帝者、宿を得る
六日目になり遂に夢の中の自分が大きく動き出す。やはり謎は深まる一方だったが、解決する手段は続きを見る事でしかなかった。
この日は、戦争を終わらせる為の作戦会議をしているところで気がついた。
ーー 六日目 ーー
玉座に座り、腕を組んで目を閉じる。
果たしてこの方法でいいのか、思うところはあるけれど、早急な対応が必要だ。もはや悩む時間などないのである。
「お前達に今後のことを話しておく」
ゆっくりと目を開き、ゆっくりと口を開く。
「では戦争から降りると言うのは……」
「その方がやり易くなるからだ」
膝立ちの三人は、少し安堵の表情を浮かべながら、それでも真っ直ぐに真剣な瞳を俺に向けていた。
「まず、レイン。お前には噂を流して欲しい。闇の帝王が魔王を殺し、光の帝王が闇の帝王を討つべく動き出したと」
「闇の帝王と光の帝王ですか? それに一体なんの意味がございましょう?」
「ごく一般の人々は、戦争が終わる事を望んでいる。中には神に祈りを捧げる者も少なかろう。その心を利用するのだ」
皆が信じる神など存在しない。だが、創り出す事は可能だ。
空想の神を光の帝王と例え、同時に世界の脅威となる闇の帝王を造ってしまえば、人心は光の帝王に救いを求め闇の帝王に天罰が下る事を望むだろう。
「しかし、光と闇はいささか安直すぎるな」
「より深く強大にするのであれば、白光と漆黒になさるのはどうでしょう」
名前などどうでもいいが、せっかくの意見だ。
「うむ。それで構わない。すぐにでも広めてくれ。種族は問わない。より多ければ多いほど良い」
「御意」
一言残し、彼はこの部屋からシュッと消える。
瞬間移動の類いで街にでも移動したのだろう。
これが上手く回ってくれれば、あとはどうとでもなろう。
レインの働きに重きがおかれるが、彼なら間違いなくやってくれる。なにせ俺の右腕だからな。
「次にユシィ。お前には天族の長、ミエルに連絡を取ってもらいたい。この作戦には天族の協力が必要不可欠だ」
天族は同盟に加わっていなかった。そこが重要だ。
「ディル様。私にそのような事が出来るのでしょうか? あの方が素直に応じるとは思えませんが」
ユシィは心配そうに俺を見つめた。
「大丈夫だ。今まで隠してきた秘策がある。ちゃんとミエルに会うことが出来たら、最初に白闇の魔導師の話をしろ」
「白闇の魔導師……?」
「今は知らなくてもいい。白闇の魔導師が呼んでいるとでも言えばすぐに応じる筈だ。これもなるべく早く動いてくれ」
ミエルが天族全体と人間に大々的に広めなければ、白光の帝はただの噂に過ぎなくなる。
彼女の助力を得て初めて動きだす作戦だ。なんとかユシィにも頑張って貰わねばならない。
「どうだ。いけそうか?」
「はい。すぐに向かいます」
レインに続き、彼女もこの部屋を出ていった。
最後はエルスだ。彼女にもまた重要な役目がある。
「エルス。お前は今すぐに動く必要はない。時が来たら指示を出す。それまではこの都市の防衛に努めてくれ」
「分かりました、ディル様」
剣を床に突き立ててこうべを垂れる。
「あと、お前にはこの作戦の結末を教えておこう。くれぐれも二人には黙っておくように」
誰か一人だけ、この作戦の全貌を知っておく必要があった。後に作戦が成功した時、きっとこの都市はパニックになる。それを防ぐために、予め知る必要があるのだ。
「帝と帝が争い合い、白光の帝が勝利を収める時、漆黒の帝は消える。そして、その二人の帝を演じるのが俺とお前の役目だ」
「……え!? なら、もしもこの作戦が成功したら……ディル様は……」
「そうだ。そもそもこの作戦は、全ての種族の敵を漆黒の帝にする事で、互いに協力させ合う事が目的だ。敵がきちんと消滅せねばならない」
「ですが、それではディル様がっ!!」
この反応が来る事を分かった上で話しているのだ。
もしも三人に話していれば、確実にこの作戦は潰れるだろう。
だから、一番平和思考の彼女を選んだのである。
「漆黒の帝は永久に消滅する訳じゃない」
「……どういう事ですか……?」
「遠い未来にまた現れるのだ」
そのまま、俺は作戦について話し続けた。
今まで話した事は、ただの時間稼ぎーーその場凌ぎに過ぎない。
少し時間が経てば、また戦争が起こる。
だが、もしも漆黒の帝が復活すると宣言して消えたらどうだろうか?
再び訪れる恐怖に、種族間の団結が緩む事はないだろう。
だから、俺が漆黒の帝として降臨し人々に恐怖を与え、また白光の帝として降臨し人々に希望を与える。そのまま白光の帝は天に帰り、漆黒の帝は復活の時を待って消える。
そうして残るのは、人々の団結と平和な世界だ。
「ーーこれが、この作戦の全てだ」
「……いけません」
「何がだ?」
「ディル様が消えることです!!」
いつもは大人しい彼女が、荒々しく言った。
「俺は消えないさ。ただ、数百、数千年後に転生するだけだ」
「…………転生……なんて出来たとしても、絶対にいけません!!」
なおも彼女は止め続ける。
だが、もうーー。
「ーーなあ、頼むよ……エルス。もう五百年だぞ? 俺は長く生きすぎた……。もう……少しだけ……休ませてくれないか……? 俺は…………生きているのが辛い!!」
「…………そんな事言われたらっ……何もっ……何も言えなくなるじゃないですかっ……!!」
顔を真っ赤にして、彼女はこの部屋を出ていった。目にいっぱいの涙を浮かべ、現実を受け入れる事が出来なかったのだ。
「漸く、眠る時が近づいて来た。きっと、まだ俺を待っててくれるよな、#/&#」
静かに立ち上がって、窓から空を見上げながらそう呟く。
誰もいない部屋の中で静かに時は流れ、たった一人で長く佇むのだった。
ガラスに着いた血は、もう乾いていた。
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時は現在に戻る。
ーーーーーーーーーー
ソファに座り、広々とした部屋の中を眺める。
向かいのソファには、おっさんと、一人の少女が座っていた。
歳は俺と同じぐらい。茶髪のショートカットに、顔だけ見ればとても大人しそうな人柄に見えた。
「どうだい? ここが僕の家さ」
腕を広げて俺たちを連れるガディア。
「かなり広いな。おっさん、貴族かなんかなのか?」
「僕は上位魔導師だよ。貴族とは別の存在かな。まあ確かに、平民ではないけれどね」
ガディアは軽く微笑みながら言った。
「それと、僕の事はガディアと呼んでくれないかい? 嫌なら院長でもいい。おっさんは傷つくからね」
「ふむ。ならばガディアと呼ばせてもらおう」
「私はいつも通りおっさんでいくぜ、おっさん!!」
「わたしは変態と呼びます」
「ちょちょちょちょっと今なんか変態って聞こえたんだけど!? 気のせいかな? 気のせいだよね? 流石の僕もそろそろ泣くよ?」
演技が甚だしい。もう嫌われてるのは分かっているだろう。ここまでくると、好感度を上げるのは至難の技だろうな。
「まあいいか……。そんな事より、僕の娘を紹介しておくよ。ほら、自己紹介して」
「えっと……エリル・スレザントです。話しは父から聞いています。これから宜しくお願いしますね」
ニコッと微笑むエリルと名乗った少女と軽く握手を交わす。
「俺はリュウヤだ。よろしくな」
親父とは違ってしっかりした娘さんじゃないか。ほんと、親父みたいなのじゃなくて良かった。
「エリルも君と同じ、魔導学院の生徒なんだ。僕の権限で同じクラスにしとくから、何かあれば頼るといいよ」
「うん。いくらでも頼ってね。あ、でも、私はまだ魔法が上手く使えないから……その……」
モジモジとたじろぐ彼女もまた、エイミーやレイミーと違った可愛さがある。
「いや、気にしないでくれ。頼る事は多いと思うが、何卒よろしく頼む」
「ハハハ。二人が仲良くしてくれると助かるよ。じゃあそんな所で、今日は夜も遅いし寝るとしようか」
俺たちはおやすみと挨拶だけ交わし、さっき案内された部屋へと移動する。ベッドが一つしかない事だけが心配だが、それなりに不自由なく生活出来るだろう。
そうして俺は明日を楽しみに、そして今日の疲れを癒すべく速攻で寝たのであった。
一章も中々進んできましたね(^ ^)
もう少しで終わってしまいます。
一章が終わったら一週間程時間を開けます。訂正とストック増量に力を入れて、話ももっと良い文章が書けるように努力するので、どうかご理解のほどよろしくお願いします。