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第百三十五話 整いました!


 次にやってきた営業先は、マジック・ランド。


 一言で言えば、水と戯れる遊園地である。

 こちらもシーズン真っ盛りで、水着を着たお客さんたちでごった返していた。


 スタッフルームに入って少し待っていると、いつもの営業担当さんが慌ててやってきた。


「ごめんごめん、忙しくてね。それで、なんか面白い筐体でも仕入れたのかい?」

「はい。幾つか持ってきましたので、ぜひご覧ください」


 部屋の中に数種類の筐体を出していくと、営業担当さんはその一つに目をつけた。


「この腕がついてる台は何だい?」


 営業担当さんが強い興味を示したのは、筐体から片腕が伸びる不思議なマシン。


『アーム・レスラー』だ。


 1980年代の後半に人気になったゲームで、画面の中に出て来る敵と腕力で競い合う。

 いわゆる、腕相撲ゲームである。


 一発勝負なので何回もやり込むものではないが、誰でも気軽に盛り上がれるのが売りだ。

 いろんなお客さんが来る施設にはピッタリの遊びだろう。

 

「なるほど、自分の力で勝負するのか。シンプルだけど盛り上がりそうだね」


 景気がいいのか、担当さんはすぐに購入を決めてくれた。

 私たちはさっそくフードコート脇にあるアーケード広場に向かい、筐体を設置する事に。


「何これ? 新しいゲームかな」

「なんかでっかい手がついてるぞ」


 物珍しいマシンが目を引いたのか、水着のお客さんたちがゾロゾロと集まって来た。 


「こちらはアーム・レスラーと言いまして、腕相撲で敵を倒す遊びです。

力に自信のある方はぜひ挑戦してみて下さい。ただし、魔力の使用は厳禁です」


 簡単に説明すると、客たちは顔を見合わせる。


「ねえ、腕力勝負だって」

「やってみる?」


 みんな、とりあえず興味は示してくれているようだ。

 こういうのは、一番手が大事なんだよね。


「ワンコインでやれるんだろ? よーし、俺のパワーを見せてやるぜ!」


 と、血気盛んな青年が前に出てきた。

 彼がコインを投じると、画面に若いレスラーが映し出される。まずは初戦だ。


「おらぁぁぁぁぁっ!」


 開始の合図と共に、全力で手に力をかける青年。

 だが屈強なマシンの腕はピクリともせず、逆に彼の手を押し込んでいく。


「ぐぁぁぁぁっ」


 完全に右に倒された瞬間、画面に『YOU LOSE』の文字が現れた。


「くそっ、なんつう力だよ……」


 青年は腕をさすりながら、悔しそうに筐体から去って行く。


「なんだなんだ、威勢の割にショボいな」

「だっさー」

「うっせえな、じゃあお前やってみろよ」


 からかってくる仲間たちに、憎まれ口を叩く青年。

 良い感じに盛り上がっているようだ。


「よし、次は俺がやるぞ!」

「パパ、がんばってー」


 続いての挑戦者は、ガタイのいいお父さんだった。


『レディー、ゴー!』


 彼は太い腕でマシンの手を掴み、一気に左へ押し倒す。


『YOU WIN!』


 画面に勝利のマークが表示され、敵のレスラーは泣き崩れていた。


「むははは、どうだ! 若いモンには負けんぞ!」

「パパすごーい!」


 娘さんの声援を受け、彼は二人目の敵となる傭兵に挑戦。


「おおっ、すげえぞ」

「ごつい敵と互角にやってる!」


 一進一退の攻防を見せ、観客を沸かせていた。

 だが……。


『YOU LOSE』


 次の敵はなかなか強く、おじさんは辛くも破れていた。


「くっ。すまんアニー、負けてしまった……」

「ううん、パパがんばった」

「そうそう、よくやったぞおっさん!」


 肩を落とすパパに、娘さんや周囲から拍手が送られていた。

 みんなに褒めてもらえるのも、このゲームの良い所だね。


「次、俺やってみよっと」

「私も、ちょっと挑戦してみたいかも」


 その盛り上がりに、次々とトライする若者たちが現れる。

 開放的な水着のまま、ワンコインで自分の腕力を試す。


 みんなに見られてるのも、結構気分がいいかもしれないね。


「いやあ、予想以上の盛り上がりだね。これは新しい目玉になりそうだよ」


 担当者さんも、その様子に満足しているようだった。





 その後。私は日が暮れるまで営業先を回った。


 元気な若者たちが集まる店には、対戦が楽しい『エアホッケー』を。

 落ち着いた雰囲気の店には『インベード』や『パックンマン』を。

 客層に合わせ、用意したアーケードを売り込んでいく。


 クレーンゲームはやはり人気で、特にゲームショップではファンたちが奪い合うように景品を狙っていた。

 まだポツモンの台は出していないのに、凄い熱気だ。


 その中には、見慣れた黒髪の女性の姿もあった。

 そう。ニニアちゃんのお姉さんだ。

 この人、どこから嗅ぎ付けてやって来るんだろう……。


「こ、これは凄い! 遊びを楽しみながら景品を取るのか!」


 彼女はクレーンの斬新さに驚嘆しながら、スタ2の台にコインを投入する。


「狙うは右奥……。私の愛すべきブランコだっ!」

 

 野人を狙うお姉さんだが、まあ彼女はご存知の通りへたっぴである。


「ぐっ……、また外したっ!」


 十回やってもダメなので、私は声をかける事にした。


「あの、取りやすいようにサポートしましょうか?」

「……。いや、助けはいらん。私は自力でやる!」


 彼女は私の手を振り払い、更にコインを投入する。

 ゲーマー魂なのか何なのか。


 よくわからないけど、凄い気迫だ。

 結局30ベルほど使い、彼女はお目当ての景品を手に入れていた。


「やった、やったぞ……! 私のブランコ……」


 ごつい野人を抱きしめ、黒髪を振り乱して崩れ落ちるお姉さん。

 感動的なのかはわからないが、なかなか見れない光景ではあった。




 それから三日間。

 私たちは行ける限りの店舗にガンガン営業を仕掛けていった。

 その反響は、ネットのゲーマーコミュニティに現れている。


xxxxx@xxxxx

『デパートで乗り物みたいな変わったアーケードを見たけど、あれは何だ?』

xxxxx@xxxxx

『全身で操作するレースゲームだよ。やってみたら迫力あって面白いぞ』

xxxxx@xxxxx

『ん? 今月の新作はアーム・レスラーだけじゃなかったのか?』

xxxxx@xxxxx

『俺が行ってる店はクレーンゲームってのが入った。かなり人だかり出来てて人気だよ』

xxxxx@xxxxx

『私、8ベル使ったけどラミングちゃんのぬいぐるみゲットしたわよ。めっちゃ嬉しかった!』

xxxxx@xxxxx

『自分でゲットするのが嬉しいんだよな』

xxxxx@xxxxx

『ポツモンの景品が入ってるやつはないのか?』

xxxxx@xxxxx

『みんな探し回ってるが、今の所出回ってないっぽい』

xxxxx@xxxxx

『しかし、いきなり店頭に色んな新作が出てきたな。何が起きてるんだ?』

xxxxx@xxxxx

『さあな。ガレリーナ社はいつも突然だし……』

xxxxx@xxxxx

『何にしても、楽しそうだな。明日友達とアーケードの店を巡ってみるか』



 様々な筐体を一気に売り込む初めての試みに、ゲーマーたちも驚いているようだった。

 それぞれ各店舗で話題を呼んでいるようで、反応は上々といった所だろうか。


 しかし、当初の目的とも言えるゲームセンターの形成は、まだ実現できていない。

 大型筐体は一台設置するのも手間であり、一気に全部揃えてくれるような店はなかった。



 だが、私には最強の味方がいる。



 そう。最後にやってきたのは、もちろんあの店。

 ブラームス娯楽専門店である。


 夏休みに入ったというのに、店は閉まっていた。

 お客さんの姿もなく、入り口にあった筐体も消えている。

 それにはもちろん、理由がある。


「やあ、マルデリタさん。待っていましたよ」


 呼び鈴を鳴らすと、店長がにこやかに顔を出した。


「遅くにすみません、ブラームスさん。準備の方はいかがですか?」

「ええ、大体は整っております。どうぞ中へ」


 彼がシャッターを開けると、店内は以前から見違えるように変わっていた。


「これは、随分広くなりましたね」


 そう。店の広さが二倍くらいになっているのだ。


「大型の筐体が一気に入るという事で、魔術建築社に増築を頼みました。

庭にしていた土地を使って、思い切って大フロアにしてみましたよ」


 マルデアの建物は、ほとんどが魔術で建てられている。

 そのため、改築や増築も金さえあれば簡単に依頼できる。


 とはいえ、思い切ったものである。


「では、設置していきましょうか」

「ええ。いよいよ、ゲームセンターの完成ですな」


 私たちは二人で、今回入荷した全ての筐体を店に設置していく。

 いよいよ、本格的なアーケード専門店が生まれる。


 その瞬間は、二日後に迫っていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的にクレーンゲームの景品で思い浮かべる景品はたまごっちやデジモンやGショック等のデジタル小物の数々ですね
[一言] いつもワクワクしながら読ませて頂いております。 ありがとうとても楽しいです。 前向きで、懐かしのゲームの話題でとても楽しいです。
[一言] ついにゲーセンか・・・ あ、照明はほとんど無いか薄暗いのでお願いします 目に悪い?消防法? 暗くなかったらゲーセンじゃなくてアミューズメントパークでしょう?
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