23. 求婚された
──これでも、貴女には感謝しているのですよ?
そう言って微笑む。
「……………………」
あ、あれ? 返事がない?
すぐに「梓ちゃんっ!」と抱きついてくるのかと身構えていたのに、何もないと逆にこっちが恥ずかしくなってしまう。
……なんか、期待していたみたいじゃん。
少しでもいいから反応をくれと強く願ったら、肩をガシッと掴まれる。その勢いに驚いて変な声が出たけれど、朝比奈さんはそれが耳に入っていないみたいだ。
「結婚しよ」
「はい?」
ようやく言葉を発したと思ったら、とんでもない発言が飛び出した。
「──はっ!? つい本音が!」
「いや、それはそれでダメでしょう」
本音が「結婚しよう」って……いや、確かに私達は恋人だけど、そこまで行くと流石に法律の問題がある。
なら海外で籍を入れようって言われそうだなぁ。朝比奈さんだもんなぁ。絶対にやるだろうなぁ。……だって、朝比奈さんだもんなぁ。
「梓ちゃん!」
「はい」
「絶対に、幸せにするからね!」
「ありがとうございます」
今更、彼女の気持ちを疑うようなことはしない。
朝比奈さんは本気で私のことを大切に思ってくれて、本気で私を恋人として見てくれている。……後は私がそれを受け入れられるかどうかの話だ。
でも、やっぱりそう簡単に受け入れられない。
今まで愛を貰えたことはないから、まだ困惑の方が大きい。だから朝比奈さんの気持ちに応えることは出来ない。嬉しいけれど、このまま身を捧げるのは──。
「まだ、梓ちゃんは迷っているのね?」
「…………はい。ごめんなさい。朝比奈さんの気持ちは嬉しいのに、どこかそれが他人事のように思えてしまって、まだ答えは……出せません」
朝比奈さんは一瞬、悲しそうに表情を暗くさせた。
でも、それは本当に一瞬のこと。
すぐに笑顔を浮かべ、正面から優しく抱きしめてくれた。
「待っているわ。梓ちゃんの気持ちが固まるまで、いつまでも……。永遠に愛を捧げるし、いつまでも幸せをあげる」
「朝比奈さん」
「だから、遠慮せずに言いたいことは言ってちょうだい? 私は全知全能じゃない。言われなきゃわからないこともあるから。勿論、私も言いたいことはあるし、お願いしたいこともある。一緒にやっていきましょう? 私達は、恋人なのだから」
「……朝比奈さん」
誰かに強要されるのではなく、答えを急がされることもない。
私の気持ちが確かなものになるまで、朝比奈さんは待ってくれると言ってくれた。それがどれだけ嬉しくて、どれだけ助かっているか。
「ありが」
「──ということで早速のお願い。梓ちゃんともっとキスしたいの」
……………………はぁ。
「寝言は寝てから言ってください」
急に気持ちが冷めたので、ぺいっと朝比奈さんを引き剥がす。
折角良い雰囲気だったのに、余計なことを言ったせいで全部台無しだ。
「おかしいわね。梓ちゃんの好感度は充分に上げたから、断られることはないと思っていたのに……」
朝比奈さんは真剣な面持ちで、そう呟いている。
確かに、彼女の方から迫られたら断ることはないと思う──って、何を言わせるんだ。私が言いたいのはそういうことじゃなくて、ムードを大切にしてほしいということだ。
初めては良い思い出にしたい。
そう思うのは恋人として普通のことだと思うから。
「下らないことを言っていないで、お風呂にでも入ってきたらどうですか? ちょっとだけ臭いですよ」
「えっ! 嘘でしょう!?」
途端に焦り始めて、身体中を嗅ぎ始める朝比奈さん。
そこまで真に受けられるとは思わなかったけれど、少しだけ酒臭いのが抜け切っていないのは本当だ。
「お風呂を沸かしておきますから、早く入って来てください。まだ頭が痛いんでしょう? サッパリすれば、少しは気持ちも楽になるのではないですか?」
「ええ、そうするわ──あっ!」
何かを思いついたように、朝比奈さんは両手を合わせた。
……なんか、嫌な予感
「梓ちゃんも一緒に入りましょう?」
ほらきたぁ。
「いや、私は後でで」
「そう言わずに! ほら行くわよ!」
「人の話をですね、あ、ちょ……引っ張らないでぇ……」
どうして急に力が強くなるんですかぁ。
ああ、もう……どうにでもなれ……。




