表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/171

第百二十五話 たかが娯楽



 さて。

 ドワフ国に乗り込む前に、まずは商談の予約を取り付ける必要がある。


 今回の相手は、ドワフ族の大手商会だ。

 会社のオフィスからデバイスで通話をかけると、商人らしい男性が出た。


『はい、こちら大ドワフ商会だが。どちらさんだね?』

「夜分恐れ入ります。マルデア国のガレリーナ社と申しますが……」


 私は挨拶から入り、彼に商談の話を持ち掛けた。

 すると……。


『がっはっはっは! うちの国で地球の娯楽品を売りたいだと?

笑わしてくれるじゃねえか!』


 デバイスの向こうで、野太い声のドワフ人が笑っていた。

 なんか相手にされてない感じが凄い。

 でも、ここは食い下がらねば。


「実際に見て頂ければ、ドワフ人にもゲームの素晴らしさは伝わると思います。

商会の皆さんにプレゼンする機会を頂けないでしょうか」


 低姿勢でお願いすると、ドワフ商人は再び大声で笑い出す。


『がははは! オモチャの素晴らしさと来たか。

そうだな。珍しい星酒せいしゅでも土産に持って来てくれりゃ、つまみに嬢ちゃんの話を聞いてやらんでもねえぜ』


 あちらはウチをだいぶ軽く見ているようだ。

 ただ一応、お土産を条件に約束を取り付ける事には成功した。


「では明日、よろしくお願いします」


 一礼して通話を切ると、社員たちは耳を立てていたらしい。


「ったく、何よあの態度。舐められたもんよね」


 苛立ちを隠さぬサニアさんに、ガレナさんは肩をすくめる。


「仕方あるまい。ドワフ族は大体あんなものだ。

奴らの前で地球のゲームを見せつけ、鼻を明かしてやればいい。そうだろうリナ?」

「ええ、もちろんです」


 ちゃんと見てもらえるなら、ゲームの面白さは絶対に伝わる。

 あとは私のプレゼン次第だ。


 と、ガレナさんが隣に腰かける。


「リナ。ドワフ国への出張は重要な案件だが……。

お前にしか任せられん仕事だ。頼めるか?」

「はい、もちろんです!」


 社長の熱い眼差しに、私はしっかりと頷いて答えた。

 責任は大きい。でも、チャンスも大きい。

 しっかり準備して行かないとね。


 その後。

 私は一階のモント食堂へ降り、土産物の用意を進めるのだった。





 そして、翌日。


 私は朝から大きなバッグを持って家を出た。

 やってきたのは、久々に首都のワープターミナルだ。


「旅行、りょこー!」


 久しぶりの国外出張で、妖精の少女もウキウキな様子だ。


「フェル、これ遊びじゃないからね」

「わかっとる。お仕事!」


 胸を張るフェルは、本当にわかってるのか怪しい所だ。

 私は仕方なく彼女をポケットに入れ、国際便のゲートを通過した。


 巨大なワープルームで転移すると、すぐに目的の国だ。


『ドワフ王国に到着いたしました。良い旅をお楽しみください』


 駅の外に出ると、そこはもう別世界だった。


 空には飛行船が飛び、露店では魔術武具が乱雑に置かれている。

 町を行くのは、口の周りに髭をたくわえたたくましいドワフ人たち。


 石造りの無骨な家々が立ち並ぶここは、ドワフ王国の首都街だ。


 彼らは魔石を掘ったり、加工したり、家を建てたり。

 モノづくりを生業にして暮らしている。


「バルダス鉱山の魔獣なら、この魔炎銃で一発だぜ」


 武器屋からそんな話が聴こえてくるのも、ドワフ国ならではの景色だろう。



 私はデバイスで地図を確認しながら、お目当ての商会がある街角のビルに入った。

 中には商店があり、木や石など様々な資材が並べられていた。


 と、カウンターに立つ女性がこちらに気づいたようだ。


「おや、マルデア人じゃないか。珍しいね、何の用だい?」

「ガレリーナ社のマルデリタと申します。そちらに話が行ってると思うんですが」

「……、聞いてないけどね。ま、ちょっと待ってな」


 挨拶すると、女性は奥に人を呼びに行ったようだ。

 すると、背の低い髭面のドワフ人がやってきた。


「よお、マルデア人の嬢ちゃんじゃねえか。本当に来やがったのか」

「当然です。お約束しましたよね?」


 目を細めてドワフの商人を見下ろすと、彼は笑いながら言った。


「かっかっか。小娘の冗談と思ってたが、本気だったか」

「何の話だい?」


 女ドワフが口を挟むと、商人の男は肩をすくめる。


「なに、この娘が地球の娯楽品をこの国に広めてえと言うんだよ」

「地球の娯楽だって? あっはっはっは!

マルデア人はおかしな事を言うもんだねえ」


 大笑いする受付嬢。

 やっぱり、凄いバカにされている。


 アウェイだ。久々のアウェイ戦が始まろうとしている。

 ていうか、この分だと話すら通ってないんじゃないかな。


「あの、ちゃんと商談してくれるんですよね?」

「ん? ああ。ドワフ族は約束は破らねえ。話し合いの場は作ってやるさ。

だがな。マルデア人の真面目腐った話をシラフで聞きたがる奴はいねえぜ」


 得意げに人差し指をクイと曲げる商人の男。

 まあ、ドワフ人が話し合いの席で求めるものは一つである。


「心得ております。地球の上等な星酒を用意させて頂きました。飲みながらお話しましょう」

「おう、若えのに話がわかるじゃねえか!」


 商人の男は途端にでかい顔を綻ばせ、仲間たちに声をかけていく。

 ドワフ人は無類の酒好きだ。

 彼らはこの星で作られる酒では飽き足らず、珍しい星酒に目が無い。


 しばらく待っていると、二階の広間には十五人を超えるドワフ人たちが集まった。

 ここの商人たちや、鉱山の責任者。若い魔鉱夫の代表者もいるようだ。


「よう、星酒を飲めるって聞いたぜ!」

「早く出してくれや」


 ただの飲みの席とでも思ってるんだろうか。

 まあ、そういう場でないと彼らを集めるのは難しい。


 商談は少し置いて、私はまず地球の酒を振舞う事にした。


 料理専用の保存ボックスから、ビンを何本か取り出していく。


「こちらは地球の日本という地域で作られる、『焼酎』という星酒です」


 地球でもらったお土産の中には、お酒も多い。

 その中からモント夫妻に頼み、ドワフ族好みなものを選んでもらった。


「ほう、イモの酒か。良い匂いだな」


 メインの酒は芋焼酎。

 つまみは、サツマイモを中心とした天ぷらだ。


 昨日食堂で揚げてもらったものを、出来たてのまま持って来ている。

 保存ボックスを開けると、ホクホクの天ぷらが顔を出した。


 料理を配ると、彼らは早速とばかりに飲み始めた。


「ほう、これはなかなか」

「うむ、深い味わいの中にイモの甘みを感じるな」


 ガツガツと天ぷらを頬張り、酒を進める男たち。

 さすがドワフ、豪快な食いっぷりだね。


「それで嬢ちゃん。今日はいってえ何の商談はなしに来たんだ?」


 と、奥の席に腰かけた商会長が話を切り出した。

 さあ、いよいよ本題だ。


 お酒を売り込む手もあるけど、やっぱりウチのメイン商品を見てもらいたい。


「はい。本日皆さんに見て頂きたいのは、こちらのビデオゲームという製品です」

「びでおげーむだあ?」


 私が取り出したスウィッツに、ドワフの鉱夫が首をかしげる。

 この国ではまだまだ、知名度はゼロに近いのだろう。


「ええ。地球が生み出したこの素晴らしい娯楽品を、ドワフ国にも広めたいのです」 


 商人たちを見回しながら、私はニコリと営業スマイルを見せる。

 すると、髭面の男たちは一斉に笑い出した。


「がーーーっはっはっはっは!」

「娯楽が素晴らしいだとよ!」

「ひーっひっひ。面白い嬢ちゃんだ!」

「娯楽品なんて下らねえもんで俺たちと商談しようたあ、言ってくれるぜ!」


 うーん。ひげもじゃのおっさんたちが大笑いしてるね……。


「嬢ちゃん。悪いがそんなオモチャに触れる奴ぁ、ドワフ族にはいねえぜ」

「そうさ。俺たちが熱くなるのは、リアルなもんだけだ。

娯楽品はこの国じゃ売れねえんだよ」


 右手の席の魔鉱夫らしい男たちが声を上げる。

 みな一様に、頭ごなしにゲームを否定していた。


 娯楽は無駄なものという考えは、この星ではまだまだ一般的なものだ。

 私がその常識を打ち砕くしかない。


「なら、あなた方が夢中になれるようなゲームがあればどうですか?

娯楽にも素晴らしいものがあると、あなた方に認めさせれば。商談に応じてもらえますか?」


 そう言って手を広げてみせると、商人は大いに笑った。


「かっかっか! たかが娯楽で俺たちを虜にするってか?

それなら是非、見せてもらいたいもんだがな。

本当に俺らが熱くなれるようなもんなら、大口で発注してやるぜ」


 痛快に笑い続けるドワフ族たち。

 私はそんな彼らに、思わず……。

 笑ってしまった。


「ふふふ。ふふふふ。言いましたね。なら、今から見せてあげましょう。

ビデオゲームの凄さを」


 私は一歩前に出て、堂々と胸を張る。


「そして、皆さんをあっと言わせてみせましょう。

『ただの娯楽』で、ね」


 そして、ドワフ族たちの前で高らかに宣言してみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 焼酎と天ぷら……ゴクリ……!
[良い点] 続きが気になるなぁ!
[一言] ドワフ国ではゲームより先にお酒が売れそうな勢いですね まさかのガレリーナ社が総合商社になるフラグでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ