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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、事実を知る

 瞳を閉じている間に太陽は沈んでいき、辺りの明るさが変わるのを瞼の裏に感じる。

 大きな力が右腕に込められ、集中力もかなり増していた。


 背後に感じるのは、ただひとつ。

 フィアの存在だけだ。


「ーーディルくん! もしもディルくんがそれを壊したら、結婚してあげる!!」


「ーーなっ!?」


 コツン、と音が鳴った。


 そしてーー。


「ーーあっ、しまっーー」


 ズドドドドドドドオォォォォォォ!!!!

 

 と、破壊音が響き、途轍もない威力の衝撃波が周囲を襲った。


 それなりに力を入れて軽く小突くつもりだったのが、フィアの言葉に驚いて、つい力んでしまったのだ。


 衝撃波は何重にもなって襲いかかり、見る見るうちに建物を破壊し、観客どもを吹き飛ばしていく。

 

「ーーフィア!!」


 すぐさま振り向いてそう叫ぶが、目に映った光景に、俺は思考がすべて停止してしまった。


「ーーフィア……? いや、これは……なにが…………?」


 もう一度振り返って反対側を見ても、どこもかしこも同じ光景。


 レンガや石の綺麗な街並みも、馬鹿みたいに騒いでいた連中もどこにもいない。

 灰色で、俺の心に強く刻まれた記憶の世界に似ていた。


 魔族によって滅ぼされた、ガルディアに。


「…………くっ…………!?」


 一面変わらぬ灰色の世界に半ば絶望していた俺の視界の端に、突然強い光が差し込んだ。

 灰色の世界に唯一残った、壊れ崩れた黒い塊、聖魔石がもの凄い光を放っているのだ。


 手で目を覆って防ぐが、それでも真っ白に見える程に光は強かった。


 やがて光は弱くなり、少しずつだが目を開けられるようになってくる。


「…………ん? なんだ……?」


 閃光に眩んだ目では、まだ物を捉えることは出来なかった。

 だが、そこに何かがいる事は分かる。


 ぼやけた灰色の景色の中に、何かがいる。


「…………フィア……?」


 背格好も、若干見える色もフィアに似ている気がした。


「……フィアなのか……?」


 問いかけるも、返事はない。

 一人……ではない……のか?


 一人のようにも見えるが、どうにも二人のように見える。

 二つの影輪郭が重なっているような……そんな気がした。



 目を瞬かせ、次第に視界が鮮明になってゆく。

 灰色の世界に変化はない。

 そして、そこに居たのはフィアではなかった。


 曇りガラスの向こうを眺めるように見つめた灰色の世界に二人、少女が立っていた。

 透き通る白い髪と、青白いサラサラの髪が風になびいている。


 そう、俺の目の前に立っているのはエイミーとレイミーだ。


「…………」


「…………」


「…………」


 だれも何も発せず、時間のみがゆっくりと流れた。


『ーーこの世界は、ディルくんの夢ーー』


 ただ二人と見つめ合い、無言でいた俺の心の中に、突然聴こえてきたのはフィアの声だった。


 しかし彼女の声が心の中に聴こえた理由も、消えた彼女の言葉が何を示しているのかも、俺には分からない。


『ーーこの世界は、ディルくんの世界ーー』


 ……俺の世界なのに、この世界は俺に冷たい。

 ……俺の夢なのに、この世界に夢はない。


 フィアは消えた。

 街も消えた。

 人も消えた。


 俺の世界は、あの日に消えた。


 結局、いつも最後はここに辿り着く。


『ーーこの世界は、ディルくんの願いーー』


「ーー違う…………違う!!」


 足が地面に食い込み、灰色の砂が小さく風に舞った。


 ーーここは俺の願いじゃない。

 

 あの日、俺が本当に願ったのはフィアとずっと一緒に居られること。フィアの病気が治り、俺と二人で一生を共にすること。


「…………俺は……こんな世界は望んでない!!」


 何処から聴こえてくるのかも分からない声に届くように、天に向かって本気で叫んだ。


『ーーそして、私の願いでもある』


 ーーフィア!! …………なんで!!


「ーー願ったのです」


 小さな声が、風に乗って聞こえた。エイミーだ。


「ーーマスターは……この世界を望んだ」


 レイミーが、エイミーの言葉を引き継ぐように言った。


「……違う……俺はこんなこと……望んでなんか……」


『ディルくんは願ったよ』


「……俺はただ! お前と居たいと、そう願っただけだ!!」


『うん、わたしもそう願った』


 頭を抱え込み、聴こえてくる彼女の言葉を否定した。


『だから、この世界が生まれたんだよ』


「……俺が願ったから、この世界が生まれた……?」


 ふと顔を上げると、そこにはフィアが居た。


 そして、エイミーとレイミーは消えていた。


「俺が願ったからって……どういう事だよ! 俺はこんな悲惨な世界なんて求めてない。お前が死ぬ事だって!」


「ううん、違うよ。ディルくんは勘違いしてる」


 フィアは身体を宙に浮かせて、滑るように近づいてくる。


「ーーわたしは死んでないよ」


「ーーーーえ…………?」


 一言、声が漏れた。


 あまりにも驚きすぎて、瞬きをすることすら忘れた。

 身体を動かせなかった。考えることも、何も出来なかった。


「ーーほら、温かいでしょ?」


 動かない俺の頬に手を当てて、反対の頬には彼女の頬を当て、フィアは耳元でそっと囁いた。


「この温もりは本物だって、ディルくんは知ってる」


 まだ、動けなかった。


「ずっと見てたんだよ」


「…………」


「いつもわたしに手を伸ばそうとしてた」


 どうしても動けない。

 時が止まったように動けない……のに…………涙だけは流れていた。


「ーーわたしは死んでないよ」


 再び囁かれた彼女の言葉に、俺はついに動く事が出来た。


 スッと、頬に触れる手に自らの手を重ねる。

 

「ーーフィア」


 ただ名前を言うことしか出来なかったが、その一言にこもった俺の気持ちは、しっかりと彼女に伝わっていた。

 フィアの目からも、細く涙が流れていた。



『ーーまさか今日がこの日になるなんて、思いもしませんでした』


 また、突然声が心に直接響いてきた。


『ーー良かったな、マスター、フィア』


 さっきのフィアと入れ替わりで、今度はエイミーとレイミーが心に語りかけている。


 俺は二人の声に反応する事はせず、ただフィアを抱きしめていた。

 その間も、エイミーとレイミーは心に語りかける。


『魔族の襲撃を受けた時、フィアの身体は確かに消えた』


『ですが、魂……中核魔素は無事でした』


 頭がしっかり動いていないためか、いまいち二人の話している事が分からなかった。

 そんな俺の内心を悟ってか、二人はなるべく簡単に説明してくれる。


『中核魔素はより強い魔力に引き寄せらます』


『そんでもって、マスターの魔力は甚大だからな』


『死ぬこともなく、実体を持って生きることもなく、フィアはマスターに取り込まれたのです』


「…………そういうことだったのか……」


 長くフィアと抱き合いながら、エイミーたちの話しに聞き入っていた。

 そして、語られる真実に深く頷く。


「ーーこれが真実で、そのおかげでディルくんとずっと一緒に居れたんだよ。だからーー」


 フィアと真正面から向き合って、その瞳を見つめる。


「この世界は、ディルくんのーーわたし達の願いが生んだ世界だよ」


 また、涙が頬を伝った。

 嬉しくて、涙が止まらなかった。


 灰色の世界は相変わらず、人々も街も消え去ったまま。

 魔王ギアルのした事を許すことは出来ないし、全てが消されたことをいい事とは思えない。

 でも、彼女が生きていてくれた事への大きな喜びと、これで彼女を現世に蘇らせる事が出来る喜びが、俺の涙を止めさせることはなかった。

リュウヤの過去とフィアの過去、同じようで違うのかもしれませんね。


今回は訳あって活動報告が書けません。ちなみに予約投稿です。

次回は三日後、今度は活動報告が書けるように頑張ります。

それでは次回もお楽しみに!!

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