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第九十九話 みっけ (挿絵あり)


 パプアニューギニアの小さな集落。

 私たちは村長宅にお邪魔し、話を聞く事にした。

 素朴な家だったが、リビングは意外と現代風だった。


「動物が大きくなったことで、被害者は出ているのでしょうか?」


 キリアさんが切り出すと、木の椅子にかけた村長はとぼけた顔をした。


「被害? そんなものはない。むしろ獲物が上質になったのだ。

狩りの成果も上がっている。村の食料も増えて、みな喜んでおるよ」


 彼は猟銃に手をかけ、にこやかな笑顔を見せる。

 どうやら、彼らにはむしろ好都合らしい。


「ならよかったんですが……。あの、魔法の泉についての噂はご存知ですか?」


 次に私が問うと、村長は眉を寄せながら頷いた。


「うむ。動物たちがその水を飲んで成長していると主張する子がおる。

だが、西の森には泥溜まりくらいしかなかったはずだ。

いずれ調査はする予定だが……。

とりあえず、子どもには危険な森への立ち入りを禁止している」


 彼は知性的な人で、知っている事を丁寧に教えてくれた。


 村長宅を出た私は、一息つきながらキリアさんに切り出す。


「村人が喜んでいるとは、予想外でしたね」

「ええ。でも考えてみれば、大きな獣は集落にとっては恵みとも言えるわ。

でも、泉の話は……」

「ええ。妖精の影響かもしれません」


 泥溜まりを美しい魔法の泉に変える。

 それくらいの奇跡は、妖精なら起こすだろう。

 マルデアの歴史においても、フェルクルは数々の伝説を残している生き物だからね。


 と、村の少年たちが近づいてきた。


「ねえお姉ちゃんたち、泉の噂を聞いて来たの?」

「うん、そうだよ。何か知ってる?」


 私が問いかけると、一人の男の子が前に出てくる。


「魔法の泉は、俺が兄キと狩りに行った時に見たんだ。

飲めば体力満タン。元気になるんだぜ!」

「その水を飲んだの?」

「ああ。こっそり飲んでみたら凄え美味かった。

また飲みたいけど、村長たちは危ないから行っちゃダメだって言うんだ」


 彼の証言を聞くに、泉に妖精の力が宿ったと見ていいかもしれない。 

 と、一人の少女が何かに気付いたのか周囲を見回す。


「そういえば、カムル君は今日どこいったのかな。水汲み当番だったのに」

「そういやそうだ。あいつどこ行ったんだ?」


 どうも、カムルという少年の姿がないらしい。

 すると、左にいた男の子が気まずそうに顔をそらした。

 明らかに知っているようだ。


「きみ、その子に何かあったか、知ってるの?」

「……う、うん。カムルには秘密にしろって言われたんだけど。

あいつは今朝、一人で西の森に行ったんだ」


 少年は、辛そうに告白した。

 一人で? どういう事だ。


「森は今、危ないから立ち入り禁止なんでしょ? なんで一人で……」

「それはわかってるよ。でもあいつの母親が病気だから。

カムルは魔法の水で母ちゃんを治すって、ボトルを持って行っちゃったんだ」


 どうやら、その少年は母親を泉の水で治療するつもりらしい。


「どうして黙ってたの?」

「言ったら、すぐ大人たちに連れ戻されるから。あいつ、母親しか家族がいないんだ……」


 少年は悲しそうに顔を落とした。


「キリアさん」

「ええ、その子の身が危険だわ。行きましょう」


 私たちは頷き合い、すぐに村を出て森に向かった。

 泉を見た少年によると、西へ二時間ほど行った所にあるそうだ。


 すぐに追いつかなきゃ、カムル君が巨大化した動物に襲われる可能性がある。


 私は森を駆け、西へ西へと向かう。

 だが、やはりキリアさんの足が追い付かない。

 仕方がないので、彼女にも敏捷の魔法をかけておいた。


「す、凄いわ。こんなに速く動けるなんて……」


 キリアさんは自分の体が軽くなった事に驚いているようだ。

 険しい木々をかき分けながら、私たちはジャングルの中を走った。


 音の探査魔術をかけながら進むと、北の方角に反応があった。

 遠くから少年の叫び声がする。

 どうやら、まだ無事のようだ。


「あっちです。急ぎましょう」

「ええ」


 私とキリアさんは、緑の中を風のように駆けていく。

 すると、森の中に少し開けた場所があった。

 泉だ。


 村長が言ったような泥の溜まり場ではなく。

 木漏れ日にきらめく美しい水面が広がっていた。


 その水辺に、少年の姿があった。


「くそっ、どけよっ!」


 彼は槍を構えて、何かと睨み合っている。

 それは泉の中に身を潜らせた、大きなワニだった。


「シャァァァッ!」


 泉の水で巨大化したのだろうか。ワニが大きな顎を少年に向けて威嚇する。

 新鮮で栄養のある水は、当然動物にとっても貴重だ。

 もはやここは、ワニたちの縄張りなのだろう。

 それを見たキリアさんは、顔を青くした。


「クロコダイルよ。危険だわ。森の生き物の中でもずば抜けて能力が高くて、すさまじい速さと破壊力を持っているの。

しかも大きい……。私でも対処できるかどうかわからないけど、行くしかないわね」


 少年が突き出した槍は、軽々とワニの牙に弾き飛ばされてしまった。

 キリアさんは銃を構えて前に出ようとしている。

 だが、魔術の方が確実だ。


「私が行きます」


 今にも少年に食い掛かろうとするワニに、私は駆け寄りながら手をかざす。


「"停止!"」


 魔術をかけると、ワニは顎をむき出しにしたまま止まった。


「"野生の者よ、矛を収めよ"」


 次に鎮静の呪文を口にすると、巨大なワニはその牙を収め、水中へと戻っていく。

 とりあえず、窮地は去ったようだ。


「え……」


 折れた槍の根本を持った少年は、その状況に呆然としていた。


「きみ、カムル君で合ってる?」


 私が声をかけると、彼は驚いたように振り返る。


「そうだけど、お姉ちゃん……、リナ・マルデリタなの?」


 全力で高速移動してきたこともあり、帽子からはピンク色のロングヘアが漏れ出ている。

 まあここまで来たら、もう誤魔化す必要はないけどね。


 と、その時。


 泉の奥に、キラキラと光る生き物を見つけた。

 やっぱり、ここにいたんだ。


 私は近づき、優しく声をかけてみた。


「やっと見つけた。フェルちゃんだよね」

「おお……。マルデア人がきた」


 小さな妖精の少女は、フワフワと浮かびながら私を見つめている。


「聞いていいかな。フェルクルはどうしてここにいたの?」


 私が問いかけると、彼女は思い出すように口を開く。


「……、フェル、マルデア人のポケットの中で寝てたら、この星に来てた。

ちきゅー人、フェルをつかまえようとする。だから、森でかくれてた」


 どうやら色んな国を飛びまわり、ジャングルまで逃げてきたらしい。

 まあ、フェルクルに罪はないようだ。

 この森の動物がでかくなったのも、ただ彼女が泉に居ついた結果なのだろう。


「じゃあ、私がマルデアに連れて帰ってあげようか」

「ほんと!? フェル、帰れる。やった!」


 フェルと名乗った妖精の少女は、嬉しそうに飛び上がる。

 とりあえずこれで、フェルクルは保護できた。


「ね、ねえ。その生き物が妖精なの?」


 後ろの二人は、フェルの存在に驚いているようだった。 


「ええ。フェルクルというマルデアの生き物です。

やっぱり、この子が魔法の泉の原因でした。いなくなれば、そのうち動物たちも元に戻るでしょう」

「そう、なら調査は完了ね……」


 キリアさんは、ほっと息をついているようだった。

 少年は、ペットボトルで泉の水をせっせと掬っていた。






sillaさんによるリナとフェルクル。


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] フェルクルちゃんってティンカーベルみたいな感じなんだね、
[一言] 前回のヒクイドリもそうでしたが 襲ってきてるクロコダイルを倒すんじゃなくて引かせるのがこの小説のいいところですよね。 やさしさが溢れてる。
[良い点] 毎回面白いです [気になる点] 妖精が紛れているくらいなら マルデアの虫とかも紛れて地球に来ていそうですね 更に小さなウイルスなども
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