6:怒らせてはいけない
—ガタッ
「……さっきから聞いてればくだらないことで喧嘩して
こっちの夕食が不味くなるでしょうが。」
「…さ、紗希?」
「零? そんなに妖力を出して消費したいなら、
消費してあげるよ。」
「あ…奏くん、能力を使って影を柚葉たちに展開できるかしら?」
「できますけど……」
奏が不思議そうにお母さんの顔を眺める。
「今すぐに展開して、影の中に30秒くらい入れるようにしてほしいの。
理由は聞かないで。ほら。」
お母さんは少しだけ焦ったように奏に能力の展開を急かせる。
奏は疑問に思いながらも、展開して自分を含めた4人を
影で囲った。
「……ほらほら、逃げなくていいんだよ?」
「紗希? 落ち着け。」
「大丈夫、私はいつでも落ち着いてるわよ。
妖力を消費させてあげるから、観念しなさい?」
紗希さんのその言葉を聞くと、零さんの声が
ぱったりと聞こえなくなった。
そして、約束通り30秒が経って奏が影を消すと
紗希さんは普通に夕食を食べていて、
その足元で零さんらしき妖狐が転がっていた。
「なにがあったの?」
「まだ柚葉たちには早い事よ。ふふふ。」
「あぁ、そうだ。」
お母さんたちに理由を聞いたけど、はぐらかされてしまった。
知られたくないなら…いいか。
それから、恒例になっている喧嘩が終わって
私達は学校であったことを話しながら、夕食を食べた。
そして、私は紗希さんを怒らせてはいけないと
心に刻んだ。理由は、何をされるか分からないから。