第百十七話 未知への挑戦
今回はニニア視点から始まります。
ブラームス専門店。
今日のアーケード周辺は、熱気が漂っていた。
「やっぱバルラグの速攻で切り刻むのが最強だろ!」
「いや、フェイ・ルンの連撃がつええぜ」
「つうかケミィの衣装、エロくね?」
学生たちが、超スタ2の画面を前に語り合う。
新しく入ったキャラクターたちに触れるのは、やはり楽しいものだ。
一部の男子は、女キャラのビジュアルにも夢中らしい。
だが、話題はそれだけに止まらない。
「そういやさ、オープニングで出て来る黒い影のキャラって何なんだ?」
「ネットでもまだ発覚してないらしい。隠しキャラかもな」
「よし、俺が一番に発見してやるぜ!」
まだ姿がわからない、謎のキャラクター。
オープニングの映像に流れるシルエットの男は一体何者なのか。
アーケードファンの間では、議論が交わされていた。
まだ見ぬ隠し要素も影響してか、超スタ2の台は大盛況だ。
店に来る大人たちは台にコインを積み上げ、平気でワンプレイ10ベルくらい使って遊びまくる。
うちのお姉さんも、それ以上平気でやってる。
財力があればいくらでも遊べるし、練習もできる。
羨ましい限りだ。
私のお小遣いは、学生としてある程度限定されている。
資金力の高い大人たちと同じくらい練習するには、どうすればいいか。
やはり、絶対に負けない事だ。
アーケードは、勝ち続けるほど長くプレイできる。
新しいシステムは私を戸惑わせたけれど、それでも同じスタ2の世界だ。
ストーリーモードや時折入る対戦を勝ち抜きながら、私は技の練習に打ち込んでいた。
どうやら、入力のタイミングによってはテンポよく連撃が入るらしい。
コンボが決まれば、敵のライフが一気に削れる。
このあたりの仕組みが、本作の肝なのだろうか……。
のめり込みながらプレイしていると、いつの間にか最終ステージまで進んでいた。
「やっぱすげえなニニアちゃん」
「一ラウンドも負けてねえぜ」
まあCPU相手ならもう、これくらいは出来て当然だろう。
と、最後のヴェガが出て来る、その時だった。
突然、謎のキャラクターがラスボスのヴェガを殴り倒したのだ。
それは鬼のような姿をした、筋骨隆々の格闘家だった。
「な、何だこれはっ」
「変なキャラが出てきたぞっ!」
「めっちゃ強そうじゃん!」
いきなりの展開に、後ろで見ていた男子たちが騒ぎ出す。
どうやら、そのまま"鬼"との対戦に入るらしい。
『ラウンドワン、ファイッ!』
試合が始まり、私は慌てて様子見に波功拳を放つ。
すると相手はジャンプで避けながら、空中から同じような気弾を放ってきた。
「おい、技がリウ系だぞ!」
「ジャンプ中に波功拳だと……!」
鬼の敵は、リウやケインと同じタイプ。
それも、厄介な上位技を使うようだ。
空から斜め下に向けて打ってくる飛び道具に、私は防戦を強いられる。
だが、鬼の強さそれだけではなかった。
『しんくう、はこぅーけん!』
タイミングを見計らって放った、こちらの超必殺技。
完全に当たると思った。
しかし鬼は謎の残像を見せながら、こちらの気弾をスルーしていく。
「何だよあの動きっ!」
「はこぅけんを真正面から避けやがったぞ!」
私はそのままペースを崩され、敵の速さに翻弄され続ける。
そして、強烈なアッパーを受けて負けてしまった。
「……。なんだよ今の鬼みてーなやつ。めちゃくちゃつえーぞ!」
「これが超スタ2Xの隠しキャラなのか?」
「どうすりゃ出て来るんだ? 俺もストーリーはクリアしたけど出なかったぞ」
話し合う男子たちの中に、ラナが割って入る。
「ニニアちゃん、一ラウンドも負けずに最後まで行ったよね。多分それが条件じゃないのかな」
「マジか。よし、俺があの鬼を出して勝ってやるぜ!」
「いや、俺が先だ!」
男子たちは更に白熱し、ストーリーモードに打ち込み始めた。
私も、負けてなんていられない。
もっとキャラの動きやコンボを分析しなきゃ……。
ただ、今日の分のお小遣いはもう使い切ってしまった。
もう暗いし、そろそろ帰らないといけない。
「ニニアちゃん。明日、幻のミッションだね」
「うん」
ラナと駅まで歩きながら、今度のアップデートの話で盛り上がる。
今はやりたい事がいっぱいだ。
帰ったら、ポツモンのストーリーをクリアしておかないと。
--------side トッポ君
いよいよ、この日がやってきた。
休日の朝。僕はスウィッツを持って、いつものように近所の通りを走る。
やってきたのは、マルデリタの駄菓子屋。
この界隈の子どもたちは、みんなここに集まってゲームをやる。
アーケードもあるし、安い駄菓子も売ってるから、とっても楽しい場所なんだ。
普段はみんなそれぞれやりたいゲームをやってるんだけど。
今日のメインイベントは、何と言っても幻のミッションだ。
近所のポツモンを持ってる子たちは、スウィッツを手にそわそわしている。
「どんなミッションなんだろ……」
「やっぱりバトルじゃない?」
みんな、待ちきれない様子で話し合っていた。
正午になれば解禁するらしいけど、どんな形かはまだわからない。
何しろ、ゲームのミッションに一斉に挑戦するなんて初めての経験だ。
高鳴る胸を抑えながら、僕も時間が来るのを待った。
と、少し遅れてトビー君がやってくる。
「ようトッポ! ついに幻の解禁だな」
「うん。楽しみだね」
「ポツモンに関してはお前が一番だからな。ゲットしたら、解き方教えてくれよな」
トビー君は僕の肩を掴み、せがむように小声で言った。
すると、カレンちゃんが耳を立てていたのだろう。
「あんた、トッポに頼る気マンマンじゃない。ミッションは自分でクリアするのよ!」
「ちっ。わかってるよ。うるせーな」
二人はいつものように憎まれ口を叩き合う。
このゲームに関して言えば、僕はみんなの注目株だ。
ドラクアのようなRPGのシステムが好きな僕にとって、ポツモンは最高の対戦ゲームだった。
「ちくしょう、トッポが強え……」
「何でそんなに上手いのよ!」
得意なジャンルで、僕はみんなに勝ちまくった。
それが嬉しくて、150匹全部のモンスターを集める所までやり込んできた。
そして、いよいよ最後のミッション。
幻も、絶対に捕まえて見せる。
意気込んで待っていると、駄菓子屋の壁にある時計が十二時を指した。
すると、デバイスを睨んでいた子が声を上げる。
「お、出たぞ!」
どうやら、ガレリーナ社からアナウンスがあったらしい。
みんな一斉に、彼のデバイスを見下ろす。
『ミッション解禁! みんなのポツモン知識を使って、幻をゲットしよう!』
SNSの公式アカウントに、そんな文字が出ていた。
「ポツモン知識を使う?」
「ていうか、どうやってミッション始めるんだよ」
「あ、ここに書いてあるわ」
カレンちゃんが、次に出てきた文章を指さす。
『ミッションのはじめかた。
お近くのゲーム販売店で、ロックされたミッションのカギを開けてもらいましょう。
スウィッツとソフトを持参してください』
どうやら、ゲームを売ってるお店に持って行けばいいらしい。
「ってことは、ここの店でもいいの?」
トビー君が顔を上げると、店のおばちゃんが笑顔で頷く。
「もちろん。うちでも今から受け付けるわよ~!」
店長が得意げに取り出したのは、小さなモンスターの形をしたフィギュアだった。
どうやら、鍵となる魔法のアイテムらしい。
「俺のミッション開けて!」
「わたしのも!」
僕たちは一斉に立ち上がり、おばちゃんの前に群がる。
「はいはい、ちゃんと並んでね。一人ずつよ」
慌てて列になると、おばちゃんは最前列の子のスウィッツにフィギュアを押し当てる。
すると、ピコンと音がした。
「ミッション解禁だって! やった!」
トビー君がぴょんぴょんと飛び上がりながら、早速プレイし始めている。
僕もドキドキしながら、自分の番を待った。
そして。
「はい、トッポ君も解禁ね」
おばちゃんがフィギュアを僕のスウィッツに当てると、画面に文字が出た。
『ミッション「幻への挑戦」が追加されました!
参加しますか?』
僕は地べたに座り込み、『はい』を選択する。
すると、ゲーム画面がぱっと切り替わった。
中央に、謎の女性キャラクターが立っている。
『幻のポツモンを手にするもの。
それは、ポツモンの全てを知るもの。
このなぞを解き明かした者にのみ、幻は与えられる』
彼女のセリフが出た後。
エンカウントの音楽が流れ、戦闘画面に切り替わる。
だが、それはただの戦闘ではなかった。
『幻のクイズマスターが、しょうぶをしかけてきた!』
「く、クイズぅっ!?」
ミッションを始めたみんなが、一斉に驚きの声を上げる。
『私がランダムに出すモンダイに四つ連続で正解したら、この幻のモンスターをあげよう!』
幻が入っているらしいボールを手にしたクイズマスター。
そんな彼女が繰り出してくる問題。それは……。
『第一問。ルコンが技マシーンで覚えられるのは次のうちどれ?(15秒以内に答えよ!)
A.ねむれ
B.ソーラービイム
C.サイクキネシス
D.20まんボルト』
割と本気で難しいやつだった。
「よ、四択クイズかよっ」
「15秒って、ネットで答え探す時間もないわっ」
みんな、その内容に驚きの声を上げている。
どうやらズルは許されないらしい。
ポーズで止めておく事もできないから、調べる事もできない。
「えっと、Cだっ!」
選択肢を選ぶと、ブブーっと鈍い音が響く。
『ミッションしっぱい!』
他のみんなも間違えたのか、周囲にブーブーと音が響く。
でも、次の画面にはこう表示されていた。
『もう一度挑戦しますか?』
どうやら、何度でもやり直せるらしい。
ここまで頑張って集めてきたんだ。
最後も絶対にゲットしてみせる。
僕は迷わず『はい』を選択した。
すると、次はまた全然違った問題が表示される。
『第一問。ケダックはどのレベルで進化する?
A.レベル26
B.レベル30
C.レベル33
D.レベル35』
うん。このミッション、簡単には解けないみたいだ。
でも、だからこそ面白い。
僕は必死で頭をひねり、答えを考え続けるのだった。
次はリナ視点です。