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第十四話 待ってる間に


 マルデア星。

 戻ってきたのは、いつもの研究所のワープルームだ。

 私の帰還に気づいたのか、いつもの白衣の研究者が顔を上げた。


「ん? おお。君か。久しぶりだな」

「あ、どうも」


 この人、いつ家に帰ってるんだろうか。

 常にいるから少し不安になる。


「随分と長かったじゃないか。地球で遊び歩いて来たのかね」

「いえ、仕事ばっかりでしたよ。あっちの企業と一緒にマルデア向けのデバイスを開発してました」

「ほう。なかなか面白そうな事をやっているではないか。何を作ったのかね」

「ビデオゲームというものです」


 私がスウィッツを見せると、彼女は瞬きしながら眼を近づける。


「古めかしいデバイスのようだが、これに何かあるのかね」

「やってみましょうか」


 私がスウィッツを起動してゲームをやってみせながら、説明する。


「この左右についたボタンで、キャラクターを操作して遊ぶのです。一番右に行ったらゴールですね」

「ほう……これは変わった遊びだ。映像を動かすのか」

「やってみます?」


 私がスウィッツを渡して操作を説明すると、彼女はピッピとボタンを押して主人公を操作し始めた。


「ぬおっ、死んでしまったぞ!」


 カメに当たって落ちていくマルオに、彼女は慌てふためく。

 生真面目な風貌に似合わない、何とも可愛らしいリアクションだ。


「すぐ生き返るので、何度でもトライできますよ」

「なるほど。ほう……。これは悪くない。なかなか興味深い遊びだな」


 まんざらでもない表情でプレイを続ける研究者。

 どうやら気に入ってもらえたようだ。


「ええ、これをマルデアで売ろうと思うんですけど、どうでしょうか」

「うむ。他では見た事がない娯楽だし、良いのではないか。

下らないと言う者もいるかもしれんが、のめりこむ者もいるだろう。

どれくらいで売るつもりだね?」

「一台とソフト一本つけて、500ベルですね」

「むう、遊び道具にしてはそれなりだな。だが、そこまで高くもない」


 大体、500ベルは日本の感覚でいうと、五万円くらいだろうか。

 日本で売っている価格より高くなる。

 ただマルデアは金銭的に余裕のある家庭が多いし、そもそもゲームに相場がない。

 最初は出荷できる量も限られているし、この値段からスタートしたい。


「将来的に、このデバイスに色んなソフトを入れて遊べるようにします。ソフトは一つ80ベルで売るつもりです」

「なるほど、色んな遊びができるようになるわけか。それはいいな、何か私も手伝えるかね」

「え、手伝ってくれるんですか?」

「うむ。面白い試みには、関わって見たくなるものだろう」

「お仕事はいいんですか?」

「私の仕事は、私の興味あるものを研究する事だ。今はこのスウィッツという遊びだな。

地球人め、なかなか面白いものを作るではないか」


 そうして、ようやくマルデアにおける一人目の協力者が現れたのだった。

 地球人たちは全面協力みたいな感じだけど、マルデアは一人。凄い落差だね。


「私はガレナ・ミリアムだ。よろしく」

「リナ・マルデリタです」


 研究者であるガレナさんが仲間になったのは心強い話だった。

 彼女は変換器の魔術部品の量産にもあっという間に目途を立て、コストも立て替えてくれた。


「ワープルームも、自由に輸送用に使っていい」


 そう言って見せるガレナさんは、私の目にとても頼もしく見えた。


「ありがとうございます! あの、次から日本に飛ぶ事は可能でしょうか」

「ああ、地図で指定してくれればな」

「……」


 この人の地図指定、あんまりあてにならないんだよね。

 まあ、基本は優秀なんだろうけど。


 ともかく、日本とマルデアの輸送経路は作っておかなくてはならない。

 ただ、一度家に帰らないとね。


 私は研究所を後にして、実家へと戻った。


「ただいまー」

「あら、リナ。おかえり! 仕事はどうだった?」

「うん、結構うまくいったよ」


 母が出迎えてくれて、すぐに夕食を用意してくれた。

 あー。やっぱ実家おちつく。

 日本は日本でなつかしいけど、あっちは護衛がピリピリしてるからね。

 誰も私に注目しないってのが、なんか素晴らしい事のように思える。

 私は父や母と話しながら、ゆっくりと時を過ごしたのだった。





 翌日。

 私は実家で寝そべりながら、地球と連絡を取っていた。

 アメリカ政府ではなく、国連から連絡が来たのだ。

 ちゃんと話し合ってくれたらしく、魔石については世界全体のために使う事になったらしい。

 今後は、国連の本部に届ける事になりそうだ。

 まあそれも、ゲームが売れてからだけどね。


 さて、ゲーム会社からもメールは来ている。

 マルデア向けのスウィッツ完成の目途についての話し合いだ。

 とはいえ、ローカライズや変換機の量産などには時間がかかる。

 しばらくは待つ必要があった。


 そんな空いた時間で、少しやってみたい事があった。

 私はデバイスをいじって地球のネットに繋ぐ。

 開いたのは、yutubeというサイトだ。

 個人で動画を投稿し、世界に向けて発信できる地球最大の配信プラットフォームである。


 これを使って、地球のみんなにマルデアの映像を届けたらどうだろう。

 そう思ったのだ。

 魔法省の部長も許可していたし、いい星間交流の形になると思う。

 各国のトップや大企業とだけ話し合うのは、少し味気ないよね。


 マルデアのことを、地球の人たちみんなに知ってほしい。

 優れた魔法技術だけじゃなく、日常的な生活も含めてだ。

 もしかしたら、前世の両親も見てくれるかもしれない。

 直接会うのがまだ難しいなら、そこから始めたいと思った。



 そんなわけで私は、yutubeに動画を投稿してみる事にした。

 私のデバイスから、日本で買ったPCに直接指示が出せる。

 それによって、マルデアから地球のネットに投稿できるのだ。


 さて、まずは撮影だ。

 手に持ったカメラを自分に向ける、いわゆる自撮りである。

 どうせすでに私の顔は地球中に割れているのだから、恥ずかしがる必要はない。

 自宅の前に立って録画ボタンを押し、私は緊張しながらカメラを見据える。


「えー、こんにちは地球のみなさん。リナ・マルデリタです。

現在私は、マルデア星の実家にいます。このチャンネルでは、みなさんにマルデアの事や私のことをお伝えしていきたいと思います!」


 英語で話しながら、私はカメラを家に向ける。


 マルデアの家は、日本の家屋とはだいぶ違う丸みを帯びた建物だ。


「ここ、私の家です。地球のとはだいぶ違うでしょう。これは、建築魔術によって作られたものです」


 私は歩いて撮影しながら説明する。

 そして、家の中に入っていく。


「この人が、私のお母さんです!」

「はあーい! こんにちは、地球の人たち」


 お母さんがカメラに向かって挨拶する。

 もちろん、マルデア語なので通じないだろうけど、別にこれでいいのだ。

 ありのままを届けるのが、交流らしくていい。


 ホームビデオみたいなものを十分近く撮影し、私は出来た動画をyutubeに投稿した。

 チャンネル名は英語でリナ・マルデリタ。

 特に誰にも断りなしに立ち上げたので、初日はそれほど再生されなかった。


「Is this real thing?」

 これ、本物なの?


「It looks like real Rina, but I can't believe it.」

 本物のリナみたいだけど、信じられないよ。


 コメント欄にも、半信半疑のような言葉が目立った。

 ただ途中からネットに噂が広まったのか、翌日から爆発的に再生数が伸びていった。

 すでに一千万回とか、わけのわからないレベルになっている。

 人気すぎて逆に心が落ち着いてきた。

 なんというか、私が人気というよりただ希少な宇宙人が見たいわけだ。なら問題ない。

 SNSでも、この動画について沢山つぶやかれていた。


xxxxx@xxxxx

「この動画は偽物じゃないよ。完全に記者会見のリナ・マルデリタと顔も声も全部一致してる」

xxxxx@xxxxx

「背景の映像もCGじゃないよね」

xxxxx@xxxxx

「映像解析班もガチだって言ってる」

xxxxx@xxxxx

「本物の宇宙人がユーチューバー始めちゃったw」

xxxxx@xxxxx

「異世界エルフかわいい。お母さんも可愛い」

xxxxx@xxxxx

「いや、これ何気にアップされてるけど世紀の発見レベルの映像だよな……」

xxxxx@xxxxx

「異世界の映像は貴重すぎる。そしてリナも可愛い」

xxxxx@xxxxx

「チャンネル登録しました」


 私が動画出しただけで、凄い騒ぎだ。

 デバイスで日本のテレビを確認すると、私の動画がワイドショーで取り上げられていた。


『宇宙人リナ・マルデリタのお母さん初登場!』


 そんな見出しで、私の母がテレビにドアップで映っていた。

 地上波では、ちゃんと日本語の字幕をつけて伝えてくれている。

 これなら、ネットに疎い人たちにも広まるだろう。


 母さん。父さん。見てる?

 私、今こんなところで、新しい親と暮らしてるよ。



色々やってすみません。

基本はゲームの発売に向かっていきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガレナに一番協力してもらいたいことは、 ワープの転送先座標を正確にしてほしいということじゃないか?
[一言] これぞローファンタジー!!って感じでめちゃくちゃ面白いです!!!! 読んでてすごくワクワクします!!!!!
[良い点] 電子ゲームから始まる宇宙間交流。マルデアは魔法でのズルができちゃうからゲームの類いが発展しなかったのかな? その点コンピューターゲームなら、簡単にはチート行為もできないしイイかもしれません…
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