死にたい僕と生きたい彼女。
今書いている小説の次に連載ものとして、公開しようと思っていたお話です!
今書いている小説がかなり長くなりそうなので、短編で公開します!
暇つぶしに読んでください!
「死にたい。」
誰もが一度は口にした言葉。
僕も言った。
「死にたい。」
色んな「死にたい。」があるんだろう。
冗談で。嫌な事があって。恨んで。
僕の「死にたい。」は本物の「死にたい。」だ。
今日、自殺をする。
飛び降りて死んでやる。
僕は「死にたい。」のだ。
僕を止める人はこの世に居ない。
そう思っていた。
彼女と会うまでは。
「何してるの」
聞こえる声。後ろからだ。
「君は、誰?」
見知らぬ人。髪は長い。少しだけボサボサ。
色は、白髪。瞳は赤色。
だけど多分、僕と同い年くらいだ。
「私は、自殺しようとする馬鹿を止めに来たの。」
いきなりそんなことを言ってくる。
「は、なんだよ、お前。」
「命を無駄にするな。」
彼女の瞳はただ真っ直ぐ僕を見つめていた。
その赤色の瞳は希望を求めている。
それと同時に僕は気づく。
彼女の服装は、入院している人の服装だと。
「私は、生きたくても生きれない。あんたは違う、死ぬことも生きることも選択出来る。」
「.......え。」
彼女は続ける。
「あんたが死ぬなら、私はどうして生きれないの。」
そんなの知るか。
お前の生きる生きないなんてどうでもいい。
そう言おうとしたのに、彼女の瞳から何故か目が離せなかった。
「どうせ、くだらない理由で死にたいなんて思ってるんでしょうね。」
「......っ!お前、僕の何を知ってそんなことを.......っ!!」
頭にくることを言われた。
頭に血が上る。戻る様子はない。
「あんたは、「生きたい。」人の何を知って「死にたい。」と言っているの?」
「...........っ!」
死にたいなんて言うのは簡単に言える。死ぬのも簡単に出来る。
でも、もし、彼女のように生きたい人がいて、生きれない人が何人も居るとしたら....。
考えるだけで寒気がした。
その重さはどれだけのものなんだろう。
「僕は........」
「私は、一週間後に死ぬの。」
「え...........」
急に言われた言葉。
彼女は涙目で話す。
「今日、余命を言われたわ。私、知らなかったの。家族は半年前から知ってたのに、私本人には教えてくれなかった。」
「...........」
何かの病気なんだろう。
瞳が赤いのは、酷く充血しているからだったなんて言うのも、知りたくはない。
「私はっ.....、私は「生きたい」!!!!「生きて」最後まで、人生を送りたかった.......っ!!」
彼女は、病院の屋上で叫ぶ。
僕の足は、一歩下がる。
「「生きたかった」!!!!」
叫び続ける。涙も溢れて。
悲痛だ。
聞いているだけで気持ち悪くなる。
『お母さん、「生きたかったの」。』
聞こえるのは、昨晩亡くなった母の声。
癌で亡くなった。まだ若かった。
苦しかった。悲しかった。死にたいと思った。
でも、もし、お母さんも彼女のように「生きたい」と願っていたら。
僕は、何をしていたのだろう。
両手を見る。震える。全身に何かが走ってきて、異常な動きをしている。
日に日に笑顔を亡くしていく母親の顔を見ていられなくて、辛かった。
お父さんは、居ない。逃げたのだ。辛い現実から、「自殺」という方法で。
僕も同じことをしようとした。
僕には、お母さんもお父さんも居ない。
それでも、生きようなんて思えない。
「死にたくない、死にたくなんて、ないのに........!!」
彼女は頭を抱えた。
目の前が、モノクロになって僕を呑み込む。
深く、意識は遠のく。
病院の屋上。風は心地良い。
夕暮れの太陽が僕を照らす。
僕は、足をわざと踏み外す。
彼女は、僕を追いかける。
体はコンクリートに向かう。
最後の一瞬、彼女は僕を抱きしめた。
意識が戻った頃には、彼女は死んでいた。
僕を庇って死んだ。
僕は「生きること」ができない。
彼女は「死ぬこと」しかできない。
僕が欲しかったのは「生きる理由」。
彼女が欲しかったのは「人生」。
だから、
「生きる理由」が無いなら作ればいい。
「人生」が無いなら存在させればいい。
そう思った。
彼女なら、僕が死のうとしたら身代わりになってくれると。
僕は、彼女の「人生」を。
彼女は、僕に「生きる理由」を。
互いに託し、死んで、生きた。
と言うのは、僕の想像であり、フィクションである。
彼女が本当にそうしたかったかは分からない。
でも、「僕を生きらせる」事は彼女がこの世で生きていた証拠になるから。
彼女の分まで生きることが僕にとっての「生きる理由」になるから。
一週間早く訪れた死に、彼女が怒らないで欲しいとだけ思って、僕は大人になる。
命二つを抱えて。