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第十三話 生きてる


 ゲーム開発者たちと、五時間くらい話し合っただろうか。

 一通り電源などについて教わり、今後のスケジュールも決まった。


 話が一段落ついた所で、外で警備をしていたジャックが入ってくる。


「午後六時だ。仕事はここまでにして頂きたい。ホテルへ向かう時間だ」


 彼が流暢な日本語で話したので、私は少し驚いた。

 なるほど、彼が日本行きの護衛になった理由がわかる。

 と、女性設計者が前に出てきた。


「それじゃあ、リナさん。連絡先を教えておいてもらえるかしら」


 その言葉に、ジャックが慌てて割って入ってきた。


「勝手に連絡先を交換するのはやめてもらいたいのだが」

「なぜかしら? 開発について随時彼女と話し合わないと、仕事が成立しないわ。

別に、それ以外の事に使うつもりはないわよ」

「む……」


 すると、ジャックは渋々と引き下がった。

 まあ、彼はアメリカ側として私を守るべく、一定の基準を持って行動しているのだろう。

 私が変な奴に騙されて連れていかれたら……、みたいな感じだと思う。

 彼はただ、与えられた仕事をこなしているだけなのだ。


 私はスマホの連絡先を書いて、設計者に渡した。


「ここに連絡すれば、私がマルデアにいても届くようにしておきます。メールのみですが」

「ありがとう、助かるわ」


 何とか日本とマルデアのラインを確保した私は、開発ルームを出た。


「お疲れ様、リナ」


 通路では、マリアが待っていた。


「マリアさんこそ、護衛お疲れ様です」

「いいのよ。それより、技術者たちと対等に話し合っているんだもの。驚いたわ。すごいのねリナ」

「あはは、私の星にローカライズするための話ですからね。ホテルは近くですか?」


 私の質問に、気を取り直したジャックが英語で答える。


「少し距離があるが、安全な場所を確保している。日本政府からの手配だ。警備も整っているらしい」

「なるほど」


 こうまでガチガチだと、奈良へ行くのも大変だな。護衛もきっと離れないのだろう。

 私は車に乗せられて移動しながら、二人に訪ねてみる事にした。


「あの、日本観光とかってできますかね」


 すると、ジャックは露骨に渋い顔をした。


「今は君の初来日で、日本中が騒ぎになっている。なるべく安全な所にいてくれると助かる」

「料理なら、望んだものを手配するわよ」

「ど、どうも」


 やっぱ難しそうだ。なんとか少しずつ私の自由を勝ち取っていくしかないか。


「申し訳ないけど、今日の夕食はホテルで取ってもらう事になるわ。ごめんね、窮屈な思いをさせてしまって」

「いえ。お二人も仕事でしょうから」


 別に二人は自ら望んでこんなことを言っているわけではない。

 突然日本に来てずっと宇宙人を護衛なんて、それこそ大変な事だろう。

 少し申し訳ないくらいだ。


 高級そうなホテルにつくと、スーツ姿のごつい日本人が私に敬礼した。

 これが警備なのだろう。

 ロビーですぐに手続きをしてもらい、私は最上階のスイートへと向かった。



 テレビをつけると、ニュース番組では私についての報道がなされている。

 ネットでも私の噂でもちきりだ。


『リナ・マルデリタは今現在、間違いなく関西にいる!』


 というタイトルの動画が、すでに百万回再生されていた。

 SNSでも、私の話題ばかりだ。


xxxxx@xxxxx

「俺めっちゃ探してるわ」

xxxxx@xxxxx

「いるわけないだろ」

xxxxx@xxxxx

「いや、どこかにはいる。今はホテルかな」

xxxxx@xxxxx

「日本料理食ってるかもねえ」

xxxxx@xxxxx

「不自然に黒塗りの車が固まってたらそれだろ」


 なんか予想もされちゃってるな。

 yutubeでは、リナ・マルデリタを探し歩く生放送をやっている人もいる。


 これじゃあ、しばらくはまともに外出するのも無理だろう。

 下手な動きをすれば、各国の情勢に影響を与えてしまう。これは冗談ではないのだ。

 私が日本に来ると言っただけで、総理大臣が駆けつけるのだから。

 今の私は、そういう立場なのだ。

 ただのリナではなく、マルデアの代表として扱われる。


 個人的なわがままで、国や人々に迷惑をかけるわけにはいかない。

 日本に来てさえいれば、チャンスはある。

 もう少し落ち着いた後でしっかりと状況を整えてから、ひっそりと会うべきだろう。私はそう考えなおした。



 その後もネットを調べていたが、実家の店が今もやっているかどうかはわからなかった。

 両親はホームページなども作っていないようで、情報がない。

 そのかわり、SNSで面白い名前を見つけた。

 私の生前の友人であった、斎藤元気。あだ名はゲンだ。

 実名系サイトで写真も出しているので、間違いなく本人だろう。

 学生時代、一番仲が良かった奴だった。


 私は自分の魔術デバイスから匿名のIPを通して、元気にメッセージを送る事にした。


『おいゲン。94年の春に貸したロッツマンX返せよ』


 これで、俺だとわかるはずだ。

 ロッツマンは、ファミコム時代から流行っていたアクションシューティングゲームだ。

 ゲンに貸したっきり、ずっとあいつの家にあった。

 連絡して一時間ほど待っていると、メッセージが帰って来た。


『悪い冗談やめろ。誰やお前は。何でそれを知ってる。あいつは死んだんやぞ』


 やはり警戒されているようだ。当然だ。死んだ人間が生きているなんて、現実的に信じられるわけがないのだ。


『俺はお前の昔の友達だ。お前のエロ本の隠し場所は布団の間。

ギャルが好きで、かよちゃんに告白するって言って結局しなかったな』


 とりあえず前世の俺しか知らないであろうあいつの事を書きまくって送ったら、すぐにまた返事が来た。


『お前マジで誰や。あいつの友達やったんか?』


 前世の俺の関係者くらいには思われたようだ。

 私は更に文字を打ち、彼に確認を取る事にした。


『俺は今日本にいる。今は難しいけど、いずれ地元にも戻りたい。なあゲン。俺の母さんと父さん、まだ生きてるか?』


 すると、少しして返信があった。


『……。ああ。中田裕司の両親は先月会ったけど、まだ元気に店やってる。

お前の事は知らんけど、それは事実や』


 その文字を見て、私は崩れ落ちた。

 中田裕司は、前世の私の名前だ。

 母さんも、父さんも、生きてる。

 なら、いつかきっと会える。

 もう、電車で一時間のところまで来ているのだ。

 焦らず、ゲンと連絡を取りながら時期を待とう。

 私はスイートルームの窓から、日本の地上を眺めて夜を過ごした。




 それからしばらくの間は、ホテルとNikkendoを行き来する日々を繰り返す事になった。

 私は半月ほどかけて、魔力を電気に変換するデバイスを完成させた。

 与えられた開発室でこもって作業していた私は、一人で喜んだ。

 だが、実際にテストしてみなければ。

 私は完成品を持って、設計者たちのいる部屋へと向かう。


「お疲れ様です。見てください、変換機が完成しました」

「本当ですか!」


 早速、みんなの前でテストプレイを行う事になった。

 私が用意した魔力源とスウィッツの間に変換器をかまし、ゲーム機を起動してみる。


 すると、モニターにスウィッツのロゴが出た。


「おお、スウィッツが起動しましたよ!」

「ゲームはどうだ」


 実際にハイパーマルオをプレイしてみると、電気でやった時と同じように遊ぶことができた。

 携帯モードでも、同じようにプレイすることができた。


「これでマルデアでもスウィッツが遊べますね!」


 嬉しそうに画面を見下ろす開発者に、私は顔を上げて頷く。


「はい。あとはスウィッツの映像出力をマルデア向けに変換すれば、あちらのモニターでも遊べるようになります。

これも同時にほぼ完成していますので、一度星に帰ってテストしておきます。

変換器の魔術的な部品は、マルデアでなんとか量産してみせます」

「わかりました。我々はソフトのローカライズを進めておきます」


 開発者たちと握手をして、私は一度マルデアに戻る事になった。

 バッグに必要な荷物を入れ、私はアメリカの二人に別れの挨拶をした。


「ジャックさん。マリアさん。ここまで護衛ありがとうございました」

「ああ。君の帰還は報告しておくよ」

「頑張ってねリナ!」


 二人の声を受けながら、私は腕につけたデバイスを起動した。

 次の瞬間、私の姿は地球から消えていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 同世代で地元同じで笑いました。奈良も随分と変わり、主人公も行くと昔とのギャップに驚くかも知れませんね。 僕は驚きました(笑)
[気になる点] 読み返して思ったけど、今の時代にホームページも作ってない親の元に産まれた1995年時点での高校生がパソコンに触れた事あるのって、結構珍しい気がする。 7話でも操作は変わらないって言って…
[良い点] 『中田裕司の両親は先月会ったけど、まだ元気に店やってる』 ぶわっ! うう! やった! よかった! 最高です!
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