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帝者、学院入学を決める

 この日は、荒々しくも言い争いの途中から始まった。


 何のせいで戦争をしているのか、なぜ俺は戦わないのか、気になる事が増え始めていた。そして、初めて違和感を覚えたのも四日目だった。


ーー四日目ーー


 初日と同じ城の中、配下の女の子に怒鳴られているところで気がついた。


「何故ですか!! 何故同盟を抜けてしまわれたのですか!!」


 金髪の女の子、エルスは背後から焦りの混じった声で俺に叫ぶ。


「まったくその通りです。この同盟には意味がありました。戦争後の世界の混乱を抑えると言う、大きな意味が」


 俺と同じ黒髪の女の子、ユシィも続く。身体を前のめりにして、俺を責めるように。


「我が主人よ。私は貴方の意に背く事はありません。ですが、今回のご決断は、それなりの対処が必要になるかと存じます」


「……分かっているさ。そんな事ぐらいは」


 珍しく玉座に座らずに、高度百メートル付近に浮くこの城の窓から見える外の景色を眺めていた。ぱっと見る限り、幻想的で美しいとさえ思える風景に、俺は限りない悲しみと寂しさを感じていた。


「誰もが幸せになるのは無理でも、理不尽な死から逃れられない者を救いたかった。生きる事を諦める者を無くしたかった。この世に生きる者全てに希望を与えたかった」


 叶わないのだ。どれもこれも、全て……。


「ーーお前が生きていてくれたら……俺が一緒に死んでいれば……いっそのこと出会わなければ……もう全てが終わっていたのかもな」


 どんなに頑張っても、過去を変える事は出来ない。なによりも、あいつはそんな事を望んでいないだろう。


 ーーあの笑顔をまた見たい。

 ーーあの優しさに埋もれたい。

 ーーあの温もりを感じたい。

 

 もし出来るのなら、あの日に戻りたい。

 

「平和になる事が、平和である事がこんなにも難しいなんて、思いもしなかったよ……#/&#」


 その場に立ち尽くして、小さくため息が漏れる。

 ガラスが白く曇り、合わせた手には汗がにじむ。


「主人……」


「……本当に、綺麗な景色です」


「世界が全て、この景色のように綺麗であればいいのに……」


 気がつけば、俺の背後に居たはずの三人が立っていた。


 赤、青、橙、黄色、緑、紫、黒、白。様々な色に染まり、水彩画のような美しい景色を見下ろしながら、彼女たちは優しい顔で呟く。


 そんな顔をするから、いつも何も言えなくなるのだ。この地がどんな過去を持つのか、かつてこの地で何が起こったのか。

 でも、今日はちゃんと伝える必要があった。


「ここに来た者は、この景色を見て皆同じ事を言う。お前達にも、本当にこれが綺麗な景色に見えるのか?」


 目を固く瞑り、思い出したくもない、けれど忘れてはいけない記憶を頭に呼び起こす。


「……何が言いたいのですか?」


「…………無理もない……か……」


 もしかしたら気づいている……なんて事はもちろんありえなかった。


「少し昔話をしよう」


 首をかしげる二人の前で、俺はゆっくりと己の知っている昔の話しをし始める。


ーーーーーーーーーー

 時は現在に戻る。

ーーーーーーーーーー


 差し出されたコップには、なんともお茶に似た香りのする赤い水が入っていた。

 訝しく見つめ、一口だけ飲んでみる。


「……りんご茶か」


「りんご茶? それはエヌクジュースだよ。この国の名産品なんだ」


 エヌクジュースにもう一度目をやり、またおっさんの方を見る。


「……これ、毒とか入ってないだろうな?」


 失礼極まりないが、変態イノシシだ。やりかねん。


「はは……失礼だね……。そこまで疑われると悲しくなるよ……」


 笑いながら茶黒い髪をいじる変態イノシシ。


「誘拐されたようなものだからな。信用など出来るはずないだろう」


「そうだね。まずはもう一度自己紹介からかな」


 一呼吸おいて、変態イノシシは再び自己紹介を始めた。


「僕はガディア・スレザント。この学院の院長さ。君は?」


「俺はリュウヤ。あとエイナミアとレイナミアだ」


 俺の両横を交互に指差しながら紹介する。


「レイナミアだ。よろしくな、おっさん」


「エイナミアです。なるべく近づかないで下さい」


 初対面でここまで嫌われるにはどうしたらいいのか……考えても分からないが、ただただ変態というのは恐ろしい。


 ふかふかのソファにちょこんと座る二人は足をばたつかせている。


「……おっさんに傷つき嫌われるのに傷つき……いいことないなあ」


 下を向く変態イノシシことガディアは、なんとも悲しげな表情をしている。それが作られた悲しさである事はすぐに分かるが、少し同情してしまう。


「……許してやって貰えると助かる。それより、そろそろ本題に入ってくれないか?」


 エイミーとレイミーにそう言って、俺は真剣な眼差しに戻るとグッとエヌクジュースを飲み干した。


「そうだね。本題に入ろう」


 ガディアもケロッとした顔になり、俺の言葉を繰り返す。


「話しというのはだね。もう分かっていると思うけど、君にこの学院に入って欲しいんだよ」


 ガディアは表情を変えず、グラスを手に取る。


「まあ、張り紙の通りだな」


「張り紙と違うのは、僕が直接お願いしてることかな」


「たしかに、それは不思議だ」


 公募しているのにも関わらず、学院側からヘッドハントだ。何かしら理由があるに違いないが、恐らくは俺の魔力を察しての事だろう。


「君の高い魔力。魔導書を二冊持っていること。魔導精霊の長期顕現。どれを取っても最高の人材だよ」


 随分といい感想だ。さっきの騎士連中は誰も俺の真髄を見抜けなかったからな。こいつはかなりいい眼をしている。


「それにさ、いざという時の為の戦力は多いに越したことはないからね。ほら、さっきも隣町で帝級の者が突然現れたらしいし。なんだろうね。そいつは魔導精霊二人と一緒だったとか」


 ……こいつ、気づいてやがるな。気づいていてわざと……ならばこの勧誘も……。


「そんな偶然あるわけないかぁ、ははは」


 大袈裟に笑ってみせるガディアの顔は俺の表情を伺うようだった。


 こいつが馬鹿で助かった、と言い切れないことがここまで怖いとは思わなかった。本当の馬鹿か、釘を刺しているのか。少し気をつけねばならないな。

 

「……いいだろう。入学しよう」


 こちらとしても都合が良い。学院で異世界の魔法を勉強してみるか。


「本当かい!? それじゃあ制服は明日までに用意しておくよ。特別編入の特位生って形にはなるけど、明日から君もうちの生徒だ!!」


 ソファから立ち上がり、胸に手を当ててガディアは言う。


「げえぇ。マジかよマスター!?」


「……はあぁ……………………」


 テンションがうざい!! 嫌オーラが凄い!! ため息も長い!!

 二人の気持ちが手に取るようにわかる。というぐらい表情が酷い。

 …………お先真っ暗だ……。


「そう言えば、住む場所はもう確保出来てるのかい?」


 再びソファに座り、髪をいじるガディア。


「まだ考えてすらいなかったな……」


「それなら丁度いい!! 僕の家に来るといいよ!!」


「……は?」


 何を言っているんだ、こいつ?


「部屋が沢山余っているんだ。大きな家に娘と二人暮らしだからね。それにさ、僕が強引に誘ったんだ。暮らしは保証するよ。料理の腕は分からないけど」


 不安要素しかないが、ここは好意に甘えるとしよう。

 それにガディアから目を離すわけにはいかない。

 もう一つ言うなれば、こいつは隠し事をしている。

 それが何かは分からないが、この街にいる限りは常に気をつける必要がありそうだ。


 何か適当に理由でも作るか。


「……おっさんの家に本は沢山あるか?」


「ちょっ、マスター!?」


 驚くレイミーは勢いよく立ち上がる。


「まあいいじゃないか。甘えさせてもらおう」


「もう知りません!!」


 エイミーまで立ち上がり、顔を背けて頬を膨らませた。


「で、どうなんだ?」


「そりゃあ勿論!! こう見えても僕は上級魔導師なんだ」


「ハハ、悪いな二人共。決まりだ」


 ここに来た目的は、この世界の魔法を身につけること。学校があれば通うし、本があれば読む。それら全てを無償で提供してくれると言うのだ。


 危険かつ重要人物だとしても、俺の本来の魔力に気づけない者など敵とは呼べない。


「改めて今日からよろしくだね」


「ああ。よろしく頼む」


 差し出された手に自らの手を重ね、握手を交わす。


「嬉しくないけど、よろしく頼むぜ!!」


「……仕方がありません……マスターが決めた事です…………よろしくお願いします……」


 どうやら二人も諦めたようだ。

 背もたれに力なく寄りかかっていた。


「それじゃあ、今日は午後からの授業の見学でもしてるといいよ。また後で、鐘がなったらここに戻って来るといい」


「おう、了解だ」


 そうして、無事俺の入学と住処も決まり、安定した異世界生活が確約された。

 俺たちは安心と不満に満たされながら、中央の建物に向かって歩き出すのだった。


早くも五話ですね(^ ^)

正直なところこのペースでもつのか不安です……が、出来る限り頑張ります//

投稿のない日にはちゃんと前日に連絡するので、後書きも見ていただければと思います。

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