表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/171

第百十六話 ゲームは進化する!



 生放送が続く中。

 スタ2の名前が出た事で、ブラームス店内は緊張に包まれていた。


 みんなが息を飲む中、画面の中の少女が語り出す。


「スタ2は、新しいアーケード機となって生まれ変わります。

それは、あらゆる新要素を加えた究極のアップデート版……」

「その名も、超スタリーツファイター2Xよ!」


 二人の紹介と同時に、店内で驚きの声が上がる。


「ちょ、超スタ2Xだとおっ!」

「ニニアちゃん、新しいスタ2だって!」

「う、うんっ」


 私も思わず立ち上がり、モニターで始まるゲームの映像に注目していた。

 まず出て来たのは、キャラクター選択画面。


 もうこの時点で、男子たちが大きくどよめいた。


「え、選べるキャラが滅茶苦茶多いぞっ!」

「マジか、倍になってやがる!」


 追加されているのは、見た事のないキャラクターたち。

 そして……。


「あれは、ヴェガか……?」


 スタ2のラスボスの名前が、お姉さんの口から洩れる。

 そこへ、リナさんの声が響いた。


「超スタ2では、全ての要素が進化しました。

これまで、悪役キャラの四人は敵として登場するだけでしたが。

彼らはプレイヤーキャラクターとして、本作では全て選択可能になります!」


 よく見れば、ストーリーモードでしか見れなかったサガッツのようなキャラも揃っている。


「やべえ、あの爪野郎が使えるのかよっ!」

「こりゃ半端ねえぞっ」


 みんな総立ちになり、喜びを露にする。

 悪役たちはみんな、凄い技と動きを持った連中だ。

 それが使えるっていうだけで、ワクワクが止まらない。


 でも、紹介はそれで終わりではなかった。


「新たに加わるキャラクターたちの個性も、ぜひ触って確かめてみてね。

そして何と言っても注目の新要素は、ゲージを貯めて発動する超必殺技よ!」


 サニアさんの声と共に、今度はバトル映像が流れ出す。


『しょーるーれっぱ!』


 ケインが繰り出すのは、拳を天につき上げるお馴染みのアッパー技……。

 だが、それはいつもの昇流拳ではなかった。


 ケインは素早い動きで体を回転させ、更なるアッパーの連撃を繰り出す。

 敵のゲイルは何度も打ちのめされ、大きなダメージを受けてドサリと地に伏した。


「な、何だあの必殺技はっ!」

「コンボ技だとっ!」

「やべえ、かっけえええええ!」


 明らかに今までの技とは違う、特別な必殺技。

 その登場に、みんなのボルテージは最高潮に高まっていた。


「いつだ、いつプレイできるのだっ!」


 お姉さんが財布を出して、硬貨をモニターに投げつけようとしていた。


「落ち着いて姉さん、画面にはコイン入らないから」


 私は慌てて親族の暴挙を止めながら、リナさんの言葉を待つ。


「すべてが進化してパワーアップした新しいスタ2。気になる稼働開始ですが……」


 静まり返る店内。

 皆が聞き耳を立てる中、画面中央の少女はバンと手を広げる。 


「なんと、この後すぐ! お近くのゲーム店でお楽しみいただけます!」


 出て来た言葉は、予想を遥かに超えていた。


「この後すぐ? どういう事だ……」

「おっさん、新台もう入荷してんのか?」


 お姉さんや男子たちがどよめく中、生放送が終わる。

 と、そこへ。


「よし。そろそろいいようだな」


 タイミングを見計らったように、ブラームスさんが店の奥から何かを持ち出してきた。


「看板?」 

「それで何するんだ?」


 私たちが見守っていると、店長はスタ2のアーケード台に新しい看板を取り付ける。

 そして、台の裏の設定をいじると……。


「ほら、出来たよ。超スタ2X、稼働開始だ。

今この瞬間からプレイ可能だよ!」


 なんと、店長の宣言通り。

 さっき見た超スタ2の映像が、アーケードのモニターに流れ始めた。


「ど、どういう事だよ」

「最初からスタ2に入ってたのか!?」


 どうやら設定の切り替えで、スタ2の台がアップデート版に切り替わったらしい。


「くそっ、何でもいい。やるしかないぞっ!」


 お姉さんはすぐさま台につき、新作にコインを投じる。

 男子たちもそれに続いて、超スタ2の台はすぐに埋まってしまった。


「ケミィ? 何だこのかっこいい女は!」

「やべえ、サガッツつええぞ!」


 その盛り上がりようは、尋常ではない。

 私も男子たちの後ろについて、彼らのプレイを見守った。


『ファイナル・マトリック・バスター!』


 レスラーのザンゲフが、凄まじい大立ち回りで敵を何度も地面に叩きつける。


「うおお! なんつうパワーと技だよっ」

「やべえ……。ザンゲフとかバカにしてたけど、半端ねえな!」


 キャラクターが新たな技を披露すると、その度に歓声が上がった。


 目の前で繰り広げられるのは、これまでとは次元の違う戦い。

 同じスタ2なのに、全く違うゲームに感じる。


 ゲームが進化する事が、こんなに嬉しいなんて。

 こんなに心を高揚させるなんて。


 やっぱり、ゲームは凄い。

 感じた事のない、未体験のワクワクを私にくれる。


「くうっ、技のコマンドが入らんっ」


 相変わらず、お姉さんはかなり苦戦しているみたいだ。

 コマンド表を見ると、やはり大技の入力難易度は高いらしい。


 ああ、早くプレイしてみたい。

 ポケットからコインを取り出し、手に握りしめながら。

 私は順番が来るのを待っていた。




-------side リナ・マルデリタ



 生放送終了後。

 ネットのゲームコミュニティは大盛り上がりだった。


 動画サイトでは、新しくなったスタ2を配信で紹介している人もいる。

 みんな興奮してプレイしているようだ。


 スタ2の知名度は、オールスター第二弾に入った事でかなり上がっていた。

 おかげで、アプデ版への注目度は高い。

 何しろ、家庭用に無い完全新作と言ってもいい代物だ。


 アーケードを置かない販売店からも、超スタ2に対する問い合わせが殺到していた。


『あのアップデート版、スウィッツには出ないのかい?』

「はい。現状はアーケードのみの展開になります」


 やはり、家庭用版の有無を気にする人が多い。

 当面の予定がない事を伝えると、店長は悩むように唸った。


『むう……。うちの常連さんが遊びたがっててね。

仕方ない。人気も高いようだし、一台注文するよ』


 新規の発注がすんなり入るのは、予想外の事だった。


「こっちも超スタ2の台が発注入りました!」


 フィオさんからも手が上がり、次々と出荷予定が立って行く。


「凄い勢いっスね」

「うむ。最新版はアーケードじゃないとプレイできない。それが強い引きになっているようだな」


 ガレナさんは在庫状況をチェックしながら、嬉しそうに発送準備を進めていた。


 生放送の反響は大きく、私たちは業務時間の終わりまで対応に追われる事になったのだった。




 そして、翌朝。

 休日だったので、私は裏手の店を見ている事にした。

 もちろん、うちのスタ2もお母さんがアップデート版に切り替えている。


 ネット情報を見ない子どもたちは、お店に来て初めて変化に気づいたようだ。


「なあ。この台、なんか変わってるぞ」

「『ちょうスタリーツファイター2X』だって」


 何が変わったのかすらわからない少年たちは、ジロジロと台を眺める。

 と、トッポ君が何かに気づいたようだ。


「ねえここ見て! 使えるキャラ増えてるっ!」


 キャラクターの技表を見つけた彼らは、その内容に目を見張っていた。


「何だこの超必殺技ってのは……」

「コマンドがすげえ難しそうだぞっ」

「これは、やるっきゃないだろ!」


 勢い込んだトビー少年がコインを投下し、遊び始めた。


「おい、ボスのヴェガが使えるぞ」

「す、すごいっ! ねえ、ヴェガでやってみようよ」

「いや、俺はこのファイ・ルンって奴を使ってみたい!」


 彼が選んだのは、新キャラの一人であるカンフーの使い手だ。

 戦闘が始まると、少年は一つ一つ操作を確かめていく。


『ホアチョウッ、ハイッ!』


「何このキャラ。やたら高い声で叫んでるよ」

「あはは、おもしれぇー!」


 ファイ・ルンのキャラクターは、往年のカンフー映画俳優をイメージしている。


 キリリとした男らしい表情から放たれる、甲高い攻撃ボイス。

 半裸で戦うクールガイ。

 個性的なキャラ立ちが、子どもたちに大ウケのようだ。


 攻撃が続くと、下部のメーターがいっぱいになる。


「ゲージ溜まった!」

「撃てぇっ!」


 子どもたちは拳を握りしめて応援するが、なかなか技が出ない。


「くそっ。このっ!」


 トビー君が意地でガチャガチャとレバーを走らせると、ついに技が発動する。


『ハイッ、ハイッ、ハイッ、ホアァィィッ!』


 カンフー男の連撃がビシビシと決まり、敵を吹っ飛ばす。


「うおおおお、かっこいい!」

「超コンボだ!」


 みんな、画面に夢中になって声を上げていた。

 だが、まだ新しいゲームに慣れないのだろう。

 

 トビー君は次の試合で操作ミスを繰り返してしまった。



 敗北した少年は、ゴロリと地面に転がる。


「くそっ、やられた。ああ、もっと遊びてえ! お小遣い欲しい!」


 まだ小学院に通う少年の、心からの叫びだった。


「とりあえず、大人が来るの待とうよ」

「うん、いつもお昼ごろにバンバンコイン出してプレイする人が来るから、その人のを見よう」


 財力のない子どもたちは、再び節約戦術に出るようだ。

 まあ、店側としても子どもに浪費させるよりは、大人たちから稼ぐ方が気が楽だけどね。


 さて、ポツモンのミッションも来週に控えている。

 まだまだ忙しくなりそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やはり格ゲーは良い文化 [一言] そうか、既存タイトルの再リリースの様なもんだから事前に次作を仕込んでおくこともできるのか!気持ちよく一本取られた気分です。
[一言] とても、面白かったです。 最近のなろうの作品では、浸食気味でしたが、この作品はここまで読みきれました。 得たる事なく、完結お願いします!!
[一言] ゲームの攻略本や、設定集が欲しくなるな。 キャラのバックボーンや日常の風景を描いたイラスト集とか、ゲーム好きの財布を軽くするコレクターグッズをマルデア側で制作出来ないかな、サンプルを持って行…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ