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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、虚無に落ちる

 灰色の世界には静かに風が吹き続け、灰色の砂が小さく舞っていた。

 いつしか涙も乾き、俺は噴水と聖魔石の入り混じった瓦礫に腰をかけて、いつのまにかフィアと入れ替わったエイミーとレイミーを見上げていた。見上げていると言っても、背の低い彼女たちと座った俺の目線はほんの少ししか変わらない。


 ただちょっとだけ目線を上にあげて、今度はエイミーたちの事について考えていた。


「なあ、今更だが何故お前たちがここに居るんだ?」


 考えてみれば、彼女たちの存在は本当に謎である。


 フィアはここを俺の夢と言った。それは間違いない。

 そして、俺の世界であり願いであるとも言った。それもだ。


 俺とフィアしか知り得ない、さらに言えば俺でも知り得なかった二人の過去を、エイミーとレイミーは知っていた。


 冷静になって考えると、やはり謎が多い。


 視線を落とせば、日本に居た頃からずっと履き続けた黒いスニーカーが映る。靴ひもがほどけて灰色の砂もかかって汚れていた。

 

「わたしたちとフィアは一心同体なのです」


 エイミーの言葉を、靴ひもを結びながら聞く。


「私とエイミーはフィアの想いから生まれたんだ」


「わたしがフィアの心から、レイミーがフィアの願いから」


「元々のフィアの魔力と、マスターの魔力の一部から生まれたのが私たちだ」


 俺は蝶々の形に結ばれていくスニーカーを見ながら、無言で話を聞いていた。


「わたしたちはマスターの一部分、そうとも言えるのです」


「だからさっきの封印の魔法は、私たちにも影響があった」


「聖魔石は、わたしとレイミーを封印した結界だったのです」


「それをマスターはぶっ壊したって事だ。マスターが使えるのは魔力だけじゃない。そうだろ、マスター?」


 エイミーもレイミーも、俺の全てを知っている。話を聞いていて、そんな気がした。そしてそれがあながち間違いではない事も、俺はもうなんとなく分かっていた。


 でも、彼女の質問には答えなかった。

 かわりにひとつ、ゆっくり靴ひもを結びながら言った。


「ーーなら、俺と出会ってからのお前たちは、ずっと嘘だったのか?」


 頬っぺたを膨らませて可愛く怒っていたエイミーも、俺の魔法を見ていちいち大袈裟に驚いていたレイミーも、それから先の出来事だって、全部ーー。


「ーー全部、わたしは知っていました。でもーー」


「ーー何ひとつ嘘はないぜ? 私は今の今まで全部忘れてたけどな」


「今までずっと楽しかったのです。そこにはひとつの嘘もありません。ただ……思い出して欲しくありませんでした。わたしも、フィアもそう望んだのです。そして、マスターの記憶からフィアの存在を封印しました」


 灰色の砂を払って顔を上げると、そこにエイミーとレイミーの姿はなかった。

 かわりにそこに居たのはフィアだ。


「わたしの魂の一部を、エイミーとレイミーは持ってるんだよ。レイミーには記憶がうまく共有されなかったけど、エイミーとはずっと繋がってた。だから、エイミーがわたしと同じ事を願って、その想いを叶えてくれたの」


 手を後ろで組んで、フィアは上目遣いで言う。

 俺はゆっくりと立ち上がって、彼女の頬に手を伸ばそうとするが、途中で止めてしまう。

 その顔がどこか遠くに感じてしまった。


「わたしはあの子たち。あの子たちはわたし」


 作ったような笑顔は薄く、表情から気持ちを察することは出来なかった。

 だが、全てを聞いて全てを知って、この状況がいかに悲惨なのかが痛いぐらいに分かってしまった。


「ーーディルくんが喜んでくれて嬉しかったよ」


「……俺が喜んでいるなんて、ほんとうにそう思うのか?」


 フィアはいつでも俺の心の内を知っている。

 そのことを俺は知っていた。

 わかった上で聞き返すと、フィアは答えた。


「わたしともう一度出会えた時、わたしが生きているって知った時、これでずっと一緒に居られるって、そう思ってくれたでしょ?」


 やはりフィアの言う通りであり、そして俺の予想通り、フィアは全てを見通していた。


 彼女が生きていてくれたから、たとえ魂だけで実体がなくても、これでフィアを現世に蘇らせる事が出来ると俺はそう思っていた。

 

 …………でも違ったのだ。

 

 どちらかが居れば、どちらかが消える。


 魔力体という半分実体を持つエイミーたちに対して、俺の魔力の中であるこの世界でのみ実体を持つフィア。

 同じ魂を分けあったフィアと二人は、ひとつにまとまって始めて完全な実体になる。


 それが何を意味するのか。

 考えることすらしたくなかった。


「…………死ぬって……なんなんだろうな……?」


 いや、違う。


「……なあ、生きるって、生きているって、なんなんだ?」


「ーーごめんね、ディルくん。答えられないや」


 生きていてくれた事が、生きていてくれる事だけでも嬉しいはずなのに、俺はこの上なく悲しかった。


 伸ばした手が、どうしてもフィアに届かない。

 フィアの頬に俺が触れて、俺の頬にフィアが触れて、ちゃんと温かさを感じているのに、俺の手は届いていない気がした。


 そう分かった瞬間、果てしない虚無感が俺を襲った。

 気持ちが重く、何もかもが嘘に見えてしまった。

 

 一瞬、フィアから目を逸らしたうちに、またエイミーたちに切り替わる。

 虚無感は増大する一方で、エイミーたちの顔すら真正面から見る事が出来なかった。

 

 そんな俺の胸に、レイミーが手を当てた。


「ーーマスター……絶望してる暇はないぜ?」


 続けて、エイミーも手を当てる。


「ーーすみません、マスター。時間切れです」


「…………なにを……?」


 胸に当てられた手を見つめ、俺は力なく声を漏らした。


「ーー来たれ、重なりし聖の波動!」


「…………っ!?」

 

 エイミーの声に二人の手が輝き出し、俺たちは大きな光に包まれる。


「ーー魔を打ち砕き、己が力を解き放て!!」


 続くレイミーの声に煌々と輝く光が灰色の世界を埋めてゆき、やがて周囲全てから灰色が消えてしまった。


 そして、光に満ち満ちた世界に、二人の少女の重なる声が響く。


「「ーー聖刻開放(ラ・エレジェスト)!!」」


 ズンッと重い衝撃が体内を走る。


 尊い力が身体を巡りまわり、細胞が一つひとつ呼び覚まされていく。身体を形成する魔素が力に反応し、湧き出る魔力の渦が俺の身体も精神も、俺の存在すべてを埋め尽くしていった。


 今日何度目になるのか、視界が再び靄に包まれていく。

 灰色の世界も白く光り輝く世界も消えていった。


『ーーディルくんーー』


 意識も朦朧として無の空間を落ちていく俺の心に、どこからか声が聴こえた。


『ーーずっと…………一緒だよ!!』


 その声の消えるのと同じくして、俺の意識は完全に失われてしまった。


 

 音も風も空気も魔力も何もない、無の空間を落ちていく。

 意識はなく、動くこともない。

 ただ、俺は無であるはずの空間を落ちていった。

エイミーとレイミーとフィアの関係がなんとなくわかった気がしますね^_^

次回も三日後です。お楽しみに!!

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