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第二幕

「あーーー!だからそこは違いますよぉ!もっと左、そう、そうです。ってちょっと!どこ触ってるんですかぁ!行き過ぎですよ!乙女の大事なものに気軽に触らないで下さい!ふざけてるんですか!縛りますよ!」


「うるっせーーーーーーっ!もう縛られてんだよ!俺も!五乃色(ごのしき)も!」


「そんなことわかってますよぉ!だから、こうして私の鞄の中を触らせてあげてるんじゃないですかぁ!念願叶って可愛い女の子の鞄の中を漁れて嬉しいのはわかりますが、自重して下さい!」


「そんな念願持ったことねぇよ!捏造すんな!」


「いいから私の指示に従って下さい!早くしないと誰か来ちゃいますよぉ」


「うっ。わかってるっての。でもよ」


俺は背中側に落ちている五乃色の鞄を漁りながら言った。


「ただでさえ見えないのに、さらに縛られてるから結構難しいんだよ」


「だから、私が指示出してるんじゃないですかぁ。鞄が横向きに倒れちゃってるから、龍野(たつの)君の横に這いつくばりながら。ただでさえ鞄の中漁られるのも恥ずかしいのに、その上こんな恥ずかしい恰好までさせて、龍野君は酷い人です。責任とって下さい」


「どっちも自分で言い出したことじゃねぇか」


なんでこんなことに・・・。


俺は天井を見上げ、数分前のやり取りを思い出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「二人で協力?」


ドヤ顔をしている五乃色に問いかけた。


「そうです!私が無理と言ったのはですね、私一人じゃ鞄の中から糸を使うための専用の手袋を取って、手に嵌めることが出来ないからです。でも、龍野君が協力してくれれば話は変わります。私が指示を出しますので、龍野君が鞄の中から手袋を出して下さい。そして、取り出した手袋を龍野君が私の手に嵌めるんです。あ、これは片手だけで十分ですよ。幸い指は固定されてないので、あとは指をちょちょいと動かしたら縄を切れます。どうです?これぞまさに、二人の協力プレーです!」


五乃色がささやかな胸を張った。


まぁ、確かに、俺らの鞄はすぐ傍に放置されてる。


足首を縛られているとはいえ、あそこまで移動するのは転がるなりすれば容易だ。


鞄だってチャックさえつかめればどうにか開けられるだろう。


そこに手を突っ込めば、その専用?の手袋ってやつを取り出すことも可能だ。


あとはその手袋を嵌めない方の指とか床とか利用すれば、時間はかかるかもしれないが着けられないこともないだろう。


うん。


「それ一人でも出来ねぇか?」


俺は今考えた結果を告げた。


それを受けて、ふっと五乃色が虚ろな目で天井を見て笑った。


「私だってそう思ってましたよ。最初は」


「・・・まさか」


その態度を見て悟った。


「もう試したのか?」


しばらく五乃色は黙った後、ぽつぽつと話し出した。


「実は私も龍野君が気絶した後、なんかの薬品を嗅がされて眠らされてたんですよ。気が付いたら知らない倉庫の中にいて、隣には気絶した龍野君がいる。さすがに焦りましたね。早く逃げなきゃ、龍野君を早く病院へ連れて行かないとって。でも、縛られてましたからどちらもできない。そこで、思い出したんです。鞄の中に糸を入れていることを。幸い犯人たちはいないし、鞄は近くに放置してあるし、そこまで転がれば後はどうにかなる。そう思って私は鞄の元まで転がっていきました。そして、鞄のチャックをつまもうとした時に気付きました」


五乃色は一呼吸置いた。


俺は息を飲んだ。


「腕を上げようとしたら肩が痛くて上がらなかったんです」


「・・・・・・・・・は?」


五乃色が何を言っているのか理解できなかった。


「だから、肩が痛くて鞄開けられなかったんですよ。腕固定されてるとあんなに痛いんですねぇ。知りませんでしたよぉ。」


やれやれとばかりに首を横に振った。


何を言ってるんだ、こいつは。


「まあ、痛みのおかげで少し冷静になれましたよ。こんなことより、まずは龍野君の状態の確認だって。なので、すぐに龍野君の傍に行って、声をかけたんです。縛られてたので、それぐらいしか出来ませんでしたから」


五乃色はあはは、と力なく笑った。


俺が目を覚ます前にそんなことをしていたのか。ってそんなことじゃない。


問題はそこじゃない。え、なに?つまりそういうこと?


「えーと、つまり五乃色の体が硬くて一人じゃできなかったってことか」


「酷いこと言わないで下さい!言いがかかりですぅ!私、これでも180度開脚できるくらい体柔らかいんですぅ!縄が切れたら見せてあげます!」


凄い剣幕で言われた。


「うん、180度開脚はすごいと思うけど、いや、俺の言い方が悪かった。つまり、肩周りが硬かったってことだろ」


「うっぐ。えーと、まあそういう言い方は出来るかもしれませんけど」


そうとしか言えないだろ。


俺はため息をついた。俺は今日何回ため息をつけばいいんだろうか。


幸福が逃げちまうじゃねぇか。


っと、それは置いといて。とりあえず、光明が見えてきたな。


「よし、わかった」


「何がですか!私の体が硬いってことですか!それは認識の相違です!」


「ちげーよ!」


どんだけ気にしてんだよ。そこまで気にすることでもないと思うけどな。


「じゃあ、何がわかったんですかぁ!」


「俺が協力すれば縄が切れるってことだよ。五乃色が言ったことだろうが」


「あ」


五乃色の顔が赤くなった。


「いいよ、協力する。どうやらそれしか今は手が無さそうだしな」


「あ、ありがとう、ございます」


ぎこちなく返事をしてきた。


「ほら、そうと決まればすぐ動くぞ。いつ奴らが来るかわかんねぇからな」


「そうですね」


二人で鞄に向かおうとした時、俺は一つの、この作戦の根幹を揺るがす、重大なことを忘れていることに気が付いた。


五乃色瑠璃は俺の学年では有名人である。


その理由は二つある。


一つは彼女が学年一の美少女と言われていること。噂によるとファンクラブもあるとか。改めて考えると凄いものだ。


そして、もう一つ、彼女を有名にしていることがある。それは。


「五乃色、一つ確認なんだが」


「なんですか?」


「その手袋、家に忘れてないよな?」


それは、彼女は忘れ物がとてつもなく多いということだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その後の彼女のあわてぶりは凄かった。


体を揺らして、大丈夫ですぅと何度も言ってきた。


自信がないことが丸わかりだった。


早く探しましょう、早く鞄を開けて下さい、横になっているから見えませんね、鞄を覗き込むので少しずれてもらっていいですか、ととんとん拍子で事が運んだのは楽だったが。


それにしても、この後ろ手で動かすのは確かにきついな。肩甲骨が痛いし、痛めてる首と腹にも響いてくる。


「聞いてますか!その左にある袋、その中に入ってるはずなんです!こんなところで忘れ姫なんてところ見せたくありません!」


そのあだ名、知ってたんだな。


「あっ、それです!今触っている巾着!それを取って下さい」


おっ、どうやら、俺が今触っている袋がそうらしい。


俺は体を動かして、どうにかその袋を取り出す。


「早く開けて下さい!早く私を安心させて下さい!」


自分勝手かこの女。なんか、腹立ってきたな。


手探りで巾着の入り口を探した。


おっ、あったあった。


俺はその巾着に指を入れ、どうにか広げた。


それをいつの間にか俺の背後に回っていた五乃色が、見つめている気配がした。


そして、少し開いた巾着の口に手を入れ、中にあったものを掴み、手を出した。


「それですーーーーっ!」


五乃色が嬉しそうな声で叫んだ。


「良かったですぅ。私忘れ姫なんかじゃありませんでしたぁ。良かったですよぉ」


五乃色が忘れ姫なのは別に揺るがないと思うが。


ひとまず、一つ目の難関は越えた。


「これを五乃色の手に嵌めればいいんだな」


俺は二つ目の難関を確認した。


「そうです。今握ってるのは、えっと、左手のものですね。ちょっと待ってください。今手を向けますから」


五乃色が後ろでモゾモゾ動いている気配がした。


そして、俺の手に、五乃色の手が当たった。


「はい、今龍野君の手に当たっている手に嵌めて下さい。ただ、気を付けて下さいね。普通に触っても大丈夫なようになってはいますが、糸に間違って触れてしまったら切れちゃいますから」


「ただでさえ見えねぇのに、怖いこと言うなよ」


俺は慎重に手袋を嵌め始めた。


少しでも手袋の中に手が入れば後は楽なんだけどな。


指先で手袋の手の入れ口を探った。


見つけると今度はそこを掴み、五乃色が差し出してきた手の先をその中に入れようとした。


何回か上手く入れられずに失敗してしまったが、なんとか入った。


入れたら今度は手袋の中に手が納まるように、掴んでいる手袋の入れ口を引っ張った。

「どうだ?五乃色」


「んー、入ってるんですけど、ちょっと指が上手く入りませんねぇ。そのまま掴んだままにしてて貰っていいですか?ちょっと動かしてみます」


五乃色が手を動かしているのが手に伝わった。


「んっ、あっ、いけそう、いけそうです。・・・きた、ここ、ここです、引っ張って下さい!」


どうやら、上手く指が入ったらしい。俺は一気に引っ張った。指先に入っていく感触が伝わってきた。


「これでどうだ?」


まだ上手くいっていない可能性を考え、指を離さずに聞いた。


「きた!入りました!これで切れますよぅ」


上手くいったらしい。俺は安堵して指を離した。


「それじゃ、ちゃちゃっと切っちゃいますね。よっと」


なにかが風を切る音がした。


「えいっ」


気の抜ける掛け声が聞こえた後、ブツブツッと後ろで音がした。


「やりましたぁ!切れましたよぉ!」


後ろを向いてるからよくわからないが、五乃色の手を拘束していた縄が切れたらしい。


「今、龍野君の手を縛っている縄も切っちゃいますね。じっとしてて下さい」


「了解」


俺は短く返事をした。また風切り音が聞こえた。


そして、ブツッという音と共に、俺の手は自由になった。


俺はゆっくりと腕を前に回し、肩を回した。ずっと固定されていたせいで固まってしまった。


「ありがとな、五乃色」


俺は振り向いてお礼を言った。


「いえいえ、こちらこそですよ。龍野君がいてくれたから、縄を切ることが出来ました。ありがとうございます」


五乃色が可愛らしい笑顔で答えた。


俺も自然と顔が綻んでいた。


そうして、俺たちはしばらく笑い合った。


「さてとっ、早く足の方も切りましょう。こちらに足を向けれますか?まとめて切っちゃいますから」


気を取り直して、五乃色が言った。


「ああ、ちょっと待ってくれ」


俺は自由になった両腕を使い、体の向きを変えた。


両腕が自由に使えるっていいな。


「はい、それじゃじっとしてて下さいね」


五乃色が左手を振るうと同時に風切り音がした。


左手を何回か振るうとピタッと手の動きが止まった。


そして、五乃色が人差し指を引くと、俺と五乃色の足を縛っていた縄が切れた。


「これで完璧に自由です!」


五乃色が顔の前で右手の人差し指をピンッと伸ばし、右目を閉じた。


「そうだな」


後はどうにか逃げるだけ。


そう言おうとした時、不意に声をかけられた。


「あっれー?なんで君たち起きてるの?」


声がした方を向くとそこには、俺を気絶させた茶髪の男が立っていた。


なんとか縄を切ることに成功した二人だが・・・。


突然ですが、作者の誰これコーナー!

今回登場した茶髪さん、当初の話ではいませんでした。

マジで姿形もありませんでした。誰これ?

まぁ、ちょっとある事情により、急きょ参戦という形になりました。

冒頭で茶髪って書いてたモブが大抜擢ですね。

そのある事情は今後書けたら書こうと思います。

彼が今後どういう活躍をするのか、第三幕以降楽しみにしていて下さい。


それにしても、忘れ姫さん(笑)はなんというか。

おかしい、当時考えていたのでは、こんな忘れ姫(笑)なんてキャラではなかった。

ノリと勢いで書くとこうなるんだなぁとしみじみしています。


さて、本日分の投稿は以上になります。

また明日、同じ時間に二本投稿する予定です。


それでは、また明日お会いしましょう。

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