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第百二十話 二つの星へ


 ロサンゼルスの午後。

 大通りは出店が出て、お祭りのようになっていた。


『WELCOME TO LOS ANGELES リナ!』


 そんな文字が、あちこちの窓で踊っている。

 今日は私が来るとわかってたから、みんな歓迎してくれてるんだろう。


「リナ! うちのホットドッグを食べて行ってくれ!」

「フェルちゃん、果物どう?」


 なんか、みんな食べ物をくれたがるんだよね。

 フェルなんて大喜びで、もらったブルーベリーに即かぶりついていた。


「うまーーしっ!」

「もぐもぐ、うまぁ~」


 二人で出店グルメを楽しんでいると、今度は看板を持った人たちが歩いて来る。


『スカイリマをマルデアへ!』

『スター・フォクスはまだか』

『DOOOOOOM!』

『メイン・クラフトは人生』


 ゲーマーたちが推しのタイトルを掲げ、アピールしているようだ。

 メイクラのステーブのコスプレをしてるブロック男みたいな人もいた。

 E4直前で、ファンたちのムードも高まっているようだ。


 たださすがに、桃色の髪は目立ちすぎる。

 人が集まりすぎた事もあり、私は警察の車に乗り込む事になった。


「E4は、明日から数日に渡って開催される予定です。

その間は、市内に滞在して頂く事になります」


 警部の説明を受けながらやってきたのは、これまた巨大なホテルだ。


 入口には従業員がズラリと並び、あざやかに一礼。

 さすがなんというか、イベントとなると派手だねアメリカ。


 そして案の定、いつものように最上階の部屋へ。


「ぎゅいいいーん」


 スイートルームの中を、妖精が楽しそうに飛び回っている。

 この子はほんと、ただの旅行気分だね。


 私はベッドに飛び込み、スマホでSNSを眺めた。


 やはり大都市だけあって、色んな人に見られていたんだろう。

 昼間の動画がめちゃくちゃバズっていた。


xxxxx@xxxxx

『朗報。マルデア大使がロサンゼルスの水道管トラブルを解決する』

xxxxx@xxxxx

『相変わらず見事な市長っぷりである』

xxxxx@xxxxx

『渋滞も見事に解消か。リアルでサムシティやってるのかな?』

xxxxx@xxxxx

『リナなら隕石だって退けそうだ』

xxxxx@xxxxx

『モンファンが救われたようだ……。ありがとうリナ』

xxxxx@xxxxx

『いよいよ明日からE4カンファだな。リナも出演するし、盛り上がりそうだ!』

xxxxx@xxxxx

『イベントデーには、俺もロサンゼルスに行く予定だぜ』


 カレンダーを見ると、今日は六月八日。

 全世界のゲーマーたちがE4に注目している。

 いよいよ、年に一度の大イベントだ。


 今回は、地球にとって史上初となる試みも予定している。

 私もその大仕事に備えて、デバイスでガレリーナ社と連絡を取っておく事にした。


「サニアさん、いけそうですか?」

『大丈夫よ。テストも問題なかったわ』


 どうやら、上手く行きそうだ。

 これなら、きっと"みんな"喜んでくれるだろう。

 私は安心して、ゆっくりと休息をとる事にした。



 そして、翌日。

 ネットを確認すると、さっそくE4の日程が始まっていた。


 ほんとは12日からの会場イベントが見本市としての本番なんだけどね。

 その前に、各社がカンファレンスで盛大に新作情報を公開するのが習わしだ。

 現地に来れないゲームファンにとっては、ネットでその配信を見るのがメインイベントである。


 スニー、ミクロソフツ、スク・ウェニ……。

 超大手メーカーが、次から次へと新作映像を公開していく。


 その度にネットが沸き上がり、ゲーマーたちは狂喜乱舞していた。


 スプルトーン3にHELO。グレンツーリズモの新作まで。

 どんどん押し寄せる大作の群れに、フェルも興奮しっぱなしだ。


「なんじゃこれ! 映画が動いとるっ!」

「イカも泳いでるよぉぉぉぉ」


 私も一ゲーマーとして、一緒にその発表を楽しんでいた。



 ただ、いつまでも見て楽しんでる場合ではない。

 今回私は、重要な場面におけるスピーチを任されているのだ。


 配信スケジュールの最終日。

 私はスーツ姿に着替え、エレクトロニクス・アートのカンファレンス会場へ向かう事になった。

 

 ネット番組とは言え、その規模は盛大だ。

 大きなホールで、客席には沢山のゲームメディアがつめかけていた。


 まるで有名な映画賞のような雰囲気の中。

 エレクトロニクス・アートが誇る人気スポーツゲームの最新作が発表されていく。

 動画の視聴者は、軽く百万人を超えていた。


 私は舞台袖で、自分の時が来るのをじっと待つ。

 そして、その時がやってきた。


 ステージの上に立ったのは、サム・シリーズの生みの親だ。


「いよいよ我々が作り出したゲームが、宇宙に飛び立つ時が来ました」


 彼の宣言に、会場からは大きな歓声が上がる。

 西洋ゲームの出発に、みんな嬉しそうに手を上げていた。


「さて。プレゼンターとなるマルデア大使をご紹介する前に。

二つ、重要なお知らせがあります」


 彼は指を立て、場内の喧騒を鎮める。


「まず一つ目ですが。

マルデア向けに開発したこのゲームは、シリーズの完全新作と呼べるものになりました」


「し、新作だとっ!」


 場内から驚きの声が上がり、男性は小さく笑みを浮かべる。


「ええ。地球のファンの皆さんがこの新作を遊べないのは、とても勿体ない話です。

そのため本作は、地球でも同時に発売する事になりました」


「同時リリース!?」


 彼が言葉を発する度に、場内がどよめく。

 だが、発表はそれだけに留まらない。


「そして二つ目のお知らせです。

この放送はここから、マルデアでもリアルタイムで生配信される事になります」

「な、なんだと!?」


 予想もつかぬサプライズに、記者たちが騒然となって立ち上がった。


 地球とマルデア双方に向け、同時に番組を放送する。

 これは、今までにない試みだ。


 仕組みはそう複雑ではない。

 私のデバイスを通し、地球からガレリーナ社に映像データを送る。

 それをサニアさんが同時翻訳しながら、マルデア向けに配信するのだ。


 混乱する場内に向け、伝説のクリエイターは手を広げる。


「なぜこのような形をとるのか。答えは簡単です。

これからご紹介する『サムシティ・マルデア』は、二つの星で同時発売するタイトル。

そのため、二つの星に向けて同時にお披露目させて頂きたいのです」


 いよいよ始まった二世界放送に、会場は言葉を失っていた。




------------side ニニア・クロムケル



 ブラームスの娯楽専門店。

 ガレリーナ社から突然の生放送予告があり、私たちは慌てて店に集まっていた。

 大モニターを前に、常連客のゲーマーたちは固唾を飲んで見守っている。


「始まったぞ!」


 いつものように男子たちが、切り替わった画面に湧き上がる。

 だが、どうもいつもとは映像の様子が違う。


 映し出されたのは、暗くて広いどこかの会場。

 その中で、大勢の観衆が声を上げている。


「な、なんだよここ」

「まさか、地球なのか……!」


 親戚のロロアお姉さんが、映像を見上げながらそう漏らした。


 口を開けたまま見守っていると、舞台袖から誰かが現れる。

 それは、桃色の髪の少女だった。


『みなさん、こんにちは。リナ・マルデリタです!』


 彼女が手を上げると、客席から割れんばかりの声援が起きる。

 まるで、リナさんが大スターのようだった。


「あ、あの子、あんなに人気だったのか……」

「すっげえ……」


 店内の全員が、目を丸くしてその様子を眺めていた。

 ただ、ブラームスさんだけは得意げに笑っていた。


「ははは、知らなかったかい? 彼女は地球じゃ、超が付く有名人らしいよ」


 店長の口ぶりからするに、やはりあれが『蛮族の星』地球らしい。

 だが、モニターに映るステージは華やかなものだった。


 会場も大きく、ライトの演出も大がかりな魔術ショーのようだ。

 ガレリーナ社のいつもの生放送とは、正直言ってスケールが違う。


「すげえ、これが地球のゲーム放送かよ!」

「凄まじい……。とてつもない規模だ……!」


 お姉さんも唸るように腕組みをしていた。

 地球では、ゲームにこんなに大きな舞台があるのか……。


 呆然としながら待っていると、リナさんが舞台の中央に立つ。

 すると、白いスポットライトが彼女を照らした。


『さて、みなさんは『サムシティ』というゲームをご存知でしょうか』


 彼女は自信満々に胸を張り、いつものように手を広げて見せる。

 この状況で一体、どんなゲームが紹介されるのか。


 私は店内のみんなと拳を握りしめ、遠い星に立つ少女を見上げていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーゲームを仮に出してどこまで行けるんだろうか‥‥ 血とかグロいのとかそういうの行けるのかな? R15とかのやつなら子供には売れない、もしくはある年齢以下には画面が真っ黒になる魔法と…
[一言] 「なんじゃこれ! 映画が動いとるっ!」 アホの子だからこその発言なのか迷うな( ・ω・)
[良い点] これは盛り上がらざるを得ない
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