ゲームしてただけなのに
見切り発車の連載。
いろいろやべえ。
コントローラーを握る手に力が入る。
みしっと音がなったが、気にせずボタンを連打する。
テレビの中の赤ずきんが、それに合わせて猟銃でボスキャラの狼を撃つ。
「あっ」
攻撃を受けた。
ライフが残り20%をきった。
「やばい、やばい、やばい、やばい、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ」
攻撃を受けないようによけ、こっちの攻撃が届くぎりぎりまで離れて、打ち続ける。
必殺技のゲージが溜まった。
気づいてすぐにボタンを押して必殺技を放つ。
『私は負けない!』
赤ずきんが、猟銃をしまい、マシンガンを出す。
一気にボスのライフを削り、勝利した。
コントローラーから、右手を放して小さくガッツポーズをする。
「よっしゃー!」
赤ずきんルートのエンディングが流れる。
エンディングが終わって、ENDの文字が映る。
ボタンを押して進む。
『童話の本に赤ずきんが追加されました』
『対戦モードで赤ずきんが使用可能になりました』
もう一度ボタンを押すと、タイトル画面になった。
タイトルの文字と一緒に13人のキャラクターが映る。
『めざせ! ハッピーエンド』
悪魔のせいで不幸になる運命にある主人公たちが、悪魔を倒し、幸せを手に入れるというアクションゲームだ。
ストーリーはありきたりだが、童話をモチーフにした魅力的なキャラクター達。
豪華な声優陣。
漫画化やアニメ化され、小さい子供から大人まで虜にしている。
私は好きなサークルが同人誌を出すまで興味がなく、ゲームも漫画もアニメもスルーしていた。
だが、一冊読んだらはまった。
同人誌はもちろん、ネットでイラストや小説。
『めざせ! ハッピーエンド』の二次創作物を読みまくった。
と言うか、二次創作しか読んでいないし、見ていない。
ゲームも苦手だから、買ってもらうまで自分から進んでしようと思わなかった。
慣れないゲームをして少し疲れた。
コントローラーを床に置く。
胡坐を組んでいた足を解いて投げ出す。
ポケットに入れていたタバコの箱とライターを取り出す。
箱からタバコを一本口にくわえて、火をつける。
出したものをポケットになおして、吸い、煙を吐き出す。
「あ~」
煙が体にしみてうっかり声が出る。
他のキャラクターでストーリーをクリアしようか。
それとも、ゲームを一旦やめて、同人誌でも読もうか考える。
ちらりと、左側の壁にかかっている時計を見る。
もうすぐあいつが帰ってくる。
帰ってきてから何をするか考えよう。
右手の人差し指と中指でタバコを挟んで口からはなす。
左足の足首を何かにつかまれて、引っ張られた。
「は?」
ろくに反応なんてできず、そのまま仰向けに倒れる。
床に頭をぶつける。
「!!!!!」
痛みに声にならない声をあげ、身もだえながらも、
火事になったらやばいと、右手に力を入れてタバコの火を床や自分に向かないようにする。
こちらのことなど知らないとばかりに、ずるずると引っ張られる。
左足に触れるものが増えた感触がした。
「何?!」
痛みに怒りを感じつつ声を上げ、足を引っ張っているものを見る。
テレビのゲーム画面が消えて、黒くなっていた。
その黒い中から、黒髪の女が上半身を出して髪を私の左足に絡めて、
両手でつかんでいた。
「ホラアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
有名なホラー映画が一瞬頭をよぎり叫んだ。
抵抗しようとするが、引っ張られる力が強い。
足をつかんだまま、女はテレビ画面の中に戻っていく。
「放せ! ホラーに需要はございません!!
他所に行け!!! 帰れ!!!!」
混乱しながらめちゃくちゃに叫ぶ。
指先が画面に飲み込まれた。
泥の中に入れられたような、何とも言えない感触がした。
「キモい! 放せって言ってんだろ!!!!」
足をつかんでいた女の左手の親指の付け根あたりに、
持ったままだったタバコで根性焼きをした。
「熱い!」
女が叫んで手を放し、勢いよく画面の中に戻っていった。
「やった!」
手が離されたことに喜んだが、髪の毛は足に絡んだままだった。
そのまま勢いよく、一緒に引っ張られてしまった。
画面の中に全身のまれた。
引っ張られる前に声を出したせいで、開けっ放しになっていた口から息が漏れる。
呼吸ができない。
体が動かない。
このままだと死んでしまう。
『助けて』
どこからか女の子の声が聞こえた。
こっちが助けてだわ。
最後にそう思って意識を失った。
幽霊?相手に根性焼きしやがった。