知りたくなかった
言われた通りに冷やしながら、まだ手に入れていない籠について考えた。
籠を手に入れるには、いばら姫のいる国に行かなければならない。
そこで、いばら姫を救出し、力を合わせていばら姫の悪魔を倒す。
そうすることで、いばら姫のいばらで作られた籠をもらうことができる。
しかも、いばら姫がお助けキャラとして力を貸してくれる。
狼を倒すためには、お助けキャラの力は必要だ。
ふと、お助けキャラで思い出す。
赤いずきんを手に入れているなら、その過程で裸の王様に会っているはずだ。
ならば、もう彼の力を借りることができるはず。
勝算が見えてきた。
問題の武器さえ手に入れば、なんとかなるかもしれない。
「持って来たわよ」
入って来たシャルロットの手にはお盆があった。
お盆の上には、黒パンが一つと、肉と野菜が入ったスープがあった。
お盆もそうだが、皿もスプーンも木でできていた。
「お肉」
「お肉がどうしたの?」
「入ってる」
「当り前じゃない、今日はあなたの特別な日でしょ」
待ってほしい。切実に待ってほしい。
孤児院は貧しい、普段は肉なんて食べることができない。
そのため、赤ずきんの子がおばあちゃんの家に行く日にだけ、特別な日として肉が入ったスープが出されるという設定だった。
ゲームでも、ボス戦前の孤児院での食事シーンででてきた。
聞くしかない。
気持ちが焦る。
落ち着けと、心の中で言い聞かせる。
中身が私だとばれないほうがいいだろう。
口調が悪くならないように、ゆっくりと慎重に赤ずきんの口調を意識して言う。
「籠が見当たらないの。知らない?」
「何を言っているのよ。籠はシスターが用意しているわ。ここにあるわけないでしょ」
籠がすでにあった。
しかも、用意されていた。
「このお洋服は?」
後頭部を冷やしていないほうの手で、服を少し掴んで見せるようにして聞く。
まるで似合っているかどうか聞かれたと、思ってもらえるように。
「ずきん以外は手直しできなかったから、
少し大きいけど、変じゃないわよ」
手直しと言うことは、お下がりだろうか。
つまり、ずきんも籠も自分で用意していない。
お助けキャラなし。
しかも、今日が狼との闘いの日だった。
タンスの上にお盆を載せて、こっちを見た。
「ねぇ、『赤ずきん』代わりましょうか?」
知ってる。それは死亡フラグだ。
「いくら奉公先からの指名とはいえ、あなたはまだ8歳でしょ。
本来なら10歳の私が『赤ずきん』に選ばれるはずだった。
奉公先には、あなたが10歳になるまで待ってもらうようにお願いすればいいし、
私のほうが優秀なのよ。代わってもらうようにお願いしましょう」
ゲームでも、おばあさんの家に行く前にシャルロットに同じことを言われる。
ここで代わってもらうとバットエンド。
シャルロットは、おばあさんの家に行き、狼食い殺される。
そして、主人公はシスターと村人達に生贄のことを知られたと判断され、集団リンチの後殺される。
断って回避しないとやばい。
ゲームでなんて言って断った。
必死に思い出す。
「大丈夫だよ。シスターが私ならできるって言ってくれたの。それに、おばあさんも奉公先の人たちも、私を待っていてくれてるから、私行きたい。」
「そう」
「心配してくれありがとう。黒子のお姉ちゃん」
「別に心配なんてしてないわよ。ただ、次の赤ずきんは私だから、私が幸せになる邪魔をされたら困るからで」
顔を赤くして、少し目を潤ませて言い訳をしてくる。
可愛いが、それどころではなかった。
お助けキャラなし。
武器なし。
8歳の女児の体。
助けを求められない状況。
完全につんでる。
現実はいつも非常