第九十七話 ゲーマーの集い (挿絵あり)
100ページ記念のお話です
初日の販売を乗り切った私は、夕方すぐ帰路についた。
実家の裏手に出ると、子どもたちが楽しそうにはしゃぐ姿が目に入る。
「TKわき毛!」
「TKあぶら汗!」
ここでも、謎の必殺技ごっこが流行り出しているようだ。
どれだけ変な名前をつけるか合戦みたいな事になっている。
トビー君は、ベンチでスウィッツを手にしながら困り顔だ。
「スウィッツ版のフェイナルファイツ、だいぶ感じが違うぜ」
「本格的にやるには、やっぱりアーケードがいいわね。でも、練習はできるわ」
彼はカレンちゃんと二人で画面を見つめ、熱心にプレイしていた。
家庭用版は協力プレイが出来るものの、少し操作感などに欠点がある。
やはりフェイナルファイツはアーケードがベストなのだ。
それでも、いくら遊んでもお金が取られないのは大きい。
二人は一つの目標に向かい、練習に励み続けていた。
家に帰ると、お母さんがスウィッツを遊んでいた。
「ねえリナ。この女の子、昔のリナに似てるわね」
今度はマザーズ2に出てくるメインの少女を私に重ねたらしい。
そういうの好きだよね、お母さん。
「お母さん。マザーズ気に入ったの?」
「うん。冒険中もしょっちゅう両親と連絡とってるし、優しいゲームだわ。
リナも寂しくなったら、いつでもママに連絡しなさいね」
「あはは、わかったよ」
母さんは、まだまだ私を子ども扱いする。
でもまあ、未成年のうちはそれでいいと思う。
私は早めに夕食を取り、昨日の分もゆっくりと眠った。
それから数日経った、ある日。
私はある噂を聞きつけ、マルデアの都内某所にある隠れ家のようなお店に来ていた。
ネットで見た情報なんだけどね。
ここ、ゲームファンが集まるバーなんだって。
店長がゲーム好きらしくて、自然とお客さんもゲーマーが集まるようになったとか。
新しく形成されたゲームコミュニティという事で、ちょっと覗いてみたくなった。
そんなわけで、私は店の戸を開けて中に入る。
店内は、静かで大人びた感じだ。
ほんとにゲームの集い場なのだろうか。
私はゲーム界隈ではそれなりに知られているので、一応黒髪に変装してある。
お客さんの生の声を聞くには、ガレリーナ社の立場は隠しておいた方がいいよね。
カウンターに腰かけると、店のマスターが声をかけてくる。
「いらっしゃいお嬢さん。ご注文は?」
「み、ミルクと適当に食べるものを……」
「はいよ」
とりあえず適当に頼んで、私は近くの客に耳を傾ける。
ちょうど、男性客が店長に声をかけているようだ。
「マスター。あっちの方の調子はどうだい」
「熱いねえ。今は『ゼの字』に取り組んでいるが、これもまた凄い。
二つの世界をワープで行き来しながら、謎を解いていくんだ」
「ほう。やはりゼの字は2Dでも素晴らしいか」
客と店長が、何やら楽しそうに会話をしている。
ゼの字とは、ゼルドの事だろうか……。
と、今度はテーブル席で語り合う男女の声がする。
「『聖の字』のクラスチェンジ、迷ってしまうわね」
「ああ。一度変わったらもう戻れないようだからな。
闇の力と光の力、どちらへ進むべきか……。
プレイヤーとしての心を試されているようだ」
あの二人は、聖賢伝承について語っているらしい。
どうもこの店では、タイトルをフルで出さないというのが乙とされるみたいだ。
と、五十代くらいの髭面の男性がカウンターに腰かけた。
「マスター。ダンジョン攻略に合う酒を頼むよ」
「あんまり酔うと、道を見失うよ。『風の字』かい?」
店長が男性のスウィッツを見下ろす。
どうやら、風坊のスレンをやっているらしい。
「ああ。このゲームは思ったより奥が深い。
潜るたびに、毎回ダンジョンの形が変わる。
死んだら、手に入れたアイテムは全て失う。
レベルも1からやり直しだ。
可愛い見た目だが、とんだ難易度のゲームさ」
肩をすくめてみせるおじさんに、マスターは苦笑いだ。
「それはまた、随分とシビアだねえ。
ほんとに攻略できるのかい?」
「ああ。運の要素もあるが、少しずつ進んでいるよ。
歯ごたえは十分さ」
ニヤリと笑って見せるおじさんは、なかなかのハードプレイ志向らしい。
「お嬢さん」
と、おじさんがこちらに声をかけてきた。
「な、何でしょうか」
「君みたいな若い子がわざわざこの店に来たんだ。
ゲーム、するんだろう?」
スッとゲーム機を取り出す男性。
ダンディゲーマーだね。
「ま、まあ。はい」
前世から遊んでる程度には、やってますね……。
「ほう。可愛らしいお客さんは、今何をプレイしているのかな?」
カウンターの奥に立つ店長が、グラスを磨きながら問いかける。
今は『レッド・テッド・リデンクション2』で馬の世話をしてるけど。
さすがにそれは言えない。マルデア人に話すのはまだ早いゲームだ。
「そうですね。友達とボムバーメンをやったりしています」
最近ガレリーナ社では、ボムバーメンの対戦が流行っている。
変わらぬ楽しさは、みんなを笑顔にしてくれるのだ。
「ボムバーメンか。あれはいいね。
その場ですぐ盛り上がれるし、なかなかどうして戦略性もある」
マスターの呟きに、いぶし銀も頷く。
「ああ。短時間で試合が終わるのも、対戦向きだろう。
どうだねお嬢さん、一試合」
と、男性客がスウィッツをカウンターに立て、コントローラを一つ手渡してくる。
これ、NikkendoのCMでやってたやつだよね。
バーでビデオゲームなんてほんとにやる人いるのかと思ったけど、この店ではそれが実現するらしい。
「じゃあ、お願いします」
面白そうなので、私はコントローラを受け取って一緒に遊ぶ事にした。
ボムバーメンは1985年に生まれた作品であり、今もパーティゲームとして愛されている。
私もゲンと一緒に遊びまくったものだ。
パズルのように爆弾でマップを広げながら、友達と対戦で盛り上がれる。
とてもユニークなゲームである。
早速試合が始まり、四角いマップの中に二人のキャラが現れる。
相手を爆弾で倒せば勝利。シンプルなシステムだ。
私はまず周囲のブロックを破壊し、出てきたアイテムで自分を強化していく。
ある程度強くなったら、直接対決だ。
爆弾を何個も設置したり蹴ったりして、おじさんを隅に追い詰めていく。
あちらも厄介な時限爆弾を持ち、私の近くに投げ込んできた。
「はは、やるじゃないか」
「そちらこそ!」
結局私が手数で押し切り、おじさんのキャラクターがぶっ倒れた。
「ああ、やられた!」
おじさんが悔しそうに顔を上げると、マスターが笑う。
「ははは。シルバーさんを倒すなんて。お客さん、なかなかゲーム上手なようだね」
「あはは、結構やり込んでますので」
まあ、ボムバーメンなら二年近くやり込んだよね……。
と、後ろから他のお客さんたちが顔を覗かせる。
「楽しそうね。何をやっているの?」
「ボムバーメンか。僕も相手をしてもらっていいかな?」
ゲーム好きだけあって、彼らは盛り上がる事に目がないようだ。
私たちは彼らのコントローラを足し、四人で対戦を楽しんだ。
みんな、それぞれお気に入りのゲームを見つけて遊んでいるらしい。
「オールスターがみんなに好かれるのは、八つあるうち二、三個は絶対ハマるからだよ」
「そうね。ハズレる事はまずないもの」
語り合うファンたちの声は、今後のソフト選択の参考になりそうだ。
私は心の中でメモを取りながら、お客さんたちとゲームの話に興じるのだった。
ネット以外にも、少しずつゲームのための場所が形成されているようだ。
100ページ記念。sillaさんより、リナファミリー
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