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第百九話 何してんの…


 休日の朝。


 九時頃になると、家の裏手には子どもたちが集まっていた。

 今日はなんだか、熱気がムンムンだ。


「ついに勝負をつける時が来たようだな、カレン」

「ふん、トビーなんかに負ける気がしないわ」


 男子と女子が、スウィッツを手に睨み合う。


 いよいよ、対戦文化の始まりだ。

 フェイナルファイツで協力を極めた二人は、再び凄まじい対立を見せていた。


「死ねぇっ! ダネっちのツルアタック!」

「潰れなさいっ、ピハちゃんのでんこうせっか!」


 互いが育てたポツモンチームの、熱きバトル。


「やっちまえトビー!」

「カレンちゃんがんばれっ!」


 戦う二人を、子どもたちが外野からはやし立てる。

 そして……。


「くそ、負けたっ……。俺のポツモンたちがぁ……!」


 トビー君が膝をつき、大いに悔しがる。


「ふふんっ、愛情の勝利よ!」


 勝ったカレンちゃんは、自慢げに胸を張る。

 応援していた女の子たちも、キャッキャと喜び合っていた。


 まあ、何とも可愛らしい勝負である。


 他の子たちも、少しずつ交流を始めているようだ。


「なあ、その猫のモンスター交換してくれよ」

「嫌よ、お気に入りなんだから」


 あーだこーだ言いながら、互いのポツモンを見て話し合う。

 みんな戸惑いながらも、新しい遊びを楽しみ始めていた。


 と、そこへ。

 デバイスを持った少年が駆け足でやってきた。


「みんな、ニュースだよ。伝説のポツモンが見つかったって!」


 突然の情報に、子どもたちは驚いて立ち上がる。


「え、マジで!? どこにいるの?」

「わかんない。モンスターの画像だけネットに出てる。ほら」


 少年が見せた画面に、子どもたちが一斉に覗き込む。 


「かっけー! なんだこいつ!」

「レベル50だって。終盤に出て来るんだろうな」

「もっとストーリー進めなきゃ!」


 みんな、伝説に興味津々の様子だ。

 でも、この子たちが見つけるのはまだまだ先だろうね。



 さて、今日はお昼から営業の仕事がある。


 私は家を出て、首都の繁華街へと向かった。

 やってきたのは、お得意先の玩具屋だ。


 カウンターで店主を待っていると、女の子がゲーム売り場にやってきた。

 彼女は棚の上にあるポツモンを見上げて、目を輝かせる。


「ねーママ、このぬいぐるみさん欲しい!」

「ダメよ。これは値段がついてないから、売ってないの」

「えーっ」


 だだをこねる子どもを、親が何とかなだめている。

 そんな姿を眺めていると、店長がやってきた。


「やあ、マルデリタさん。凄いですなポツモンは」

「おはようございます。販売の方はいかがですか?」


 挨拶がてら伺ってみると、店長は機嫌よく笑う。


「ええ、ソフトは好調も好調ですよ。

ヌイグルミが欲しいと言うお子さんも多くてね。

ガレリーナさんは、グッズ類を売る予定はないのですかな?」

「ええ、需要に応じて考えて行きたい所です」


 話し合いを和やかに進めていると、女の子が私の足に飛びついて来た。


「ピハチューのぬいぐるみ、持ってきてね!」

「おれ、トカゲがいい!」


 子どもたちの要望に、私は頷いて少女の頭を撫でる。


「ちゃんと持ってくるから。いい子で待っててね」 

「うん! わたし、いい子にする!」

「おれの方がいい子だぞ!」


 アピールしてくる男の子の頭を撫でてあげると、何とかその場は収まった。

 子どもはまっすぐ気持ちを向けて来るから可愛いよね。



 顧客たちの夢中な様子は、店側にもかなり効果があったらしい。


「こうなったら、ゲーム売り場の棚を増やすしかないですな。

ゲーム機もソフトも、それに合わせて発注させてもらいましょう」


 店長は、大口で各ソフトの追加発注をかけてくれた。

 ポツモン人気は、スウィッツ全体の販売に良い影響を与えているようだ。



 玩具屋を出た私は、幾つかの販売店を巡って店主たちと話をした。

 どこも概ね好調で、発注の気前もいい。


 そう言えば、ブラームスさんの店はどうなってるんだろう。

 あそこは、対戦ゲーム好きな学生さんが多かったはず。


 通信対戦で盛り上がったりしてるんだろうか。

 気になった私は、首都の外れにあるゲーム専門店へ向かう事にした。





------------side ニニア・クロムケル




 今日も私は、休日をブラームス店で過ごす。

 新作が発売してから、店内の常連客はみんなポツモン集めに夢中だ。


「おっ、このワンリョクーってやつ、強そうだな」

「こっちのビビリタマの方が強いだろ」


 この店の男子たちは、みんなモンスターの強さが一番気になるらしい。

 強そうなモンスターをゲットにしては、通信でバトルしている。


「っしゃあ! やっぱ俺のカメーラが最強だな!」


 対戦で勝った男子が拳を突き上げると、敗者は悔しそうにアケ台を叩く。


「くそっ。属性が悪いんだよ。伝説のポツモンがあればなあ……」

「伝説なんてまだ先だろ。結局、攻略を進めるしかねえな」


 勝つためにはゲームを進めて、レベルの高いポツモンを揃えるしかない。

 その結果、対戦好きなブラームス店がストーリー攻略の話で埋まる。

 珍しい現象だった。


 でも、私の友達のラナはちょっと違う。


「ねえニニアちゃん。

このナゼニクサ、ふわふわして可愛くない?」


 画面に映っているのは、愛らしい草を頭に生やしたモンスターだ。

 彼女のパーティは、かなり見た目重視。

 ぷやぷや好きだけあって、可愛いものに目がないらしい。


「でもこの子さ。ネットで進化した姿の画像みたらあんまり好みじゃないんだよね。

やっぱ、このままで育てようかなあ」


 モンスターは、進化させることもできるし、させない事もできる。

 その選択肢が与えられたことで、ラナは毎回進化させるべきか悩んでいる。


 ただまあ、この店のゲーム仲間たちは普通に楽しんでいる方だ。

 うちの親戚のお姉さんは、ちょっとヤバい。



 彼女は元々、クール系な人だった。

 人前では感情を表に出さないタイプだったと思う。


 でもゲームを遊ぶようになってからは、明るく喋るようになった。

 特に、ポツモンが出てからは凄い。


「見ろニニア。この造形! この愛らしさ! これは芸術だ!」


 彼女は毎晩私の家に来て、自分の図鑑を手に語りまくる。

 この人、私以外に友達いないのかな……。


 姉さんが特に気に入ったのは、ケダックというアヒルのようなポツモンだった。


「見ろ、このケダックの純粋な瞳を。どう思うニニア?」

「うん……。ちょっとバカっぽい」


 実際、ケダックはバカっぽい顔をしている。

 まあ可愛いけど、おとぼけ系かな。

 私が感想を述べると、お姉さんはしかめ面になった。


「むう。ニニアはこの魅力を理解できていないようだな……。仕方あるまい。

ここは大人の力を使って、私がケダックの魅力を見せてやろう」


 言い残すと、彼女はアッサリと帰って行った。


「大人の力……?」


 どういう意味だろう。

 その時はよくわからなかった。


 でも、その二日後。

 このお姉さんは結構やばい人なのだと、私は理解する事になる。



 その日私は、いつものようにブラームス専門店にいた。


「ニニアちゃん。今バッジいくつ?」

「4つ……」


 いつものように友達のラナと話し合い。

 アーケードを遊んだり、ポツモンをやったりして遊んでいた。

 そんな時。


「わっ、なんだあれ!」

「でっかいケダックが来たぞ!」


 格ゲー台でたむろしていた男子たちが、通りを見て騒ぎ出した。


 外に出てみると、ほんとに等身大くらいのケダックがいた。

 人形なのか何なのか、妙にリアルな質感だ。


 それを持ってきたのは他でもない。

 親戚のお姉さんだった。


「見ろニニア。これが芸術的造形だ!」


 ああ、他人のフリをしたいけど名指しされているからできない……。

 こんなに危険な人だったなんて。


「ね、姉さん。そんなのどうしたの?」

「ああ。これは魔術人形の高級素材を買って、私がケダックの形に整えたものだ。

どうだ? 美しいだろう」


 お姉さんは、ケダックを抱きしめながら見せつけてくる。

 ぼんやりしたケダックの表情が、お姉さんの手で見事に再現されていた。


 正直、褒めていいのかどうかよくわからない。

 凄いのは凄いけど……。


 と、店の中からブラームスさんが出てきた。


「おお、これは凄い迫力だな。ポツモンの置物かい?」


 でかいポツモンに目を見張る店長に、お姉さんは自慢げに頷く。


「ええ。よかったら、店に一つ展示してもらいたい。二つ作ってしまったのでね」


 え……。二つも作ったの?

 私がドン引きしていると、店長は嬉しそうに頷いていた。


「本当ですか! なら、是非とも置かせて頂きたい」


 意外にも、ブラームスさんは乗り気のようだった。

 まあ、出来栄えは確かに良い。


 ブラームスさんは、店の入り口にケダックの等身大人形を設置して喜んでいた。


 その後、リナさんが来て驚いてたけど。

 うん、私の親戚とは言わないでおこう……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 伝説の情報がネットですぐ拡散される所が小説と現実の日買いになってて面白い
[一言] >>「ふふんっ、愛情の勝利よ!」 愛情そして相性の勝利と子供達が気づくのはまだ先か……
[良い点] 子どもたちがただただ可愛い。 ナゼニクサの進化系はやっぱアレかな? 次の世代が出れば可愛く進化するんだけどw ニニアちゃんのお姉さんもはっちゃけてるなぁ。 ポツモンは今までのタイトルに比べ…
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