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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、懐かしむ

 賑やかな商店街はあの日のまま、赤や茶色の家々もなんら変わらない。都市の中央にある噴水から星の頂点へと続く大通りの一つ、商店街の区域を俺たちは歩いていた。

 まるで五千年前に戻ったようなのどかな空気。多種族がともに過ごすこの街の中には、特に精霊族が多かった。


「……串肉に……焼き木の実……あ、あれはこの前のカップラーメンに似ています! ああっ、この匂いはーー」


 あっちへウロウロ、こっちへウロウロ、エイミーの体より先に顔から動いていく様は実に微笑ましい。数多くいる精霊種族の中で、ここまで欲望のままに動くやつはエイミーぐらいなものだ。


「エイミーさん、あんまり離れちゃいけませんよー」


 感覚に任せてどんどん遠くへ離れていくエイミーのあとを追いかけるエリルの首筋には、太陽光で汗が光る。

 まったく、エイミーの危なっかしさといったらもう大変だ。


 ほら、言わんこっちゃない。

 肩が通行人にあたって転けてしまうエイミー。


「おいこらテメェ、どこ見て歩いてんだ! あぁ?」


 鼻を打って鼻血を垂らすエイミーに、上からがたいのいい男が大声で言った。


 はぁ…………なぜこうなるんだ……。


 大男が少女に怒鳴る光景に、小さな人だかりができてしまった。

 俺はその人だかりを突っ切り、転がって唸るエイミーに手を差し伸べる。


「おい小僧! テメェそいつの連れかぁ? ガキの子守ぐらいちゃんとしろや馬鹿たれがっ!!」


 立膝になってエイミーを起こす俺に、上から更なる罵声を浴びせる大男は、ついには俺のパーカーの胸ぐらを掴んで宙に持ち上げてみせる。


 少し離れたところにいたレミたちも騒動に気づき、慌ててこちらに寄ってくるが、俺は視線で彼女たちに来るなと合図を送る。

 レイミーやネスティアは足をプルプルとさせ、フェルゼンに限っては欠伸をかいて傍観していた。


 俺は視線を大男に戻し、右手で奴の腕を掴む。


「この手はなんだ? やんのかテメェ!!」


 所詮は雑魚。たいした力もないのに騒ぎまくる台詞も雑魚そのもの。けっして主人公にはなれないタイプの人間だ。


 こいつが騒ぎ立てるものだから、後から後から野次馬が増え、いつしか商店街を歩く者たちのほとんどが集まっていた。高く並ぶ家の窓からは住人が顔を覗かせる。


「いいぞー! やっちまえー!」

 

 思い出せば、治安があまり良くなかった時にはこういった小さな争いがよく起こったものだ。どこにでもいる荒くれ冒険者か何かが騒ぎを起こしていた。その度に騎士たちが取り押さえては笑いが起こる。何かが起こっても、何も変わらず平和な街だった。


 そんな街にたまに出向いては、乱闘に巻き込まれてエルスたちに注意をされていた。

 こういうところも、昔と変わっていない。


 口角をニッと上げて悪く笑いながら、俺は右手に力を込める。


「やりたいなら、とことん付き合ってやるよ!」


 そのままくるりと回転すると、一本背負いの要領で大男の身体は勢いよく地面に叩きつけられる。

 大男の方も身体は頑丈で……いや、俺の手加減が大きいのだが、ニッと笑って立ち上がると大きな右腕振りかぶり、俺に殴りかかる。


 その拳を難なく受け止めると、衝撃で石レンガの道が沈み足が少し食い込んだ。相手の大男の方は力をかけ続け、俺もそれを受け止め力をかけ続ける。


「テメェ、子守にしちゃあなかなかやるじゃねえか」


「お前も、割と頑丈なようだな」


 互いの力は完全に相殺し、殴る側にも殴られる側にももの凄い力がかかっていた。


 俺は大男の拳を掴む手の力を少し強め、かかっていた力を受け流して後ろに大きく一歩下がる。

 そしてまたゆっくりと近づき、ある程度加減をしながら奴の頬をぶん殴る。


「ーーぐふっ!!」


 口から少し血が出て、野次馬のあいだを上手く飛んでいく。建物の壁にはヒビがはいり、衝撃波と大きな音が辺りにこだましている。

 そんな俺たちのふざけた戦いに、周囲は大いに盛り上がっているようだった。


 大男は破片が崩れ落ちる壁から態勢を整えて、俺の方にど太い右腕を構えながら走ってくる。

 簡単にかわせる速さのパンチをわざとくらう奴の度胸に心打たれ、俺もその一撃をわざとくらってみせる。


「ーーぐっ!!」


 反射的に漏れ出た声が皆の耳に届く間も無く、俺は後ろの建物の一部と化していた。ボロボロと壁のカケラが崩れ、また周囲から歓声が上がる。


「もういっかい! もういっかい!」


 俺は壁から抜け出すと、強化済みのパーカーについた破片を払いおとす。


「もういっかい! もういっかい!」


 多くの人たちからはアンコールの声援。俺たちは互いに目を見合わせると、またニヤリと笑って、今度は同時に拳を構える。


「小僧、次は手加減すんじゃねえぞ?」


「ふっ、ばれていたか」


 奴はさっきよりも腕に力を込めて、俺は手加減のない……のではさすがに魂も消え去るから、最低限死なない力を右手に込めて、リズムよく響く手拍子のタイミングに合わせて同時に地面を蹴る。


 広い通りのど真ん中で、その拳と拳が交わろうとしたとき、それは聞こえた。


「何事だ!!」


 叫び声と共に聞こえてくる多数の足音に、ぶつかる寸前に俺たちは足を止めた。

 先に口を開いたのは大男の方だった。


「ちっ、いいとこだったのによ。だが、これじゃあ逃げられねぇな」


 見回せば、周りにはさっきよりも多くの野次馬が群がっていた。

 その間にもだんだんと足音は近づき、鎧や兜の擦れる音がしっかりと聞こえてくる。


「仕方ない、少し痛いかもしれんが我慢しろ」


 そう言って、奴の肩にぽんと手を触れると、魔法を発動させた。

 その効果はーー硬化。


「…………小僧、テメェ何するつもりだ?」


「死なない程度には加減してやる。ちゃんと歯を食いしばっとけよ?」


 奴から一歩離れ、助走のできる位置まで下がる。


「さあ! 飛べ!!」


「ーーーーっ!!??」


 ほんの少しの助走をしながら叫ぶと、次の瞬間、俺は右脚で思いっきり奴を蹴り上げた。


 ほんの一瞬、奴の息が漏れる音がしたが、人々の目にはもう奴の姿は映っていなかった。

 

「これは何の騒ぎだ!!」


 俺が脚をもとに戻したとき、数名の銀の鎧を身にまとった騎士たちが野次馬の間から現れる。

 隊長と思われる騎士が声をあげ、そのほかの騎士たちは俺に剣を向けた。


 戦いが終わったからか、騎士が来たからか、周囲の野次馬たちはすぐに散っていく。

 

「この騒ぎの原因は貴様かっ!」


 隊長様は声を荒らげて言う。


「いやいや、俺たちは被害者だ」


 両手を小さく挙げて、笑いながら答えた。嘘は言っていない。


「ここで何があった?」


 隊長様は声を落ち着けると、合図を出して剣をしまわせる。

 俺も両手を下げて質問に答える。


「連れが男に絡まれてな。揉めていただけだ」


「……ふむ。しかしなあ、揉めていただけでこうなるものか?」


 視線の先には壊れた建物の壁やら、沈んでボロボロになった道があった。

 だが、俺は動じずに話す。


「そいつが暴れまわった結果だ。俺たちは関係ない」


「では、その男はどこにいる?」


「もうとっくにどこかへ行ったさ。探せばまだ見つかるかもな」


 最初から最後までずっと訝しげな目で俺を見ていたが、話の内容に不審な点がないためか、俺が軟弱そうに見えたためか、騎士たちはその男を探しにどこかへ走っていった。


「さて、もうそろそろか」


 騎士たちが遠くへ行った見えなくなった頃、俺は上を見上げて三歩だけ下がる。


 そして俺と、ちょうど奴を蹴り上げたところが収まる程度の対衝撃防音結界を張ると、それは空から現れた。


 とてつもない轟音が耳を突き抜け、集約された衝撃波が俺の脚を襲う。揺れが収まったところで、目の前に降って来たそれを見ると、それは白目を剥いて意識を失っていた。

いやぁ、やっぱり戦いっていいですね。圧倒的強者の戦いは輝いて見えます。

次回も連続投稿です。お楽しみに!

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