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第百十三話 真空とは (挿絵あり)



 フィンランドの旅を終えた私とフェル。

 国連本部で魔石を引き渡した後は、チャーター機で日本へと向かう。


 ただ、飛行機の旅って結構長いんだよね。

 フェルも暇らしく、機内についたテレビモニターにかじりついている。

 ちょうどアメリカの報道番組で、私のニュースが流れているようだ。


『今日はリナ・マルデリタさんがニューヨークに訪れ、無事に月例の取引を終えました。

国連に溜まった魔石は40万個を超えたという事です。

経済評論家から見て、貿易の推移はいかがでしょうか?』


 司会者の問いかけに、専門家の男性が頷く。


『順調と言えるでしょうな。

魔石とゲームの取引量は増え続けています。

とはいえ、大災害の基準となる100万個にはまだ遠い。

更なる拡大を目指すなら、サム・シティのような欧米産のゲームも……』


 お堅いスーツ姿の評論家が、ゲームタイトルを大真面目に予想している。

 地球のメディアを眺めるのは面白いものだ。


 スマホを出してSNSを眺めると、私が水上を走る動画がバズっていた。


xxxxx@xxxxx

『マルデア大使、フィンランドの湖を爆走する』

xxxxx@xxxxx

『おもしれーw』

xxxxx@xxxxx

『しょっちゅう大自然と戦ってるよね、この大使さん』

xxxxx@xxxxx

『この後、リナは故障した船を救ったらしい』

xxxxx@xxxxx

『相変わらず大使という役職を逸脱した少女だ……』

xxxxx@xxxxx

『あっちの星ではきっと、大使と書いてヒーローと読むんだろう』


 まあ、楽しく会話しているようで何よりだ。


 ただ隣ではフェルが退屈しすぎて、アホな踊りを始めていた。

 それを撮影してyutubeに投稿してみると、地球の妖精ファンから凄い反響があった。


『フェルのダンスwwww』

『アホ可愛いぃぃぃ』

『フェル様の動画だああああああ』

『これが究極の癒し……』


 うん。

 地味に凄いファンがついてるよね、フェル。

 まあ、機内の暇つぶしはこんな感じかな……。



 それから十時間ほどかけて、私たちは関西空港へと到着した。

 ようやくここから、ゲームの仕事だ。

 今回は、二つの会社にお邪魔する事になる。


 最初にやってきたのは、格ゲーでお馴染みのCAPKEN社。

 今回は、マルデアで初めての試みに挑む事になる。


 それは、ゲームの『アップデート』だ。


 会議室に入ると、一台のアーケードが用意されていた。

 それはこれまでとは全く違う、新しいスタ2。


「いよいよ大型アップデートですね」

「はい、楽しみです!」


 私は開発の方々と握手を交わし、新しい機種を見下ろす。


 スタ2は、去年の秋ぐらいからマルデアでアーケードとして、そして家庭用で親しまれてきた。

 だがこのゲームには、幾つかのバージョンがある。


 90年代の初頭。

 スタ2はその大ヒットを受け、様々なアップデート版を発売していく。

 格闘ゲームのプレイヤーたちも、それに合わせて進化していった。


 マルデアでも、やはりその歴史を再現したい気持ちがある。

 ただ、一個一個全部出していく余裕もない。

 だから、アプデ版の中で一番いい奴を出そうという話になった。


 そこで今回選ばれたのが、1994年に稼働開始したこのタイトル。


『超スタリーツファイター2X』だ。


 使えるキャラクターが大量に増え、ゲームプレイも大幅進化。

 洗練された格闘ゲームとして生まれ変わった、究極のスタ2とも呼べる一作である。


「わちし、やるっ!」


 早速とばかりに、フェルが台の上に飛びついてゲームを遊び始める。

 選んだのは、主人公の格闘家だ。


「とえっ、えいっ!」


 妖精少女は夢中でボタンを叩き、敵に向かってキックを放つ。


 超スタ2のバトルは、旧バージョンとは段違いの迫力だ。

 スピード感もあり、目まぐるしく攻防が入れ替わっていく。


 更に注目すべき新要素は、なんといっても『超必殺技』。

 画面下部のゲージを貯めると使える、通常技とは桁違いの大技である。


 互いにダメージを与え合うと、下のゲージが溜まって行く。

 そして……。


「しんくう、はこぉーーけん!」


 フェルがついに、リウの超必殺技を放った。


『真空・波功拳』


 通常の波功拳の倍以上ある、巨大なエネルギーの塊を打ち出すのが特徴だ。

 当たればコンボヒットが決まり、一気に大ダメージを与える事ができる。


 だがフェルの大技は敵に避けられ、逆にカウンターを食らってしまう。


「ううぉっ。もうダメ……」


 やられた時のリウみたいな声を上げながら、フェルがアーケード台に横たわる。


「ははは、鮮やかな負けっぷりだね、妖精ちゃん」


 開発者たちは、滑稽な妖精を見下ろして高らかに笑っていた。


 さて、このアプデ版の超スタ2。

 またゼロから売って行くのかというと、そういうわけではない。

 実はマルデアで今稼働しているスタ2筐体の中にも、この超スタ2が入っているのだ。


 切り替えボタンを押し、外装を少し変えるだけで、あら不思議。

 スタ2はアップデートバージョンの超スタ2へと変身する。

 まあ、お客さんには今までずっと秘密だったけどね。


 マルデアの販売店の人たちはもちろん、この仕様を知っている。

 今月から一斉にアプデ版を解禁し、話題を作って行く予定だ。


 さて。

 これ一つで今月は十分なんだけど、今回はもう一つ予定しているものがある。

 CAPKENを出て次に向かうのは、ゲイムフラークだ。

 

 私とフェルは、前回もお邪魔した立派なオフィスにやってきた。

 まずは、グッズの話し合いだ。


「シールやキーホルダーのような、可愛くて安価なものから入るのがいいでしょうね」

「そうですね」


 ポツモンのグッズは、地球では専門店が幾つも出来るくらい沢山の種類がある。

 ただ、マルデアでのグッズ販売はゼロからのスタートだ。


 子どもの手に届く値段の物から、少しずつ売って行くことに決まった。

 ぬいぐるみについては、ちょっと特別な売り方を用意している。

 それについては、まだ準備中だ。


 次はゲームの話だ。

 ポツモンも、一つアップデートのようなものを用意している。


 1996年当時。幻のポツモンと呼ばれたミウは、ゲーム内で普通の方法で入手する事はできなかった。

 バグで出すか、イベントで配布してもらうか。


 その二択しかなかった。

 あの頃の日本においては、本当に幻のキャラだったのだ。


 じゃあ、マルデアではどうするのか。

 ポツモンの伝統に倣って、イベントで配布する事も考えたんだけどね。


 マルデアの場合、ワープステーションのおかげで「遠いから来れない」というのが無い。

 だからイベント配布だと、全国のファンが一気に押し寄せる恐れがある。

 会場がパニックになれば、配布どころではなくなってしまうのだ。


 で、何か別の形にしようかと話し合ったんだけど。


「せっかくだから、何かマルデアのファンを喜ばせる事をしたいですね」


 そんな提案が上がり、幻ポツモンのための『専用イベント』が用意される事になった。


 と言っても、既にそのミッションは販売したソフトの中に入ってるんだけどね。

 ある仕掛けでロックが解除され、プレイヤーの目に届く仕組みになっている。


「できれば販売店さんと協力して頂いて……」

「ええ。そういう形の方がプレイヤーも嬉しいですね」


 私たちはミッションについて、細かい打ち合わせを進めた。

 その詳細は、まだ秘密だ。



 会議を終えてゲーム会社を出ると、もう空は赤くなりかけていた。


「でさあ。昨日の大型アプデなんだけど」

「あ、見た見た。フェアリーの新キャラ可愛いよね!」


 道行く女性たちが、二人でアプリゲームの話でもしているのだろうか。

 彼女たちは楽しそうに語り合いながら、駅へと向かっていく。


 現代の地球においては、ゲームにアップデートが施されるのは当たり前の事だ。

 運営型のゲームでは、アプデがゲームの命と言えるだろう。


 ユーザの興味を維持し、盛り上げて新たな話題性を作る。

 それによって、新たな顧客の獲得をも目指す。


 それがアップデートなのだ。


「さて、私たちもマルデアで初のアプデと行きますか……。何してんのフェル?」


 隣の妖精を見やると、また何か変なポーズを取っていた。


「わちし、新しいワザ考えた。

名付けて『真空・光パゥワー』……! でも、まだ特訓中」


 どうも、超スタ2に影響を受けて超必殺技を編み出そうとしているらしい。

 そのうち完成するのだろうか。


「フェル。真空ってどういう意味かわかってる?」


 私の問いかけに、フェルは自信ありげに頷く。


「"強くてカッコいい"という意味」


 うーん……。全くわかっていないね。

 でもまあ、必殺技の心意気としては間違っていないのかもしれない。

 ゲームの技を真似したくなるのはわかるし、ほっとこう。

 私はフェルを促し、車に乗り込んだ。


 その後は倉庫に向かい、超スタ2などのアーケードを輸送機に詰めていく。

 グッズ類も、段ボールで二十箱ほど用意してもらった。

 品薄のスウィッツは、新しく十万台だ。


 これだけあれば、まあ何とかなるだろう。

 今回も沢山のゲームを背負った。

 さあ、マルデアのみんなに届けよう。


「じゃあ、帰るよフェル」

「おう!」


 妖精が腕に掴まったのを確認して、私は腕のデバイスを起動した。




阿井上夫さんより、フェルのしょーるーけん!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
滑稽な妖精は辛辣で笑っちゃった
[一言] スト2xが出て、現役の自分は嬉しいです。 真空は強いし見た目もいいですよね。
[良い点] 真空は強くてカッコいい、フェル様は間違って無い(洗脳済み)
感想一覧
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