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特別編 リナの休日

リナの日常を書いてみました。気楽に読んでもらえればと思います。


 休日の朝。

 私は居間でぼんやりとデバイスを眺めていた。


 地球のネットでは、私の事がまあ大層に扱われている。


『神は我々にリナ・マルデリタを与えたもうた』

『マルデア大使は正に、現代の奇跡である』


 ちょっと調べるだけで、こんな記事が山ほど出て来る。

 火山の事があってから、私を神聖視する人がまた増えてきた。


 ただ私は、マルデアにおいては一般人だ。

 普通に十六歳の少女だからね。

 

 今日は仕事も休みだし、たまにはこう……。

 年相応に過ごしたいと思う。


 そろそろ夏だし、服とか買いに行かないとね。


 お出かけの用意をして髪を梳かしていると、妖精の子がフワフワとやってきた。


「リナ、どっか行くの?」

「うん。お買い物にね」

「なら、わちしも行く!」


 フェルは嬉しそうに両手を上げる。

 言うと思ったよ。お出かけ大好きだからね、この子。


 そうだ。

 どうせなら私の休日を地球の人たちにも見てもらおう。

 リナがいかに凡人かわかるはずだ。


 私はデバイスを起動し、セルフ撮影モードに設定する。

 すると、カメラが宙に浮かんで私を撮り始めた。


 手を使わずに自撮りができる、便利な魔術機能である。

 yutubeで配信をスタートさせると、地球と通信が繋がったようだ。


『お、リナが映ってるぞ』

『生配信なんて久しぶりじゃない?』

『リナー! やっほー!』

『マルデアの実家かな?』


 地球人たちが気付いたのか、さっそくコメントがつき始める。

 とりあえず挨拶しておこう。


「地球のみなさん、こんにちは。リナ・マルデリタです。

今日はお休みなので、普通に買い物に行くだけの配信です。

私の普通な休日ですが、よかったらご覧下さいね」

「わちしもおるよ!」


 カメラに向かって一礼すると、フェルも肩に止まって手を振った。


『リナの休日だって!』

『見る見る! 普通のリナが見たい!』

『妖精様がおられる!』

『フェルちゃんかわいいいいいいいいい』


 うん。なんか需要はあるみたいだ。

 まあ、気楽に行こう。


「じゃあ、外出ますね」

「レッツゴー!」

 

 カバンを持って家を出ると、近所の子どもたちが遊んでいた。


「あ、リナおねーちゃんだ!」


 彼らはこちらに気づくと、思い切り突撃してくる。


「くらえ姉ちゃん、しょーるーれっぱ!」

「ぐわあ、やられたぁ〜」


 超必殺技を繰り出してくるキッズには、ついリアクションしてしまうのが世の情けである。


『これがリナの日常……』

『可愛すぎる』

『優しいお姉さんじゃないか』

『スタ2が浸透している……、だと……』


 そうだ。今は地球の人たちが見てるんだった。

 あんまりアホな事すると恥ずかしいね。


「姉ちゃん、遊ぼうぜ!」

「ダメ。君らと遊んでる暇はないんだよ」


 ふっ。私ももう大人である。

 子どもばかり相手にしてるようじゃダメなのだ。


「姉ちゃんの裏切りものー!」


 ガキンチョたちのブーイングを背に、私はまず駅へと向かった。


『おお、これがワープステーションだな!』

『いいわねえ、移動時間ゼロなんだもの』

『突然溢れ出すSF感』

『素晴らしい文明だ……』


 ワープルームに乗り込むだけで、コメント欄が盛り上がっている。

 日常配信でも、ちゃんと文化交流にはなっているようだ。



 空間を超えてやってきたのは、地元の繁華街。


「リナ、肉の匂いする!」


 肩の上で、フェルが露店を指して声を張り上げる。

 こういう所に来ると、すぐ騒ぎ出すんだよね。


「ダメ。食べ物は後だよ」

「むー」


 不満げに頬を膨らませる妖精。

 この子はいつもこうだし、気にしてもしょうがない。


 とりあえず、目についた大きい服屋に入ってみる事にした。


『カルディアの魔法服で、夏も涼しくお洒落しよう!』


 店内には、よく耳にするCMのフレーズが流れていた。

 魔法服には色んな機能があって、夏はやっぱり冷却効果のある服が人気だ。


『ショーウィンドウの服が踊ってる!』

『いいなあ魔法服。キラキラしてる』

『ちょっと民族衣装っぽいよね』

『リナがいつも着てるのとはちょっと違うっぽい』


 地球のみんなも、カメラを通して服を眺めているようだ。 


「私が地球に着ていくのは、どんな環境にも適応する高級魔術服です。

ファッションというよりは装備なので、こういうお店には売ってないですね」


『へー』

『リナの豆知識』

『今のは20へえ行ったな』


 視聴者とどうでもいい話をしながら、幾つか服を見繕う。


「あ、フェルが着るのもある!」


 と、妖精の子が飛びついたのは、小人用の小さな小さな服だった。

 フェルクル用ではないけど、小人族に向けて売ってるやつだね。


「フェル、着てみる?」

「おう! これがいい!」


 フェルも服を手に取り、私たちは一緒に試着室へ向かった。



 着替えた後、私は新しい服でカメラの前に出た。



 上はひんやり空色のシャツ『水の衣』。

 下は優しい緑色が涼しげな『そよ風のスカート』。


 どちらも夏に定番の魔法服だ。

 模様のように術印が入っており、ほんのり冷却が効いて心地いい。


 ちなみに、フェルも同じシリーズの小人版を着ていた。


「ど、どうでしょう」


 私はカメラの前で、それとなくポーズを取ってみる。

 大勢に新しい服を見られるのは何となく恥ずかしい。


『可愛いっ!』

『可憐な妖精が二人……』

『リナとフェル、お揃いで仲良しだね』

『いいじゃん。買っちゃいなよ!』


 おだてられると、人はいい気になるものである。


「じゃあ、このまま買っちゃおうかな」

「やったー!」


 フェルも嬉しいのか、上機嫌に空中をクルクル回っている。


 お値段はセットで240ベル。


 作りがしっかりしてる分お安くはない。

 まあ働いてお金はあるから、これくらいは出してもいいよね。


「ありがとうございます~」


 レジを済ませ、私たちはお揃いの服で店の出口へと向かう。

 と、その時。


「あれ、リナちゃんじゃない?」

 

 声がして振り返ると、金髪のギャルっぽい女の子がいた。


「あはは、やっぱリナちゃんだ。覚えてない? 私、小学院の時一緒だったエリザよ」

「あ、エリザちゃん?」


 そう言えば、面影がある。


 いつも元気いっぱいで、よく校庭で魔法遊びしてたやんちゃな子だった。

 化粧をしてるからか、あの頃とはだいぶ雰囲気が変わって見える。

 何というか、だいぶ女っぽくなったね。


「リナちゃん、何してるの? デートとか?」

「ううん。私はこの子とお買い物だけど」


 肩を指すと、妖精の子は「よっ!」と気軽に手を上げた。


「あら、フェルクルとお友達なの? すごーい、さすが神童リナってカンジ。

私は彼氏と待ち合わせしてるんだけど〜。あいつ、いっつも遅いのよね〜」


 ペラペラと恋人の愚痴を語り始めるエリザちゃん。

 そっか、普通の女の子はこんな感じなんだ……。


 相槌を打っていると、彼女は思い出したように指を立てる。


「そういえば、リナちゃん今どこに通ってるの? やっぱり首都の名門学院とか?」

「え……、いや、えっと、地球かな……?」


 私が苦笑いしながら答えると、エリザちゃんはきょとんとした後でケラケラ笑い出した。


「きゃはははは! 地球とか、リナちゃん冗談おもしろーい!

あ、彼氏来たっぽい。じゃあ、またね〜!」 


 単なるジョークと思われたらしく、彼女は笑いながら去って行った。

 うん。ほんとに毎月地球に通ってるんだけどね。


 なんか、同じ世代なのに違う人種に見えた気がした。


『あれがマルデア産のギャルか』

『案外普通だな』

『マルデア人もやっぱりデートするんだね』

『そう言えば、リナは恋人とかいないの?』

『おい、それここで聞くか?』

『地球のネットが大荒れしかねん話題だぞ』


 なんかyutubeのコメント欄がざわつき始めたようだ。


「いませんよ、そんなの」

 

 雑に答えると、なんか一部のユーザが盛り上がっていた。


 その後、フェルの熱い要望で私は屋台の串焼きを買う事になった。


「これはマドルと言って、マルデアの鳥なんですけど。とっても柔らかくて美味しいお肉なんです」


 カメラの向こうに説明しながら、私は肉に食らいつく。

 熱々で、肉汁たっぷり。


「もぐもぐ、うまぁ〜」


 うん、やっぱり私は花より団子である。

 フェルにも一つ分けてあげると、思い切りかぶりついていた。


「うまーーーし!」


 豪快に肉を噛みながら笑う妖精の子は、ほんとに幸せそうだ。


『二人とも美味しそう!』

『フェルちゃん、タレが口の周りについてるよ』

『平和でいいなあ』

『うん、リナにはまだ子どもでいて欲しいね……』


 視聴者の人たちも満足してくれたようだ。


 その後サニアさんから通話があり、みんなで会社に集まってモム鉄で遊ぶ事になった。


「次の目的地は……?」

「札幌とか遠すぎっス!」

「ビンボーがつくのはもちろん、鹿児島にいるフェルよ!」

「のおおおおおおおおおおおお!」


 仕事場であるオフィスで遠慮なく盛り上がる社員たち。

 そして、絶望に頭を抱えるアホっ子妖精。


 私の休日は、大体こんな感じだ。

 同世代の女の子とはだいぶ違うけど、まあいっか。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、15歳で国の役員になって会社まで立ち上げた奴は絶対一般人じゃないだろう・・・
[気になる点] サムシティ・マルデアがあるならモム鉄・マルデアも…… と書いたところでちょっと気になったので質問です。 流石にマルデア星の地理については地球側に教える事についてはNGかかったりします…
[気になる点] リナは地球向けに配信中、何語で話しているんでしょう? マルデア語じゃないと思うけど、やっぱり英語?
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