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第百四話 地球でバトル!?


 ポツモンの第一作が誕生したのは、1996年の事。

 基本的には冒険の旅を楽しむRPGなんだけど、このゲームはそれだけじゃなかった。


 登場する全てのモンスターを仲間にできる、収集の楽しさ。

 自分なりにチームを編成する、戦略の楽しさ。

 そして友達と対戦や交換する、交流の楽しさ。


 その遊びの幅の広さは、プレイヤーたちの間で大きな口コミを呼んだ。

 更にアニメとしても成功し、モンスターたちの愛らしさが注目を浴びる。


 数え切れない魅力を備えたポツモンは、長い時間をかけて社会現象に発展。

 今や誰もが知るゲームシリーズとして、世界中で愛され続けている。


 そんな作品をローカライズするのは、やはり重い責任がある。

 作品の魅力を損なう事なく、マルデア人に伝えなければならない。


 私たちガレリーナ社も、完成に向けて全力で取り組んできた。

 発売は、もうすぐそこだ。


 自宅で日本のネットを見ていると、ゲーマーたちが初代作品の思い出を語り合っていた。

 地球上は大騒ぎで、アニメの主題歌を大合唱する動画などもバズっている。

 正にお祭り状態だ。


 さて。

 今回は東京でポツモンのイベントがあって、そこに顔を出す事になっている。

 スケジュールは結構きついけど、他の国に降りている余裕はあるだろうか。


 オフィスでガレナさんに話すと、彼女は悩ましげに眉を寄せた。


「ふむ。ならば今回のワープ先は、そうだな。関東地方にでもしておいたらどうかね」

「関東ですか……」


 初代ポツモンでは、カントゥと呼ばれる地域が物語の舞台となる。

 まあ、それに合わせたんだろうね。


「君はこの間ネズム国に行った所だ。旅続きでは体に無理が来る。

大事を取って、今回は馴染みの国にしておきたまえ」


 ガレナさんは優しく私の肩に手をかけてくれた。

 どうも、こちらの体調を気遣ってくれているみたいだ。


「ありがとうございます、ガレナさん」


 私はお言葉に甘えて、今回の目標地点を関東に設定した。



 そして、出発の日。

 私は七万個の魔石をカプセル輸送機に入れ、研究所へと向かった。

 待っていたガレナさんは、私の腰を見下ろして何かを見つけたようだ。


「ほう、今回は二人で行くのかね」

「二人?」


 下に目をやると、ポケットから小さな妖精が顔を出していた。


「ぬひひ、フェルも行くっ!」


 楽しそうに歯を見せて笑う小さな妖精の少女。

 どうやら、フェルは地球の旅に一緒に来るつもりらしい。


 これも恩返しの一環なのだろうか。

 それとも、ただ遊びたいだけなんだろうか。

 ちょっと判別がつかないね。


「ガレナさん、どうしましょうか?」


 社長に助けを求めると、彼女は軽く笑った。


「ふふ、いいではないか。

いつまでも君一人でいるよりは、幸運の妖精がついていた方が安全だ。

それに、妖精くらいのサイズならワープにも支障はない。

二人で一緒に行きたまえ」


 ガレナさんは、むしろ妖精との同行を推奨しているようだ。

 まあ置き去りにさえしなければ、フェルが地球に影響を与える事もないだろう。


 そういえば、今までずっと私一人で地球に出向いてきた。

 旅に連れができるのは初めてだ。


「そっか。フェルは私の初めてのワープ仲間だね」

「なかーま!」


 ポケットサイズの少女は、嬉しそうに両手を上げる。

 私も、不思議と嫌じゃなかった。


 一緒に行動する相手がいるのは、純粋に嬉しい。

 なんだか、私も笑顔になってしまった。


「じゃあ、行こっかフェル」

「あいよーっ」


 私とフェルは、二人でワープルームに向かう。

 

「では、二人の健闘を祈るよ」


 ガレナさんの合図と共に、私たちの体を白い光が包んでいった。



 次の瞬間。私は広い草原に立っていた。

 都会とは程遠い、豊かな緑が広がっている。

 でも周囲には、人の姿が結構ある。

 田舎ではないのかな?

 そう思ってキョロキョロしていると、近くから声が上がった。


「ねえママ、なんか人がパッって出てきたよ!」

「ピンクの髪……。もしかして、リナ?」


 驚いたようにこちらを指さす親子。

 どうも、ここは広い公園とかそういう憩いの場所らしい。


「なんでリナがここにいるの?」

「そう言えば、リナがポツモンを仕入れに来るってニュースに出てたぞ」

「マジ?」


 人だかりと言うほどじゃないけど、私はたちまち注目されてしまった。

 日本に来るといきなり目撃されるケースが多いね。

 少しざわつく周囲に戸惑っていると、近くから叫び声がした。


「バーグ、待ちなさい!」


 見れば、少女の元から飛び出したペットの大型犬がこちらに走って来る。


「ガウッ、ガウウッ!」


 そして、こちらに向かって吠え始めた。

 私というより、多分フェルを睨んでるみたいだ。


 金色の毛に包まれた、ゴールデンレトリバー。

 温厚な犬種のはずだけど……。

 得体の知れない生き物を警戒しているのかもしれない。


「フェル、どうする?」

「ふん、わちしに挑むとは、いい度胸!」


 フェルは私のポケットから飛び出すと、宙に浮かんでお犬さんを見下ろす。


「ガルルウッ!」


 向かい合う妖精と犬。

 そんな光景に、観衆から声が上がる。


「おお、なんかポツモンバトルみたいだっ!」

「あの妖精みたいな子、めっちゃポツモンっぽい!」


 偶然にも、これから発売するゲームみたいなシチュエーションが生まれてしまったようだ。

 とはいえ、お犬さんは吠えるだけで噛みついては来ない。

 フェルクルも相手を傷つけるような事はしない。

 というか、妖精に攻撃力という概念はないと思う。


 さて、膠着状態だけど。どうなるかね。

 後ろから見ていると、フェルが動いた。


「てぇぇぇぃ!」


 妖精は強い光を放ちながら、ゴールデンレトリバーの頭上を飛び回る。

 すると、お犬さんが柔らかい魔力に包まれていく。


「クゥゥゥン」


 レトリバーは座り込み、許しを請うように小さく鳴いた。

 もう吠えたりはしなさそうだね。

 フェルの光パワーは、こうかばつぐんのようだ。


「ふふふ、よいこよいこ」


 フェルは大人しくなったお犬さんの頭を撫でていた。

 レトリバー君も、なすがままと言った感じだ。


「もう、バーグったら。暴れちゃダメでしょ」


 と、飼い主の少女とその親がやってきて、こちらに頭を下げる。


「すみません、うちの犬が……」

「いえ、初めて見たフェルクルにびっくりして吠えちゃったんでしょう」

 

 賢い犬は警戒心も強いからね。仕方ないと思う。


「ねえ。この光ってる子、お姉ちゃんのポツモンなの?」


 飼い主の少女が、フェルを見上げながら首をかしげる。

 どうやら、フェアリーポツモンだと思われたのかもしれない。


「あはは、どうかな。フェルは私のお友達だよ」

「そっか。ごめんね妖精さん、バーグが吠えて」


 ペコリと頭を下げる少女に、フェルは胸を張って懐の大きさを見せつける。 


「ふっふっふ。モンダイなし。フェル、つおい」


 調子乗りだけど、フェルは優しくていい子みたいだ。

 だが、キラキラと輝きを放つ妖精はやはり目立つ。


「おい、リナ・マルデリタが来てるらしいぞ!」

「yutubeで見たフェルクルもいるわ!」


 ちょっと周囲の騒ぎが大きくなってきた。

 早いとこ立ち去りたいけど、まだ現在地がわからない。


「あの、すみません。ここの地名とかわかりますか?」


 とりあえず母親に聞いてみると、彼女は頷いて言った。


「葛飾区の水元公園よ。東京へようこそ、マルデア大使さん」


 あれ、都内なんだ。

 東京にも、こんなに広々とした公園があるんだね。

 ガレナさんも上手くやったもんだ。


「ありがとうございます。じゃあフェル、行こっか」

「うむ。さらばだ犬」

「ワン!」


 仲良くなったのか、フェルは犬さんと挨拶を交わしていた。


 市街へ向かう道は、生い茂る草木に囲われている。

 まるでトクワの森のような通りを歩くと、後ろからゾロゾロと人がついてきた。


「何の人だかりだ?」

「リナを追いかけてるんだって」

「ついにポツモンが発売するのか!」


 なんだか楽しそうな集団と一緒に公園から出ると、パトカーが何台も止まっていた。


「マルデリタ嬢、お待ちしておりました」


 律儀に敬礼する警官たちは、情報を聞きつけて待ってくれていたらしい。


 車に乗せられた私は、護衛車に囲まれながら都内を進む。

 行先は、ポツモンを生み出した会社。

 そう。ゲイムフラークだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか小説を読んでいて地元の水元公園が出てくるとは思いませんでした。小さい時から遊んだ場所なので知っている名前が出てきて感無量です。これからも楽しく読ませていただきます。
[一言] ミュ〇データはかつてコロコロの紙上企画にあった編集部にソフトを送って100名のお友達にプレゼント(あまりのリクエストに「全プレ」に変更)をガレリーナ社で同じことを企画し騒動が再び勃発ですね?…
[一言] ポケモンを出すなら通信機能を使えるようにしないと片手落ちだけど最初はローカル通信だけでも十分か このまま順調に広まっていくとマルデアの通信インフラを経由して遠距離通信出来る機器を自作して売り…
感想一覧
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