表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/171

第百三十三話 新作がいっぱい!




 マルデア星。

 研究所に戻った私たちは、すぐにオフィス街へと向かった。


 見慣れたビルの前まで来ると、二階の窓に人影が見える。


「あ、リナさん! 出張お疲れっス!」

「待ってたわよー!」


 どうやら、サニアさんたちがこちらに手を振っているようだ。

 私の帰りを待っていた……。

 というより、ゲームを待っていたんだろう。


 あれが労働中の社員のする事だろうか。

 大声を張り上げる二人に、自然と他所からも視線が集まる。


 私は恥ずかしくなり、慌ててビルの中に駆け込むのだった。


 オフィスに入ると、就業時間が終わったのに社員たちがみんなで待っていた。

 一階の食堂から出前を取ったのか、かつ丼の匂いがするね。


「お帰りなさいリナ。アーケードは?」


 サニアさんは開口一番にこれだ。皆も目をキラキラさせて、早く新作が見たいのだろう。


「はいはい、持ってきましたよ」


 輸送機からクレーンゲームの筐体を取り出すと、みんな一気に群がってくる。


「すげーッス! これが本物のクレーンゲームっスか!」

「中に可愛いヌイグルミがいっぱいだわ!」


 社員たちがボックスに張り付き、物欲しそうに景品を眺める。


「それ、売り物ですからね。さすがに景品は勝手に取らないでくださいよ」


 一応注意しておくと、サニアさんは財布を取り出してニヤリと笑う。


「なら、お金出して取れば問題ないのよね?」


 まあ、確かにそうだ。

 それなりの数を入荷したし、社員が買っても問題はないだろう。


「じゃあ、クレーンゲームに関してはテストプレイ一切無しにします。

オフィスに一台設置するので、景品が欲しかったらお金入れて実力で取ってください」

「上等っス!」

「やってやるわよ!」


 お調子者二人が、早速コインを投入して遊び始めた。

 まずはメソラさんがボックスの中を睨みながらクレーンを操作し、手前にある青いスレイムを狙うが……。


「あれ、上手く掴めないっスね」

「もうちょっと右なんじゃない?」


 簡単にはゲットできないヌイグルミに、二人は試行錯誤しているようだ。


 その間に、ガレナ社長が輸送機から別の筐体を取り出していた。


「ふむ……。こっちは面白い形のアーケードだな」

「はい。可愛らしいですね」


 フィオさんは微笑みながら、穴から顔を出したモグラの頭を撫でる。


『モグラ叩き』


 1975年に誕生した、ゲームコーナーの定番ジャンルだ。

 コインを投入すると、八つの穴からランダムにモグラが顔を出す。


「これを叩くんですね。えいっ、えいっ!」


 フィオさんが柔らかいハンマーを使って、モグラの頭をバンバンと叩く。

 叩いた数で点数を競う遊びなんだけど、モグラたちの動きはどんどん早くなっていく。


「あっ、こら! 待ちなさいっ! このっ!」


 彼らはすぐに穴の中に引っ込んでしまうので、フィオさんも必死だ。

 普段は静かな受付女子が頑張ってモグラを叩きまくる姿は、なかなか面白い。


 ゲームが終わる頃には、彼女は汗だくになっていた。


「はぁ、はぁ、これは大変なゲームです……」

「ははは。運動不足の君にはちょうどいいだろうな」


 くたくたになって座り込むフィオさんに、社長は楽しそうに笑っていた。

 さて、サニアさんたちはというと……。


「ううううっ、全然ダメだわ。これほんとに景品取れるの?」


 どうも上手く取れないのか、悔し気にそんな事を呟いていた。


「もちろん、上手くやれば取れますよ。

ただ何回も挑戦して無理だったら、景品の位置を変えて難易度を下げてあげるのがお約束です。

助け舟、いります?」

「……。いらないわ。意地で落としてやるわよ!」


 どうやら、ゲーマーの魂に火がついたらしい。

 サニアさんは結局十ベルほど使った後、何とかお目当ての人形をガッチリと掴んだ。


「やったわあぁぁぁっ! 私のロッツマンよ!」


 小さなぬいぐるみの値段としては、少し高いかもしれない。

 でも、自分の腕で取れたから嬉しい。

 その辺がクレーンゲームの魔力かもしれないね。


 他の筐体も置きたい所だけど、さすがにオフィスにこれ以上置くのはスペースが足りない。

 こういうのはやっぱり、広い施設に置いて遊ぶのが一番だね。


「じゃあ来週からの営業、頑張りましょう」

「ええ、お疲れ様!」


 仕事を終えた後、私は寄り道せず地元へと向かった。


「ただいまー」


 家に入ると、キッチンから母さんが顔を出した。


「お帰りなさい。リナ、奈良の実家に帰ったんでしょ。ご両親はどうだった?」

「うん、元気だったよ」


 どっちの母の顔を見ても、やっぱり安心するものだ。

 お土産のリナ饅頭を見せると、やっぱり母さんは目を輝かせていた。


「あらあらあら、可愛いわねえ! 食べるのがもったいないわあ」

「ははは、そうだね。とりあえず保存しておこうか」


 珍しく早く帰っていた父さんが、お饅頭の箱に状態保存の魔法をかけてくれた。

 これなら腐る事はないけど、居間に飾るのはちょっと恥ずかしいね……。



 食事が終わった後、母さんは新型アーケードのカタログを眺めていた。


「いっぱいあるわねえ。どれをうちに置こうかしら」


 母さんが頭を悩ませていると、フェルが冊子に描かれた絵を指さす。

 

「これ、おもろそう!」

「ふふ、そうねえ。変わった形の筐体だわ」


 二人は楽しそうにリストを眺め、あーだこーだと夜遅くまで話し合っていた。




 翌日。

 今日は私もお休みなので、市場テストも兼ねて店に新型アーケードを出してみる事にした。

 輸送機から取り出したのは、バイクの形をした赤い大きな筐体だ。


『ハングオフ』


 1985年にSAGAから生まれた、世界初の体感ゲーム機である。

 文字通り、これまでのアーケードとは全く違うコンセプトで作られたものだ。


 結構大きい筐体だけど、とりあえず広い庭に設置してみた。

 雨が降ったら屋根でもつければいいかな。


 と、子どもたちが集まって来たらしい。


「なんだこれ! 乗り物か?」

「へんなの。前に画面がついてるよ」

「リナねーちゃん。これなーに?」


 ベシベシとバイク筐体に触れるキッズは、新しい玩具に興味津々のようだ。

 まあ、ぱっと見じゃビデオゲームである事もわからないだろう。


「これは、全身で遊ぶバイクゲームだよ」

「全身で?」

「遊ぶぅっ?」


 私が説明すると、目を真ん丸にする子どもたち。

 素直で何よりである。


「なあなあ、どうやるんだよっ」


 手を握りしめて催促してくるトビー君は、キラキラと目を輝かせている。

 なかなか好感触のようだ。


「じゃあ、一回だけやってみせるから見ててね」


 私はクレジットを入れ、バイク筐体のシートにまたがる。


「上に乗ったわ!」

「どうやって操作するんだろ……」


 キッズたちは話し合いながら、期待の眼差しを向けてきた。


 このゲームは、今までのアーケードのようにレバーやボタンで操作するものではない。

 本当にバイクに乗った感覚で遊ぶ、正に体感型のゲームなのだ。


『START!』


 レース開始の合図と共に、私は右ハンドルのアクセルを入れる。

 すると、正面にあるモニターの中でバイクが走り出した。


 加速してスピードを上げると、まずは右のカーブに差し掛かる。


「曲がる時は、バイクを倒すっ!」


 私は体をぐっと右に傾け、車体ごと斜めになる。

 するとモニター内のバイクも右倒しになり、インを攻めながらスピーディに曲がっていく。


 カーブを抜けて車体を起こすと、ゲームも直線走行に戻る。

 筐体の動きが、ゲーム内と同期しているのだ。


「おおっ! よくわかんねえけど、すげえ!」

「ほんとに体で操作してるわっ」


 全く違う体験の登場に、子どもたちは目を輝かせていた。


 スピード感溢れるバイク走行のフィーリングを、体全身で楽しめる。

 それがハングオフの最大の特徴であり、体感ゲームの魅力と言えるだろう。


 プレイを終えて私がバイクを降りると、トビー君が早速筐体に乗り込んだ。


「ぶぃぃぃぃぃん、ぐおーーーーーん!」


 右に左に体を倒しながら、バイクの音を口真似する少年。

 もちろん、お金は入れていない。


 彼らは筐体と戯れながら、財力のある大人が来るのを待つ事にしたようだ。


 ただ、子どもにはちょっとサイズが大きいかもね。

 カレンちゃんも後ろに乗って、二人乗りで丁度いいくらいだ。


 とそこへ、常連の青年ゲーマーがやってきた。


「お、なんだこれ。デカい乗り物でも買ったのか?」


 彼もぱっと見では何だかわからないのか、ハングオフの筐体をジロジロと眺める。


「違うぞ兄ちゃん、これは新種のアーケードなんだ!」

「はあ? これがゲーム?」


 驚き戸惑う青年の手を、子どもたちは急かすように引きまくる。


「いいから、プレイしてみてよ」

「お金あるんだろ兄ちゃん」


「わかったわかった。ゲームだってんなら、やってやるよ」


 彼もやはりゲーム好きなのだろう。

 少年たちにせがまれるまま、バイクに乗り込んでコインを入れる。


「おおおっ、何だこりゃっ!」


 走り出したバイクにしがみつきながら、彼は車体を左に倒す。


「こりゃあ新しいゲームだっ! 臨場感が凄いぞっ」


 彼は夢中で画面を睨み、コースを攻めるように体を傾けていく。


「兄ちゃん、もっと右、右!」

「敵にぶつかるよっ」


 声を上げる子どもたちに、青年は必死でバイクを制御しながら走り続ける。

 だが変な拍子にコースアウトして、看板に激突。

 そこでゲームオーバーになってしまったようだ。


「へたくそー」

「オレならもっと上手く走るぞー」

「うるさいなあ。ここからが本番だっ」


 子どもにバカにされてしまった青年は、顔を赤くしてコインを追加。

 レースを再開して、ガンガンバイクを走らせる。


「ふぉぉぉぉ! ゆれるぅぅ」


 見れば、フェルが筐体の後ろにしがみついて騒いでいた。

 まあ、楽しそうで何よりである。


 さあ、明日からは本格的な営業だ。

 今日はゆっくり休んで、仕事に備えよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハングオンで、余計なトリビアを一つ。  ハングオンを開発したYS氏のインタビューに載っていたんですけど、当時のリアルバイクはパーツの耐久力の関係でドリフトが出来なかったとか。  出来ないと…
[良い点] 体感ゲームの大型筐体は家では楽しめない迫力が魅力ですよねゲームセンターはメンテ大変だったらしいですが。カートリッジを買って家で遊んでも別モノでした。
[一言] タイトル見て何故俺の頭の中に光GENJIの太陽がいっぱいが流れちゃったのか・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ