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帝者、異世界を見る

 果たして、昨日のあれはなんだったのか。「#/&#」と、声にモザイクをかけたような音だった。

 

 何度も言っている「あいつ」と言う人物。己の過去。五百年間の謎。

 何故か、そのどれも記憶の底に眠っていそうな感覚があるのだ。俺はこの世界に十七年生きてきた。だが、それとは別の自分の存在を少しずつ認識し、確信へと近づけ始めた五日目の夢だった。


 この日は珍しく、前日の夢の終わりの直後から見ることが出来た。そして、なんとも歯切れの悪い終わり方をしたのだった。


ーー五日目ーー


 俺は窓の外に目をやりながら、淡々と昔話を続けていた。


「とある場所に、一つの巨大な王国が栄えていた。その名を〈ガルディア〉と言い、魔法の文化なら、今の世を凌ぐほどだった」


「現代魔法学を凌ぐ……!?」


 とても信じられない。俺の背の向こうで、きっと彼女たちはそんな顔をしているのだろう。

 エルスの声が聞こえた。

 

「国民には貴族も平民もなく、誰もが平和の中に暮らし、ずっとこの時が続くと信じていた」


「とても……信じられない話です」


 口元を両手で抑えるユシィの姿がガラスに映る。

 俺は気にせず話を続けていった。


「でも、平和は長くは続かない。……突然だった。魔族が攻めてきたんだ。あの日は大精霊を崇める祭りの最中だった。ちゃんと覚えてる。目の前から全てが消えたあの瞬間も」


 だんだんと口調も柔らかくなり、まるであの日に戻ったように、俺の目には窓から見える景色ではなく幾百年も昔の景色が映っていた。

 握りしめた拳からは、血がガラスを伝っていた。


「一発の魔弾が、道行く恋人たちを消した。また一発の魔弾が、街を消した。そしてまた一発の魔弾が、残る人々全てを消し去った」


 何度も爆音が聞こえ、瞬きする間に景色が一変した。

 気がつけば自分の周りには、誰一人いなかった。

 まっさらな土地の中で、それでいて色とりどりに染まった土地の中で一人佇んでいたことも、もちろん忘れてなどいない。


「そんな……現代よりも高い文明を持ちながら……」


 エルスとユシィの表情はどんどん悲しみに染まっていく。

 血濡れたガラスの向こう側には、赤く染まった二人の姿と冷静に話しを聞いているレインが見えた。


「戦争にもならず、たった一夜にして国が滅び、その地には多くの魔力の塊が様々な色をして地にへばり付いていた」


「……え……まさか………………!?」


 彼女たちは、ハッと窓の外に目をやった。


 そうだ。その通りだ。このガラスから見える土地。

 ここは古代大魔法帝国ガルディアの跡地だ。

 色鮮やかに見えるのは、死んだ人々の魔力の塊。死んだのは人だけじゃない。魔族や精霊も多くいた。


「ーーいつか、俺に尋ねたよな。何故ここに城を築いたのかと。あの時に俺が言った事、覚えているか?」


 ゆっくりと振り向くと、俺は尋ねる。

 右手の先から血が滴り落ちて、赤いカーペットにさらに赤いシミを作った。


「……はい。変えなきゃいけないものを見失わない為。そして、変わってはいけないものを守る為。そう……答えました」


 声が霞み、しぼり出すように答える。


「どうだ? 今ならその意味が分かるか?」


 もう、その眼に光は灯っていなかった。


「……何も……私たちは何も考えずに……あのような事を言っていたのですね……」


 顔を伏せ、歯をくいしばる彼女の目には涙が浮かぶ。

 

「気にするな。今話した事が全てじゃない」


 そう、全てじゃない。知った方がいい事実だけを伝えたのだ。全てを知ったとき、きっと三人は戦う事が出来なくなるだろうから。


ーーーーーーーーーー

 時は現在に戻る。

ーーーーーーーーーー


 学院中央部に位置する円形の建物の中庭で、午後の授業は行われていた。見た限り講師の先生が何かを教えているようだ。

 俺は離れたところから、遠視の魔法と遠聴の魔法で眺めている。


「人間に魔族に天族にーーあれはエルフか?」


 様々な種族が目の前にいて、俺はかなり興奮していた。


「おう!! あと、獣人に龍族もいるぜ!!」


「バリエーション豊かな学院ですね」


 街の中でも少し見かけはしたが、これだけ多くの種族が共に暮らしているとは、なんと平和な世界なのか。


 漫画やアニメだけが全ての知識の俺には、この光景が素晴らしいものに見えた。


「なんだ? 何か始まるみたいだぞ」


 急に生徒たちの視線が一人の魔族の少女に集まった。片手に本を持ち、もう片方の手を前に突き出して、なんとも誇らしそうな顔をしている。


 どこか見覚えのあるような…………思い出せん。

 それにしても彼女の魔力の大きさはなんだ? 誰一人として気にしていない事も不思議だ。


「あれは、魔導書を用いた魔法の展開でしょう。通常、魔導精霊は短期顕現しか出来ませんから、術者が魔導書を持つ形になるのです」


「なんだか漫画で見たような光景だな」


「漫画……ですか?」


 なんだ、漫画も無いのか? 大衆の娯楽と言えば映画と漫画とゲームが相場と昔から決まっているだろうに。漫画がないのでは、他のものの存在も怪しいところだ。


「お、魔法陣が出てきたな。闇系統で爆発、威力は最大限にカットされているな。さしづめダークボールみたいなやつか」


 遠視で魔力解析を行うと、彼女がどれだけ魔力を制御しているのかがわかる。


「……魔法陣を見ただけで分かるのか?」


 不思議そうに俺を見つめるレイミー。


「だいたいはな。俺の特性は、全ての情報を記録してくれる。一度でも似たものを見ていれば、軽い検討も可能だ」


「相変わらずマスターはヤベェな……」


 特性〈情報(データ)〉は、あらゆる場面で使える。ここに来る時に使った空間魔法や、騎士団騒動の時の魔法も、全てこの特性から来ているのだ。


 そうこうするうちに魔族の少女が作った魔法陣から黒い光が漏れ、闇の塊を形成していく。

 数秒後に闇の塊は発射され、軽い爆発を起こして消え去った。


「あいつ、なかなかの魔力量だな。魔族ってだけあって、魔法には適しているのか」


「あの魔族、何か隠していますね。今の魔法も、魔導精霊の力をあまり借りていませんでした」


 どういう事だ? 魔導精霊の力を借りずに魔法を使う事は不可能なのではないのか?

 俺が言うのはおかしいのかもしれないが、彼女が変わった存在である事もまた確かだ。


「俺みたいな奴が、けっこう存在するって事か」


「いえ、それは考えにくいのです。私たちは数千年間魔導書として存在していますが、文明急降下より後に、魔法を自らの力のみで使える者はほんの数人しか確認していないのです」


「エイミーの言う通りだぜ。帝の奴らと、他の奴らを合計しても十人程度しかいなかったな。その十人ですら、上位の魔法を使えるかどうかってところだ」


 二人の説明を聞くも、あまり納得がいかない。俺の身のまわりがイレギュラーなだけなのだうが。


「そんなものなのか?」


「そんなもんだぜ」


「そんなものです」


 やはり俺は凄いのか。と言いたいところだが、二人の発言に気になる所が多すぎて、あまり本題が頭に入ってこなかった。


 まず、二人は数千年生きているのか? 魔導書だとしてもおかしいだろ。

 その他にも文明急降下とか、帝とか。何かを彷彿させる言葉が多い。

 早くおっさんの家に行って本を読み漁りたくなってきたぞ……。


「おっと、もう授業は終わりか?」


 ゴーンと鐘の音が響き、生徒たちはみんな校舎に入っていく。

 もともと授業の中盤から見学していたからか、とても早く授業が終わった気がした。


「さて、俺たちも行くか」


 そう言って立ち上がった時、さっきの魔族の少女とほんの少しだけ目が合った。ただの偶然だろうが、やはり彼女の瞳に見覚えがある気がした。

 

「おい、マスター。早く行くぞ」


 ぼけっとしていると、袖をぐいぐい引っ張られて強引に連れていかれる。


「おい、自分で歩くから離せ」


「マスターは遅い!!」


「ああ分かったから。早く歩くからさっさと離せって」


 だが結局レイミーは袖を離さず、部屋に着くまでずっと俺を引っ張っていった。

 やれやれとも思うがこういうのも悪くはないとも思う。

 そして、されるがままにして俺は歩みを進める。

 建ち並ぶコンクリートのような灰色の建物を見ながら歩き、数分の後に俺たちは学院長室に戻ってきたのだった。

お読み下さりありがとうございます(^ ^)

なかなか執筆が追いつかなくて大変です……。

明日も十二時に投稿します。

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