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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、蝕まれる

 再び薄暗い闇に閉ざされた密室の中。

 スヤスヤと眠る明るい茶色の髪の赤子が、部屋の中央に浮いていた。



 俺の瞳に流れるゲルダの記憶。奴と剣を交えながら、意識の半分をそれに集中させる。


「……しぶといな」


 大きな剣撃がぶつかり合い、互いの力が拮抗する。

 俺はひとつ呟くと、空を蹴って大きく後退した。


 しかし、ゲルダは俺を追い詰めるように迫ってくる。

 もの凄い速さで迫るゲルダの姿が、ほんの数メートル先で突然消えた。


「フフ、やはり貴方は面白い」


 背後から聞こえる声にバッと振り向き剣を振り下ろす。

 たしかに魔力を感じたのだが、そこにゲルダの姿は無かった。


「ーーっ!」


 息が漏れ、頬から血が流れた。

 肉眼で捉えられないゲルダが、何度も俺を斬りつける。


 顔に腕に脚に、切り傷はどんどん増えていった。

 自動制御(オートケージ)が、勝手に傷を直していくも、傷の増える早さがそれを上回る。


「くそっ、いい加減頭にくるぞ!」


 怒り混じりの声と共に、感じた魔力の方向に剣を振っていく。だがしかし、まだまだゲルダの動きの方が早かった。


 ーーまさかここまで苦戦するとは……。


 剣を振るうのをやめ、一度、精神を集中させた。


 今の俺は慌てすぎている。精神的に受けたダメージと、ずっと流れているゲルダの記憶映像。この二つに蝕まれ、俺は限りなく集中力を欠いているのである。


 ーーやはり、アレを使うしかないのか。


 心の中でそう呟く。

 目を閉じ、身体を斬りつける剣の軌道を頭に描いた。


 じっと待っていると、ついにチャンスが訪れた。


「私と戦い、ここまで生き残るとは」


 背後に感じる声と魔力。

 慌てず、周囲の空間全てに意識を集中する。


「ーーそこかっ!!」


 ガキンッと軽快な音が短く響いた。剣と剣が交わると、ようやく動きを止めたゲルダ。

 すかさず次の攻撃を入れ、俺は畳み掛けるように剣を振るう。


 攻めながら、だんだんと剣に魔力を送っていく。


「ーー連技の舞よーー」


 剣身が鋭い輝きを放ち、次の瞬間、空間そのものに幾つもの亀裂が出来た。


「ーー長剣(ミレッシュ)!!ーー」


 何度か身体に斬撃を受けながら、ゲルダは上手く受け流していく。


 俺と対等に、今に限っては対等以上の実力を見せるゲルダ。そして、俺とは対照的に、内から醸し出される余裕。

 

 楽しさこそ感じないが、命を賭した戦いをしている気がした。


 ゲルダが俺の剣を弾き、空を滑るように後退する。


「フム……なかなかやりますねぇ。ですがーー」


 一瞬、ゲルダの剣の形が歪んだ。


「ーーまだまだ甘いですよぉ?」


 ザンッ、と肉を貫く音が体内から聞こえる。気がついた時には、俺の腹に大穴が開いていた。


 同時に聞こえるのは、小さな悲鳴だ。戦いに集中するあまり、視界にすら入らなかったエルスやネスティアたちの、甲高い悲鳴が耳に届いた。


「……なかなか痛いな」


「ほう?」


 腹を摩り、たいした痛みもないのに、俺はそう口にした。

 ゲルダはやはり俺の内を見抜くように、ニヤリと口角を上げた。



 流れる事をやめない記憶映像には、昔のゲルダが詠唱をしている姿が映っている。

 さして先程と変わりなく、さっきのように気にはならなかった。



 二人向かい合い、数秒の沈黙が流れた。


 俺の眼に映っているのは、ゲルダの持つ剣だ。直剣であったはずのそれが、剣身をぐにゃぐにゃと曲げている。


 思いのままに形を変える剣。そんな所だろうか。


「影心剣ディターニル」


 聞いたことのない名だな。

 ま、こいつから出てくるものだ。不思議はない。


「この子は私の心を映す鏡のようなものでねぇ」


 剣身をさすり、傷のある顔を剣になすりすける。刃が肌に当たっているにも関わらず、傷ひとつついていない。


 さすがは影心剣の名を持つだけある、と言ったところか。


「ーーん?」

 

 ふと動きを見せた記憶映像に視線を移す。



 ゲルダが黒髪の赤子のかごに近づき、その額に、どこからともなく取り出した杖で触れた。

 部屋の中央床と上空に大きな魔法陣が二紋。刻まれた文字は、かつて一度だけ見たことがある。


 ーー先住種族ーー


 神か魔神か、大昔に世界を支配していた者共の使っていた上位魔法。それに使われた聖刻文字である。


 直接触れられた触媒から、赤子の中に魔力が通っていく。赤子とゲルダ、二人はひとつの魔力の糸で繋がれ、ふたつに合わさった魔力と魔法陣が反応していた。


 実際に魔力が感じ取れる訳ではないが、俺の眼には、それがクッキリ、ハッキリと見えた。


『フッ、フフフ、フハハハハ! やはり内部への干渉は可能のようですねぇ』


 力が吸い取られる事もなく、ただ二人の繋がりが強くなっていく。

 心配する程の事は、今は何も起こっていない。


 ただ、ただひとつ気になるとすれば、部屋の中央に浮く、茶髪の赤子だけだ。


『ーーこれで貴方は力を失う』


 たった今、俺の目の前にいるゲルダとなんら変わらない、とても嫌な笑い顔を、映像のゲルダは浮かべた。



 視界の端で、影心剣がゆらりと動いた。どんどん形を変えていく。


 俺はほとんど治った腹から手を離し、剣を強く握りしめた。


「どうです? 全てが貴方のせいだと、分かりましたか?」


 鎌の形に落ち着いた影心剣を軽く振り、挑発的に言うゲルダ。


「……どうだろうな」


 遠くを見つめて、もの悲しく言った。



 知りたくない事実。だけど知らなければならない事実。


 全てが掴めた訳じゃない。

 でも、近づいて欲しくない過去に、だんだん近づいている気がした。

 

 ただ、見たくもない世界を見ないでいる事を、俺の心は許さなかったのだ。


 流れ続ける映像は、やはり無情に進んでいく。ゆっくりと、まるで俺が確実にそれを見られるように。いや、俺に全てを見せるように。


 ゲルダとの戦いの中に、時々訪れる無言の間。

 時の経過と共に、俺の心は蝕まれていった。


 

 ゲルダが影心剣を低く構えた。


「そろそろ、ですかねぇ」


 空気を蹴る音が鳴る。力強い衝撃波は地面まで届いていた。

 俺も咄嗟に空を蹴り、剣を上段に構えて向かっていった。



 しかし、その剣が影心剣を捉える事はなかった。



「『ーー神にも勝る力を持ち産まれたことを、後悔するといいーー』」



 頭の中に直接響く声。瞳に流れる映像。

 二人の赤子を繋ぐ、ゲルダの大魔法。

 

 

「『ーーディル・ミレナリア!!ーー』」



 再び声が重なった時、俺の身体は、自然と動きを失っていた。


 ゲルダと影心剣が、凄まじい勢いで迫ってくるのが見える。しかし、勢いがあるはずなのに、かなり遅く感じた。


 その間にも、映像の音が流れ込む。


『フハハ、成功だ。成功したぞ!!』


『……成功、ですか……』


『ああ、成功ですよ! この子の魔力を、全て彼女に移せたのです。これでこの世界の崩壊は免れました』

 

 灰色の鎌が目の前に迫ってくる。

 あと少しで、俺の心臓を抉るのだろう。


『貴方には悪いですが、犠牲は付き物です。ですが、その功績は讃えましょう。今後は好きに生きなさい』


 避けようとは、思えなかった。

 何故ならば、次に来る言葉が、鮮明に浮かんでしまったから。



『ーーフィア・エルセイルーー』



 ズザッと、肉を貫く音が聞こえた。


 しかし、今度は俺の骨を伝ってきた音じゃなかった。


「ーーディル様!!」


 呼びかけられて、ようやくハッと意識を戻す。


 ゲルダの灰色の鎌は、俺の心臓寸前で止まっていた。

 そして、代わりにゲルダの心臓が、エルスの隠絶剣によって貫かれていたのだった。

記憶映像に映った赤子二人と、ゲルダが発した二人の名前。

フィアとディルの関係も、だんだん分かってきたんじゃないでしょうか。


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