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番外編 奈良の母から見た火山

今回は、前世の母親視点です。リナが火山に向かった頃のお話になります。



 六月の奈良。


 東大寺から離れた通りに立つ、小さな和菓子屋。

 私は夫と二人、40年近くこの店を続けてきた。


 大事な息子……。今はもう娘だけど。

 あの子がいつ帰ってきてもいいように、私は今日も店のカウンターに立つ。


 通りは相変わらず、大仏さんや鹿を見に来た観光客でにぎわっている。


「『リナまんじゅう』だって」

「あはは、ちょっと似てるかも」


 学生服の女の子たちが、うちの商品を眺めて笑い合う。

 娘の顔をかたどったお饅頭は、うちの夫が勝手に作り始めたものだ。

 あの子から許可を取って店に出してるけど、反響はなかなか良い。


「あの、リナのやつ下さい」

「はい、ありがとうね」


 財布からお金を取り出す少女に、私は笑顔で対応する。

 と、その時。


「おいっ、大変や!」


 厨房で菓子作りをしていた夫が、慌てて飛び出してきた。


「リナが、リナがやばい火山に向かったらしい。ニュースが出とるぞ!」


 声を荒げる夫に、店にいた学生たちが反応する。


「うそ、リナのニュース?」

「また何かやるのかな?」


 彼女たちはポケットからスマホを取り出し、素早く情報をチェックしていた。


 リナ・マルデリタ。


 今やこの星で知らぬ者はいない、マルデア大使にして地球のヒーロー。

 そして、私たちの可愛い娘だ。


「火山て、何があったん?」


 私は傍にあったリモコンを取り、店内のテレビをつける。

 すると、報道番組が現地の映像を流していた。


『ロサンゼルスのゲームショウに参加していたマルデア大使ですが、緊急事態が発生した模様です。

大使は急遽公務を中断し、メキシコの火山へ向かいました。

国連は「大噴火の被害を抑えるため、彼女の協力を仰いだ」と説明しています』


 アナウンサーの言葉に、私は心臓が止まりそうになった。


「あんた、どうしよう。リナがまた危ないとこ行って……」

「大丈夫や。あいつは火山なんかに負けん」


 夫は歯を食いしばるようにして、私の肩を支えてくれた。

 リナは以前も、アメリカの台風を消しに現地に向かったことがある。

 あの時は心配で何度も倒れるかと思ったけど、今度は火山……。


「メキシコで火山を鎮めるんだって!」

「そんなの出来るのかしら……」

「リナならやれるんじゃね?」


 町の人たちもみんなニュースを見たのか、大騒ぎだった。

 もうお店どころではなくなり、私たちはじっとテレビの報道を見守る事にした。


『たった今、大使が火山に到着した模様です。

メキシコ市民を脅かす巨大なマグマを鎮めるため、彼女は災害に立ち向かいます。

日本のみなさんも応援しましょう!』


「リナが火山についたって」

「がんばれーっ!」


 店にいた学生たちが、うちのテレビに向かって拳を振り上げる。

 外を歩く人たちもみんな立ち止まり、リナを応援していた。


 私も手を合わせ、地球の裏側にいる娘の無事を祈った。



 それから、二十分ほど経っただろうか。


 火山の詳細を説明していたアナウンサーが、突然目の色を変えた。


『たった今、現地で撮影された映像が入りました。

まだ公式に成否の発表はありませんが、現地の模様をご覧ください!』


 と、テレビに突然大きな山が映し出される。

 あれがメキシコの火山だろうか。

 周囲にはヘリが飛び、そこから何かが落ちて来た。


「リナだっ!」


 空から落ちてくる女の子。

 桃色の髪を靡かせたそれは、間違いなく私の子だった。


 リナが空中で留まり、目の前の火山を睨む。

 すると、沢山のキラキラと光る石が山のふもとに撒かれていく。


「あれは、魔石かっ」

「いよいよ始まるぞっ!」


 町の人々が、口々にテレビに向かって声を上げていた。

 みんなが固唾を飲んで見守る中。


 画面から激しい音が響き、地揺れが始まる。

 火山が一気に爆発し、巨大な煙が溢れ出した。


「ああ、リナ……」

「負けるなーっ!」


 テレビの中の少女は、不思議な力を使ってマグマと煙に対抗していた。

 輝く光がマグマを包み込み、赤い熱を鎮めていく。


 その戦いは、五分近くに及んだ。


 年もあり、私は椅子にへたり込みそうになった。

 でも、リナはもっと辛い所で戦っている。


 だから私も夫もその場に立ったまま、頑張るリナをずっと見つめていた。


 そして、彼女の傍で小さな何かが光った瞬間。

 地鳴りは一気に収まり、山が静まった。


 それに合わせて、アナウンサーの声が入ってくる。


『たった今、国連から発表がありました! リナ・マルデリタさんが火山の鎮静化に成功した模様です!

繰り返します! マルデア大使と災害対策部隊がメキシコ火山の鎮静化に成功しました!』


 熱の入った報道の声に、店にいた学生たちは一気に両手を上げた。


「やったぁ! リナすごーいっ!」

「火山を鎮めるとか半端ねえよ!」


 外の通りでも一緒だった。

 みんながその話題で盛り上がり、笑顔で喜び合っていた。


「課長、やりましたな!」

「ああ、我らのヒーローが今度はメキシコを救ったぞ!」


 スーツを着た営業回りのサラリーマンたちも、自分の事のように肩を抱き合っている。


 こんな景色を生み出せるのは、きっとリナしかいない。

 あの子はきっと、その一部も知らないだろうけど。


 この星は今、みんなでリナを応援している。

 人種も国境も関係なく、あの子が活躍したらみんなで喜び、はしゃぎ合う。


 あの子は、この星を救おうとしているから。

 みんな、それをわかっているから。


 子どもの頃に見たアニメのヒーローみたいに、自然と手を上げて声援を送ってしまうんだろう。

 外に溢れる歓喜と喧騒を眺めながら、私はようやくほっと一息ついた。


「あんた、よかったね」

「ああ……」


 夫と手を合わせ、カウンターに座り込む。

 今回もなんとか、娘は無事に済んだようだ。



「あ、そうや」


 夫は何か思い出したように立ち上がり、奥の居間へと向かった。

 リモコンをいじる所を見るに、またテレビを録画し始めたらしい。


 最近のあの人の趣味は、リナの記事やニュースをコレクションする事だ。

 二人とも機械は苦手だけど、リナのために奮発して良いレコーダーを買った。


 頑固な夫が細かくビデオを管理する姿に、私は少し笑ってしまう。


「あんた、またちょこちょこ録画して。こんな時くらいゆっくりしたらええやないの」

「何言っとる。今しか撮れん番組があるんや。お前も後で見るやろ」


 確かに、リナが活躍した日は特別番組が目白押しになる。


 あの子が地球にどんな影響を与えているか。

 マルデアとの貿易がどんな風に進んでいるか。


 何時間もかけて、有名な司会者さんが丁寧に語ってくれる。


 台風の時の特別番組は、何度も二人で見返したものだ。

 何しろ、うちの娘の活躍だ。


 ご近所に自慢できないのは残念だけど、それでも嬉しい。


『いやあ、今回も凄かったですね』

『ええ。二回目の噴火はどうなるかと思いましたが、さすがはリナさんです』


 さっそく、ワイドショーが娘の話を始めていた。


 きっとあの子はこれからも、時々こうして危険な事をするのだろう。

 大好きなゲームの仕事をしながら、地球を守るのだろう。


 なら、私はそれをずっと見守っていたい。

 リナが帰ってきたら、笑顔で迎えてあげたい。

 今度来た時は、食いしん坊な妖精さんにもご飯を出してあげないとね。


 ちょうどVTRで流れたフェルちゃんの食事を眺めながら、私たちはクスクスと笑い合った。


 しばらく見ていると、特番がCMに入った。

 ゲームの映像が出たので、私は何となくコマーシャルを眺める。


『遠き星、マルデアの文明が今ここに。

君の手で、自由に魔法都市を作り上げよう』


 どうやら、リナがイベントで紹介していたサムシティというタイトルらしい。


「綺麗な町やなあ」

「ああ……」


 画面に映る美しい都市の姿に、私は年甲斐もなくドキドキしてしまった。

 リナはきっと、こういう町で暮らしているのだろう。


 発売はもう二週間後らしい。


「あんた、これ買わなあかんわ」

「ああ。近くの電気屋で予約しとくか」


 夫は早速、お店に電話を入れていた。


 都市を作るゲームなんて、私たちに出来るかわからないけど。

 リナの住む町が作れるなら、挑戦してみたい。


 まだまだ人生、色んな事がありそうだ。




sillaさんより、リナまんじゅう

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
リナ饅頭がJKの言った通りちょっと似てて面白い、不思議な可愛さがある
[良い点] リナまんじゅう、なんかサンリオに出てきそうな見た目してる…
[良い点] リナまんじゅう、マルデアの実家でも(ry [気になる点] ・大事な息子……。今はもう娘だけど。 「今のあの子は女だ」と了解するためにも、生前の名前ではなく〈リナ〉と呼んでいる様な気もしま…
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