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気がつけば・・・

 眠たい。でも頭が痛い。

 正確には枕に接している後頭部が痛い。

 眉間にしわが寄るのを感じる。

 痛いけど、まだ寝ていたい。

 目を開けることなく、後頭部を枕に触れないように、寝返りを打って左側を下にして横を向く。

 頬にゴワゴワとした感触がした。


「ん?」


 いつもと感触が違う。

 自分の枕ではないのだろうかと疑問が浮かぶ。

 では、自分の枕は?

 目を閉じたまま、枕を探そうと、右手を枕元まで上げる。

 人差し指と中指で何かを挟んでいることに気づいた。

 挟んだものを落とさないように、手を動かして感触を確かめる。

 タバコっぽい。

 そういえば、火を消していただろうか?


「やっべー!! 火!!!」


 叫びながら飛び起きた。

 手に持っていたタバコを見た。

 先が押し潰れて火が消えていた。

 息を吐いて安堵するが、右手を認識して固まった。


「手が小さい」


 つぶやいた言葉は幼い少女の声をしていた。

 左手も見てみるが、小さく明らかに子供の手だった。

 正面の方から布がこすれる音がした。

 見ると、金髪の女の子が目をこすりながら、ベットから体を起こしていた。


「うるさいわね」


 女の子が迷惑そうに顔をしかめてこっちを見た。

 咄嗟に右手を布団の中に入れてタバコを隠した。


「ごめんなさい」


 咄嗟に申し訳なさそうにして謝った。

 状況は分からないが、しおらしくしておけば、文句は言われないだろう。

 どこかで見たことあるようなと考えながら見る。


 胸元まである金髪。

 青い目。

 左目の目尻にある泣き黒子。


 女の子はベットから降りて靴を履いた。


 大きな半袖のシャツ一枚。

 ワンピースを着ているような状態になっていた。

 つい、足に視線がいく。

 靴をよく見ると、布で作られたものではなかった。

 何かの皮で作られたものだろうか。

 靴に関する知識はあまりないため、よくわからないがデザインが古いと感じた。


 女の子は視線を気にすることなく、自分が寝ていたベットの隣にあるタンスを開けた。

 中から洋服を出すと着替えだした。


 ワンピースのようだが、文字がプリントされていたり、ワンポイントがついていたりしない。

 無地の物だった。

 少しくたびれていて、何回も着たことが窺えた。


 同性とはいえ、躊躇なく着替えだしたことから、この子は私を知っている。

 しかも、ある程度の信頼をしていることが予想できた。


 着替えが終わり、着ていたシャツを畳んでベットの上に置くとこちらを見た。


「ちょっと、いつまでそのままでいるつもりよ。

 早く着替えなさい」


 とりあえず、黙って頷いておく。

 私が頷くのを見ると、女の子は一本の紐と櫛を持って部屋を出て行った。



「この状況の説明を求めます」


 切実な思いが口から出たが、説明などあるはずがない。

 声は変わらず少女のものだった。

 後頭部の痛みが、現実であると訴えているようで腹が立った。


「くそ!」


 苛立ちのまま、とりあえず言われた通り着替えることにした。

 さっきの女の子のように、ベット下に置いてある靴を履く。


 革靴だった。

 おまけに新しいのか硬い。

 ベットの下を覗いてみたが、他には見当たらない。

 これしかないようなので仕方なく履く。スニーカーが欲しい。


 ベットの隣のタンスを開けて、中に入っていた服を出す。

 飾りっ気のない、質素なエプロンドレス。

 ゴムの代わりに紐で結ぶようになっている靴下。

 2本の紐。

 コートのように丈が長い赤いずきん。


「あ?」


 見覚えがあった。

 と言うか、さっきまで画面越しに見ていた。

『めざせ! ハッピーエンド』の『赤ずきん』の衣装だった。


「あ!」


 思い出した。

 女にテレビの中に引きずり込まれたこと。

 心霊現象に遭遇した恐怖よりも、怒りがわいた。


「あのくそ(アマ)!」


 怒りのままに声が出る。

 改めて部屋を見る。

 ゲーム内の赤ずきんの部屋そのままだった。


 直前までしていたゲーム。

 縮んでいる体。

 いや、自分の声とは似ても似つかないから、別人になっていると考える。

 そして、『赤ずきん』の服。

 よく二次創作である話。

 非現実的な話だけど、『赤ずきん』になってしまっていると考えていいかもしれない。



『赤ずきん』の主人公は、8歳の孤児。

 生まれてすぐ捨てられ、孤児院のシスターに拾われ、他の孤児の女の子たちと幸せに暮らしていた。

 そこの孤児院の女の子たちに名前はなく、三つ編みちゃんや、金色ちゃんなど仮名で呼んでいた。

 10歳になると、赤いずきんをかぶって森の中にあるおばあさんの家へ行くことになっている。

 そこで、おばあさんに働くために必要な知識などを教えてもらい、名前を付けてもらう。

 そして、奉公先へ行って幸せに暮らす。


 と言うのが、主人公や女の子たちが聞かされている話だが、本当は違う。


 孤児院は、村の人たちが自分たちに悪魔からの被害がこないようにするために、悪魔用の生贄を育てるための場所。

 孤児の女の子たちも、生まれてすぐ売られてきた子たち。

 主人公は、赤ずきんになった子たちから手紙がこないこと。

 奉公先でお休みをもらえたら会いに来てくれると約束したのに、誰も来ないことに不審に思ったことがきっかけで村の人たちやシスターのことを探る。

 だが、それを感づかれてしまい、次の赤ずきんに選ばれる。

 怪しまれているのに気づいて、選ばれて嬉しそうに振舞ったり、健気に自分で赤いずきんや籠を用意したりして誤魔化す。

 すると、その過程で生贄だということに知って、生き延びようと武器を手に入れたり、他のキャラクターの力を借りたりして、最終的には悪魔である狼と戦い勝ってハッピーエンドになる。



 今の自分がゲームの中の『赤ずきん』であり、赤いずきんが今ここにあるなら、武器も入手済みだろう。

 赤いずきんを手に入れる過程で一人のキャラクターから力を貸してもらっているだろう。

 籠が見当たらないから、籠を手に入れに行く前かもしれない。


 ゲーム通りにクリアすれば、元に戻るだろうと考えて落ち着く。


 元に戻るために動こう。

 着替えると、コスプレをしている感じてして少し恥ずかしくなるが、

 元に戻るまでだと自分に言い聞かせる。


 スカートの長さがふくらはぎの真ん中あたりまである。

 赤いずきんは、スカートより少し長い。

 靴下の長さも太ももまであり、止めるための紐も長く、邪魔になるので、太ももで一周させて縛った。

 着れないことはないが、ずきん以外大きい。

 半袖なので袖が邪魔にならないのが救いだった。


 服を間違えたのかと思ったが、他に入っていなかったのを思い出してこれでいいのかと納得することにした。


 布団の中に隠していたタバコを取り出す。

 着ていた服がないのに、これだけあるのは不思議だが、布団の中にいつまでも隠しておくわけにはいかない。

 とりあえず持っておいたほうがいいだろうと、ポケットを探すがなかった。

 仕方ないと思って、左足の靴下に挟んで隠す。

 他にも子供がいるだろうが、ここには女の子だけ、スカート捲りをするようなバカはいないと思いたい。

 鞄を手に入れるまではここに隠しておくことにする。

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