見つかったと思ったら・・・・・・?
『あっ死んだ』と思った。
部屋にいるはずの赤ずきんが違う場所にいる。
しかも、誰かの部屋。
逃げようとしたと思ってもおかしくない。
シスターに報告されたらヤバイ。
「赤ず・・・」
「おしっこ!」
「えっ」
何か言おうとしたシャルロットにかぶせるように言った。
おしっこってなんだよと、自分でも思ったが、驚いた顔をして固まっているのを見て、意識を逸らすことができていると感じた。
「トイレ行きたい」
「こっち!」
もう一度言うと、はっとした顔をして手を掴んで部屋を出た。
手を引かれて走る。
途中誰にも出会うことなく、孤児院の外にあるトイレまで連れてこられた。
ゲームと同じ、木でできた小さな建物。
「外で待ってるから、終わったら言いなさい」
少し息を切らしながら言われた。
どうやら、赤ずきんの方が体力があるようだ。
足の速さはわからないが、逃げる時の参考になるかもしれない。
頷いてトイレの中に入る。
木でできた足場に、深い穴が掘ってあるだけの昔のボットントイレだ。
トイレットペーパーは無く、葉っぱが入った小さい籠があった。
一人になって頭を抱えた。
『一人でできるもん』作戦で食堂に行ってもらったのに、次会ったら、『おしっこ』だ。
動揺していたとしても無い。ホントに無い。
『赤ずきん』は無理だと思われて、代わるように言われるかもしれない。
そうなったら、撲殺決定。
「(ありがとうございません! 無理!!)」
声に出さずに、心の中で絶叫する。
どうするか考える。
ゲームのストーリーが頭を駆け抜ける。
何も思い浮かばない。
もう、開き直ろう。
押し通そう。
シスターに話しかけて籠をもらおう。
おばあさんの家に行こう。
シャルロットに何か言われても、いや、何か言われる前におばあさんの家に行くことを言おう。
開き直った私は強いとよく言われていたんだ。
うまくいくはず。
・・・・・・誰に言われたっけ?
「えっ、待って、えっ」
動揺から小さな声が出た。
慌てて両手で口を押えた。
誰に言われたか思い出せない。
言われた事は覚えている。
だが、誰が言ったのか。
相手の顔も名前も思い出せない。
――そもそも、私は誰?
どうしてこうなった・・・・・・。