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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、帰る

 長きに渡るふわふわとした感覚から覚め、ついに俺は意識を取り戻した。一体どれだけの時間が経過したのだろうか? 俺はふかふかのベッドの上でただ一人、見覚えのない真っ白な天井と睨めっこをしていた。


 これで全部終わったのだ。ゲルダを倒した事で、この世界から脅威的なものは消えた。少なくとも、これからしばらくは安全で平和な生活を送る事が出来るはずだ。


 模様っ気のない天井に向かって手を伸ばす。あれだけの戦いの後でありながら、傷一つなく魔力も完全に戻っていた。大きな安心感からか、どことなく気分も良い。心が深い闇から解き放たれたような、そんな気分だ。


「さて、どうしたものか」


 平和平和といっておきながら、まだまだ問題は山積みなのだ。する事は沢山ある。


 まず一つ、現状を知る事だ。

 俺は自分がどれだけ寝ていたか知らないからな。情報収集が最優先だ。もしもの事があるかもしれない。

 加えて言うならば、この窓から見える景色にも違和感がある。少し開けられた窓から爽やかな風が吹いてくるのは良い。だが、その向こうに見える噴水と人々の姿は、何一つ俺の記憶と繋がらない。おそらく悪い事は起こっていないのだろうが、ちゃんと紐解いてく必要がある。


 そして二つ目はフィアの事。

 いくら知らなかったとは言え、俺は彼女に散々な事をしてきたのだ。フィアだけじゃない。エイミーにもレイミーにも、ちゃんと謝って話をしなければならない。全てはそれからだ。

 フィアは会おうと思って会える訳でもなく、常に気持ちが通じている訳でもない。何が起こるか分からない以上、なるべく早いうちに彼女を復活させる算段を立てなくてはならないのだ。

 俺自身の気持ち的にも、これもかなり優先されるべきことだ。


 そして最後。三つ目はガディアとの約束の事だ。

 俺たちはフィルスレアに来るにあたって一つ約束をしている。レミやケルンにエリルたちに技術指導をしなければならないのだ。なるべく早くなどと考えていたものの、彼女たちは帝都に返してしまったし、いろんな事がありすぎてそんな事をしている余裕がなかったのだ。

 とまあ言い訳をしても仕方がないからな。優先順位は低いが、これも近いうちに片付けなくてはならない。



「よし、そろそろ行くか」


 もう一度窓の外に目をやって、俺はグイッと背伸びをしながら言った。

 噴水が見えると言う事は、ここはギルドだろう。酒場や宿屋も併設されているし、まず間違いない。

 となると、俺を介抱してくれたのはギブリスーーセルか、ニャルルの二択だ。彼女らもゲルダにだいぶやられていたはずなのだが、そこら辺も含めて訊きに行くとしよう。


 俺はベッドから跳ね起きると、もう一度グイッと背伸びをしてドアの方に向かった。

 そしてそのままドアを開けようとドアノブを回した時だった。


「ーーんっ?」


 ドアノブがガチャガチャ音を立てるばかりで一向に回らないのだ。俺は確かに力を入れているはずなのだが……。それに魔力も感じない。と言う事は…………。


 俺は一気に力を抜いてドアノブから手を離し、即座に大きく一歩後退した。


「ーーおわぁっ!?」


 ドアが勢いよく開くと、そいつは抑えきれなかった勢いのまま俺に突っ込んで来た。


「ーーえっ、あ……ああ……あああ!!」


「うるさい」


「あうぅ」


 ぽすんと俺の胸に突っ込んだ彼女はすぐに顔を上げ、俺の顔を見ると目を震わせながら同じ事を繰り返した。俺はそんな彼女の頭に軽くチョップを入れ、肩を掴んで遠ざけた。


「マスター!!」


 それでもめげずに飛びついてくる彼女を、俺はとうとう凌ぐ事は出来なかった。

 彼女を片方の腕で抱きしめて、俺は耳元で言った。


「……はあ……心配かけたな、エイミー」


「ーーったくホントだぜ、マスター」


 エイミーじゃない声に顔を上げると、お盆にお絞りを持ったレイミーの姿があった。少し震えた感じの声と涙ぐんだ瞳が、ほんの少しの罪悪感を抱かせる。


「ーーどけ、エイミー!」


「あっ!」


「おい、ちょっーー」


 お盆を適当に放り投げ、レイミーは俺に飛びかかる。ジャンプした彼女の手が上手く俺の首に回り、柄にもなく頬を擦り寄せて甘えてきたレイミーを、俺はもう片方の腕で抱きしめた。


「……悪かったな……二人とも」


「良かったのです。マスターの魔力が乱れていたので、何があったのかと心配だったのです」


「あまり無茶するなよ、マスター。マスターに何かあればあいつも悲しむ」


 あいつと言うのは、もちろんフィアの事だろう。俺の内側から話を聞いていただろう二人は、その事についてどう思っているのか、俺にはまったく分からなかった。そして、訊くことも出来なかった。


「そ、それに……その……私だって」


「……どうしたんだ、レイミー。今日はなんだか甘えたがりだな」


「そ、それはマスターが悪い!!」


「レイミーばかりズルいのです! わたしだって心配しているし悲しいのです!!」


 俺が目覚めた事に興奮しているのか、二人ともいつもと少し違った表情を見せてくれる。俺はそれが少し嬉しくて、やっぱり余計な事を口には出せなかった。


 


「さて、俺が寝ている間の話を訊かせてもらえるか?」


 二人が落ち着きを取り戻すと、俺もベッドに腰を下ろして彼女たちから話を聞こうとしていた。のだがーー。


「うーん、わたしたちはマスターの精神が安定してから出てきたのです」


「そうだな。マスターが知りたい事は何も知らないな」


 だそうだ。よく考えてみたら当たり前の事か。まあ良い、二人が無事なだけで十分だしな。それにーー。

 

「そうか。まあいい、仕方がない。そいつに教えてもらうとしよう。そろそろ入っても構わないぞ」


 彼女たちと話していて気づかなかったが、閉まったドアの向こう側で待っている人がもう一人いるのだ。感動の再会的なものを邪魔しないようにしているのだろう。

 だが、そんな必要ない。


 俺の呼びかけに応じて、ドアがガチャリと開かれた。ピンク色の綺麗な髪と瞳がこちらを覗き、俺と目が合うとこちらに近づいてきた。


「やっと気がついたんだ。調子はどう? 君、もう一週間は寝てたんだよ」


「ああ、問題ない。セル、お前が俺の世話をしてくれてたのか?」


「アタシとギルド長で交代交代。ほんとに大変だったんだから」


 レイミーの放り投げたお盆を机に片付けながら、セルは言った。


「すまないな、心配をかけた。それと、ありがとな」


「元気になったなら何よりよ」


 エイミーとレイミーの隣に並び、俺を見下ろすように立つセル。彼女もまた、瞳が潤んでいた。


 それにしても、俺は一週間も寝ていたのか。どうやら長い間迷惑をかけたようだ。後でニャルルにも礼を言わねば。


 それはそうと、訊くことは訊いておかねばな。


「話は聞いていただろう? 俺が倒れてから今まで、一体何があったんだ?」


「ええ。それがーー」


 それからセルは今まであった事を全て話してくれた。全部を話し終えるまで二十分くらいのとても長い話しだったが、俺の疑問が全て解消できたのは事実だ。


 全て要約すると、まずメリルが街を直して、ニャルルやセル、エルスなどのそれなりに強い人が目覚め、住民たちを一人一人運んだり起こしたりを繰り返したらしい。その後メリルがおおまかな記憶操作を住民たちに、今に至ると、そんなところだ。

 もちろんメリルは既に姿を消している。エルスも国の用があるから帰ったらしい。またすぐに来るのだとか。あとは、気を失ったままの俺をニャルルとセルで介抱して、ネスティアとフェルゼンは帝都に戻ってガディアたちに報告をしているのだ。


 それで今のこの状況があるのだと。


 おおまかな流れは予想できたのだが、ただ一つだけ問題点がある。セルの話によると、ゲルダの姿はなかったらしいのだ。彼女が目覚める前にメリルが処分した可能性を除けば、まだ奴は生きているかもしれないという事なのである。

 言うまでもなく、また奴は現れる。仕方がないのかもしれないが、これからも警戒は怠れないという事だ。


「さてーー」


 俺は頭の中で話を全てまとめると、ベッドからスッと立ち上がって言った。


「ーーとりあえずは一件落着だ。フィルスレアでもまだ何か起こるかもしれないが、今は帝都に帰るとするか」


「そうだな、それが良いと思うぜ。マスターの女どもがうるさそうだしな!」


「いっそのこと帰らなくても良いのです! あそこに戻ればまたマスターは……」


 レイミーとエイミーが口々に言うのを、俺とセルは笑いながら流す。


「君は随分と愛されてるのね」


「やめてくれ。この二人だけでも大変なんだ」


「どういう意味なのですか!」


「ハハ、言うなあマスター」


 俺の言葉にすぐに反応するエイミーと、ハハハとおかしく笑うレイミー。


「ふふ、そうかもしれないわね」


 俺たちの会話、特にエイミーとレイミーを見てセルも笑っていた。ようやく戻ってきた平穏に、俺も安堵して笑う。


「よし、それじゃあ直ぐにでも行くとしよう。いろいろと用は残っているし、またすぐに戻ってくる」


「ええ、待ってるわ。早く仲間に無事を伝えてあげて」


「ああ、そうさせてもらう」


 俺は話をしながら一紋の魔法陣を床に組み上げていった。俺たちがフィルスレアに来る時に使った転移魔法だ。

 調子が良いからか、単に俺が凄いのか、ほんの二、三秒で床一面の大きさの魔法陣が完成した。


「では」


「じゃあな、セル」


「ええ、また」


 エイミーとレイミーはセルに手を振り、セルも俺たちに手を振っていた。


 魔法陣に魔力を流し込むと、部屋の壁を魔法陣の青紫色の光が彩り、光の粒が生まれた。魔法の準備が完全に整ったのだ。


「またな、セル、ありがとう」


 俺は最後にセルに一言だけ言い、転移魔法を起動させた。

 魔法陣から大きな光が漏れ出し、一瞬だけ周りの景色が歪むと、浮くような不思議な感覚が身体を包み込んだ。

 そしてパッと光が途切れると、次の瞬間には、俺たちは帝都の城の最上階にある俺の部屋に転移していたのだった。


 これで本当に全てが終わった。と、そう言いたい。だが、ここからが大切なのだ。勝負と言ってもいいかもしれない。

 ゲルダの事を含めた問題がまだまだ残っているのだ。俺にはやらねばならない事がたくさんある。考えるだけで嫌になるぐらい、たくさんだ。


 けど今は一番にやるべき事があるからな。行くとするか。


 俺たちは部屋を出て城を抜け、エリルたちの待っている学院へと歩きだした。その歩みを早めるように追い風が吹き、昼下がりの空には太陽が眩しく輝いていた。

これが最終話ということにさせて頂きます。

今までお読みくださった方々、ありがとうございした。


書き直しを検討しているので、また機会があればよろしくお願いします。

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