33. 押し倒した
心から玲香さんとしたいと思ったから言ったのに、とても驚かれた。
「私、今すっごく玲香さんを抱きたいです。……ダメですか?」
「い、いやぁ? ダメじゃない、けど」
「なら、いいですよね。玲香さんも我慢していたようですし、夜もまだまだ長いです。今まで出来なかった分、いっぱい愛し合いましょう?」
「で、でもね? 梓ちゃんも気持ちは初めてでしょう? もう少し余韻に浸れるような体験がいいんじゃないかなって、お姉さん思うなぁ」
玲香さんは両手を上げて『どうどう』と宥めるように言ってくる。
「ほ、ほらっ。前に『初体験はムードが重要なんです』って言っていたじゃない? 私もそれに同意するから、今は違うんじゃないかしら?」
「初日に私を喰った人が言う台詞ですか?」
「うぐっ、そ、それはぁ……」
居心地悪そうに視線を逸らされた。
私とやることに文句があるの? 大好きなのに? あんなに求めてきたくせに、私を拒絶するの? しないよね。だって、私のことを愛してくれるって言ったもん。
「玲香さぁん、私、すっごく悲しかったんですよ? 信じようと思っていたのに浮気するし、相手はお母さんだし、恋人の前で他人を愛しているとか、普通言います? 私の嫉妬を誘っているんですか? 欲しがりですか?」
「いや、あのね? ちょっとお姉さんの話を聞いてほしいなぁ……って思ったり」
玲香さんは目を泳がせて、のらりくらりと躱していく。
うぅん、焦れったいなぁ。
「えっちしたいんですか。したくないんですか。どっちです?」
急に黙り込む玲香さん。
「ん〜?」
顔を覗き込むと、玲香さんの顔は真っ赤に染まっていた。
すごく可愛い。いつもかっこいい美人さんだったから、可愛い一面を見ると萌える。これがギャップ萌え? 最高。
「どうなんですか? 私としたくないんですか?」
「…………したい、です」
「聞こえないですよ」
「したいです」
「本当に?」
「したいです!」
「んふふ〜」
抱きつき、そのままベッドに押し倒す。
玲香さんは何か言っていたけれど、面倒臭い。全部無視だ。強引に服を剥ぎ取る。
…………あれ? なんかこの光景に見覚えがあるな。
でも思い出せない。
まぁいいや。思い出そうがそうでなかろうが、やることには変わりないんだから。
「ちょっ、これ最初の時のテンション! まさかお酒酔ってる!? ちょっと奈々! あなた梓ちゃんに何したの!」
玲香さんは部屋の隅を見て叫んだ。
……ああ、奈々さんも居たんだ。ずっと黙っていたから気付かなかった。
「あ〜、そういえば梓様に嗅がせたやつに、相手の感覚を鈍らせるために多少のお酒が混ざっていましたね。まさか今になって出てくるとは……あはは」
「あはは、じゃないわよ! え、なにあれで酔ったの!? 弱すぎるでしょう!」
お酒に弱い? 玲香さんに言われたくないなぁ。ジョッキ一杯で酔う人が、何を言っているんだろう?
「早く助けなさ、ひゃんっ! 梓ちゃん待っ、助けて!」
「──あ、定時なので帰りますね。お疲れ様でした」
「うそっ、本気で帰るつもり!? 奈々! 朝倉ぁ! あんた絶対に許さないわよ! 後で文句言ってやるから。紫乃にも言いつけ──むぐっ!?」
そろそろうるさいから、喚き散らかす口を塞いだ。
甘い匂いがする。
頭がふわふわして気持ちいい。
……これ、奈々さんのアロマキャンドルと同じだぁ。
「ん〜、これ好きぃ。玲香さんも好き〜」
「──ぷはっ、私も、大好きよ。でもね? そろそろ正気に戻ってくれないかしら? さっきから色々ありすぎて心臓が持たないのだけれど」
「何を言っているんですか? 私は正気ですよ?」
「いや、それは私の知っている正気じゃ、んん!」
「うるさいですねぇ。キスしますよ?」
「もうしているわよね!? もう、あ、ちょ……舌は、だめぇ……! ……はぁ、はぁ……ほんと、これ以上は心の準備が。……梓ちゃんも、疲れているでしょう? かなり危ない状態だったって聞いているし、無理は良くないわ、よ」
まだ抵抗しようとするの?
でも、息切れしているし、いつもと違ってキレもない。
無理しているってすぐにわかっちゃう。本番になると弱いんだなぁ。そんな玲香さんも可愛い。
「うぅ、こんなはずじゃなかったのよ。……二回目こそは主導権を握ってやるって、思っていたのにぃ……」
玲香さんは両手で顔を隠しながら、何か呟いている。
顔が見えない。だから強引に退かした。
「……ふふっ、可愛い」
「っっっ!」
例えるなら、そう。熟れた果実。熱を帯びた真っ赤なお顔。とても美味しそう。食べちゃいたい。ううん、今夜は満足するまで食べる。
「玲香さんの目は本当に綺麗ですねぇ。宝石みたい。私だけの宝石、んふふっ……」
うるうると揺れ動く薄緑色の瞳は真っ直ぐに私を見つめていて、そこに反射する私は悪戯に口元を歪ませていた。私、こんな笑い方も出来るんだ。
視線を合わせる。
こっちからは絶対に逸らさないし、向こうにも逸らさせない。
「ねぇ、玲香?」
「は、ぃ……あ、いや……なにかしら?」
「私のこと、好きでしょう?」
「もちろんよ。何度も言っているでしょう?」
頷いたのを確認した私は、目線を合わせて彼女に一言。
「なら──受け入れてよ」
「……はい、っ……」
強く抱きしめる。
もう絶対に離さないと、心に決めたから。
玲香さんもちゃんと応えてくれた。
それが嬉しくて、何度も何度も唇を啄ばむ。
「好きですよ、玲香さん……ずっと一緒に居てくださいね。ずっと愛してくださいね」
「……ええ、ずっと一緒よ。私も、大好き」
私達は、互いを求めあった。
夜が明けるまで。今まで押し殺していた欲望を全て、吐き出すように。
次回、最終回です。
最後までお楽しみください!




