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第百三十四話 夏休み!


 翌朝。

 ガレリーナ社のオフィスには、朝早くから社員たちが集まっていた。


「今日から学生さんたちは夏休みらしいっスよ。私も休んでゲームしたいっスねー」


 メソラさんは椅子にもたれ、眠そうにアクビをしていた。


「だらけてる場合じゃないわ。レジャーが流行る今こそ、アミューズメントを売り込むシーズンなのよ!」


 サニアさんは、妙に気合が入っているらしい。


「うむ。外は暑いが、頑張って売り込んでいこう」


 ガレナさんが声をかけた所で、朝の挨拶はすぐ終わりだ。

 ここからは、各自で営業先へと向かう。



 最初にやってきたのは、首都の郊外にある巨大複合施設。

 マルディオ・マートだ。


 魔法服や雑貨、日用品からフードコートまで。

 多様な店舗が軒を連ねる有名な大型店舗である。


 夏休みだけあり、中のフロアは若いお客さんたちでにぎわっていた。

 華やかにキラキラと輝く魔法のお店が並び、みんな楽しそうに商品を見ているようだ。


『アクアウェアの水着にかけられた魔法が、あなたの水泳をばっちりサポート!』


 夏っぽい宣伝文句も響いて、ちょっと浮かれちゃうよね。

 雑貨屋の入り口には、なんとスウィッツが展示されている。


「これ、二人で対戦できるんだって」

「ちょっと遊んでみよっか」


 マルオカーツの試遊台には、学生たちが群がっていた。

 うん。良い感じに注目されてるみたいだ。



 マーケットの雰囲気を眺めながら、私はエレベータで上階に上がる。

 床が浮きあがる魔術式エレベータは、一瞬にして指定した階に乗客を運ぶ。

 揺れも感じないので、超便利だ。


 三階を奥に向かうと、休憩所にはアーケードに群がる子どもたちの姿があった。


「市長あたーーっく!」


 彼らが盛り上がっているのは、サム・シティ……。

 ではなく、フェイナルファイツだ。


 プレイヤーキャラの一人、半裸のマッチョ男『ファガー』。

 彼はなんと現職の市長である。


「なんで市長こんなにムキムキなんだよ」

「あはは、市長パンチ! 市長キック!」


 市長ブームが飛び火したのか、彼らは楽しそうにファガーを操作して遊んでいた。


 他にも、ぷやぷやで対戦して遊ぶカップルの姿もある。

 夏休みだけあって、とても良いムードだ。


 この店はアーケードの評判がよく、これまですべての種類を買ってくれている上客さんだ。

 クレーンゲームの出足には、ベストな場所だろう。


 と、売り場担当らしいスーツ姿の男性がやってきた。


「やあガレリーナさん、待ってましたよ。今度はかなりの大型筐体だとか」

「ええ。一気にゲームフロアが華やぐと思います。とりあえずクレーン筐体をお持ちしましたが、どうしましょうか」

「もちろん、さっそく設置したい所です。お客さんも新作はまだかと楽しみにしていましてね」


 気のいい担当者さんは、既に購入を決めてくれたようだ。

 私は輸送機からクレーンゲーム機を取り出し、指定された場所に設置した。


 すると、周囲の客たちがなんだなんだと振り返る。


「わあ、でっかい!」

「なんだあれ……」

「大きい透明なハコの中に、小さいクレーンがついてるな」

「なんだ、ゲームとは違うのか?」


 みんな、突然現れた巨大な筐体に首をかしげていた。

 まだ内部に景品は入っていないし、見ただけじゃどんな遊びかはわからないだろうね。


「これがクレーンゲーム……。華やかなものですな」


 カタログで内容を知っていた担当者さんも、実物の存在感に唸っていた。


「ええ。それから、こちらが景品です」


 次に段ボール箱を取り出し、筐体の傍に置く。

 中を開けると、担当者は目を見開いた。


「おお、これは……。素晴らしいグッズですな」

「ええ。ゲーム好きを中心に、誰にでも親しんで頂けると思います」


 二人で話していると、後ろで見ているお客さんたちも中身が気になるようだ。


「何だ、何かあるのか?」

「箱の中に何か入れるのかしら」


 話し合う若者たちを後目に、私はキーでボックスの戸を開ける。

 そして、中に景品を入れていく。


「おおっ、あれは!」

「マルオだよ、マルオの人形だ!」

「サニックもいるぞ!」


 それを見て、アーケードを楽しんでいた人たちが一気に集まってきた。


「ねえ、これ何なの?」

「ゲームグッズの販売機かしら」


 どうも、無人販売用の機械みたいに思われたらしい。

 ここは私の出番だね。


「こちらはクレーンゲームと呼ばれるアミューズメント筐体でございます」

「あむーずめんと?」


 近くにいた子どもが、目をぱちりと瞬かせる。


「はい。アーケードゲームと同じで、ワンコインで遊べます。

このボタンでクレーンを動かし、中の景品を拾い上げます。

こちらの取り出し口まで運んで落とせば、そのままグッズをゲットする事ができるのです」


 私が中を指さしながら説明すると、お客さんたちが目を輝かせる。


「つまり、上手くやれば一ベルでグッズを買えるって事か」

「プレイヤーの腕次第ってことね。腕が鳴るわ!」


 早速とばかりに、私と同い年くらいの少女がコインを入れる。


 マルデアの一般客がクレーンに挑むのは、これが初となるだろう。

 みんなも注目する中、彼女はボタンを押してクレーンを動かし始めた。


 まあ、さすがに一回でゲットするのは無理だろう。

 何しろ私がダメだったんだから……。 

 どうでもいい事を考えながら、私は少女のファーストプレイを観察していた。


 しかし、予想は外れるものである。

 驚くべき事に、アームはがっちりとサニックを掴み上げた。

 そして、あっさりと手前まで運んで行く。


「す、すげえ!」

「ほんとに一回で取った!」


 その結果に、お客さんたちもみんな目を丸くしていた。

 取り出し口に落ちてきたヌイグルミを手に取り、少女は大喜びだ。


「やった! ほんとに一ベルで取れた!

ねえ、これほんとにもらっていいの?」

「は、はい。おめでとうございます」


 私は呆然としながら頷く他ない。

 何しろちゃんとクレーンで取ったんだから、それはもう彼女のものだ。

 魔法も使っていないし、ズルもない。


 少女は大喜びで、青いネズミを頬ずりしていた。


「うーむ。楽しそうなのはいいが、採算は取れるんでしょうかな」


 さすがに担当者が心配そうな顔をする。

 一ベルで取られたら、景品の仕入れ値がペイできないからね。


「だ、大丈夫だと思います……」


 まあ、ビギナーズラックという事もある。

 私たちはしばらく、遊ぶプレイヤーたちを見守る事にした。


 幸いというか、次に挑戦した男性はスタ2グッズを取るのにかなり苦戦していた。


「うーん、リウが上手く掴めないなあ……」

「お兄ちゃん、へたっぴー」


 最初に一発で取った子と比べられてしまい、男性客は意地になってプレイしていた。

 コインも八枚くらい使っただろうか。


 さすがにちょっと可哀そうなので、中を開けてリウの位置を変えてあげる事にした。


「これで取りやすくなったと思います。やってみて下さい」

「あ、ありがとう」


 取り出し口のすぐ傍に置かれたリウは、アームが触れただけですぐ落ちてきた。


「取り方がダサいよなー」

「店員さんに手伝ってもらってるじゃん」


 だが、後ろで見ていた子どもたちの目は厳しいようだ。


「うるさいぞお前ら。そんなに言うなら自分で取ってみろよ」


 リウを抱きしめながら男性が反論すると、今度は子どもたちがコインを使って遊び始める。


「もうちょい右……。あ、行き過ぎ!」

「しょうがない、あの奥にあるヤッスィー狙おう」


 少年たちも夢中で景品を狙っているようだ。


 順調に稼働が始まった所で、担当者も安心したらしい。


「これなら、何とかやっていけそうですな」

「ええ。取れすぎても、取れなさ過ぎてもダメですから。

バランスを見てやってください」


 景品が取れすぎると店の採算が取れない。

 取れなさすぎると、客が離れていく。


 お客さんが楽しくプレイできて、なおかつ店が潤う。

 そのバランスを探すのが、最初のステップだ。


 クレーンゲームは、各店舗がそれぞれの環境で運営していくもの。


 担当者もお客さんの様子を見ながら、時に助け舟を出したり。

 状況に対応しながら、その扱いを学び始めていた。


 そのせいか、担当者はクレーンだけでいっぱいいっぱいという感じだ。

 他の筐体の稼働は、また今度という事になった。


 対戦ゲームに協力ゲーム、アミューズメント。


 まだ小さいけど、少しずつゲームコーナーらしくなってきたよね。

 私は担当者に挨拶して、賑やかなフロアを後にした。


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― 新着の感想 ―
[一言] クレーンゲームが今のアミューズメント施設の形態を作り上げた大きな要素といっても過言ではないですからね・・・ マルデアでのゲームセンター発展に大きく寄与してくれるはず! 自分のようなゲーセン…
[良い点] テレビゲームだけでなく、ついにクレームゲームも!ゲームの範囲が広めになってきましたね。ゲームセンターに入るものは他にもくるのかなっ
[良い点] 初手の女の子これは将来クレーンゲームの技とか配信しそうな感じだww
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