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第百十話 リナの大冒険



 ポツモンの発売から一週間ほどが経った。

 ネットでは、今日もプレイヤーたちが新たな発見に沸いている。


『友達とゴースツを交換したら、見た事もないポツモンになった件』


 投稿されたのは、未発見モンスター"ゲンカー"の画像だ。


『どういう事だ。ゴースツが進化したのか?』

『交換したら進化って、何だよそれ……!』


 コメント欄には、驚きの声が続く。

 モンスターの中には、通信交換した時に進化する種もある。


 なぜそんな事が起きるかは、ちょっとわからないけど。

 このゲームには沢山の遊び心が散りばめられている。


 プレイヤーたちは、まだ見ぬ要素を競い合うように探し回っていた。


 ポツモンの遊びは、これからどんどん広がって行くだろう。

 伝説の場所も、まだ公にはなっていない。


 ただ、その辺は次のお楽しみとして。

 そろそろ一度、地球へ行く時期だ。


 新しいタイトルも待ってるし、"幻"の準備もしなきゃいけないからね。

 さて。

 今回は日本に向かう前に、ちょっと行っておきたい国がある。



 出発の前夜。

 私は自室のベッドでくつろぎながら、yutubeを眺めていた。


 以前から地球のファンたちが私のイラストを描いたり、手書きアニメを作ったり。

 色々と創作してくれてるのは知ってるんだけど。


 ついに、私を主人公にしたゲームを個人製作する人が出てきた。

 やっぱりゲームだと、ちょっと気になるよね。


 タイトルは『リナの大冒険』。

 2Dスクロールのアクションゲームなんだけど、出来栄えが思ったより凄い。

 

 ピンク髪の魔法少女が、ぴょんぴょん飛び跳ねて右に進んでいく。

 魔法を使って悪者をやっつけたり、病気の人を治したり。

 冒険しながら、地球の各地を救っていくお話だ。


 まだ未完成らしいけど、作者がyutubeに開発途中のPVを上げている。

 キャラの動きや背景が凄い丁寧で、これまた良いんだよね。

 完成したら無料で配布するらしいから、お金儲けではないみたい。


 ゲームで自分が主人公になるのは、なんとも言えず嬉しい。


 でも、ちょっと変な部分もある。

 敵に負けると、主人公のリナが「うわぁーん!」って泣く。

 なんか情けないっていうか、子どもっぽすぎる。


 ゲームオーバーになると、もっと酷い。

 リナがマルデアの実家に帰って、「ママァー!」とお母さんに泣きつく。

 そういうゲームのオマケ要素みたいな部分でね。

 個人的に納得がいかないというか……。


「ねえフェル。私こんなマザコンじゃないよね?」


 傍にいた妖精に映像を見せると、彼女はケラケラと笑った。


「きゃはははは! リナそっくり!」


 むっ……。

 やっぱこの子はちょっと、参考にならないね。


 ゲーム動画の下を見ると、ゲーマーたちが沢山のコメントを寄せている。


『可愛い! とっても丁寧に作ってあるわね』 

『ああ、完成したら是非プレイしてみたいな』

『お母さんに泣きつくリナが愛らしいよ』

『家に帰ればお母さんっ子なんだな』


 ……うん。

 お母さんっ子とか言われちゃってるよね。

 そりゃ、母さんの事は好きだけどさ。

 でも、こんなベタベタはしてないからね。


 とはいえ、ゲーム自体が面白そうなのは事実だ。

 私のゲームだし、完成品をプレイしてみたい気持ちはある。


 『リナの大冒険』は、近日フィンランドのゲームイベントで出展されるらしい。


 なので、私はそこを目的地にする事にした。

 マザコン部分については、ちょっと会って話しておきたいしね……。


 フィンランドは、クラッシュ・オブ・クローンズなどの有名モバイルゲームが生まれた地でもある。

 北欧のイベントを見に行くのも楽しみだ。



 今回は、八万個の魔石と八百個の縮小ボックスを購入。

 地球に運ぶ荷物を確認し、その夜はゆっくりと眠りについた。



 そして、当日の朝。


 第三研究室では、ガレナさんがすでに準備を整えてくれていた。


「今回はフィンランドですから。なるべく陸地にお願いしますね」

「うむ。任せておきたまえ」


 フィンランドは1000の湖を持つ国と言われている。

 必然的に、水の上に落ちる可能性は高い。


 危険な場所を避けるセーフティ機能はあるらしいんだけどね。

 このポンコツワープをそこまで信用する事はできない。

 どちらにしろ、ガレナさんに任せるしかない。


「じゃあフェル、行こっか」

「おう!」


 今回もフェルは一緒に来るらしく、胸ポケットの中から手を上げている。

 まあ、大人しくしてれば問題はないよね。 


 少し話をした後、私はワープルームに入る。


「では、行ってまいります」

「うむ。健闘を祈る」


 いつもの合図で、ガレナさんがデバイスに手をやる。

 すると、私とフェルは光に包まれていった。




 次の瞬間。

 私は青と緑に包まれた場所に立っていた。


「おおー。水ばっか」


 フェルが周囲を見渡しながら声を上げる。

 目の前に広がるのは海……、いや、点々と小さな島がある。


 ここは巨大な湖なのだろう。

 見渡す限りの大自然で、人工物が見えない……。

 うーん。さすがフィンランド。


 スマホを見ても、電波がないから現在地も不明。

 こうなったら、湖を進んで人里まで向かうしかない。


 さて。こういう時に便利な魔法がある。


「"我が脚よ、水上を走れ"」


 魔術をかけて湖に踏み出すと、あら不思議。

 まるでスケートのように足が水面を滑り出す。


 加速して水しぶきを上げながら、私はガンガン水上を進む。

 空を飛ぶよりこっちの方が速いし、省エネだ。


「おー! リナすごい!」


 かなりのスピードに、ポケットの中のフェルが歓声を上げる。

 

「ふふふ。私は水上の魔術師、リナ・マルデリタ! なんちゃって」


 ちょっとカッコつけて見せると、妖精が白い眼を向けてきた。


「リナ、アホっぽい」


 フェルには言われたくないよ……。



 それから、二十分ほど島々の間を進んだだろうか。

 ふと、何かが見えてきた。


 遠視魔術で目を凝らすと、どうやら船らしい。

 小さめの観光船だろうか。


 しかし、湖のど真ん中で立ち止まったまま動いていない。

 何かあったのだろうか。


 近づいてみると、船に乗った人たちがこちらを見て騒いでいた。


「こっちに来たぞ!」

「水の上を凄い速さで走ってくるわよ!」

「ほんとに人なの?」


 まあ、おもいっきり魔法使ってるからね。

 もうバレバレかもしれない。

 私は一度飛び上がり、船の先端に降りていく。


「そ、空を飛んだぞ!」

「ピンク色の髪だ、間違いない」

「本物なのかしら……」


 遠巻きに語り合う人々。

 と、船室から船長らしい男性が出て来た。


「きみは、リナ・マルデリタ嬢なのか……! ど、どうしてこんな所へ?」

「すみません。大自然の中に落ちてしまって、人里を探していたんです。

そちらは何かあったんですか?」


 問いかけてみると、船長は顔色を悪くした。


「あ、ああ。サイマー湖の遊覧途中で船が故障してな。

無線で助けを呼んでいるが、港からここまでは距離がある。身動きが取れず危険な状態だ……」


 やはり、問題が起きているようだ。


「どこが悪いかわかりますか?」

「な、直せるのかね?」


 驚く船長に、私は頷いて見せる。


「はい。特定箇所なら、魔石で元の状態に戻せます」

「な、なら。こっちに来てくれ!」


 慌てた様子の船長に案内され、私は船室の後部へと向かう。

 奥のドアを開けると、複雑な機器が密集する小さな部屋があった。


「右のエンジンがイカれたらしい。詳しい原因もわからんのだが……」


 彼が指したのは、長い柱のような形をした機関だ。

 苦い表情をする船長に、私は頷いて言った。


「わかりました。やってみましょう」


 カプセルから魔石を六個ほど取り出し、エンジンの上に置いていく。

 それから、手を翳して魔力を込めた。


『朽ちた力の機構を、元の姿へ』


 すると、銀色のエンジンが光に包まれていく。

 その直後。


 ドッドッドッと音が響き、機関室が唸り始めた。


「おおっ、動いた! こ、これが魔法の力か……!」


 目を見張る船員に、私は振り返って頷く。


「はい。これで大丈夫だと思います」


 少し機器の調子を確かめた後。

 船長は慌てて操舵室へと向かう。


 すると、船がゆっくりと動き始めた。


「な、直ったのか!」

「まるで神の奇跡だ……」

「これで無事に帰れるわ!」

「さすがはリナだな!」


 乗客たちから、歓声が上がる。

 とりあえず、危機は脱したようだ。

 操舵室へ入って行くと、船長が振り返る。


「いや、助かった。あのままではどうなっていたか……。

そうだ、人里を探していると言っていたな」


 彼は近隣の地図を出し、湖の下にある都市を指さした。


「ラッペーンランタの町まで乗って行くといい。そこから、首都へ向かう列車がある」

「本当ですか。ありがとうございます」


 気前のいい船長の勧めで、私はしばらく船の旅を楽しむ事になった。


 乗客たちは、私に興味津々のようだ。 


「こんな所で本物のリナに助けられるとは、思いもせんかったよ」

「本物の魔法を目の前で見れるなんて、感激ね……」

「あ、フェルクルだわ。可愛い!」

「ふひひ。わちし、有名」


 フェルも子どもにちやほやされて、気分良さそうにしていた。



 それから一時間半ほど湖を南へと進み。

 船はラッペーンランタの町にたどり着いた。


「では、乗せてもらってありがとうございました」

「礼を言うのはこっちの方さ。船を直してくれて、ありがとうよ!」


 手を振る船長さんに別れを言い、私はフェルと一緒に町へ出る。

 ここからは、帽子を被って密かに行動だ。


 緑に包まれた素敵な港町だけど、ゆっくりはしていられない。


 ゲームイベントは、首都ヘルシンキで開かれる。

 私はすぐに駅へ向かい、切符を買って車両に乗り込む。


 列車は二人を乗せ、穏やかなフィンランドの街並みを進んだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] フィンランド行く理由が生モノのせいでカチコミにしか見えねぇw
[良い点] 2D横スクロールアクションゲーム シンプルで実際に面白そう [一言] 2D横スクロールアクションゲーム? 魔法もある? RPG要素もある? ……もしかして、ソーサリアン?
[良い点] リナちゃんのゲーム…かわいい! マー◯ルランドみたいな感じかな? 最新のイラストがピッタリハマりますね(◕ᴗ◕✿) 地球でのフェルの浸透度がスゴイ。 [気になる点] お母さん部分は…いい…
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