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第百二十六話 これがゲームです


「皆さんをあっと言わせてみせましょう。ただの娯楽で、ね」


 ドワフ商会の広間。

 私は商人たちの前で、大きく見栄を切った。


 静まる室内で、商会長が感心したように顎を撫でる。


「ほう……。おもしれえ。

そんな啖呵を切って見せる嬢ちゃんは初めてだ。

いいぜ。酒の礼に見てやろうじゃねえか。だがな嬢ちゃん」


 彼は音を立てて杯を置き、顔に凄みを利かせる。


「俺たちは、リアルなもんしか認めねえ。

ドワフ商人の目は厳しいぜ」


 ドスの利いた声でこちらを睨み上げる商会長。

 その凄みに、私はゴクリと唾を呑む。


 地球のゲームを背負っているのだ。

 大丈夫。絶対に上手く行く。


「では、皆様にぴったりの娯楽作品をご紹介させて頂きます」


 一本目は90年代のPCゲームを代表する、あの強烈なシークレットタイトルだ。


 私はスウィッツをデバイスに繋ぎ、魔術プロジェクター機能をONにする。

 すると、広間の壁に大きく映像が映し出された。


「ム……。何だこりゃあ」

「迷宮か?」


 画面を睨み、腕組みするドワフたち。


 表示されたのは、プレイヤー視点で広がる3Dの世界だ。

 主人公は銃を手に、暗がりの基地内を駆け回っている。


 そこに現れたのは、異形の悪魔たち。


 奴らはこちらに向かって、勢いよく火の玉を放ってきた。


「うおっ、炎を投げて来たぞっ!」

「な、何だあの魔物どもは! やべえぞっ!」


 驚くドワフたちの前で、私は悪魔に銃を向け、照準を合わせる。


 ダァン! ダァン!


 乾いたリアルな音が響くと、敵の体から赤い血飛沫ちしぶきが噴き出した。


『グォォォッ!』


 叫び声を上げながら、悪魔たちは血溜まりの中に倒れる。


「し、死んだぞあいつ!」

「完全な殺し合いじゃねえか……」

「おい嬢ちゃん、何だってんだこれは? 玩具を紹介するんじゃなかったのか?」


 知っている娯楽のイメージと、あまりにかけ離れていたのだろう。

 騒然とするドワフの商人たちに、私は笑みを浮かべてみせる。


「ええ。ですから、これが最初にご紹介する『DOOOOM』というゲームです」

「な、何だと!」

「これがゲームだぁっ!?」


 彼らが驚くのも無理はない。


 『DOOOOM』


 1993年に彗星の如く現れた、ゲーム界の爆弾だ。


 プレイヤー視点で臨場感溢れる銃撃戦を楽しむファースト・パーソン・シューター、『FPS』。

 そのジャンルを世界に知らしめたのが、DOOOOMだった。


 その特徴は、それまでのゲームに類を見ない"暴力性"。

 基地の脱出を目指す主人公に、凶悪な敵たちが立ちはだかる。


「な、なんだあいつっ、やべえのがいるぞ!」

「血管の塊みたいな姿してやがるっ!」


 次に現れたのは、宙に浮いた赤い一つ目の悪魔。

 奴は巨大な口から、激しい火炎を噴き出してくる。


 私は右に躱し、マシンガンで奴の体に銃弾を撃ち込んでいく。


 ズダダダダダッ!


 激しく鳴り響く銃声と飛び出る血飛沫に、ドワフたちは手に汗を握る。


「くうっ、何て派手な戦いだよっ!」

「見てると血がたぎっちまうぜ……!」


 ドワフ人は、暴力を身近に置いて生きる種族だ。

 DOOOOMが演出する激しい戦闘は、上手く彼らの本能を焚きつけたらしい。


「このゲームは、プレイヤーには決して優しくありません。

油断すれば、すぐさま悪魔たちに殺されてしまうでしょう。

血みどろの中を駆け巡り、地獄と化した基地から脱出するのです」


 私は淡々と告げた後、一言付け足す。


「まあ、根性のない人には難しいゲームかもしれませんが、ね」


 少し煽るように、彼らを見下ろす。

 すると、手前に腰かけた鉱夫が小さく震え出した。


「へっ、根性がねえだと? 魔鉱山の男を舐めやがって……。

俺にやらせてみろっ!」


 うまく煽りに乗ってくれたようだ。

 彼はスウィッツを一つ奪い取ると、ゲームをプレイし始めた。


「いくぜ悪魔どもっ、喰らえっ!」


 だがやはり、敵の攻撃を躱しながら銃弾を当てるのは簡単ではない。


「ぐおっ、やられた! くそ、もう一回だ!」


 負けても彼は意地になり、何度も挑戦していた。

 これはハマったみたいだね。


 まずは一人陥落、といった所か。

 のめり込む仲間を見やり、商会長が唸る。


「ふむ……。なるほど。魔鉱夫たちがここまで反応するとは、驚いたぜ。

俺たちが思ってた娯楽のイメージとは、随分違うようだ。

だが、これ一つじゃ足りねえな。

俺たち商人の眼を唸らせるようなものは、何かねえのか?」


 彼は自慢の髭を揉みながら、試すような目でこちらを見上げた。

 どうやら、本気の商談モードに入ったようだ。


 ならば、その期待に応えるのみ。

 次はいよいよ、サムシティのお目見えだ。


「もちろんです。ゲームで描かれるのは、戦闘のリアルだけではありません。

次は、創造のリアルをご紹介しましょう」

「創造だと……」

「どういう意味だ?」


 首をかしげるドワフたちは、内容の想像もつかないようだ。


「では、こちらをご覧ください」


 ゲームのタイトルを変えると、スクリーンの映像が切り替わる。


 そこに映し出されたのは……、山だった。


「なんだこれは……。魔鉱山か?」


 画面の中では、山を掘って魔石を運び出す鉱夫たちの姿が見える。


「ふむ。鉱山に潜るゲームか。悪くねえな」


 彼らはまんざらでもないと言った様子で、ミニ鉱夫たちの作業を眺める。


 ふふふ。

 どうやら、まんまと騙されたようだ。


「いえ。残念ながらこれは鉱山に特化したゲームではありません。

では、プレイを通してご紹介していきましょう」


 まず視点を切り替え、マップ全体を表示する。

 と、山の周囲に広がる草原や海が見えてきた。


「なんでえ。山以外何もねえじゃねえか」


 肩をすくめる商人たちに、私は頷く。


「そうですね。ではこの何もない場所に、町を作っていきましょう」


「……。はあ?」

「町を作る、だと?」


 商人たちが、目を丸めながらとぼけた声を出した。

 そんな彼らを後目に、私は高速で作業を進めていく。


 道路をバンバン設置し、まず町の骨格を作る。

 道沿いに住宅地を設置すると、石造りの家々が建設されていく。


「お、おいおい。なんだってんだこりゃあ」

「すげえスピードで家が建って行くぞっ」

「一体、何をやってやがる……?」


 ドワフの男たちはみんな困惑し、戸惑うばかりだ。


「次は商業地区や魔術工場を設置し、商店や仕事場を作っていきます」


 私は構わずガンガン施設を建てていく。

 更にインフラを整備して町に魔力を通せば、建物に明かりが灯り始める。


 すると、少しずつ町に人が増えて来た。

 住人となった人々は通りを行き交い、施設を利用し始める。


「な、何なんだこりゃあ。ほんとに町が出来ていくぜ……」

「ちっこい住人たちが、画面の中で暮らし始めてやがる!」

「しかもこれぁ、俺らの町じゃねえか!」


 どうやら、彼らも気付いたようだ。


 立ち並ぶ石造りの建物。

 空には飛行船が飛び交い、魔石や物資をバンバン運んで行く。


 商業地区には、火を噴き上げる鍛冶屋の群れ。

 それは正に、ドワフ国の首都を思わせる風景であった。


 私は完成した都市を背に、手を広げてドワフたちを見やる。


「ご覧頂けましたでしょうか。

二つ目にご紹介するのは、『サムシティ・マルデア』。

このゲームでは、マルデアやドワフ国の町を、自分だけの手で。自由に作り上げる事ができます」

「なっ……」

「お、俺だけの町を作れるだとおっ!?」


 彼らは髭に包まれた口をあんぐり開け、ゲーム画面に見入っている。

 これだけでも、十分驚いているようだ。

 だが、まだ終わるのは早い。


「ただもちろん、作るだけではありません。サムシティは、都市を経営するゲームです」

「は……?」

「け、経営だぁ?」


 商人たちは声を荒げて立ち上がる。

 さあ、ここからが本番だ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  DOOMかぁ。  初代しかやってないから、それしかイメージ出来なくてちょうど良いっすわ。  ちなみに(メガドラの拡張パーツのスーパー32X版で)プレイしてた当時、無敵モードの裏技でしか難…
[一言] 予想が外れた。 モンファンを遊ばせて、武器や防具を再現させるのかと・・・ (地球にないモンス素材で制作動画を配信したらバズりそう)
[一言] いつ見ても「DOOOOOOOM」だけ作品名に違和感なくて見るたびに笑っちゃいます
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