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第百二十三話 地球の力 (挿絵あり)


 番組出演を終えた後。

 午後のE4会場は、一般客でごった返していた。


 サムシティ・マルデアの試遊台には、とてつもない行列が出来ている。


「凄い熱気ですね」


 声をかけると、メーカーの営業さんは汗をかきながら嬉しそうにしていた。


「ええ、試遊が四時間待ちになってまして。E4でも稀に見る注目度です。

そちらの星でも、上手く行くといいですね」


 彼はそう言って、こちらに手を差し伸べる。


「ええ。マルデアでもきっと盛り上げて見せます」


 私は営業さんの手を取り、しっかり握手を交わした。

 受け取ったバトンは、決して軽くはない。



 さて、E4はまだまだ続くんだけど。

 いつまでも参加しているわけにもいかない。


 そろそろ星に戻らないと。

 今回はドワフ国への出張戦略もあるし、忙しくなりそうだ。


「フェル、もう行くよ」

「おう!」


 私は妖精の子に声をかけ、会場の出口へと向かう。


 と、その時。


 周囲の警備が突然、妙に慌ただしくなった。

 何かあったのだろうか。

 キョロキョロと辺りを見回していると、ジャックとマリアのコンビが駆け寄ってきた。


「リナ嬢。申し訳ないが、少し急ぎの要件がある。すぐ来てもらいたい」

「は、はあ」


 私は二人に連れられ、会場を出てパトカーに乗り込む。


「あの、何かあったんですか?」


 走り出した車内で尋ねると、隣に腰かけたジャックが頷く。


「ああ。魔石の運用を始めた矢先で申し訳ないが、いきなりデカいのが来た。

緊急の災害排除のため、リナ嬢の助けが必要だという事だ」

「デカいの……?」


 ごくりと唾を飲み込むと、彼は真顔でこちらを見据える。


「メキシコのポポカテペトル火山が、噴火警戒レベル5に達した。大噴火が起きかねん危険な状況だ」

「ポポカテ……、ペトル?」


 耳慣れない名前に首をかしげると、マリアが助手席から振り返る。


「メキシコ首都圏にある火山よ。

周辺人口が多い事から、大規模な噴火を起こせば数万人の被害が出ると予想されるわ」


 説明によれば、世界でも有数の危険性を持つ火山らしい。

 ジャックは顔をしかめながら続ける。


「今、対策部隊が50万近い魔石を現地に運んでいる。

危険地へ赴く事になるが、頼めるだろうか?」

「……。わかりました」


 どうも、災害排除を始めた途端に大規模な奴が来たらしい。

 火山の噴火は、人類にとって最大級の脅威だ。


 地の底にうごめく熱の塊は、マルデアでも対処が難しい危険の一つとされている。

 巨大なマグマを鎮めるには、時に数十万の魔石が必要だ。


 ただ危険地と言っても、私は魔術服を着てれば溶岩なんて問題ない。

 本当に危険なのは、対処に当たる軍人や現地の市民たちだ。


 私が行った方が、彼らの生存率は格段に上がるだろう。



 ロス空港からチャーター機に乗り、三時間半ほどかけてメキシコ・シティへ。

 そこから対策部隊と合流し、軍用ヘリに乗って火山へと向かう。


 空飛ぶヘリの中には、魔石入りの縮小ボックスが山積みにされていた。

 中身を確認していると、背の高い軍人が声をかけてくる。


「大使の公務中、呼び出して申し訳ありません。

本来、我々だけで対処に当たるべきなのですが。何分この規模のものは初めてでして……」


 実行部隊のリーダーらしい男性は、体格の割に随分と腰の低い人だった。


「大丈夫です。50万あれば何とかなるでしょう」

「……。感謝致します。もうすぐ目標の山に到着するでしょう」


 遠くに見えて来た火山は、大きな煙に包まれていた。

 標高5000メートル以上。

 富士山にも似た美しい山が、今にも爆発しそうに震えていた。


 長い耳に魔力を集めれば、山の中で巨大な何かがうごめく音が聴こえてくる。

 フェルもポケットから顔を出し、自分の耳を手で押さえていた。


「リナ、山がさわいどる!」

「うん。早く鎮めないとね」


 中で渦巻くマグマの熱量は、凄まじい規模を感じる。

 火口まで行くのは、さすがに危険だ。


 私たちは山のふもとに向かい、そこで魔石を使う事にした。


 避難指示が出ているのか、火山付近では駆け足で逃げていく人々の姿も見える。

 家を捨てられず、その場に止まる人たちもいた。


 事は一刻を争う。

 いつ大噴火を起こすか、もう誰にもわからないのだ。

 丁寧に魔石を設置している暇はなかった。


 山の上空を飛ぶヘリのドアを開け、私は体を外に乗り出す。


「では、私はこのまま落ちます。一緒に魔石を落としてください」

「お、落ちるって……。大丈夫ですか?」


 戸惑う隊長に、私は大きく頷いて見せる。


「ええ、問題ありません。あなたは自分の身を心配してください」


 言い終えると、私はヘリから何もつけずに空へ飛び出す。

 強い熱風が吹き荒れる中、浮遊魔術で体勢を整える。


 次は魔石の準備だ。

 幾つものヘリから、キラキラと輝く石たちが雨のように落ちてきた。

 それは山の入り口に吸い込まれ、次々に土の上に転がっていく。


 その様子に、現地の住民たちが声を上げる。


「何か降ってきたぞ!」

「リナだわ! リナが来たのよ!」

「や、山を鎮めてくれるのか……」


 彼らは逃げる事も出来ず、固唾を飲んで見守っているようだ。


『大使! すべての魔石を投下しました!』


 と、無線機から隊長の声がした。


 火山の表面にセットされた石の量は、壮観と言えるほど膨大なものだった。

 自分の手で運んできたものだけど、全部集めてみると凄い。


 地面で光る魔石たちからは、凄まじい魔力を感じる。

 この景色に、私たちみんなの努力が詰まっているのだ。


 ただ、それでも安心はできない。

 相手は地球最大級の脅威、マグマだ。


 眼前に迫る火山を睨み上げ、精神を統一する。

 と、その時。


 ドォォォォォン!


 激しく地揺れの音がして、山のてっぺんから異様な量の煙が噴き出した。

 それはみるみるうちに広がり、赤い溶岩とともに凄い勢いで山を下りてくる。


「噴火だっ!」

「逃げろぉっ!」


 近隣の町で、叫ぶ声がする。


『大使、一旦引きましょう!』


 無線から隊長が声を上げるが、それはまずい。


「いえ、ここで私が抑えます!」


 今逃げたら、間違いなく多大な被害が出る。

 私は迫りくる煙を見据え、山に向かって手をかざす。


『願いの力よ。赤く燃ゆる岩漿を滅し、大地の力を鎮めよ!』


 呪文の声と共に、魔石の群れが強い輝きを放ち始めた。


 魔力は光となり、火山を覆いつくすように広がる。

 そして、溢れ出した煙とマグマを消滅させていく。


「おおっ、光が噴火を抑え込んでいる!」

「リナの魔法だっ!」


 逃げ惑っていた住人たちが、驚きに声を上げる。

 

 表面に飛び出した溶岩は、あっという間に消え去っていく。

 目に見える脅威は、排除されたように見えた。


『す、凄い! 本当にマグマが消えるとは……』


 無線から、驚く隊長の声がする。


「いえ……、まだです」


 山の奥底で噴き上げる熱の力は、まだ収まっていない。


「リナ、また来る!」


 フェルの言葉に合わせるように、再び地鳴りが始まる。

 コアの勢いを殺さない限り、噴火は収まらない。


 もっと力を注いで、完全に鎮めないと。


『我が魔法力の全てを捧ぐっ!』


 私は胸の奥から魔素を振り絞り、魔石たちの力を増幅させていく。

 その光は、上に突き上げて来るマグマを何とか抑えつける。


 あとちょっと、もうちょっと……。

 気力を果たし、限界まで魔力を使い切った、その時。


「リナ、わちしもやる!」


 フェルが私の肩に乗り、手を広げる。

 そして、あのゲームの技のように叫んだ。


「真空・光パゥワァァァァ!」


 妖精の少女の体が、白く輝いて行く。

 すると、膨大な魔法力が私の体を覆いつくした。


 これなら、行ける。


「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 二人の力を合わせ、思い切り山の奥底向けて放つ。

 妖精のパワーに後押しされ、願いの力が一気に膨れ上がっていく。


 それは巨大なオーラとなり、マグマを覆い尽くした。

 膨大な炎の力が、徐々に静められていく。

 私は火山から吹き付ける風を浴びながら、その様子を注意深く見下ろしていた。



 少しすると、耳鳴りのように響いていた大地の唸り声が消えた。

 

「おお、山が静かになった!」


 フェルが嬉しそうに両手を上げている。

 妖精が言うなら間違いはないだろう。どうやらマグマは収まったようだ。


 と、無線機から隊長の声が響く。


『大使! 無事ですか!?』

『ええ、問題ありません。これで対処は出来たと思います』


 とはいっても、マグマの様子が人の目に見えるわけではない。

 彼らは観測センターに報告し、空中から火山の状態を確認しているようだった。


 まあ、あとは地球の人たちが処理する事だろう。

 ヘリに戻るのも難しいし、私はそのまま山のふもとに降りる事にした。


「ふぅ……」


 私は地面に降りた瞬間、どさりと草原に転がった。

 もう、魔力が残ってない。


「リナ、頑張った」


 小さい手で、ぺしぺしと私の頭を叩くフェル。


「フェルも、手伝ってくれてありがとね」

「うむ。わちしも凄い!」


 妖精の子も、胸を張って自慢げにしていた。

 ふもとの町の人々も、火山の様子に気づいたようだ。


「地鳴りが止んだ……」

「リナがやったんだ……!」

「私たち、助かったんだわ!」


 みんな大騒ぎで、互いの無事を喜び合っていた。



阿井 上夫さんより、大魔導士リナ・マルデリタ

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんと! 火山を鎮めることができるなんて! まさしく大魔道士! 魔力を使い果たして落下しなくてよかったです! [一言] 挿絵も素晴らしいですね!
[一言] 毎回楽しみにしてまーす!! 次回は、メキシコの方々から、感謝される冒頭だ!
[良い点] 前回のメコン川に続く人助けのシーンに感動してます。 ゲームと人助けのメリハリがこの作品の魅力ですよね。 これからも楽しみにしていたす!
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