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第百二十七話 言ってみれば神


 商会の広間。

 ドワフ族たちにサムシティを紹介すると、彼らは大いに驚いていた。


「じょ、嬢ちゃん。経営ってどういう事だ?」

「町を作って眺めるゲームじゃなかったのか?」


 疑問を投げかける商人たちに、私は首を横に振る。


「いえ、このゲームはそんな単純なものではありません。

作った町には治安の悪化や汚染など、様々な問題が発生します。

放っておけばスラム街になってしまうので、しっかり経営する必要があります」


「な、何と……。そんな要素もあるのか」

「じゃあ、警察や学校だのを建てていくわけかい?」


 商会長の予想は、なかなか的確だ。


「その通りです。しかし優れた施設を建てるには、相応の金が必要です。

最初の予算を使い切った後は、町の収益で更なる資金を作る必要があります」


「ま、町の収益だと……?」

「そのちっけえ町の中に、ちゃんとした経済があるってか?」


 ドワフ商人たちが、信じられないといった表情で画面を指さす。


「もちろんです。人口が増えるほど、働く市民からの税収は増えます。

ただ序盤は都市が小さく、資金繰りも大変です。

そんな時は、『魔石貿易』で稼ぐのがおススメです」


「ぼ、貿易だぁっ!?」


 両手を広げ、驚きを露にする商会長。

 実にありがたいリアクションだ。


「ええ。鉱山で掘り出した魔石は、他所に販売する事ができます。

貿易センターを設置して、輸出してみましょう」


 コマンドを選択すると、魔石を積んだ飛行船が他の都市へ飛んでいく。

 すると、結構な収益が入ってきた。


「おお、かなりの稼ぎだぞ!」

「さすが我らの魔石だな」


 ドワフの都市だけあって、彼らも売れ行きに喜んでいるようだ。


「お金が入れば、学校や警備塔などの施設も買えますね」


 得た金で設備を増やすと、町がより豊かになっていく。

 そうすれば、治安などの問題も減って行くという寸法だ。


「ふむ。こうして都市が繁栄していくのだな……」


 商人たちは、満足そうに顎ヒゲを撫でていた。

 経営要素も、反応は上々のようだ。


「都市が形になってきたら、住人からの税収が主な資金源となります。

住みよい町を作って人口を増やし、高い収益を確立していきましょう」


「ぜ、税金収入とは……」

「リアルすぎる。どういう遊びだよ!」

「地球の娯楽がここまでやるとは……」


 緻密なゲームデザインに、商会長もついに参ったといった表情だ。

 これで十分にドワフ人たちを「あっ」と言わせる事はできた。


 だが、彼らのツボを押さえる要素がもう一つある。


「さて。このように町を作り経営していくゲームなわけですが……。

何も、都市を発展させるだけがサムシティの楽しさではありません」

「あん?」

「な、何を言ってんだおめえさんは?」


 もはや驚き疲れたドワフたちに、私は最後のサプライズを提示する。


「プレイヤーは、この町の神様とも言える存在です。

作ってみて気に入らなければ、破壊しても構いません」


 説明しながら、私は作り上げた商店街をドカンドカンと解体していく。


「ま、町を破壊するだとお!」


 いよいよ混乱して頭を抱える商人たち。

 私は操作の手を止め、最後のスピーチに入る。


「好きなように町を作り、そして破壊する。

そんな神のような所業が、この世界ではいくらでも許されます。

それがサムシティというゲームなのです!」


 私はバンと壁を叩き、宣言する。


「か、神になれるってのか!」

「うおおっ、町を壊してえぞっ」

「なんつう暴虐的な遊びだよっ!」


 広間の男たちはみな、大盛り上がりだった。

 もはや商人の顔ですらない。

 彼らは自分自身の欲求をむき出しにして、ゲームを語り合っていた。




 その後。

 ドワフたちに試遊機を渡すと、みんなそれぞれ好きなタイトルを遊び始めた。


「おおっ、このゲーム速ええぞ!」


 その場で遊べるタイトルとして評判が良かったのは、近未来世界のレースゲーム。


 F-ZERAだ。


 1990年にNikkendoから発売されたこのタイトルは、そのスピード感でプレイヤーを魅了する。

 だがその分、操作は難しい。


「うおおっ、速すぎてカーブ曲がれねえっ」

「ぐおっ、壁に激突した!」


 みんな苦労しながら、マシンを走らせているようだった。


 屈強な鉱夫たちも。

 知性ある商人も。

 みんな酒を飲むのも忘れ、夢中でゲームに興じている。

 そんな様子を眺め、商会長はついに大きなため息をつく。


「はぁ。負けたぜ嬢ちゃん。うちの連中があそこまで熱くなるなんてよ。

いや、ワシもか……。どうやらワシらは、ゲームってもんを舐めていたようだな」


 スウィッツの画面を見下ろしながら、会長がしみじみと呟く。

 

「わかってもらえればいいんです。あの、魔石についてですが……」


 本題を切り出すと、彼は笑顔で大きく頷いた。


「ああ、いいだろう。ゲームの対価は全て『ドワフの魔石』で払ってやる。

商会ウチの伝手で、ゲーム機の販売にも力を入れよう。それからな……」


 彼は傍にあった酒瓶を持ち上げると、ニヤリと笑みを浮かべる。


「地球の星酒も、個人的にちょっくら仕入れてえ所だ。どうだ? 悪くねえ条件だろ」

「ええ、願ってもないお話です」


 どうやら、焼酎も少量だが買ってくれるらしい。


 条件を確認した後、会長は魔術契約書を用意してくれた。

 私はしっかりと内容を読み込み、そこに魔印を刻み込む。


「じゃあ、取引成立だな」

「はい。よろしくお願いします」


 私は商会長と手を取り合い、しっかりと握手を交わした。



 とまあ、これで話は終わりだったんだけど。

 みんな酔っぱらっていたのだろう。


「よう嬢ちゃん。今日見たゲームってのはやっぱり、地球でも人気なのか?」


 ドワフの一人が、酒杯を手に問いかけて来た。


「そうですね。まあ、マルデアでご紹介してるのは大体が昔の物なので……。

今はもっと色んな種類のゲームが、もっと凄いグラフィックで出てますよ」


 簡単に説明すると、彼らはまた騒ぎ合う。


「聞いたか? これが昔流行ったやつだってよ」

「地球の娯楽は一体どうなってやがるんだ……」


 酒の席は、随分と賑やかになっていた。


「今のゲームは、映画がヴォーーーン、ヴィーーンって言っとるくらい凄い!」


 フェルは天ぷらを頬張りながら、E4で見たゲームの事を大いに語っていた。

 しかし。


「妖精さんよ。おめえの例えはよくわからん」

「うむ。ヴォーンでは何もわからんな」

「がーーん……」


 ドワフ達に冷めた目で見られ、フェルは肩を落として落ち込んでいた。


 うん。私はまあ、何となくわかるよ。

 多分グレンツーリズモの車が走り抜ける音だろうね……。




 その後も彼らはゲームで盛り上がり、飽きるまで酒を飲み続けた。

 商談が終わったのは、夜の七時だ。


 その日は商会の厚意で、私は近くの旅館に泊まる事になった。


 ほんとは日帰りでもよかったんだけどね。

 どうしてもこの国で味わっておきたいモノがあった。


 旅館に入って一番に向かうのは、やはりあそこだ。


「おっふろ! おっふろ!」


 フェルが大喜びですっぽんぽんになり、湯気の元へ飛んでいく。


 ドワフ旅行と言えば、誰もが味わいたい名物。

 魔石温泉である。


 きらめく本場の魔石で形作られた、極上の露天風呂。

 風呂場には、凄い濃度の魔力が漂っている。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉ」


 お湯の中から、妖精の子が何やら叫び声を上げている。


「フェル、どう?」

「おう、すごい魔力パゥワー!」


 妖精の少女は、普段よりピカピカと強い光を放っている。


 魔石温泉は、その効能が凄いと評判だ。


 何しろ本場ドワフの魔石を敷き詰め、そのエキスを吸収したお湯だからね。

 その力は間違いなく本物だ。


 さて、私も入ってみよう。


 体をしっかり浄化してから湯船につかると、温かいお湯に体が包まれていく。


「すごぉぉぉぉっ」


 濃厚な魔力が、体を駆け巡る。

 すると肌が、ほっぺが、すべっすべになっていくではないか。


「わっはっは! リナ、つるっつる!」

「フェルもピッカピカだよ! あははは!」


 なんか面白くて、私たちはお互いに顔を見合わせて笑った。


 魔石温泉は別名、『願いの温泉』と呼ばれる。

 効能は、お湯につかった人の望みがそのまま反映される。


 ドワフたちは、この温泉につかって髭を立派にするらしい。

 艶とボリュームに溢れたヒゲこそが、ドワフ族としての魅力だとか。


 まあ、人の望みなんてそれぞれだよね。


 マルデアに帰ったらまた忙しくなる。

 今日はあったかいお湯で、ゆっくりしていこう。




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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろリナが前世で生きた時代のゲームは紹介し終わるかな? 次に来るのはPS1セガサターンの時代のゲームだが、その前にPCゲーム系でプリンセスメーカーや光栄の信長の野望とかのシミュレーション…
[良い点] >「今のゲームは、映画がヴォーーーン、ヴィーーンって言っとるくらい凄い!」 ホント最新のゲームは映画がヴォーーーン、ヴィーーンって言っとりますよねw 今のゲームは娯楽じゃなくて訓練用のシ…
[良い点] ノリが良すぎるドワフさん! 結構おしゃれ(ヒゲ)に気を使ってるドワフ男子
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