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「スキサケ」体質

作者: 雪見だいふく

私は昔から好きな相手に、「スキサケ」してしまう体質だった。



始まりは12才の時____。


初恋で好きな男子と話したくて近づいたとき、相手がこちらに気づいたとたん、くるっと方向転換をしてしまった。

それから何故か、好きな子と目が合うだけでそらす、話さない、無表情になる、おまけに話せたとしても口調がきつくなって素直になれない。

相手には嫌われていると思われ、嫌な印象を与えてしまっていた。


それは10年経った今も変わらず……。





「めぐー、こっちこっち!」


親友のありさが、私を呼ぶ。

会社帰りに飲みに行こうという約束をして、駅前で待ち合わせをしていた。

都会の喧騒の中で、親友は私に手を振っていた。


「ごめんね、遅れて……」

「だーいじょうぶよー!さ、行きましょ」


ありさは活発な美人で、大人しめの私にとってお姉さんという感じだった。

実際に2個上の幼なじみだし、よく面倒を見てもらっていた。

彼女は私の手を引いて、駅から少し外れた狭い通路の中へ連れていく。


「驚かないでよー、今日は私の会社の人もいるの」

「えっ!」


驚く私を他所に、小じんまりとしたお店に入ると中にはスーツを着た男性2人が座っていた。


「あ、こっち!」


一人の男性がこちらを見て、手を上げる。

ありさは彼らの机へ向かい、私を紹介する。


「この子は私の幼なじみ、めぐよ。可愛い妹のような子だからね!」

「あ…、初めまして。松本めぐと申します……」


初対面でいきなり知らない人に自己紹介をするが、元々人見知りな上、男性が苦手な私は声が小さくなってしまった。


そんな心配を他所に、椅子から立ち上がった1人の男性はにかっと白い歯を見せて明るく自己紹介した。


「宜しく!ありさの同期で、山中 俊介と言います。しゅんって呼んでね」


握手を求めるように手を差し出され、私は軽く会釈をしながら、そうっと手を握る。


もう一人の男性は座ったままこちらを見上げている。


「ほら、お前も紹介しろよ」


俊介が隣の彼に言う。

しぶしぶといった感じで彼は「斎藤 (れん)です」とだけ言った。

彼は活発な印象ではなく、クール系だった。

涼やかな目元は冷たい印象を受けるが、髪の毛が茶髪のフワフワした柔らかい髪質で、それが彼を柔らかく見せていた。

私と同じぐらいだろうか。


そんなことを考えていると、先に料理や飲み物を注文してくれていたのか運ばれてくる。

一旦椅子に座り、乾杯をする。


「めぐちゃんはいくつなの?」

俊介が質問してくる。


「22歳です」

「あ、廉より上なんだね。こいつ、今年で20になったんだよ」


俊介が廉の肩を組む。

廉はうっとおしそうに押し退けていた。

俊介はそれもいとおしいのか、にやにや笑っている。


「こいつ、無愛想だけどさ、可愛いところもあるんだよ」

「そうそう、意外に抜けているしね」


「……二人ともうるさいよ」


俊介とありさが、廉をいじると彼は益々眉間にシワを寄せた。

20歳と思えない程、彼の雰囲気は清廉されていた。

群れない一匹狼といった感じだろうか。


めぐが彼を観察していると、廉と目が合う。


彼もめぐを見つめたので、めぐはぱっとそらした。


ありさと俊介が何かの話で盛り上がっているが、めぐは目の前の料理を頬張る。

その間も廉の視線を感じていた。


(う……。見られている。私がじろじろ見たからかな)


気まずさを感じながらも、めぐは廉を見ないまま二人の話に相づちを打ち、料理を食べ進めていった。





「じゃあ、今日はお開きにするか!廉、めぐちゃんを送っていってやれよ!」


俊介が廉に言うと、私は慌てて断る。


「あ、大丈夫です。ここからそんなに遠くないので」

「ダメ!めぐちゃんを一人で帰させられないよ。大丈夫!廉は信用できる奴だから!」


断る隙もなく、俊介は言い切って勘定をしてくれた。


皆が席を立つと、廉の身長の高さに驚く。

余裕で185㎝はあるだろうか。

めぐは158㎝と平均だったので、彼の肩ぐらいがちょうど目線だった。

細身だと思ったが、立ち上がるとかなり背広が広く大きく見えた。

めぐは背中が広い男性が好きだったので、少しドキドキしてしまった。


俊介とありさが駅の方へ向かい、めぐと廉は二人、店の前で立っている。

何か言わないとと思い、顔を見上げて彼に話しかける。


「あの…、斎藤さん。本当に大丈夫ですので…。ここで…」

「住んでいるところはどこですか」


めぐが送ってもらうのを断ろうとすると、遮るように廉が言った。

送ってくれるつもりのようで、めぐは諦めて住所を言う。


「……近くないですね。というか、僕の住んでいるところもそこです」

「え、そうなんですか」


まさか同じ町だと思わず、めぐは驚く。

廉はこの辺だと思ったようで、煩わしそうにため息を吐いた。

最初はこの辺だと言っていたので、今日初対面の私を送るのが億劫みたい。

態度に出されて、めぐは落ち込んだ。


そのまま徒歩で、二人は駅通りを歩き、やがて閑散した通りに入り、人は二人以外いなくなった。


二人だけの足音が響き、めぐは彼の後ろを歩く。

足の長い彼はめぐよりも、数歩早い。

合わせてくれているのかもしれないが、それでも早い。

めぐは諦めて自分のペースで歩く。

足音が遠くなったのを感じたのか、廉が振り返る。


数歩後ろのめぐを見つめ、めぐは慌てて彼のところまで駆け寄る。


「すみません。歩くのが遅くて…」

「いや…。早かったですね。こちらこそすみません」


廉は素直に謝ると、めぐの歩幅に合わせてくれ隣に立つ。

めぐは緊張して、何も話せなかった。

廉もあまり話すのが好きじゃないのか、無言だ。


また二人だけの足音が響く。



何も話さないままめぐの賃貸に着き、めぐはお礼を言う。

廉は会釈をして立ち去ろうとしたが、めぐをじっと見下ろす。


(……なんだろう)

めぐは頭上から視線を感じるが、顔を上げれなかった。

長い沈黙の後、ようやく廉が口を開いたが予測もしないことだった。


「今度は二人でご飯に行きませんか」


めぐが思わず顔を上げ目を合わせると、彼の真剣な視線とぶつかり慌ててそらす。


「えっと……」

「嫌ですか」

「いやでは……」

「じゃあ、連絡先教えて下さい」


強引に話を進められ、めぐはスマートフォンを差し出す。

彼の連絡先を受け取り、「また連絡します」と淡々と言い残し帰っていった。


「……え」


めぐは呆然としながら、ふらふらと自分の部屋に入った。

どうしよう……。

食事に誘われた……。


めぐは先ほどの出来事を、ありさに報告する。

電話を繋げるとすぐに出る。


「ええ!廉が!?」


ありさはとても驚いていた。


「あの子、女の人に興味ないのよ。あの見た目だからモテはするけど、来るもの拒まず、去るもの追わずって言う感じで自分からっていうのはないんだけど……、どうやって落としたの!?」

「おと!……してないよ……。帰り道ずっと無言だったもん」

「へえ~。とにかく良かったじゃない!廉だったら、めぐを安心して任せられるわ~。遊んでないし、派手ではないしね。まあ、何を考えているか分かんない奴ではあるけど~」

「で、でも……。どうしよう……。ご飯なんて、また何も話さないまま過ぎていくよ」

「だ~いじょうぶ!おしゃれをして、ただ楽しく料理を食べればいいのよ!めぐはよく食べるからね」

「そんな食いしん坊みたいな……」

「当たりでしょ。まあ、気楽にやんなさい。また経過教えてね~」


ありさは言いたいことを言って、電話を切る。

そのタイミングで、廉からメールがきた。


『次の土曜日はどうですか』


短い文章で絵文字もない素っ気ないメールだ。

めぐは悩む。


ご飯だけよね……。


(気楽にやんなさい)

ありさの言ったことがこだまする。


『大丈夫です』


めぐが返信すると、すぐにまたメールがきた。


『では、お昼頃に迎えにいきます』


ランチか。

めぐはほっとした。


『あの、今日は送っていただいてありがとうございました。ゆっくり休んでください』


めぐは返信すると、またすぐに返ってくる。


『僕が送りたかっただけなので、気にしないでください。おやすみなさい』


文章の内容にドキッとする。

めぐはその一文の意味を考えていた。

送りたかっただけ……。ううん!そんな期待はない!ない!


その日の夜は眠れなかった。







~土曜日~


『家の前にいます』

廉からメールがきて、私は慌てて下へ降りる。


玄関の前には廉が立っていた。

長身の彼は何を着ても様になっている。

白いTシャツに紺のパンツで、ラフな格好だ。

彼の目の前まで行くと、彼の涼やかな目元が細められた。


「可愛いですね」


さらっと言うものだから、めぐの頬はかあっと熱くなった。


「あ、ありがとうございます」


めぐは膝丈の淡いグリーンのワンピースに、低めのヒールという格好だ。

柔らかく長い髪は、団子にしてまとめてある。


しばらく廉は、めぐをじっと見つめていた。

彼は人を見つめる癖があるのか、めぐは時々どこに視線をやればいいのか分からなくなる。

めぐを見つめる廉の目は、涼やかではないから。



「あ、あの…。どこか食べに行きましょうか」


いたたまれず思わず口を開くと、彼ははっとしたようだった。


「そうですね。大通りから外れたところに小さな店があるのですが、そこでもいいですか?和食系ですが」

「はい」


彼は本当に20歳に見えない。

女性のエスコートだって流れるようで、お店もめぐが好きな小じんまりとしたところだった。

二人同じ定食を頼み、料理が運ばれてくるのを待つ間、向い合わせで水を飲む。


また無言だが、何故か心地悪くはなかった。

お店の中で流れる静かな音楽に耳を傾け、壁に掛けられているたくさんのインテリアが目を楽しませてくれた。

めぐがキョロキョロと店内を観察していると、廉の視線を感じた。


「あ…、すみません」


めぐの耳が赤くなる。

廉は目元を細め、「いえ」とだけ言った。


料理が運ばれてきて会話は少ないものの、めぐは楽しいと感じていた。

この人のことが好きなのかな___。


めぐはふと思う。


でも好き避けが出てないし、心地は悪くないけど『好き』とは違うのかもしれない。








ランチを終えると、廉は「少し歩きませんか」と言った。

めぐは賛成する。


湖のほとりを並んで歩いていると、廉は急に立ち止まる。

めぐが不思議に思っていると、彼はこちらを見つめる。


「あの、めぐさん。ずっとあなたのことが気になっていました。良かったらつきあってくれませんか」


彼の目が真剣で、めぐの胸は高鳴る。


「え……」

「返事は今すぐじゃなくてもいいです。僕のことを考えてくれませんか」


廉の声が緊張で少し高くなっている。

耳も赤い。

本気が伝わり、めぐの頬も赤くなっていった。


「は、はい……」



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