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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、悪しき過去の夢を見る

 レンガ造りの高い建物の間を、フィアを乗せた車椅子を押しながらゆっくりと歩く。

 冬の夕方は暗く寒い。けっこうな厚着をしているのに、それでも寒かった。


「わあぁー! 綺麗だね、イルミネーション」


「そうだな、とっても綺麗だ」


 彼女を乗せた車椅子を押しながら、キラキラと輝く街の中を一直線に進んでいく。

 季節が季節というのもあり日は短く、イルミネーションが綺麗な大通りはカップルだらけだった。縁日の方なんて想像したくない。



 いろんな話しをしながら、俺たちは真っ直ぐに進んだ。

 その先には、今まで左右を挟んでいた家々を遥かに凌ぐ高さの桜の木が見える。大精霊祭だからか、沢山の飾りに包まれていた。


 いつもならこんなに人はいないのに、あの噂のせいかイルミネーションのせいか、今日は街から桜の木までの道や、木のあたりに沢山の人がいた。

 そんな多くの人たちに紛れて、俺とフィアも桜の木を見上げる。


「この木にお願いしたら何でも叶っちゃいそうだね」


「うん、俺もそう思うよ。さあ、手を出して」


 彼女の差し出してくれた手は、とても冷たく、でもどこか温かかった。

 フィアは車椅子から立ち上がり、二人並んで目を瞑る。


 "ずっと一緒にいられますように"


 俺は願った。心の底から、ここにいる誰よりも強く。


「これで、きっといつまでも一緒にいられるな!」


「うん!」


 そう元気よく頷いた彼女の表情には、一点の曇りもなかった。


 だが、あの返事からすぐ後だった。



 ーーーードゴゴゴゴゴオオォォン!!!!


 途轍もない爆音と共に、目の前の桜の木が吹っ飛んだのだ。続けざまにいくつもの爆音が聞こえる。

 ただの一瞬、瞬きする間に桜の木の向こう側に見える建物が次々と倒れていった。炎が上がり、煙が上がり、爆音は響く。周囲一帯に広がる草原も焼け、すでに色を失っていた。


 そして、あたり一帯の混乱もまた酷いものだった。


「なに…………なにが起こってるの、ディルくん!?」


「分からない……何も……」


 いくつもの爆音、止まない悲鳴、倒れゆく建物、立ち尽くす俺たちの周りは、ものの数十秒で焼け野原と化してしまった。

 

 焼け野原になった……それだけで済めば楽だったのかもしれない。そう思わざるを得ない光景が、俺の目の前に繰り広げられていたのだ。


 火の中から出てくる沢山の人型の何か。片手に剣やら鎌やらを持ったそれらは、形は人間だが、人間とは似ても似つかぬ様相だった。


 大混乱の中、周りが何も見えなかった俺は呆然とそいつらを見ていた。

 まだ生きている多くの人が、俺の向く方とは反対側に走っていく。そのうちの一人が大きな声で叫んだ。


「ーー魔族だー!! 魔族の襲撃だー!!」


 その声にハッとして、すぐに俺も走り出した。車椅子を押しながらで、人の流れに乗る事が出来ずに。


「ダメ! ディルくん、私を置いていって! このままじゃディルくんまで殺されちゃう!」


「ダメだ‼︎ 俺は絶対に君を置いて逃げたりなんかしない! 俺は死んでも構わない。絶対に君を守ってみせる! だから絶対に、間違ってでも自分だけ死のうとするな!」


 走りながらそう叫ぶしかなかった。俺はほんとの気持ちを言っただけ。

 彼女は絶対に守りぬくと心に誓って、俺は全力で走り続けた。


 だが、ほんの少し行った所で俺の足は止まった。


「なんだよ……これ……」


「酷い……酷すぎるよ……」


 街の広場があった場所に差し掛かった所、それは地獄絵図としか言えない光景だった。


 地面から生える槍に、そこに居ただろう人がみな串刺しにされていた。ただの一人も逃さずに。

 血の海となった広場には、沢山の魔族がいる。逆に、俺らの周りは、どこを見渡してももう誰も居ない。


 そこに追い打ちをかけるように魔族の会話が聞こえてきた。


「現状報告致します。街の人間はほぼ全て殺しました。建造物及び魔法を感じる物体全ての破壊を完了。残るはそこに居る二人だけです」


 魔族が指さす方には、俺と彼女しかいない。絶体絶命、そんな言葉なんかよりもずっと酷かった。


 報告が終わった途端に、周りにいた魔族は全員こっちを向いて歩き始めた。逃げる事も出来ず、戦う事も出来ない。俺は彼女の前に堂々と立ち、魔族に吐き捨てるように言うしかなかった。


「殺すなら殺せ! お前らの剣も槍も斧も鎌も、魔法でもなんでも俺が全部受けてやる!」


「やめて……やめてディルくん!!」


「だからお願いだ、頼むから彼女だけは見逃してくれ! もう彼女には残された時間はないんだ! 頼む……頼むから彼女には手……を……」


 一瞬だった。目の前の魔族がシュッと消えて、同時にズザッと肉を貫く不吉な音が聞こえた。あろう事か俺のすぐ真後ろで。

 そしてまた、目の前にシュッと魔族が現れる。

 それと同時に、今度はドサっと、何かが倒れた音がした。


 怖い…………怖くて振り向けない。このまま振り向かなければ、彼女は俺の後ろで笑ってくれる。そう思いたかった。


 でも、やっぱり現実は冷酷だった。


 次に聞こえたのは、大きな爆発音。また俺の真後ろで、何かが爆発したのだ。

 動きたくなかったが、反射的に身体が動いてしまった。

 映ったのは、誰もいない、何もない、ただただ荒らされた殺風景。

 さっきまでそこにいた彼女も、大きく立っていた桜の木も、暖かく囲んでいた街も、何もかもが消えてしまっていた。


「…………あ……あぁ……なん……で……」


 虚空に力なく手を伸ばして、消え去った彼女を手探りに探す。

 身体中から力が抜けて、俺は多くの魔族に囲まれた中で膝をついた。


「ハッハッハッ、見ろよあれ!」


「これが最後に残った人間とはな!」


「やっぱり人間の絶望する顔は最高だぜ!!」


 俺を取り囲む魔族たちはみな同じようなことを言っている。だが、俺の耳には何も届かなかった。

 絶望が全てを呑み込んで、俺に何も感じさせなかった。


「キサマのような弱者が他者を守る?」


 声と足音と共に魔族のざわつきが消える。


 数いる魔族の中でも特に強そうな男が、地面に手をつく俺の前に立った。

 漆黒の如き翼とツノ。闇をまとう瞳。


「ーー笑わせてくれるわ!!」


 おそらく奴が、ここにいる魔族のトップだろう。


「この大魔王ギアル・ハザードの名において教えてやろう」


 フィアの居た場所に立ち、フィアの灰を踏みにじり、俺を見下すようにギアルは言った。


「弱者には価値がない。守る価値も、守られる価値も。他者を守ろうなど、思い上がりも甚だしい!」


 その通りだ。俺は弱い。だから誰も守れない。


「ーー人間よ。我の足元に散らばったこの娘に、価値があると思うか?」


「…………っ!!」


「答えろ。此奴にキサマが生命を賭してまで守る価値があるのか?」


 分からない。俺には何も分からない。


 人の生命に価値? なんだそれ?


 生命は比べるものじゃない。

 でもーー。


「ーーあいつの生命に価値があるかなんか分からない」


 ーーそうだ、俺にも価値はない。


「だけど…………俺にとっては俺の生命以上に価値のある、大切な……大切な人だった!!」


「…………ほう? 魔力か。すごい量だ」


「……それを……お前たちは…………お前たちは!!」


 気がついた時には、俺はとてつもない魔力に包まれていた。

 いや、突然パッと沸くように発現した魔力に完全に呑み込まれてた。


 ゆらりゆらりと俺は立ち上がる。


 今の俺はどんな表情をしてるだろう?


「ーーなんだ!? この魔力は……いや……それだけではない……だと?」


 大きすぎる絶望が、多大なる悲しみが、溢れんばかりの怒りが、すべて一滴も溢さずに力に変わる。

 それも、俺が自分の意思で制御出来ないほど、大きな大きな力へと。


 爆発的に膨れ上がる魔力とそれならぬ異様な力に、俺を取り囲んでいた魔族共はみな逃げていく。

 最前線にいたギアルは驚愕の表情を浮かべたものの、さすがはトップだけあって防御の姿勢に留まっていた。


「…………フィア…………フィア……フィア……フィア……」


 制御を失った俺は壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す。

 その間にも力は増大していた。


「ーークッ、なんなのだキサマは!! フィアと言ったか? 死した娘がそんなに大事か! たかが低俗な人間の娘がっ!!」


 その言葉が引き金だった。


 奴は、ギアルは俺の禁忌の引き金を引いた。

 

「くっそおおオォォォォォォォ!!!!」


「ーーーーッ!!??」


 引き金が引かれれば、それは発射される。

 篭りに篭った俺のすべてが、眼に映る世界を破壊しようと発射されたのだ。

 


 


 これが本来の過去。


 神様なんていやしない。


 たとえフィアがそうだと言っても、俺はこんな世界は望んでいなかった。


 もう一度言おう。


 俺はこんな世界、こんな結果は望んでいなかった。

前回の続き、ですね^_^

無意識の中で見ている夢だとでも思ってください。

次回からは現実に戻ります。お楽しみに!!

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