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第百二十九話 同時発売!


 迎えた発売当日。

 私たちはいつものように、朝早くから会社のオフィスに集まっていた。


「いよいよ、マルデアに大量の市長が誕生するんスね」


 メソラさんは白髪の寝ぐせを直しながら、嬉しそうに笑みを浮かべている。


「ええ、やるべきことはやったわ。あとは、反響を待つだけね」


 サニアさんもウキウキした様子で、デバイスに目を落としていた。

 オールスター第四弾のパッケージは、既に七万本ほど店頭に配置されている。

 しっかり準備をした上で、洋ゲーの一歩が始まった。

 

 さて、いつもは朝十時くらいから通話対応が始まるんだけど。

 今日はその前から、既にマルデアのネットが盛り上がっていた。


 最初はやはり、サムシティの話題で持ち切りのようだ。


xxxxx@xxxxx

『うーん。どこに住宅地を建てたらいいかな』

xxxxx@xxxxx

『海辺の方が水道も用意しやすくて、景色も良さそうよね』

xxxxx@xxxxx

『丘の上も見晴らしが良いぞ!』

xxxxx@xxxxx

『どんどん建物が建っていく……。眺めてるだけで楽しいな』

xxxxx@xxxxx

『むう……。どうも道路の設置がビシッと決まらない』

xxxxx@xxxxx

『デザイン難しいよなあ』

xxxxx@xxxxx

『俺の町の住人、誰も仕事しなくて税収が無いんだが』

xxxxx@xxxxx

『ニートタウンってつけとけ』

xxxxx@xxxxx

『商店街とか魔術工場とか、職場を作れば働くようになるよ』

xxxxx@xxxxx

『見て! 魔法教会を作ったら人々がお祈りに来たわ!』

xxxxx@xxxxx

『町を歩く小さい住人たちが可愛いよな……』

xxxxx@xxxxx

『お、おい。モンスターが出たぞ! 町を壊されてしまう!』

xxxxx@xxxxx

『魔術ギルドを建てれば魔術師の討伐隊が出るはず』

xxxxx@xxxxx

『つうか、何建てるにも金が足りん……』


 まだ序盤も序盤。

 プレイヤーたちは町作りの段階で試行錯誤していた。


「みんな楽しそうね」

「町作りの工程をアップしてる人もいるっス」


 自分でデザインする町だから、誰かに見て欲しくなるのだろう。

 普段よりスクリーンショットの交流も多いようだ。


「そう言えば、地球の方はどうなったんでしょうか?」


 と、フィオさんが思い出したように顔を上げる。

 サムシティは、なんといっても二世界同時発売だ。

 あちらの様子も気になる。


「調べてみましょうか」


 私はデバイスを取り出し、地球のネットに繋ぐ。

 すると、トップニュースにでかでかとゲームの記事が出ていた。


『予約のみで1000万本突破!

サムシティ・マルデアがシミュレーションゲーム史上最高のヒットへ!』


 どうも、世界規模の盛り上がりのようだ。

 SNSでは、朝から熱心に遊ぶプレイヤーたちが語り合っている。


xxxxx@xxxxx

『やっと買えたぞ! 朝からゲーム屋に行列出来てた』

xxxxx@xxxxx

『マルデアの町並みが予想以上に美しい……』

xxxxx@xxxxx

『地球に比べて汚染が少ないわ。浄化システムが凄いのね』

xxxxx@xxxxx

『実に興味深いね。うちの研究所はみんなでプレイしてるよ』

xxxxx@xxxxx

『市民の中にリナがいたりしないかな?』

xxxxx@xxxxx

『やり込めば出て来るかも……』


 ガチで異星の文化学習ができるゲームとあって、その人気は異常だ。

 発売日イベントの動画では、大勢の客がハイタッチしながらソフトを購入していく姿が見えた。


「やっぱり、あっちはゲームの規模が違うわね」

「凄まじいコメント量っス……」


 サニアさんたちは地球の熱狂に目を見張っていた。

 二つの星の間には、まだ100倍以上は市場規模の差がある。


「将来は、マルデアでも同じような盛り上がりを作りたい所だな」

「そうですね。少しずつ広げていきましょう」


 社長の呟きに、みんなが頷く。

 何となく熱い気持ちになりながら、私たちはそれぞれの星の反響を眺めていた。




 それからしばらくすると、オフィスにコールが鳴り始める。

 オールスターのゲームたちに、質問の通話が来たようだ。


 最初は、ラミングスで失敗した女性。


「私が運んでたラミングちゃんが、みんな谷底に落ちてしまったわ……。

彼らはどこに行ったのかしら」

「きっと天国だと思います」


 アウト・ワールドに疑問を覚える男性。


「変な宇宙人に瞬殺されまくってる。俺は一体誰と戦っているんだ?」

「わかりません……」


 ドンキューのシステムに疑問を抱く人。


「なんでタルの中に仲間が入ってるの?」

「……。ど、どうしてでしょう」


 F-ZERAに驚く人。


「マシンが大爆発したんだけど。運転手、死んだ?」

「えっと、安否は不明です……」


 根本的にメトルマックスの趣旨がわからない子。


「ねえ、戦車ってなあに?」

「戦う車です」


 ラミングに愛着を感じてしまった人。


「可愛いラミングちゃんを自爆させないとクリアできないみたいだけど。マジなの?」

「ええ、マジです」



 ラミングスには、『自爆しろ』という命令も存在する。

 一匹を爆発させて周囲に穴を開け、閉ざされた道を開く。

 そんな残酷なステージも……、いっぱいある。


 小さなラミングたちは仲間の死をものともせず、ゴールへと進む。

 そりゃもう、淡々と進む。


 そんな健気な姿に、プレイヤーからは多数の同情の声が寄せられていた。


「仲間のために死ぬって、悲しい定めよね」

「哀れな子たちっス……」


 サニアさんたちも、死にゆくラミングの動画を物悲しそうに眺めていた。



 

 その日は早めに仕事を切り上げ、私は実家の様子を見に行く事にした。

 子どもの反応を見るには、やっぱりあそこが一番だ。


 駄菓子屋の前まで来ると、キッズたちは草むらの辺りで固まっていた。

 スウィッツを操作する一人の少年に、いつもの面々が群がる。


「かっこいい警視塔をもっと建てようぜ!」

「えー、可愛いお店をいっぱい作った方がいいわよ」


 皆で寄ってたかって、新作を買った子に指示を出しているらしい。

 少年は言われるがまま、バンバン施設を設置していた。


 画面の中にはお店が溢れ、青いタワーが何本もそびえ立つ。

 可愛さとカッコよさが混雑した、派手な町になりつつあるね……。


 ただ無計画に建設を進めると、当然ある問題が起きる。


「ど、どうしよう。お金がもうないよ」


 少年市長は、画面下の数字に顔を青くした。


 都市の予算は有限である。

 道路の設置。インフラの配備。

 何をするにしてもお金はかかる。


 予算がなくなると、市長には何も成す術がない。


「リナ姉ちゃん、これどうするの?」

「何もできないわ!」


 こうなると、子どもたちはお手上げだ。

 ゲームオーバーというわけではないので、私に助言を求めてきた。


「銀行に行けば、ある程度お金を借りれるよ。ただ、あんまり無駄遣いしちゃダメだからね」

「わかった!」


 少年市長は大喜びで、銀行から融資を受けていた。

 でも、私のアドバイスは大して生かされなかったらしい。


「マジック・ランド作ったらまたお金なくなった……」


 数分後、彼はまた資金難に陥っていた。

 まあ、子どもだからしょうがないけどね。


「なら、市民からもっとお金を取ればいいじゃない」

「そうそう、搾り取っちゃえ!」


 少女たちの囁きに、少年市長はいよいよ禁断の手に出る。

 いわゆる、『増税策』だ。


 このゲームでは、市民の税金を値上げして収入を増やす事もできる。

 彼らはその手段に手を出してしまったのだ。


「凄い、一気に五万も入ったよ!」

「よし、資金はできた。あっちの丘にも町を広げようぜ!」


 子どもたちは更なる都市計画で盛り上がる。

 ただ、これは不味いやり方だ。


 極端な増税をすればどうなるか、現実で考えればわかるよね。


「あれ、なんか画面に出たよ」

「『市民たちが不満を持っています』だって……」


 表示された警告に、ようやく子どもたちも気付いたらしい。


 少年市長の悪政に、市民からは大ブーイングだ。


 町の住人はみんな生きている。

 市長が嫌な事をすれば怒るし、嬉しい事をすれば喜ぶ。


 凶悪なまでの増税を黙って受け入れる市民などいない。

 嫌気がさした住人たちは、次々と町から離れていく。

 そして……。


「お姉ちゃぁん……。ぼくの町、誰もいなくなっちゃった……」


 泣きべそをかいてスウィッツを差し出す少年。


 雑な政治のツケが出てしまったのだろう。

 彼の都市は、どうしようもないほど破綻していた。


「しょうがないなあ。じゃあ、一緒にやり直そっか」

「……、うん」


 私は少年に教えながら、最初から町を作り上げていく事にした。


「ここに魔術工場を作ったら、働く人がいっぱい出て税収も入りやすいよ」

「へえ……」


 見た目は地味でも、町を支える重要な施設というものがある。

 ゴミの浄化施設や診療所などもそうだ。


 説明してあげると、少年たちは感心したように頷いていた。


「そっか、町ってこういう風に出来てるんだ」

「浄化施設なんて知らなかったわ。これで川をきれいにするのね」


 遊びながら都市の仕組みを学べるのが、サムシティの凄さでもある。

 マルデア版でも、その名作ぶりは健在だ。


「すげえ。みんなこの町の中で暮らしてるぜ……」


 画面の中に広がる都市の景色を、子どもたちは夢中で眺めていた。


 これが社会科見学ならぬ、サムシティ見学である。



 子どもがわからないものは、大人が教えてあげればいい。

 ゲームって、そういうものなんだよね。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ラミングスやったことないけど、なんか自爆しろでピクミンを連想してしまった俺が居る…
[良い点] 面白すぎて一話から全部通して見てしまいました。 面白い話をありがとうございます
[一言] 初代あたりの○ムシティは、内容は杜撰の一言 プレイした人が一番多いのは初代でしょうけどね 2,3と大幅に改良が施された後、一気に革新、革命が起こったのが4の拡張パックのラッシュアワー。 こ…
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