置いたモノに、私は目を見開いた。

 それは、スタ2キャラのヌイグルミだった。


 これまで、ヌイグルミのグッズ販売は無かったはずだ。


「これ、お店に売ってたの?」

「そうだ……、いや、違うな。あれはただの販売ではない。

あれはグッズを手に入れるプロセスを楽しむゲームだ!」


 ロロア姉さんは盛大に手を広げて叫ぶ。

 よほどの事があったのだろう。


 ただ正直、姉さんが何を言ってるのかよくわからなかった。


「グッズを買うゲーム?」

「うむ。私はこれ一つゲットするのに30ベル費やしてしまった。

他にも店を回ったが、あいにくどこも売切れでな……。やはり競争率が高い……」


 なんか、色々と凄い事になっているらしい。

 後悔の念仏を唱えていた姉さんは、思い出したように顔を上げた。


「そうだ。ブラームス店も明後日から新装開店するそうだな」

「え、ほんとに?」


 それは、私にとっても重要なニュースだった。


「ああ。あの店長の事だ。新型筐体をガッツリ導入して、新しいゲーム店の姿を見せて来るはずだ。

ちょうど私も休みだし、初日の朝から突撃するぞ!」

「う、うん」


 生まれ変わったブラームス店。


 一体どうなっているんだろう。

 私は少し興奮して、その夜はあんまり寝付けなかった。




 そして、休日の朝。

 私はお姉さんとラナと三人で、商店街の外れに向かった。

 そこに待っていたのは、いつもの専門店ではなかった。


 店の入り口は大きく開けており、中はかなり広い。

 看板には、『ブラームス・ゲームセンター』と書かれていた。


「ゲームセンター……」

「凄い、凄いぞっ。本当にゲームだらけだ!」


 興奮した様子の姉さんに続いて店内に入ると、中は本当に色んなマシンがいっぱいだった。

 中央にはスタ2の対戦台が並び、左手には……、あれは何だろう。

 透明なボックス型の筐体が二台設置されている。


「あ、ヌイグルミ……」


 その中には、姉さんが買ったようなグッズが山ほど入っていた。


「おおっ、ポツモンのクレーン機があるぞっ!」

「すごーい、可愛いっ!」


 姉さんとラナが、ポツモンのヌイグルミが詰め込まれたボックスに駆け寄る。


「うわあ。ラコンもピハチューもいる!

ねえロロアさん、これって店長に言ったら買えるのかな?」

「違うぞラナよ。これは自分の力で景品を手に入れる、クレーンゲームというものだ」


 訳知り顔で手を広げる姉さんに、ラナが首をかしげる。


「クレーン、ゲーム?」 

「うむ、見ていろ。一つ私が取ってやろう!」


 さっそく姉さんはコインを投入し、手前の大きなボタンを押す。

 するとボックス内のクレーンが動き出し、中のぬいぐるみを掴みかかる。


 だが位置取りがまずかったのか、アームは景品を持ち上げる事すらできなかった。


「くそっ。もう一回だ!」


 お姉さんは躊躇なくコインを追加し、何度もクレーンを動かしていく。

 二回、四回、六回……。


 どうも、全く取れないようだ。

 相変わらず姉さんはゲームが下手である。


「ぬう……。この店、取りづらいように設定してるんじゃないだろうな……」


 ボックスの中を睨みながら、仕様にケチをつけ始めるお姉さん。

 その隣で、ラナがクレーンを遊び始めた。

 すると……。


「あ、取れた」


 二回目でしっかりと赤いトカゲを掴み、取り出し口にポトリ。


「やったー! トカゲちゃんゲット!」


 ぬいぐるみに頬ずりするラナに、姉さんは悔しげに歯噛みする。


「くそっ。待っていろケダック……!」


 その後何回も挑戦し、ようやく十二回目でお目当てのぬいぐるみをゲットしていた。


「はぁ、はぁ、見ろ! 愛しのケダックを手に入れたぞ!」


 ボロボロになりながら勝利宣言するお姉さんは、とても嬉しそうだ。


 でも、これは凄い。

 グッズを手に入れるためにプレイする、新しいゲームだ。


 早速チャレンジしてみたい所だけど、ちょっと冷静になろう。

 何しろ、他にも見慣れないマシンが沢山置いてあるのだ。


 店の中央では、常連の男子学生が大きな赤い乗り物に乗っていた。


「うおおっ、曲がれっ!」


 彼は画面を睨みながら、二輪車を思い切り左に倒す。

 すると、画面の中でレーサーが左に曲がっていく。


「す、すげえ。何だこのゲーム!」

「体で操作するみたいだぜ」


 他の男子たちも、そのプレイに興奮しているようだった。

 ボタンで操作するんじゃなくて、体で操作する。


 こっちも見た事のないタイプのゲームみたいだ。

 周囲は、新しい遊びでいっぱいだ。


 どれから遊べばいいんだろう。

 キョロキョロしながら迷っていた、その時。


 店の奥から、桃色の髪を靡かせた少女が現れた。


「リナさん?」


 彼女は店長と共に奥の台へ向かうと、声を張り上げる。


「さあ、こちらの対戦台についてご紹介しますよー!」


 どうやら、リナさんが新型筐体について説明するらしい。

 『対戦』というワードに、私の耳が強く反応する。


「あっちでなんかやるみたいだぜ」

「見てみよっか」


 他の客たちと一緒に、私は店の奥に向かう。

 そこには、変わったテーブルがあった。

 長方形の真っ白な盤の上に、スポーツのコートみたいな線が引かれている。


「この筐体はエアホッケーと言って、二人で向かいあって対戦するスポーツゲームです。

まず最初に、二人で一ベルずつコインを投入します」


 リナさんはそう言って、クレジットを入れる。

 すると筐体が小さく唸り始め、外枠の穴から直径八センチほどの薄い円盤が飛び出してきた。

 彼女は左のサイドに立ち、中央のでっぱった謎の白い器具を手にする。


「この器具スマッシャー円盤パックを打ち、相手のゴールに入れたら一ポイントです」

挿絵(By みてみん)

「口で説明してもわかりづらいと思うので、一度やってみせましょう。フェル、いける?」


 リナさんが声をかけると、右側のスマッシャーの上に小さな光が降り立った。


「おう、しょうぶじゃっ!」


 小さな妖精の少女が、自信満々に胸を張っている。


「わあ、フェルクルだわ。かわいい!」

「あんな小さい子がゲームできるのか?」


 客たちが騒ぐ中、二人は互いに睨み合い、構えを取った。


「じゃあ、いくよ。それっ!」


 リナさんはスマッシャーを振りかぶり、思い切り円盤を打ち付ける。

 パックは勢いよく盤上を滑り、逆サイドのゴールを目指す。


 だが、そこに妖精さんが立ちはだかる。


「むおおっ、カウンタースマーーッシュ!」


 カキィン!


 フェルクルが撃ち返したパックが、今度は両脇の壁に当たりながら稲妻のようにリナさんの陣に迫る。


「うわっ」


 スピードのある攻撃に、リナさんは慌ててガードに入る。

 だが、彼女の脇をすり抜けて円盤パックはゴールへと吸い込まれていった。

 スコアボードに、『1 - 0』と点が表示される。


「ふぉっふぉっふぉ! わちしの勝ちじゃっ!」


 スマッシャーの上でクルクルと踊るフェルに、観客たちから拍手が起きる。


「すごーい、フェルクルちゃん強い!」

「面白そうなゲームだな」

「ああ、スピード感があっていいじゃん」


 確かに、とても楽しそうだ。

 地球の娯楽はビデオゲームだけかと思ったら、こんな遊びもあるなんて……。


 感激していると、リナさんが観衆に向き直る。


「さて、ゲームはどちらかが七点を取るまで続くわけですが。

せっかくですから誰か、フェルと一緒にこの続きをやってみませんか?」

「わちしに挑戦するやつ、おる?」


 妖精の少女が挑発するように客たちを見回す。

 みんなは、どうしようか少し迷っているようだ。

 気付いたら、私は手を上げていた。


 新しい対戦ゲームを前に、いても立ってもいられなかった。


「お、スタ2のニニアちゃんだぜ」

「がんばって!」


 みんなの声援を受け、私はドキドキしながら前に出る。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] エアホッケー客側のコスパ悪くない?2人で1ベルずつって書かれてるから2ベル(=200円)は高い気がする。現実だと11点先取で100円とかじゃなかったっけ? [一言] しばらくゲーセンな…
[一言] エアホッケー東京タワーにもあったやつですねぇ、なつかしき
[一言] 若者の間では地球=野蛮な星から地球=娯楽の星に認識が変わりつつあるような気がするな 今までの画面内のゲームからエアホッケーとか物理の対戦スポーツに範囲が広がったから ダーツ、ビリヤード、ボ…
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