5:楽しい夕食
私達が全員、席に着くとリビングのドアが開いて
メガネをかけたお父さんが入ってきた。
「お、出来たのか。」
「お父さん、ただいま。」
「おかえり、澪。今日の見回りはどうだった?」
「…うーん。いなかったけど、奏が不気味だって。
あと、ちゃんと結界は張ってきたから大丈夫だと思う。」
「そうか。」
—ピンポーン!
お父さんが納得したような声を出すと、
インターホンが鳴った。
(こんな時間に誰だろう。
まぁ、なんとなく予想は着くんだけど…。)
「翔ー。」
「また、お前か……ったく、料理できんだから自分で作れよ。
何度でも、梓紗のメシを食おうとするんじゃねぇ。」
「いいじゃん、別に。人数は多い方が楽しいだろ? な? 紗希。」
「…ん? うん、そうだね。」
紗希さん、絶対、話を聞いてないよね。
ま、紗希さんらしいけど…。
お父さんが今、話している零さんと紗希さんは
奏と響の両親で、紗希さんは今、ちょっと有名になってる小説家。
だから、基本自分の部屋からは出ないらしいんだけど
こうして夕食の時間になると零さんに手を引かれてくることが多い。
「ふふ、いらっしゃい。れいくん、さっちゃん。
翔は座って。皆で食べた方が楽しいでしょ?」
「それもそうだが…梓紗に負担がかかるだろう。」
「いいのよ、高校からだから慣れたわよ。
それに二人の子供もいるんだし。」
「そうか。」
お父さんは腑に落ちない様子だったけど
お母さんに説得されて渋々、納得したらしい。
私の両親の会話にも出て来たけど、両親と奏達の両親は
高校の時の幼馴染と親友でよくつるんでいたグループらしい。
この4人は互いに名前を呼び合ってて、今でも仲がいい。
子供の私達が困るくらいにイチャつくから。
「では、改めて…いただきます。」
「「いただきます!」」
(肉じゃが美味しい…。お母さんなら一流シェフって言っても
バレないと思うんだよね。)
「…真琴、どお?」
「………美味い」
「そっかぁ…よかったぁ」
お母さんと普段から小食な真琴が会話をしている横で
零さんとお父さんがおかずの取り合いをしていた。
「…零、前は俺が譲ったんだから今回はお前が譲れ」
「はぁ? 前回、譲ったのはオレだし。ボケてんじゃねぇよ。」
「あ゛ぁ?」
「なんだよ。」
二人はお互いに箸をおく。
すると、二人から膨大な妖力が渦巻きだす。
(あぁ、今日も始まった…。)
椎奈家の夕食の時間では、零さんとお父さんがおかずの取り合いをして
そこから喧嘩になるのが恒例になっている。
その喧嘩に巻き込まれたら、無事ではいられないので
私達子供は放っといて自分達だけで夕食を食べる。
そして、この喧嘩は普段。私のお母さんの梓紗が止めに入って
終わるけれど、今回は終わらなかった。
「…はぁ、ホントに飽きないよね。父さんたち。」
「そうだね……。」
「私が止めに入っても止まらないなんて…。
あれは、さっちゃんが止めに入るしかないわね。」
「え、紗希さん? あの喧嘩止められるの?」
「そうよ。私達の中でも一番キレたら止まらないのがさっちゃんだから。
それに、あの二人の喧嘩はほとんどさっちゃんが止めてたしね。」
「へぇ…」
母から言われた驚きの事実に感嘆の声をこぼしながら
お父さんたちの不毛な喧嘩を見ていると、紗希さんが急に立ち上がった。