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第九十八話 迷子?


 オールスターの販売は、とても好調に進んでいた。

 初回の六万本は、しっかり売り切れてしまいそうな雰囲気だ。


 私たちは日々の業務に追われ、忙しく働き回っていた。

 そんなある日の事。


 仕事から帰ると、実家の前で小さな光が飛び回っていた。


「フェルー。どこいったのー」


 一人の小さなフェルクルが、仲間を探しているのだろうか。

 物陰の隙間を飛んでキョロキョロとあたりを見回している。


「きみ、どうしたの?」


 声をかけてみると、彼女はこちらを見上げる。


「フェルがいないの。あのアホ、どっかいった」


 アホなんだ……。


「心当たりはないの?」

「あるよ。フェルはだいぶ前に、あんたについてった。それから帰ってこない」

「私に?」


 首をかしげると、彼女はコクリと頷くばかりだ。


「うん。そういえばフェルのエナジー、近くにない。すごく遠い気がする」

「遠く……」


 妖精は、人のポケットとかに潜り込んで軽い悪戯をする事がある。

 まあ、のんびり屋だからそのままポケットの中で寝てしまうなんて事も多い。


 私の体に潜り込んで、遠くに置き去り……、となると。


「もしかして、地球で落としたかな……」


 どこかの国で、眠ったフェルクルを落としたかもしれない。


「フェル、帰りたがってる……。なんか、聞こえる」


 妖精は空を見上げながら呟いた。

 宇宙を越えても、フェルクル同士は声がつながるのだろうか。


 これは、ちょっと放っておけない事態かもしれない。

 フェルクルはただの愛玩フェアリーではない。

 マルデアで神秘の妖精とされるだけあって、特殊な力を持っているらしい。

 地球に住み着いたらどんな影響が出るか……。


 私はすぐに家に帰り、デバイスで地球のネットを調べた。

 妖精に関するニュースを検索すると、幾つか記事が出ていた。


『ベトナムで小さな人型の生き物を発見!?』

『フィリピンの市民が空を飛ぶ光を撮影』


 アジアの国々で、幾つかフェルクルらしい目撃証言が出ている。

 かなり飛び回っているのだろうか。


 もう少し調べると、妙な記事を見つけた。


『パプアニューギニアに奇跡の泉!?』


 南アジアのニューギニア島で、神秘的な泉が発見された、という噂の特集だった。

 泉の影響で、周辺の動物たちが異様に成長していると言う話だ。


 荒唐無稽な噂なので、記者はそれを冗談のように扱っていた。

 でもフェルクルが居ついたら、普通にそれくらい起きるかもしれないんだよね……。


 幸い、犠牲者が出たという話はないけど。

 早く行って連れ帰ってあげなきゃね。

 

 そんなわけで、次の目標は決まった。



「フェルクルを探しにパプアニューギニアへ行く、だと?」


 ガレリーナ社のオフィス。

 話を聞いたガレナさんは目を見開いていた。


「ええ。うちの星の生物が地球に影響を及ぼしていたら、放ってはおけませんし」

「ふむ。フェルクルと関わりを持てば国外進出もあるが……。

あまり無理はするなよ。君はゲームの仕事さえすれば、それで十分なのだからな」

「はい」


 今回も、日本で新作ゲームを一つ受け取って来る予定だ。

 それから二人でスケジュールについて話し合い、目標地点を絞っておいた。


 今月はスウィッツが六万台以上売れたので、魔石を六万個、縮小ボックスを六百個購入した。

 荷物を輸送機に詰め込んで、準備は完了だ。


 魔術研究所に向かうと、ガレナさんが準備をして待っていた。


「ニューギニア島の中部だな。今回はしっかりワープさせてみせよう」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 いつもより凛々しい表情を見せるガレナさんに、私は体を預ける事にした。


「では、健闘を祈るよ」


 ワープルームに入ると、私の体を光が包み込んで行った。




 次の瞬間。

 連なる木々が、私の目の前に広がっていた。

 足元は草にまみれ、緑が視界を覆いつくしている。


 完全にジャングルだ。

 一体どこにいるのやら、現状把握から始めるべきか……。

 と、迷っていたその時。


 すぐ近くで悲鳴が上がった。


「ひぃぃぃ!」


 女性が助けを求める声だ。

 私は敏捷の魔術で加速しながら、木々を抜けて進む。

 すると、木の幹に追い詰められた女性が見えた。


「こ、こないで、近づかないでっ」


 怯える彼女にジリジリと近づく獣……。

 いや、巨大な鳥類だろうか。なんかチャコボに似てるね。


 私は急いで女性の前に立ち、自分よりも大きな鳥に向き直る。


「"猛る野生の者よ、その矛を収めよ"」


 私は手をかざし、呪文を唱える。

 これは、野生動物の気性を穏やかにする魔術だ。

 うまく効いたようで、鳥は大人しくなって首を降ろした。

 大きいので危険性はあるが、見た目は可愛らしいね。


「とりあえず、これで大丈夫です。起きれますか?」


 安心させるように女性に声をかけると、彼女は頷いて立ち上がる。


「え、ええ。あなたは、まさか、リナ・マルデリタ……?」

「はい。あなたは、どうして一人で森に?」


 彼女はそれなりに立派な旅装をしている。

 雰囲気的にも、ジャングル周辺に住む人というよりは、都会から来たという感じだ。


「私はキリア・ミラ。ニューギニア警察の人間よ。

このあたりの動物に異変が起きたって聞いて、調査しているの。

ヒクイドリに銃を取られちゃって、危なかったわ」

「ヒクイドリ、ですか」


 RPGでそういう名前の魔物がいた気がするけど、実在したんだ……。


「ええ。この子、若鳥なのにやたら大きいわ。

やっぱり噂は本当なのかしら……。

リナさんこそどうしてジャングルの僻地へ?」

「私もキリアさんと同じで、噂を調べに来たんです。

しばらく私の事は内密にお願いできますか?」

「も、もちろんよ。命の恩を仇で返したりはしないわ」


 それから、キリアさんは逃げた道を戻り、落とした銃を回収した。

 その後、彼女と話をしながらジャングルを進む。


 彼女は、このあたりに居を構える集落に向かう途中なのだという。


 私も同行させてもらう事になった。

 あと、こちらの申し訳ない事情も説明しておいた。


「そう、マルデアの妖精がこのあたりに……」

「はい。もし異常が起きているならば、フェルクルが原因である可能性は高いです。

すみません、迷惑をおかけして」


 頭を下げると、キリアさんは笑いながら首を横に振る。


「いいのよ。リナさんは私たちの地球を助けてくれているんだし。

でも、そうなると噂の信憑性も高まるわね」

「はい、本物の異常事態が起きているかもしれません……。あ、見えましたね」


 木々が開け、人が住む小さな集落が見えてきた。

 木造りの家が並ぶ、素朴な村だった。

 と、入り口に立っていた体格のいい男性が立ちはだかる。


「どこから来た。我らの村へ何の用だ」


 彼は普通のジャケットを着ていたが、腰にはナイフをつけているようだ。

 キリアさんは慣れたように前に出て、警察手帳を出す。


「私はニューギニア警察よ。この村から流れている噂について調査しに来たの。

村長さんに話を伺えるかしら」

「……。入るがいい」


 村に入ると、木造りの家々が並んでいた。

 子どもたちが遠巻きに私たちを見ている。

 キリアさんは村を知っているらしく、迷わず村の中央にある大きな家を訪れた。


「ふむ、客人のようじゃな」


 顔を出した村長は、六十代くらいの男性だった。


「ええ、いきなりで失礼しますが。

この村の周辺で今、何か異変が起きているそうですね」


 キリアさんが訪ねると、村長は顔をあげた。


「うむ。西の森が変わった。

少し前から、動物たちがいつもより一回り、二回り大きくなったのだ」


 やはり、噂は本当らしい。

 迷子のフェルクルは多分、西の森にいる。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 早くもフェルクルが登場してきましたね。 そして思いのほか知的生命体でびっくりしました! まさしく神秘の妖精ですねぇ・・・ここから一気に海外進出できるようになるといいですね! [気になる点]…
[一言] ヒクイドリはマジでやべー鳥だからな‥
[一言] 二人目の地球来訪者がまさかの妖精さん。 しかも割と影響出てて大変だ。 以前にフェルクルの動画を配信してたので 動画見てた人たちが噂の元がフェルクルだと知ったらまたお祭り騒ぎになりますね。
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