表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/36

31. 理解ができなかった




 目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。

 もう二度を戻ることはないと思っていたはずの、私の居場所だった部屋。


「…………梓、ちゃん……」


 そして、もう二度と聞くことはないと思っていたはずの声。


 首だけを動かして声のした方向を向けば、今にも泣き出しそうな顔をした朝比奈さんがいた。


「……酷い顔ですね」

「っ、ごめんなさっ、ごめんね。……ごめん、私のせいで……ごめんね」


 瞬間、涙腺が崩壊したように、朝比奈さんの目からボロボロと大粒の涙が溢れ出す。

 何度拭ってもそれは止まらなくて、裾で乱暴に拭いたせいで化粧が崩れてしまい、もっと酷い顔になっていた。


「……ははっ、無様ですね」


 それは朝比奈さんにも私にも向けた言葉だ。



 ──私は、二回も裏切られたんだ。



 朝比奈さんの本当の恋人を知って絶望してすぐ、奈々さんに手を差し伸べられただけで簡単に相手を信じて。


 私って、本当に馬鹿だなぁ……。


 謝るくらいなら、笑ってくれ。

「みんなに騙されながら手のひらで踊るその姿は滑稽だった」と、笑ってみてよ。


 そんな私の荒んだ心に反して、朝比奈さんはずっと泣きながら謝り続けている。私が悪いみたいな気持ちになってくるほどに、何度も。何度も。


 いい加減、何か言ってほしい。

 ずっと泣かれているだけじゃ、わからないから。


「その謝罪は、何ですか?」

「……っ、ぜんぶ、よ……。梓ちゃんをっ、こんな目に合わせたことに、勘違いで悲しませたこと、に……私の勇気が足りなくて、苦しませちゃったことにも」

「勘違い? 勇気? 何を言っているのですか?」


 私は、本当は愛されていなかったと知って、この家から出た。


 朝比奈さん本人が電話で『早苗を愛している』と言ったから。

 ああ、本当に愛する人は別に居たんだなと、悲しくなったから。


 そしたら同情だけで住ませてもらっていることが苦痛になって、今すぐにこの場から逃げ出したくなって、つい感情に任せて色々なことを言ってしまった。


 でも、それが勘違い?


 朝比奈さんは『勇気が足りなかった』と言ったけれど、何が違うの?



「ああ、わかりました。私は、愛人候補だったのですね」


 強く睨みつける。


「新しい人、本当に愛する人を迎え入れる口実を切り出せずにいたら、私が聞いてしまったと。それで私が追い出されると勘違いしたのを否定しようとした」


 ──ハッ、舐められたものだ。


「それで私が許すとでも? 私だけを愛すると言ったあの言葉が嘘だったこと。謝った態度で全部許せるとでも?」


「違うっ!」


 朝比奈さんには珍しい大きな声だったから、驚いた私は口を止めた。


「私の話を聞いて、お願い……」


 左手を握る朝比奈さんの両手は、小さく震えていた。

 ぎゅっと強く握られて、少し痛い。


「私は、早苗を愛している。……愛していたわ。心から」


 その言葉を聞いて、ああやっぱりなと息を吐き出した。


 あの時、電話で言っていた言葉は嘘でも勘違いでもなかった。

 せめて、それが私の『勘違い』であったなら、どれだけ嬉しかったことか。


「でも、もう彼女はいない。12年前、あの人は二度と戻って来なくなったから。交通事故でね。呆気なく私を置いて逝ってしまった」


 交通事故と聞いて、他人事とは思えなくなった。


 私の両親もそれで死んだ。朝比奈さんの愛していた人と同じく12年前、交通事故で私を置いて……12年前に、交通事故で?




「私の愛した人は早苗。旧姓は倉橋。今は──六条早苗」

「………………え……?」


 頭に雷が落ちたような衝撃だった。


 どうして、今まで忘れていたんだろう。


 早苗は、私のお母さんの名前だ。

 12年ぶりに聞いた、お母さんの名前だったんだ。



「それ、って……」

「私はずっと、あの人に片想いをしていた。私達が出会ってからずっと、この想いを打ち明けられずに、あの人は本当に愛する人と結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築いて……死んでしまった」


 朝比奈さんは当時のことを思い出すように、遠くを見つめていた。


「その時、私は海外にいたわ。早苗が死んだと聞いてすぐに駆け付けたけれど、すでにあの人達は埋葬されて、何もかもが終わった状態だった」


 私は混乱していた。朝比奈さんはお母さんを愛していて、でも死んじゃったからその想いは叶わないままで、今は私が朝比奈さんの恋人?



 ……はっ、何それ。意味わからない。



「梓ちゃんだけでも引き取ろうと考えたけれど、その時はまだ……貴女の全てを見守るほどの覚悟がなかった。私は海外を飛び回っていたし、まだ幼い子供に必要な愛情を注ぐことは出来ない。だったら他の家に引き取られたほうが幸せだって、自分に言い訳をして……梓ちゃんをこんなにも、苦しませてしまった」





いいところですが、長くなってしまうので今回はここまで。また次回をお楽しみに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの展開!!続きが気になりすぎます!待ってまーす!
2020/05/25 17:58 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ