第百十八話 かがくの力 (挿絵あり)
主人公視点です。
ガレリーナ社。
時刻は、正午を回った。
「じゃあ、投稿するわよ!」
サニアさんが、デバイスでミッション解禁の合図を送信する。
「これで、プレイヤーたちの目には届いたはずっスね」
メソラさんが嬉しそうにお茶を抱えると、ガレナさんが頷く。
「うむ。といっても、今回我々は見ているだけだがな」
「お昼ですし、出前でも取りましょうか」
フィオさんが一階のモント食堂に連絡を入れ、みんなで食事をとる事になった。
定番となったカレーを食べながら、私はネットの様子を眺める。
プレイヤーたちは早くも大騒ぎのようだ。
xxxxx@xxxxx
『今お店でミッション解放してもらった。めっちゃドキドキする』
xxxxx@xxxxx
『うおおおお、俺が一番に幻をゲットするぞ!』
xxxxx@xxxxx
『やべえ、クイズマスターが出て来た!』
xxxxx@xxxxx
『四択問題か。くそ、自転車を手に入れた場所とか忘れちまったよ!』
xxxxx@xxxxx
『あれ、図鑑番号50番って誰だっけ?』
xxxxx@xxxxx
『「虫取り少年は何人いた?」とか、覚えてるわけねえし!』
xxxxx@xxxxx
『これ四つ連続正解は難題だな』
xxxxx@xxxxx
『いいぜ。解けるまでやってやる!』
やっぱり、すぐクリアできる人はいないようだ。
動画サイトでは、生配信で店頭の様子を伝えている人もいる。
ブラームス店のチャンネルでは、店長が自らビデオを回していた。
ニニアちゃんも、スウィッツの画面に目を落として頑張っているようだ。
『くうっ、また外したっ!』
黒髪のお姉さんも、いつもの調子で頭を抱えていた。
「みんな夢中でクイズに取り組んでますね」
「ふふ、誰が最初にクリアできるか争ってるみたいね。でも、結構かかると思うわ」
サニアさんは高みの見物とばかりにほくそ笑んでいる。
まあ、このクイズは私も結構苦戦したからね。
でも、何度も挑んでいればそのうち誰でも解けるような仕組みにはなっている。
今日中にクリアする人もそれなりに出るだろう。
さて、今日の仕事は早めに切り上げだ。
私は早々に帰宅して、うちの店の様子を見る事にした。
実家の裏手では、子どもたちが熱心にスウィッツを睨んでいる。
今日はやはり、クイズミッション一色のようだ。
「なあ、ピハチューが出てくる序盤の森って名前なんだっけ?」
「チクワの森でしょ?」
「ミギワの森だよ」
みんな思い思いに答えを出し、見事に間違えていた。
「おい、お前らが変な答え言うから間違えちゃっただろ!」
「だって、森の名前なんて覚えてないもん」
憎まれ口を叩き合いながらも、彼らは諦めずに挑み続ける。
みんな幻のポツモンが見たいんだろうね。
でも、この様子じゃしばらくは出そうもないかな。
「あら、リナ。お帰りなさい」
と、店内にいた母さんが顔を出す。
「ただいま。ポツモンはどんな感じ?」
「みんな頑張ってるわよ。まだ解けた子はいないけどね」
ニコニコと嬉しそうに子どもたちを見回す母。
うちもゲーム販売店なので、当然ミッション配布サービスをやっている。
「ふふ、うちの店でもこういうイベントが出来るなんて、楽しいわ」
お母さんも、店主としてイベントを満喫しているようだ。
と、その時。
「ちょっと、トッポが三つ連続で正解したわよ!」
カレンちゃんの声が上がった。
どうやら、リーチまで行った子がいるらしい。
すると、小さな少年の周囲にみんなが集まってくる。
「すげえ、あと一問だ!」
「さすが俺たちのポツモンエースだ!」
「頑張ってトッポ!」
そういえば、子どもたちの中で初めて伝説をゲットしたのもあの子だった。
彼が一番ポツモンをやり込んでいるのだろう。
みんなの後押しに、トッポ君は手を震えさせながらも頷く。
小さな少年が、勇気をもって幻に挑むようだ。
私も後ろに回って彼のポツモンを覗き込むと、最終問題が表示された。
『友達とモンスターを送り合う"パソコン通信"。一体何の力で作られている?
A.魔術の力
B.科学の力
C.大人の力
D.宇宙の力』
すると、子どもたちは口々に声を上げる。
「そりゃ、通信は魔術の力だろ。学院の先生が言ってたぜ」
「でもこれは地球のお話だよ。宇宙の力じゃない?」
「凄いやつはみんな、大人の力だよ!」
みんなでわいわいと答えを予想し合う中。
トッポ君は何かに気づいたようだ。
「そうだ。最初の町で、おっきい男の子が言ってた。
『科学の力』でデータを送り合えるって!
答えは、Bだ!」
少年の選択に、一同が息を飲む。
そして……。
『せいかい! ミッションクリア!』
クイズマスターの宣言に、みんなが一斉に湧き上がる。
「やった、全部クリアだ!」
「いよいよ幻が出るわよ!」
「すげえぞトッポ! よくそんなの覚えてるな!」
「えへへ。町の人に話しかけるのはRPGの基本だよ」
周囲の賞賛に、トッポ君は照れたように頭を掻く。
そう言えば、彼はドラクアの頃からRPGに夢中だった。
しっかりと基本を押さえてプレイしてきたからこそ、問題を解く事ができたのだろう。
「トッポ、やりおる!」
フェルも嬉しそうにビュンビュンと飛び回っていた。
『よくぞ、謎を解き明かした。
君にふさわしい、幻のモンスターをあげよう!』
クイズマスターが、ボールを差し出す。
すると、画面に151番目のモンスターが現れた。
それは、小さくて不思議な生き物。
「これが最後のモンスター……!」
「かわいいっ!」
「これで図鑑全部そろったな!」
図鑑のコンプリート。
それは、ポツモンにおける一つの到達点。
トッポ君は目を潤ませながら、背中から地面に倒れた。
「やったぁ! ポツモン、クリアしたぞっ!」
ストーリークリアではない。
トッポ君が目指すのはいつも、全面クリアだ。
ようやく成し遂げたゴールに、少年は拳を突き上げる。
そんな彼の体を、子どもたちがベシベシと触りまくる。
「やったなトッポ!」
「俺の先を行きやがってよ!」
「さすがRPG博士よねっ」
「このっ、このっ」
トビー君にカレンちゃん。
みんなの手荒い祝福を受けながら、トッポ君は楽しそうに笑っていた。
周囲の子たちも、自分の事じゃないのに何だか嬉しそうで。
私もなんだか心が温かくなって、微笑んでしまうのだった。
ポツモンは、前世の私が死んでから三カ月後に発売したゲームだった。
子どもたちは当時、こんな感じで遊んでいたんだろうか。
ゲンはあの頃、元気にゲームをしていたんだろうか。
出来れば親友と一緒に、1996年を体験してみたかった。
二人ともバカだから、いい勝負したかもしれない。
なんとなく私は、デバイスであいつにメールを送ってみた。
『ゲン。今度会ったら、ポツモン対戦やろうぜ!』
すると、返事はすぐに帰ってきた。
『ほお、やる気か? ポツモン歴25年。俺のラインナップ最強やぞ?』
幾つになっても、ゲーマーは変わらないみたいだ。
つい、苦笑いが漏れてしまう。
私が死んでから、二十七年経った。
もうお互い仕事に就いて、遠い宇宙で暮らしている。
でもゲームの話をする時は、そんなの関係ない。
二人は星をまたいで、あの頃のように憎まれ口を叩き合っていた。
sillaさんより、幻モンスターなリナ。
一つの区切りがついたので、ここで三章の終わりとさせて頂きます。
この連載は沢山の方に支えて頂いています。
四章もまたがんばります!
よろしければ、ブックマークや評価などして頂けると嬉しいです。