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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、止められる

 まるで自分を外から眺めているような感覚は、まだ続いていた。


 目の前に横たわるズタボロのゲルダ。それを見て無意識にも笑みを浮かべる俺。

 全てが終わったはずなのに、俺は、俺の漆黒は全てを終わらせる気はなかった。


「ーーチッーー」


 空を滑ってゲルダを見下ろし舌を打つ。髪の毛を掴んで奴をぶら下げれば、既に虫の息のゲルダは更に苦しそうな表情を見せた。

 ただその顔が憎らしいようで嬉しく、俺が全てを終わらせるにはまだ足りなかった。


「…………キ……サマ……ァァ……」


 なんとか声を出すゲルダを俺は睨みつけるだけだった。

 俺を支配する怒りと悲しみ。そして勝手に俺を動かす俺の心、漆黒。ゲルダを睨みつけて思い出す多くの記憶は、本当の俺じゃない今の俺には、苦しみを与え怒りを生み出すほか何ものでもなかった。あるいはこれが本当の俺なのかもしれないと、薄い意識の中で感じてしまった自分がいた。


「……カミ……ヲ…………」


「ーー黙レーー」


「ンガァッ」


 声が切れると同時に、身にまとった漆黒の一部が変化してゲルダに突き刺さる。口から血を吐いて目を見開くゲルダは、ついに飛ぶ力を失ってしまった。力なく落下していく奴に、俺は指を鳴らして追撃をする。

 ズザッ、ズドッ、と不快音が続くとゲルダの高位の魔力、神の力にも等しい魔力が薄れていくのを感じた。


 俺の仲間を苦しませたお前を、簡単に殺してはやらない。手を放し、落ちていくゲルダを見て俺は改めて本心を感じた。


 ーードスッーー


 ゲルダが地面に墜落した。砂埃が上がり、傷は癒えたものの未だに倒れていた人たちが衝撃で吹き飛んでいく。瓦礫と人々がゲルダの赤い血に染まり、なんとも言えない風景になっていた。


 ゆっくりと宙を滑り降りるとき、ピシッと小さな音が聞こえた。


「…………まだ……だ…………私……は……まだ……死なんぞ……!!」


 舞った砂煙の中に、人影が揺らいだ。ゾンビのように立ち上がるゲルダの眼が碧く煌々と輝いていた。


 そして強く地面を蹴ったかと思うと、一瞬で俺の前に現れる。奴の眼は輝いていた。だが、その瞳に色はなかった。


「死ね……死ねえぇぇぇぇぇぇ!!」


 極小の間に召喚された十二の影心剣が、俺の逃げ道を塞ぐように迫る。

 俺は眼をつぶった。


 身に迫る剣が、牛歩のように遅く感じる。閉じた瞳の裏の漆黒の世界から、ゲルダの全てを見つめた。


 この一撃で、全てを終わらせる。


 迫るゲルダの影心剣の間をすり抜けるように、俺は奴の背後にまわった。一瞬にも満たない、刹那でも甘い、限りなくゼロに近い時を駆け、俺は言った。



「ーー死ネーー」


 

 ーーズンッーー


 強く重い衝撃が空を駆け抜けた。風となり空間を荒らし、力の塊となって世界を破壊する。

 

 全てを終わらせるが為に放たれた俺の漆黒は、目の前に堂々と立つそれに阻まれて止まっていた。


 理解できない早さで進んでいく状況にようやく時間が追いついたゲルダは、ゆっくりと振り返った。


「…………大精霊……メリル……」


 口に出したと同じくして、ゲルダはまた落下していった。本当に最後の力を使い切った。そんな感じだった。


 自分の漆黒を止め、ゲルダが戦線離脱した今なおもそこで俺を見つめている彼女に俺は眼をやった。

 にらめっこが続く中、突然彼女はその顔に笑みを浮かべた。


「ーーほんとうに、キミは変わらないよ」


 俺の意志から完全に剥離された俺の身体は、もはや彼女が何なのか分からない。敵なのか味方なのか、それは自分自身を外から眺めていた俺にも分からなかった。分からないはずなのに、何故か身体は、漆黒は動かなかった。


「ーー邪魔スルナーー殺スーー」


「無理だよ」


 彼女は全部わかっているかのように、ニコッと笑ってそう言った。

 そしてその通り、俺の漆黒はピタリと動きを止めていた。


 これが俺の本心……なのか。


 ぼーっとした頭でギリギリ俺が理解しても、身体は何も理解しない。気持ちや感情のない身体は、ただ俺の心の奥を映しているだけなのだ。

 今ここで俺が何を感じようと考えようと変わらない。俺にも分からない本心が何を思っているのか、ただメリルを見つめている。


「キミにはボクは殺せないよ。昔から何も変わってないんだもん、キミは」


 そう言って上に手をかざすと、空高くに浮かぶ漆黒の城に光が伸びていった。


 城のどこかに光は届き、それを伝って何かがメリルの手元に降りてくるのが分かった。


「すぐに自分に呑まれるところも、ほんとに変わってない。いつだって言ってたじゃないか。何があっても、キミだけは冷静でいなきゃいけないって」


 手元から光が消えると、そこにあったのは一本の剣だった。どこにでもあるような、ただの剣。だけど、何か不思議な気配を感じた。


 それが一体何なのか、答えはすぐに明らかになった。


 彼女が剣を軽く握った途端、その剣身は色を変えた。神々しく光を放つそれは、彼女のまわりで止まっていた漆黒を、一瞬にして消し去ってしまった。


「白聖剣ヴァルキリア。キミの剣だよ。きっと本物にも、ボクの声は聞こえてるんだよね? まあ、ボクの話を理解するのは無理かもしれないけど」


 彼女は白聖剣を高く天に掲げた。

 それを見てもまだ俺の身体は動こうとせず、声のひとつも出さなかった。


 彼女の声が聞こえている俺も、やはりその言葉に何かを感じる事はなかった。


「ハハ、やっぱり聞こえてるんだね。それに、大分荒んでる。ボクにはキミの心が見えるよ」


 かざされた白聖剣に光が集まっている。光の色も黄色混じりから、真っ白なものへと変わっていた。

 同時に俺の身体を取り巻く漆黒が、どんどん光に呑まれて消えていく。湧き出る漆黒と呑み込む光。いつのまにか光が呑み込む方が上まわっていた。


「そろそろ、終わりだね。元に戻った後のキミに言っておくよ。きっと覚えてるはずだから」


 またニコッと笑って彼女は言った。


「ボクはキミのこと、忘れてないよ。ずっと忘れたふりをしてたんだ。キミが一人で先に進めるようにね。また、ボクは魔導書に戻る。そこからキミたちのことを見ているから。それじゃあーー」


 言いたいことを言うだけ言って、彼女は剣を俺に向けた。


「またね」


 剣に溜められた光が一気に放出される。巨大な光は俺を漆黒ごとすべて飲み込むと、遠く彼方まで伸びていった。


「ーーあっ!!」


 光が俺を飲み込む瞬間、慌てたような声が聞こえた。


「ーーキミが最初にキスしたのはボクなんだからね!ーー」


 その言葉を最後に、俺の意識はまた失われた。


ぽっと出てきて衝撃の告白の後、すっと消える大精霊メリル。なんで嘘をついていたのか、まだ少し謎は残りますね。

次回で三章は終わりです。お楽しみに!

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