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第百二十二話 みんなの前で公開しよう!



 カンファレンスが終わった後。

 私はロサンゼルスの市庁舎で、貿易品の受け渡しを行っていた。


 こちらの輸送機から取り出すのは、魔石や縮小ボックス。

 地球側が用意したのは、ソフトやゲーム機、アーケードなどだ。


 入荷品の目玉はもちろん、新作オールスター。

 といってもサムシティが中心になるから、タイトルは少なめだけどね。


 そのラインナップは、明日のE4本番でお披露目する予定になっている。


「いやはや、なかなか見事な取引量ですな」


 挨拶に来たロサンゼルス市長が、その物量を見て驚いていた。


 今回入荷するスウィッツは10万台。新作ソフトも10万本を超える。

 それらしい数になってきたものだ。


「懐かしいですな。私もよくサムシティをやったものです」


 市長がパッケージに描かれた都市の絵を見下ろし、感慨深げに呟く。


「本当ですか?」

「ええ。なんといっても、市長になる遊びでしたからな。

都市経営にハマりすぎて、本職になってしまったほどですよ。はっはっは!」


 どうも、冗談好きのおじさんらしい。

 彼は楽しそうに一人で笑っていた。


 と、そこへ。

 見知った頭皮の男性が声をかけてきた。


「やあ、マルデリタ嬢。宇宙放送の成功おめでとう」

「あ、スカールさん。お久しぶりです」


 どうやら、国連の外交官たちもロサンゼルスに来てくれたらしい。


 私たちは市庁舎の一室に場所を変え、いつものように話し合う事になった。



「魔石の本格運用、ですか」


 正面に腰かけるスカール氏を見上げると、彼は頷いて続ける。


「うむ。月の魔石取引量が10万を超え、それなりの量を扱えるようになった。

ここからは国連主導で、災害排除などを徐々に実施していきたい」


 いよいよ、地球の魔石プロジェクトが本格的に始まるようだ。


「わかりました。私の助けが必要な時は言って下さい」

「すまない。さしあたり、軍で対処可能な範囲から取り組む事になっているが……。

手に負えない状況になれば、君に声をかけさせてもらう」


 スカール氏は深々と頭を下げながら、低い声で告げた。

 最終的には地球人だけで全て対処できるようになった方がいい。

 ただ、最初のうちはマルデア人のサポートが要るだろう。


 ゲーム商売に関しては色々と協力してもらってるし、これも助け合いだ。


 私たちは話し合いを終え、しっかりと握手を交わした。





 ホテルに戻って時計を見れば、午後八時を過ぎていた。


 フェルは、食べかけのポテトを抱きしめながらグウグウと寝てる。

 呑気なもんだ。


 ベッドに腰かけてテレビをつけると、今日の事が報道されているようだ。


『リナ・マルデリタさんが本日のE4カンファレンスにおいて、史上初の二星間放送を成功させました。

ロサンゼルスの町は大騒ぎです』


 どこのチャンネルでも、このニュースが流れている。

 地球的には結構でかいイベントだったらしい。


『リナさんは明日のE4イベントに出演予定で、ロス市内に滞在中です。

マルデア大使が次に何をしてくれるのか、目が離せませんね』


 アナウンサーが期待を込めた表情で私を見ていた。

 そんな目されても、何も出ないよ……。


 まあ疲れたし、あとは明日に備えよう。

 私はベッドの中に潜り込み、ゆっくりと惰眠を貪るのだった。





 そして、迎えた六月十二日。


 今日からはE4の本番である見本市だ。

 私も朝から、会場となるロサンゼルスのコンベンスセンターへと向かった。


 巨大なホールの中に入ると、色んなゲームの展示が見えてくる。

 アサクラにバイア・ハザーズ。サニックの姿もある。


 もう、やばいほど豪華だった。


「おお、でっけえマルオ!」


 フェルの声に振り返ると、Nikkendoの巨大なブースが目に入る。

 さすが世界一のゲームイベントと言う感じだ。


 この間見たモンファンのドラゴンも、CAPKENブースで立派に飾られていた。


「いやあ、リナさん。うちの荷物を助けてもらったみたいで」


 顔見知りのプロデューサーと少し挨拶した後、私はすぐにメディアのブースへと向かった。


 大手ゲームメディア、IGM。

 E4期間中ずっと生放送をしてるらしくて、私もそこに出演する予定になっていた。


 記者たちと握手をして席に着くと、物凄い歓声と拍手が起きる。


「ヒュゥーーーーッ!」

「リナーーーッ!」


 会場のファンたちが騒ぐ中、さっそくインタビューだ。


「いやあ、ようやくマルデリタさんにご出演頂きました。

ロサンゼルスやE4の雰囲気はいかがですか?」

「ええ、とても楽しいです。料理も美味しいですしね」


 軽く世間話をした後、スキンヘッドの記者は体を前に乗り出す。


「さて、今回サムシティ・マルデアを発表されたわけですが。

今月はあれ一本のリリースという事になるのでしょうか?」

「いえ。西洋産のゲームを中心に、オールスターに近いラインナップを用意しています」


 私が首を横に振ると、記者たちは驚いたように目を見開く。


「本当ですか。その詳細を聞かせて頂く事は……」

「ええ。問題ありません」


 私がサンプルのパッケージを出すと、記者たちがざわついた。



 オールスター第四弾は、次の通りだ。



 自分の手でマルデアの町を経営する。

『サムシティ・マルデア ~魔法都市を作ろう~』


 近未来のスピードレーサー。

『F-ZERA』


 小さな生き物たちを指揮する、不思議なパズルゲーム。

『ラミングス』


 私が前世で遊んだ最後のゲーム。

『スーパードンキューキング2』


 異世界からの脱出を目指す、激ムズSFアドベンチャー。

『アウト・ワールド』


 荒廃した世界。青年は戦車に乗って狩りに出る。

『メトル・マックス』


 シークレットタイトル。

『???』



 人前で一つ一つ読み上げていくのは初めてだ。

 タイトルを読み上げる度に、会場からどよめきと歓声が上がる。


「うおお! ラミングスが入ってるぞ!」

「F-ZERAだあああああああ!」


 このホールにいるほぼ全員がコアなゲームマニアだから、みんな思い入れが凄いのかな。


「これは、凄いタイトル群だ……」

「半分以上が西洋産じゃないか!」


 記者たちが忙しなくメモを取る中、インタビュアーが手を上げる。


「このシークレットっていうのは何かしら?」


 まあ、そこは当然の疑問だろう。


「まだ言えないんですが、一部地域のみで収録される予定のタイトルです」


 洋ゲーにはやっぱり、年齢制限が入るものがある。

 暴力表現の強いものをマルデア国に持ち込むのは、まだ早い。


 ただ国外であれば、むしろ過激な方が喜びそうな国はあるんだよね。

 そういう地域に向けたキラーソフトとして、一本凄いのを用意した。


 私がその内容をほのめかすと、記者たちは顎に手を当てて思案げに頷く。


「なるほど。確かに、そういった作品の展開には注意が必要ですな。

黒いパッケージという事は、やはり少し大人向けになるのでしょうか」

「そうですね」


 第四弾は、見るからに年齢層高めのソフト群だ。


 "死"を隠さない表現。

 シビアな世界観。


 こういった特徴は、やはり洋ゲーならではのもの。

 記者たちは興奮して、新しいラインナップについて語り合っていた。



 生放送が続き、フェルは退屈したのだろう。

 彼女は勝手に新作のソフトをスウィッツに入れて遊び始める。


「このゲーム、おもろそう!」


 妖精の少女が選んだのは、フランスが生んだ1991年の名作『アウト・ワールド』。

 異世界で囚われた主人公が、地下牢からの脱出を試みるSFアドベンチャーだ。


 ただこのゲーム、意味不明に難しいんだよね。


「よし、出るどっ!」


 フェルは早速プレイを始め、牢屋から飛び出していく。

 だが、その直後。

 現れた謎の宇宙人に一瞬で撃ち殺された。


「うわあああ、やられたっ! 意味わからん!」


 妖精がマジギレする姿に、会場が笑いに包まれる。


「これ、やっぱり理不尽さを楽しむゲームですよね」

「ええ。説明も何もなく、いきなりやられますから」


 『アウト・ワールド』は、死にゲーと呼ばれる部類のゲームだ。

 とにかく、見つかって撃たれたら即死ぬ。


 プレイ方法の説明も全くないから、唖然としてしまうのだ。

 こういう不親切な難しさも、洋ゲーらしい所だね。


 でもクソゲーかというと、決してそうではない。

 よく考えて脱出の方法を見つければ、先に進めるんだけど……。


「ぐぬう。ウチュー人め。なめるなっ!」


 フェルはやっぱアホの子だから、バカ正直に突っ込んでいく。


「ぬがあああっ! また死んだ!」


 脱出ゲームで全く脱出できず、ドタバタとテーブルを転げ回る妖精。

 それが評判良かったらしく、視聴者数はどんどん上がる。


「あははは、可愛いゲーマーだな」

「フェル、バリアを張って逃げるのよ!」


 会場のみんなはフェルの実況プレイを見守り、声援を送っていた。


連載開始から半年が経ちましたね。

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― 新着の感想 ―
[一言] (今の所)この作品読む為だけになろうアカウント作った。
[良い点] メトルマックスとかわかってるなぁ
[良い点] お話も面白いしわくわくして凄く良かったです 次に何のソフトがくるかマルデアの人程ではないだろうけど気になる! [一言] 大人向けはD◯OMあたりとか…?
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